【大阪高判平成27年5月21日】監査役の任務懈怠と重過失

1 「控訴人には,監査役として,平成22年12月7日の時点で,取締役会に対し内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務等の違反があり,また,Aを代表取締役から解職すべきである旨を取締役に助言又は勧告すべき義務違反があったと認められる。

そして,破産会社において,会計監査人であるn監査法人からの要求によって,本件手形取扱規程が制定された経緯や,Aが借入れのために約束手形を振り出したところ,監査役からの申入れによって借入れを中止し,約束手形が破産会社に返還されたことがあったことに鑑みると,監査役として,取締役の職務執行に関し監査報告書を作成し,これを株主総会において報告する立場にある控訴人が,取締役らに対し,破産会社の現金,預金等の出金や払戻しについて,本件手形取扱規程に準じた管理規程を設ける内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務を履行していれば,これに基づいて,取締役会において,現金,預金等の出金や払戻しについて,本件手形取扱規程に準じた管理規程が定められることになった可能性が高かったというべきである。

そうすると,上記現金,預金等の出金や払戻しについての管理規程が破産会社の従業員にも周知されることになったはずであるから,破産会社の従業員がAから本件金員交付に係る出金の指示を受けた際に,上記規程の存在を理由にこれを拒み,また,当該従業員から報告を受けた監査役において本件金員交付に関するAの行為の差止めを請求するなどして,本件金員交付を防止することも可能であったということができる。

さらに,・・・破産会社の取締役らは,平成22年6月頃及び11月頃に,Aを代表取締役から解職することを検討していることなどに照らすと,控訴人が,Aを代表取締役から解職すべきである旨を取締役に助言又は勧告すべき義務を履行していれば,Aが代表取締役から解職された可能性もあり,仮にAを解職するに至らなかったとしても,取締役会において解職の議題が上程されることによって,Aが本件金員交付のような任務懈怠行為を思いとどまった可能性もあったということができる

以上によると,控訴人の上記義務違反と,本件金員交付によって破産会社に生じた損害との間には,相当因果関係があると認めることができる。

2 「監査役は,その任務を怠ったときは,株式会社に対し,これによって生じた損害を賠償する責任を負うものとされているところ(会社法423条1項),前記のとおり,控訴人は,破産会社との間で,平成18年6月29日,控訴人が破産会社に対して上記損害賠償責任を負う場合であっても,控訴人が善意無重過失のときは,控訴人がその在職中に破産会社から職務執行の対価として受け,又は受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として会社法施行規則113条で定める方法により算定される額に2を乗じた額等を限度とする旨の本件責任限定契約(会社法427条1項)を締結している。

本件責任限定契約にいう「重過失」とは,当該監査役の行為が,監査役としての任務懈怠に当たることを知るべきであるのに,著しく注意を欠いたためにそれを知らなかったことであると解すべきところ,これを前提として,本件責任限定契約によって,控訴人が負うべき会社法423条1項所定の損害賠償責任の額が限定されることはないといえるか否かについて検討する。

控訴人を含む破産会社の監査役会は,Aによって行われた一連の任務懈怠行為に対して,取締役会において度々疑義を表明したり,事実関係の報告を求めるなどしており,特に,平成22年10月に取締役会で約束手形の発行の一時停止の決議がされたにもかかわらず,多額の約束手形の発行が続けられた際には,約束手形の所在についての説明がされない場合には,監査役3名は辞任する所存である旨の申入れを行い,また,同年11月に,取締役会の承認決議を経ないで多額の約束手形が振り出された際には,監査役として看過できず,然るべき対応をせざるを得ない旨申し入れるなどしていて,監査役として,取締役の職務執行の監査を行い,一定の限度でその義務を果たしていたことが認められる。

また,破産会社においては,会計監査人であるn監査法人からの指摘によって,本件手形取扱規程が制定されており,取締役会において,代表取締役であるAの職務の執行の監督や内部統制システムの整備が全く行われていなかったわけでもない。

このような事情を考慮すると,控訴人には,前記で判示したとおりの義務違反があったものの,その義務違反が,監査役としての任務懈怠に当たることを知るべきであるのに,著しく注意を欠いたためにそれを知らなかったとまで認めることはできない。」


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