1 「委員会設置会社が、会社法847条1項の規定により、取締役の責任を追及する訴えの提起を請求される場合においては、原則として、監査委員が当該委員会設置会社を代表し(平成26年法律第90号による改正前の会社法408条3項1号)、同訴えを提起する場合には、監査委員会が選定する監査委員が当該委員会設置会社を代表すると規定されている(同条1項2号)から、監査委員会は、このような提訴請求を受けた場合には、訴えを提起するか否かを判断・決定する権限を有するものと解される。
この場合、監査委員会を構成する監査委員は、取締役の責任追及のために訴えを提起するか否かについて、善管注意義務・忠実義務(この場合の忠実義務は、善管注意義務を敷衍しつつ、かつ、これを一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管注意義務とは別個の、高度な義務を規定したものではないと解される。最判昭和45年6月24日)を負いつつ判断・決定することになる。
その際、監査委員の善管注意義務・忠実義務の違反の有無は、当該判断・決定時に監査委員が合理的に知り得た情報を基礎として、同訴えを提起するか否かの判断・決定権を会社のために最善となるよう行使したか否かによって決するのが相当であるが、少なくとも、責任追及の訴えを提起した場合の勝訴の可能性を非常に低い場合には、会社がコストを負担してまで同訴えを提起することが会社のために最善であるとは解されないから、監査委員が同訴えを提起しないと判断・決定したことをもって、当該監査委員に善管注意義務・忠実義務の違反があるとはいえないものと解するのが相当である。」