1 「原告は,本件準委任契約が成立していたことを前提に,同契約が恣意的でなく合理的理由がある場合には,役員解任の正当な理由となる旨主張するが,創業家と原告との間の契約関係の存否が被告と原告との法律関係,すなわち,原告の取締役の地位に影響すると解することはできない。
被告の主張は,要するに,大株主である創業家と原告の信頼関係が破壊されたことが本件解任の正当な理由となるとの趣旨にも解されるが,正当な理由の有無は,業務執行の障害となるべき客観的状況の有無により判断すべきであり,特段の事情のない限り,大株主との信頼関係の喪失が正当な理由に該当するとは解されない。
すなわち,被告のように,創業家が株式の3分の2以上を保有しているが,大株主である創業家自らが会社を経営するのではなく,第三者に経営を委ねることを希望している場合であっても,株主総会において代表取締役に選任された者は,会社に対する関係において善管注意義務ないしは忠実義務を負うものであることはいうまでもない。
したがって,会社経営に当たって大株主の意向を踏まえる必要があることまで否定するものではないが,大株主の信頼を失ったからといって,当然に取締役解任に当たっての正当な理由があるとはいえないと解される。」
2 「本件解任について正当な理由があるとは認められないから,被告は,原告に対し,本件解任がなければ原告の残存任期期間中及び任期終了時に得べかりし利益の喪失による損害を賠償すべきこととなる。」
3 「原告は,本件解任がなければ,原告に対して本件退職金規程に基づく退職慰労金が支払われる高度の蓋然性があった旨主張する。
しかし,被告の定款には役員の退職慰労金について具体的な金額が定められていないから,被告における役員に対する退職慰労金は,株主総会決議がなされた時以降に具体的な請求権として発生するものと解される。そして,本件退職金規程は,その内容からして,株主総会において,同規程に従って退職慰労金を決定することを取締役会に一任した場合に依るべき支給基準であると認められる。
そうすると,本件退職金規程が創業家を含む取締役全員によって異議なく可決されたことをもって,原告に退職慰労金を支給する旨の株主総会決議と同視することはできない。
また,本件解任が原告と創業家との間の信頼関係が損なわれたことに端を発していることなどからすれば,本件解任がなければ本件退職金規程に基づく退職慰労金が原告に支給されていた蓋然性が高いとは認められない。
以上によれば,退職慰労金相当額については,本件解任による損害と認めるのは相当でない。」
4 「原告の主張する事実が概ね認められるが,これを前提としても,その行為態様が比較的平穏であることなどからすれば,あたかも原告が横領等の罪を犯した犯罪者であるかのような扱いをしたものとはいえず,また,原告に対して極めて強い屈辱感を与えるものとも認められない。したがって,上記事実関係を前提としても,これが原告に対する不法行為に当たるとは認められない。」