【東京地判平成28年3月31日】全部取得条項付種類株式の取得に反対した株主が会社から株式の元本金額に相当する金員の支払を受け、遅滞なく異議を述べなかった場合、同支払額は元本に充当する合意が成立したとされた事例

1 「裁判所による取得価格決定手続において,株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定が確定すると,株式会社は,同決定の申立てをした株主に対し,裁判所の決定した取得価格相当額の金銭を支払う義務を負うが,会社法172条2項は,それに加えて,当該取得価格相当額に対する取得日後の年6分の利率により算定した利息をも支払う義務を負うものと規定している。

もっとも,会社法172条2項が,株式会社に対し,裁判所の決定した価格相当額に対する上記利息の支払義務を負わせた趣旨は,株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対して取得の価格の決定の申立てをした株主は,自らの意思に反し,株主総会決議で定められた取得日にその保有に係る同株式を失うことになるにも関わらず,裁判所による取得価格の決定が確定するまでその対価を受け取ることができないのは酷であるので,同決定の確定後,株式会社に対し,裁判所の決定した価格相当額の金銭の支払義務を負わせるのみならず,当該取得価格相当額に対する取得日後の上記利息の支払義務を負わせることにより,当該株主を保護しようとしたものであると解される。

そうであるとすれば,株式会社に上記利息の支払義務を負わせてまで当該株主を保護する必要がないと認められる特段の事情がある場合は,会社法172条2項に基づく利息は発生しないと解するべきである。」

2 「これを本件についてみるに,前記前提事実によれば,原告は,被告に対し本件全部取得に反対する旨を通知し,本件株主総会においてもこれに反対する旨の議決権を行使し,平成24年1月27日,本件株式を含む原告保有株式につき,取得の価格の決定の申立てをしたこと,平成24年2月13日(本件取得日)に被告が被告株式の全部を取得し,原告は本件株式を失ったこと,被告は,平成24年4月24日(本件支払日)までに,裁判所の許可を得て本件全部取得の対価であるA種種類株式を売却し,原告に対し,原告保有株式1株につき530円(本件公開買付価格)として算出した額である84万8000円の記載がある本件端数株式処分代金領収証を送付したこと,被告においては,取得の価格の決定の申立てをした株主に対しても,当該申立てをしない株主と同様,ゆうちょ銀行において金銭に換価することが可能な端数株式処分代金領収証を送付し,株主自ら,本件公開買付価格に保有株式数を乗じた金銭の支払を受けることができるようにしていること,原告は,本件支払日にこれをゆうちょ銀行に持参して,本件公開買付価格(1株につき530円)に本件株式数(100株)を乗じた5万3000円を含む84万8000円の支払を受けたこと,その後,本件株式について取得価格を1株につき530円と定める本件取得価格決定がされ,平成26年3月7日同決定は確定したこと,本件全部取得は,被告に対するMBOの一環として,本件公開買付けを経て行われたものであり,当該公開買付けによりZ社が被告株式の全てを取得できなかった場合には,被告が,少数株主に対し,当該公開買付価格(1株につき530円)を基準として算出される金員を支払って,残りの被告株式全部を取得する旨が公表されていたことが認められ,これらの事情
の下では,本件支払がされた平成24年4月24日以降は,被告に上記利息の支払義務を負わせてまで原告を保護する必要がないと認められる特段の事情があるというべきであるから,上記利息は発生しないと解するのが相当である。」

3 「債務者が元本のみならず利息等の支払義務を負う場合において,弁済ないしこれに準ずるものとして提供した給付が元本債務のみに相当するものであるときは,当該給付をもって元本に充当する旨の意思を表示したと解するべきであり,他方,このような給付を受領したにもかかわらず,遅滞なく異議を述べなかった債権者は,債務者の上記の充当に関する申出を承認したものであり,債権者と債務者との間には,当該給付を元本に充当する旨の合意が成立したと解するのが相当である(大審院昭和16年(オ)第877号同年10
月29日第三民事部判決・法律新聞第4743号1350頁参照)ところ,上記(2)認定の事情によれば,原告は,平成24年4月24日(本件支払日)に本件支払に係る5万3000円を含む84万8000円を受領した時点において,被告との間で,いずれ本件取得価格決定が確定した場合には,上記5万3000円の給付を,同決定により定まった本件取得価格支払債務の全部又は一部に充当する旨合意したと認定するのが相当である。

そして,本件取得価格決定の確定により,本件取得価格支払債務の額が5万3000円と確定したことは,前記前提事実記載のとおりであるから,結局,本件支払に係る5万3000円は,本件特別抗告棄却決定日において,本件取得価格支払債務全てに充当されたものというべきである。」


パーマリンク

コメントは停止中です。

弁護士法人栗田勇法律事務所 〒420-0858 静岡県静岡市葵区伝馬町9-10NTビル301 TEL 054-271-2231 アクセスページへ ご相談のお申込に関するQ&A お問い合わせはこちら
営業エリア

静岡市葵区・駿河区・清水区、焼津市、藤枝市、島田市、
吉田町、牧之原市、御前崎市、菊川市、掛川市、袋井市、
磐田市、浜松市中区・東区・西区・南区・北区、湖西市、
富士市、富士宮市、裾野市、沼津市、御殿場市、三島市、
熱海市、伊豆の国市