1 「原告は,本件訴え提起ないし前記の主張の追加の前に,本件会社に対し,被告Y2の取締役としての責任や被告Y3の監査役としての責任を追及することを求めておらず,これらの責任追及に係る訴えについては,提訴請求を欠く瑕疵があるものといわざるを得ない。
もっとも,本件会社は,本件訴訟において,前記のとおり被告らに補助参加をしており,また,提訴請求の欠缺について何ら言及せず,被告Y2及び被告Y3に対する訴え提起の見込み等についても何ら明らかにしていないことに照らせば,本件会社は,被告Y2及び被告Y3に対する訴えの提起の機会を放棄しているものとみるのが相当である。
そして,提訴請求を株主代表訴訟の要件とする趣旨は,会社に対し,訴えを提起するか否かの検討をする機会を与える点にあるところ,本件のように,会社が訴えの提起の機会を放棄しているものとみることができる場合にまで,提訴請求の欠缺を理由に株主代表訴訟の提起を不適法とする理由はないから,結局,被告Y2に対する取締役としての責任追及及び被告Y3に対する監査役としての責任追及に係る訴えは,提訴請求を欠くものの不適法であるとはいえない。」
2 「会社法847条3項に基づき株主が株式会社の役員等に対して提起することができる「責任追及等の訴え」は,「役員等・・・の責任を追及する訴え」等に限られる(同条1項)ところ,役員等であった者が退任後に株式会社に対し負担することになった債務についての責任は,上記「役員等・・・の責任」には含まれないと解するのが相当である。
なぜなら,①このような責任は,当該役員等であった者が役員等であった当時においては負っていなかった責任であり,これが「役員等・・・の責任」に含まれると解するのは,その文言上困難であるし,②会社法847条3項が,株主代表訴訟の制度を設けている趣旨は,役員等が会社に対して責任を負う場合,役員等相互間の特殊な関係から会社による役員等の責任追及が行われないおそれがあるので,会社や株主の利益を保護するため,会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは,株主が同訴えを提起することができることとしたものと解されるが,役員等であった者が退任後に負担する債務についてまで,株主代表訴訟の提起を認める実益に乏しいからである。
したがって,被告Y2に対する訴えのうち,顧問としての責任追及に係る部分,すなわち民法415条に基づく損害賠償請求に係る部分は,不適法であり,却下を免れない。」
3 「予備的請求に係る訴えは,前記の訴えの変更によって追加されたものであるところ,訴えの変更は,変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから,変更後の訴えについての提訴請求の有無は,原則として,訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきである。」