【東京高判平成26年5月22日】権限濫用による手形裏書

1 「本件裏書は、1審原告がA個人の債務を保証する趣旨で、Aが1審原告の代表取締役として本件貸金債務の支払を担保するためにしたものであるから、会社と取締役との利益相反取引(会社法356条1項3号)に該当することが明らかであり、取締役会の承認が必要であるところ(同法365条1項)、本件裏書について1審原告の取締役会の承認はない。

取締役と会社との間の利益相反取引のうち、取締役が会社を代表して自己のために会社以外の第三者とした取引については、取引の安全の見地により善意の第三者を保護する必要があるから、会社においてその取引の無効を主張するには、取締役の利益相反行為となる取引について取締役会の承認を受けなかったことのほか、相手方である第三者の悪意を主張立証すべきである(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)。

・・・次に、本件裏書の原因関係である本件貸付けに当たり、Aは、本件貸金の使途については1審原告のために必要であるとのみ1審被告に説明し、それ以上に具体的な使途を伝えていなかったし、1審被告もそれ以上の説明を求めなかったこと、Aは、1審被告に対し、本件貸付けが明るみに出ないよう会計書類に記載しないことを求め、1審被告もこれに応じているが、その際に特段の異議を述べたり、疑問を呈した形跡もないこと、本件裏書は1審原告とAとの利益相反取引に該当するが、Aから取締役会の決議など社内的な了解を得ていることの言及はなく、1審被告もこの点を何ら問い質していないこと、以上の事情が認められるところ、本件貸付けは、これに至る経緯からして適切又は正常な取引とはいえない背景があり、その債務の支払を担保するためにされた本件裏書についても同様であり、1審被告もこの点を認識していたと解され、これらを総合すると、本件裏書についてはAが1審原告の社内的な了解を得ずに独断でしたことを1審被告において当然に認識できたといえるから、1審被告は、1審原告の取締役会の承認を受けていないことについて悪意であったと推認できるというべきである。

・・・したがって、1審原告は、本件裏書を受けた1審被告に対し、取締役会決議の欠缺による本件裏書の無効を主張することができるから、本件手形に基づく手形債務を負うことはない。」

2 「本件裏書は、A個人の本件貸金債務を1審原告において保証する趣旨でその支払の担保のために、Aが1審原告の代表取締役として行ったものである。

1審原告の職務権限規程では、債務の保証、1億円以上の有価証券の譲渡(裏書譲渡も当然これに含まれると解される。)や貸付け等について取締役会の承認が必要であるが、Aは、この規程に反し、本件裏書について取締役会の承認を得ず、承認を得るための手続もとらなかったのであり、しかも、本件貸付けの目的はa社に対する融資であって、1審原告の利益を図るものとは必ずしもいえないことを併せると、本件裏書は、Aが自己ないし第三者の利益を図って代表取締役としての権限を濫用した手形行為であるということができる。」

3 「株式会社の代表取締役が自己又は第三者の利益を図るため、代表権限を濫用して手形行為をした場合において、相手方が代表取締役の真意を知り又は知り得べきものであったときは、民法93条ただし書の規定を類推し、その手形行為は効力を生じず、株式会社は代表取締役の手形行為を無効として手形上の責任を免れることができると解される(最高裁第一小法廷昭和38年9月5日判決・民集17巻8号909頁、最高裁第一小法廷昭和53年2月16日判決・裁判集民事123号65頁参照)。

そこで、1審被告がAの権限濫用の事実を知り又は知ることができたか否かについて検討すると、本件裏書の原因関係である本件貸付けに際し、Aは1審原告のために必要であると説明していることが認められるが、これを前提とすると、その後の1審被告との関係における本件の推移等として、1審原告が借主となるのではなく、A個人が借主となったこと、さらにAが1審原告の代表取締役に就任した後もA個人が借主となる貸付けが続けられたことは、いかにも不自然というべきである。また、多額の借入れでありながら、Aはその用途を具体的に説明せず、1審被告もそれ以上の説明を求めなかったし、1審被告は、本件貸付けが明るみに出ないようにAから求められて会計書類に本件貸付けを記載しないことにしたというのであり、しかも、本件裏書がAと1審原告との利益相反取引に当たることは明らかでありながら、1審被告は、1審原告の取締役会の承認が得られているかどうかについて確かめず、Aにもこの点を何ら問い質していないことも認められる。

これらの事情によれば、本件貸付け自体が正常な、あるいは通常の取引とは思われないし、その債務の支払担保としてされた本件裏書についても、同様の指摘が当てはまるのであり、1審被告は、これらの事情を了知した上で、本件貸付けや本件裏書に応じたと推認できるというべきである。

そうすると、以上を総合して、1審被告は、本件裏書について、Aがその権限を濫用して行うことを知っていたか、そうでないとしても、少なくとも知り得べきであった(知らないことに過失があった)というべきである

1審被告は、1審原告がAの権限濫用による法的効果を主張することは信義則に反すると主張するが、上記認定の事情に照らすと、1審被告には相応の帰責事由があるといえるから、1審被告の主張は採用の限りでない。

したがって、1審原告は、この点からしても、本件裏書を受けた1審被告に対し、本件手形に基づく手形債務を負っていないことになる。」


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