【東京高判平成27年5月19日】株主提案権の行使と権利の濫用

1 「定時株主総会の終結時に任期が満了する取締役につき、株主が当該定時株主総会の議案として当該取締役の解任の件を提案することができるかどうかについては、積極の解釈と消極の解釈とがあり得るところであるが、仮に積極の解釈を前提としても、①この点については確立した法律解釈があるとはいえず、確立した企業法務の取扱いがあるとの証拠もないところ、当該定時株主総会が終結する短時間後には任期満了により退任する取締役をあえて解任する実益はないことを理由とする消極の解釈にも相応の合理性があること、②控訴人会社は、この点の法律解釈につき弁護士に相談したところ、消極の解釈も有力であるとの回答を得たこと、③控訴人会社は、②の弁護士の意見を踏まえ、また、被控訴人が解任を提案した当時の取締役である1審被告Cの取締役再任議案を提出しないこととしており、1審被告Cは71期株主総会の終結時に取締役を任期満了で退任し再任されないことになっていたので、71期提案を招集通知に記載しないこととして、その旨被控訴人に連絡したことを総合すると、控訴人会社の取締役が71期提案を招集通知に記載しなかったことは、正当な理由があり、違法であるとは認められない

なお、定款で定めた取締役の員数(控訴人会社の場合は10名以内)が欠けた場合には、任期満了により退任した取締役がなお取締役としての権利義務を有する(解任された取締役はこの権利義務を有しない。)が、控訴人会社は71期株主総会に取締役8名の選任議案を提出することとしており、前年度の定時株主総会において控訴人会社提案の取締役9名選任議案が98パーセントを超える賛成で可決されたことに照らすと、控訴人会社が71期株主総会においてこれら8名の取締役の選任議案が可決されず取締役の権利義務者が必要になるといった事態が生ずる場合を想定していなかったとしても、これは無理からぬところであったと認められるので、上記認定判断を左右するものではない。」

2 「被控訴人は、平成21年より前には控訴人会社に対し株主提案権を行使したことはなかったところ、被控訴人が初めて株主提案権を行使した71期提案が1審被告Cを取締役から解任すること等を内容とするものであったことは、自らの行った控訴人会社の新規事業開発に関する調査結果が採用されず、それに関与したのが1審被告Cであったことと無縁であったとは到底解されない。

そして、これに引き続いてされた72期株主総会に係る提案についてみると、被控訴人は、実父であるBの行為に関する不満や疑念の矛先を、当初はBの実兄であり控訴人会社の相談役であるDに向けていたところ、思うような進展がなかったことから、自身が株主であることから株主提案権の行使という形を利用して、控訴人会社を通じてこれを追及しようとする意図が含まれていたものと認められる。

このような経過に加え、被控訴人が平成22年4月2日頃、72期株主総会に関し提案件数の数を競うように114個もの提案をしたことは、被控訴人が満足できる対応をしなかった控訴人会社を困惑させる目的があったとみざるを得ない。

このことは、被控訴人が、その直前の同年3月28日に、○○に、「株主提案の個数のギネスブック記録っていくつかどなたか知っていますか? 問い合わせ方法を誰か、知ってたら教えてください。」と投稿したことからも明らかであるというべきである(この点について、被控訴人は、もしギネスブックに株主提案の数について記載があれば、その数までは少なくとも容認される根拠になると思ったためであると供述するが、被控訴人が真実そのような意図で上記投稿をしたとは考え難い。)。

そして、被控訴人は、控訴人会社からの重なる要請に従い、最終的には提案を72期提案2の20個にまで削減したものの、その中にはなお倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案が含まれており、それらは、D及びB(「控訴人会社の無償のブランド提供先である企業の幹部」がBを指すことは、前記認定に照らし明らかである。)を直接対象とするものであり、被控訴人が最後までこれらに固執したことからすれば、72期株主総会に係る提案は、上記のような個人的な目的のため、あるいは、控訴人会社を困惑させる目的のためにされたものであって、全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったといわざるを得ない

また、72期株主総会に係る提案の個数も、一時114個という非現実的な数を提案し、その後、控訴人会社との協議を経て20個にまで減らしたという経過からみても、被控訴人の提案が株主としての正当な権利行使ではないと評価されても致し方ないものであった

他方、控訴人会社の側からみれば、被控訴人に対し、その提案を招集通知に記載可能であり、株主総会の運営として対応可能な程度に絞り込むことを求めることには合理性があるといえるし、控訴人会社が、被控訴人に協議を申し入れ、その調整に努めたことは前記認定のとおりであり、このような経過を経ても被控訴人が特定個人の個人的な事柄を対象とする倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案を撤回しなかったことは、株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の趣旨に反するものであり、権利の濫用として許されないものといわざるを得ない

そして、72期株主総会に係る提案が前記のような目的に出たものと認められることからすれば、その提案の全体が権利の濫用に当たるものというべきであり、そうすると、控訴人会社の取締役が72期不採用案を招集通知に記載しなかったことは正当な理由があるから、このことが被控訴人に対する不法行為となるとは認められない。」


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