【神戸地判平成26年10月16日】MBOが頓挫した場合における取締役の責任

1 「取締役は,会社に対し,善良な管理者としての注意をもって職務を執行する義務を負っており(会社法330条,民法644条),かかる善管注意義務に違反する業務執行行為により会社に損害を生じさせた場合にはこれを賠償する責任を負う。

MBOの実施場面においても,この責任法理は当然に妥当するところ,MBOは,企業価値の維持・向上,ひいては会社の存亡にかかわる重大な会社経営上の問題である上,その実施に当たっては巨額の出費を伴うのが通常であることなどにかんがみると,取締役は,その実施に当たって,上記善管注意義務の一環として,「企業価値の向上に資する内容のMBOを立案,計画した上,その実現(完遂)に向け,尽力すべき義務」(以下「MBO完遂尽力義務」という。)を負っているものと解される。

このような観点からいうと,取締役は,上記善管注意義務(MBO完遂尽力義務)に由来するものとして「自己又は第三者の利益を図るため,その職務上の地位を利用してMBOを計画,実行したり,あるいは著しく合理性に欠けるMBOを実行しないとの義務」を負っていることはもとより(以下「MBOの合理性確保義務」という。),これに加え,当該MBOの実現(完遂)に向け,以下のような内容の善管注意義務を負うものというべきである。

すなわち本件のような,会社の非公開化を目的とするMBOは,一般に,自ら又は金融投資家である投資ファンドなどとともに,自らが取締役を務める会社の株式を公開買付けを通じて取得し,公開買付けに応募しない株主を閉め出すことにより対象会社を非上場化する取引である。

したがって,本来は企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき取締役が,対象会社の株式を取得する買付者側に立つこととなり,その結果,できる限り低い対価で株式を取得したいと考える買い手(経営者及び投資家)とできる限り高い価格での買い取りを求める売り手(既存株主)との間には必然的に利益相反関係が生じ得るだけでなく,これに情報の非対称性という構造的な問題も加わる

そのためMBOの実施にあたっては,公開買付価格それ自体はもとより,その決定プロセスにおいても公正さの確保に十分な配慮を払うことが求められるのであって,ひと度かかる決定手続の公正さに大きな疑義が生じたならば,たちどころに一般株主の信頼を失い,MBOの遂行が著しく困難なものとなり頓挫することは,十分に予測されるところであって,このことは結果として価格自体の公正さが維持されるか否かに関わらない。

そうだとすると取締役は,企業価値の向上に資する内容のMBOを計画,実現(完遂)するための上記努力義務(善管注意義務)の一環として,「公開買付価格それ自体の公正さ」はもとより,「その決定プロセスにおいても,利益相反的な地位を利用して情報量等を操作し,不当な利益を享受しているのではないかとの強い疑念を株主に抱かせぬよう,その価格決定手続の公正さの確保に配慮すべき」義務(以下「MBOの手続的公正さの確保に対する配慮義務」ないしは「手続的公正性配慮義務」という。)を負っているものと解するのが相当である。」

2 「MBOの実施は,必然的に取締役と株主との間に利益相反的関係を生じさせるものである上,両者の間には情報量の点で大きな差異があり,本件MBOにおいても,この点につき何ら変わりはないのであるから(本件MBOの公正さに対する配慮義務の水準は特に低くなく,通常期待される程度のものであった。),k社による株価算定結果(k社7月30日付算定結果)が当時の市場株価に比べて高値であることや,j社の株価算定結果との間に相当大きな乖離があることが判明した時点において,被告Y1は,自らが本件公開買付者ら側の立場であることにかんがみ,株主からみて,本件公開買付価格の決定手続の公正さに疑念が生じないよう,その公正さの確保に配慮した慎重な行動が求められていたものというべきである(具体的には,被告Y1は直ちに自らに代わって利益相反関係に立たない社外取締役らを本件公開買付価格の決定プロセスに関与させる一方,本件公開買付者ら側であるh社Hらによる手続関与をできる限り少なくした上,社外取締役を中心として,k社の株価算定結果や,その基礎となる事業計画の見直しの要否等について検討を尽くさせ,これを決定する環境を整えるべきであったといい得る。)。」

3 「被告Y1は,社外取締役を中心に本件公開買付価格の決定プロセスを進めることはおよそ念頭になく,本件MBOを頓挫させないためには,自らの主導の下,本件公開買付価格につき「700円ありき」を前提に,各利益計画の数値やk社による株価算定方法を操作することにより,株価算定結果を本件公開買付者ら側の想定価格に近づけるよりほかないものとして,同年8月3日から同年9月9日までの間,本件MBOの担当執行役であるBに対し,多数のメールを送信した上,上記ⅰないしⅶ等の指示を行い,あからさまに公開買付価格の形成に影響を及ぼそうとしたものである。

そうしてみるとかかる被告Y1の対応は,株主に対し,本件公開買付価格の決定プロセスにおいて,その利益相反的な地位を利用して情報等を操作して,不当な利益を享受しているのではないかとの重大な疑念を生じさせるに余りあるものであって,本件公開買付価格の決定手続の公正さを大きく害するものであったといわざるを得ない。」


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