1 「遺言執行者は,遺言によって指定又は家庭裁判所によって選任される(民法1006条1項,1010条)が,その地位は「相続人の代理人」とみなされ(同1015条),相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとともに善管注意義務を負い(同1012条,644条),その権限行使の効果は相続人に帰属するとされているのであるから,自己の私的な立場や利害を離れて職務を遂行し,遺言の内容を実現すべき責任を負っているところ,抗告人は,遺言執行者としての立場で,その職務の遂行として,本件推定相続人廃除の審判の申立てをしたものである。
2 ところで,一件記録によれば,抗告人は,相手方との間で,別件遺留分減殺請求訴訟において裁判上の和解をしており,その内容には,①抗告人が相手方に対し遺留分の価額弁償として1200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことや,②抗告人と相手方は,被相続人の遺産について和解条項に定める以外に何らの権利義務がないことを確認し,相互に財産上の請求をしないことを約する清算条項などが含まれており(以下「本件和解」という。),抗告人と相手方との間では,被相続人の遺産に関する紛争は本件和解によって既に解決していることが認められる。
しかしながら,上記訴訟は抗告人と相手方の個人間の紛争であり,本件和解も被相続人の遺産についての抗告人と相手方の個人間の紛争を解決したものにすぎないから,これによって,個人の立場や利害を離れて職責を行使しなければならない遺言執行者としての職務遂行に影響を及ぼすことはないというべきである。また,本件では,相続人として抗告人と相手方の他にDがいるのであるから,抗告人と相手方だけで,Dの法的地位に影響を及ぼしうる合意をすることができないことも明らかである。
3 そうすると,上記のとおり,抗告人は遺言執行者の立場で本件推定相続人廃除の審判の申立てをしているものであり,個人の立場としてした本件和解が本件推定相続人廃除の審判の申立てに影響を及ぼし,同申立てが訴訟上の信義則に反したり,同審判の申立ての利益が失われることはないというべきである。」