【大阪高判平成11年6月8日】持戻し免除の意思表示がある場合、その贈与は遺留分算定の基礎財産に算入されるか

「1 被相続人が特別受益の持戻規定(民法903条1、2項)と異なる意思表示(持戻免除)をしたときは、遺留分規定に反しない範囲内でその効力を有する、と定められている(民法903条3項)。

これが遺留分の基礎財産算入に準用される場合、どのように考えるべきかが問題となる。

すなわち、被控訴人ら主張のように、共同相続人に対する贈与(特別受益)について、被相続人の持戻免除の意思表示がある場合にも、これを考慮することなく、無制限に遺留分算定の基礎財産に算入すべきかである。

控訴人は、被相続人の持戻免除の意思表示がある場合には、第三者に対する贈与(民法1030条)と同じく、相続開始前1年内になされた贈与、もしくは当事者双方に加害の認識のある贈与に限り、遺留分算定の基礎財産に算入すべきであるという。

2 これは、民法903条が遺留分に準用されたとき、同条3項をどう解すべきかにかかっている。この問題について、持戻免除は遺留分算定の基礎財産の算入には効力を有する余地はないと考える。その理由はこうである。

民法903条3項は、持戻免除の意思表示が遺留分規定に反しない範囲内でその効力を有する旨を規定している。

しかし、これを準用し遺留分算定の基礎財産の算出を行う場合に、贈与の価額の持戻しをした場合の遺留分と、持戻免除を認め持戻しをしない場合の遺留分とを比較すれば、必ず前者が後者を上回り、遺留分の額を定める民法1028条に反することは明らかである。

また、そもそも、遺留分の規定は被相続人の処分の自由を制限するものであるし、遺留分算定のために持戻しを行うのに、これを行わない場合の遺留分に反しないかを問うのは、同義反覆的な矛盾である。

それ故、民法903条3項の遺留分規定の範囲内で、遺留分の基礎財産を算定するための持戻しを免除することはできないから、持戻免除の意思表示には同条3項によりその効力を有することはない。

したがって、被相続人が持戻免除の意思表示をした場合に、その意思に従い持戻を免除すべきことを民法903条3項が規定しているが、それは相続分に関する問題で、遺留分の基礎財産の算定には影響しないといえる。また、このように解しないと、遺留分への準用でなく相続分を計算するうえでの本来の民法903条3項が無意味となる。

そうであるから、被相続人が民法903条1項所定の贈与について持戻免除の意思表示をしていても、被相続人の意思には関係なく、右贈与を遺留分算定の基礎財産に算入すべきことになる。

このように考えられるから、遺留分の基礎財産の算定の場合は、持戻免除の意思表示は無効としてこれを考慮することなく持戻しを行い、民法903条1項所定の贈与の価額を加算すべきである。

したがって、持戻免除の意思表示がある場合にも、それは同条3項に照らし無効で、民法903条の準用がその効力を失わないから、同法1030条のみの贈与の加算に限定される理由はない。

なお、民法903条所定の婚姻、養子縁組、生計の資本のための贈与でない共同相続人の受けた贈与の場合には、同法1030条による加算を行うべきであると考える。

3 控訴人は、これに対し、相続放棄、相続欠格事由の存在、相続人廃除の審判確定の場合との不均衡を指摘する。

しかし、これらの者は共同相続人ではないから、そもそも民法903条の準用による持戻し規定の適用がないので、遺留分算定の基礎財産の計算上は、民法1030条の贈与の加算規定によるほかない。

遺留分制度は、被相続人の恣意から相続人を守る制度であるから、被相続人のなす持戻免除の意思表示と、相続放棄、相続欠格事由の存在、相続人廃除の審判確定との間に差異が生じても、やむを得ないところがあるし、もともと、これらの場合に、持戻しを認めるか否かは立法政策の問題といえる。

4 以上のとおりであるから、被相続人が、共同相続人に対する贈与(特別受益)につき、持戻免除の意思表示をしている場合であっても、これを無視し、民法903条1項に定める贈与の価額は民法1030条に定める制限なしに遺留分算定の基礎財産に算入すべきである。

5 関連条文

民法903条(特別受益者の相続分)「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」

民法1030条(遺留分の算定)「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」

民法1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。」


パーマリンク

コメントは停止中です。

弁護士法人栗田勇法律事務所 〒420-0858 静岡県静岡市葵区伝馬町9-10NTビル301 TEL 054-271-2231 アクセスページへ ご相談のお申込に関するQ&A お問い合わせはこちら
営業エリア

静岡市葵区・駿河区・清水区、焼津市、藤枝市、島田市、
吉田町、牧之原市、御前崎市、菊川市、掛川市、袋井市、
磐田市、浜松市中区・東区・西区・南区・北区、湖西市、
富士市、富士宮市、裾野市、沼津市、御殿場市、三島市、
熱海市、伊豆の国市