【最判平成9年2月25日】遺留分権利者からの不動産の持分移転登記手続請求訴訟において受遺者が裁判所が定めた価額による価額弁償の意思表示をした場合における判決主文

1 「減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的物の返還を求める訴訟において、受遺者が事実審口頭弁論終結前に弁償すべき価額による現実の履行又は履行の提供をしなかったときは、受遺者は、遺贈の目的物の返還義務を免れることはできない。

しかしながら、受遺者が、当該訴訟手続において、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による価額の弁償をなすべき旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容すべきものと解するのが相当である。

けだし、受遺者が真に民法1041条所定の価額を現実に提供して遺留分権利者に帰属した目的物の返還を拒みたいと考えたとしても、現実には、遺留分算定の基礎となる遺産の範囲、遺留分権利者に帰属した持分割合及びその価額の算定については、関係当事者間に争いのあることも多く、これを確定するためには、裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはならないのが通常であるから、価額弁償の意思を有する受遺者にとっては民法の定める権利を実現することは至難なことというほかなく、すべての場合に弁償すべき価額の履行の提供のない限り価額弁償の抗弁は成立しないとすることは、同法条の趣旨を没却するに等しいものといわなければならない。

したがって、遺留分減殺請求を受けた受遺者が、単に価額弁償の意思表示をしたにとどまらず、進んで、裁判所に対し、遺留分権利者に対して弁償をなすべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める旨を申し立てたという本件のような場合においては、裁判所としては、これを適式の抗弁として取り扱い、判決において右の弁償すべき額を定めた上、その支払と遺留分権利者の請求とを合理的に関連させ、当事者双方の利害の均衡を図るのが相当であり、かつ、これが法の趣旨にも合致するものと解すべきである。

2 この場合、民法1041条の条文自体からは、一般論として、原判決主文第一項3のように受遺者が現物返還の目的物の価額相当の金員を遺留分権利者に支払ったときは登記義務を免れると理解することにさして問題はないけれども、現実に争いとなってこれを解決すべき裁判の手続においては、何時までにその主張をなすべきか、その価額の評価基準日を何時にするか、執行手続をいかにすべきか等の手続上の諸問題を無視することができない。

その意味では、原判決主文第一項3のごとき判決は法的安定性を害するおそれがあり、その是正を要するものといわなければならない。

一方、受遺者からする本件価額確定の申立ては、その趣旨からして、単に価額の確定を求めるのみの申立てであるにとどまらず、その確定額を支払うが、もし支払わなかったときは現物返還に応ずる趣旨のものと解されるから、裁判所としては、その趣旨に副った条件付判決をすべきものということができる。

弁償すべき価額を裁判所が確定するという手続を定めることは、この手続の活用により提供された価額の相当性に関する紛争が回避され、遺留分権利者の地位の安定にも資するものであって、法の趣旨に合致する。」


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