「遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当であつて(最高裁昭和35年7月19日第三小法廷判決、最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決、最高裁昭和44年1月28日第三小法廷判決)、侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものであるが、民法1041条1項が、目的物の価額を弁償することによつて目的物返還義務を免れうるとして、目的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは、価額の弁償を認めても遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず、一方これを認めることによつて、被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺者と遺留分権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが、それ以上に、受贈者又は受遺者に経済的な利益を与えることを目的とするものと解すべき理由はないから、遺留分権利者の叙上の地位を考慮するときは、価額弁償は目的物の返還に代るものとしてこれと等価であるべきことが当然に前提とされているものと解されるのである。
このようなことからすると、価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。
所論指摘の民法1029条、1044条、904条は、要するに、遺留分を算定し、又は遺留分を侵害する範囲を確定するについての基準時を規定するものであるにすぎず、侵害された遺留分の減殺請求について価額弁償がされるときの価額算定の基準時を定めたものではないと解すべきである。」