「通則法36条は,相続は被相続人の本国法によるものと規定し,また,韓国国際私法49条も,遺言による明示的な指定がない限り相続は被相続人の死亡当時の本国法によるものと規定しており,これらによれば,韓国籍のEを被相続人とする本件相続は,韓国法(韓国民法)により規律されることとなる。
この点,通則法42条は,「外国法によるべき場合において,その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは,これを適用しない。」と規定しているところ,ここでいう「公の秩序」(公序)「に反するとき」とは,外国法の規定の適用が日本の法秩序にとって容認し難い結果をもたらすような場合をいうものと解される。
そして,被相続人の配偶者と子が相続人となる場合のそれぞれの法定相続分及び遺留分の割合については,各国ごとに配偶者と子の権利の均衡に配慮して定めていることから,通則法36条の適用により被相続人が外国人である場合と日本人である場合とでそれらが異なる結果となることは,当然に予定されている事態というべきである。
また,このことからすると,遺留分が問題となる事案において,外国法の規定が適用される場合には,遺留分割合が日本の民法の規定による遺留分割合を下回ることも当然に予定されているのであるから,日本の民法の規定による遺留分割合を下回る結果をもたらす外国法の規定が直ちに公序に反することとなるものではない。
しかるところ,原告らは,E及び原告X1が日本に生活の基盤を有し,韓国との特段のつながりを有していないこと,Eが日本で財産を築き,原告X1がこれに多大な貢献をしたこと,原告X1の相続額が,韓国民法の法定相続分割合によると5億1198万9817円,日本民法の遺留分割合によると7億2531万8908円であること等から,本件相続について韓国民法の法定相続分の規定を適用することは公序に反すると主張するのであるが,原告らの主張する事実を全て考慮しても,本件相続に韓国民法の法定相続分割合の規定を適用することにより日本の法秩序にとって容認し難い結果をもたらすと評価することはできない。
したがって,本件相続に韓国民法の法定相続分割合の規定を適用することが公序に反するということはできない。」