【静岡地沼津支判平成28年3月1日】遺産分割無効による分割代償金返還請求権の消滅時効の起算点

「原告は,本件遺産分割協議書が無効であると主張し,その理由として,相続人全員が遺産分割協議書に押印した後,税理士が手書きの訂正を加えたが,訂正後の内容について相続人全員の了承がなかったからである旨主張し,被告Y2もこれを認めている。

また,被告Y1は,税理士から本件遺産分割協議書の一部だけを見せられて押印を求められて押印したから,本件遺産分割協議書の内容を了承していなかった旨主張している。

これらの当事者らの主張によれば,本件遺産分割協議書に基づく遺産分割協議は,その内容について相続人全員の了承がないまま作成されたと認められるから,無効であるというべきである。

そして,消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するとされ(民法166条1項),「権利を行使することができる時」とは,権利行使について法律上の障害がないことをいうものと解されるところ(最高裁判所昭和49年12月20日第二小法廷判決・民集28巻10号2072頁参照),本件遺産分割協議が無効である以上,原告が被告Y1に支払った代償金は法律上の原因がないことになり,原告は被告Y1に対し,代償金支払の直後から不当利得返還請求権を行使することができたものということができる。

これに対し,原告は,「権利を行使することができる時」とは,単に法律上の障害がないというだけでなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待できるものであることも必要であると解されているとして,昭和45年判決及び平成8年判決を挙げ,本件の場合も,前訴判決により,本件遺産分割協議書の無効が確定される時点までは,原告において,被告らに対する不当利得返還請求権を行使することが現実に期待できなかったから,本件における「権利を行使することができる時」とは,前訴の判決が確定して本件遺産分割協議書の無効が確定した平成26年8月19日であると主張する。

しかしながら,昭和45年判決は,供託金取戻請求権に関するものであるところ,供託者が供託金を取り戻すと供託の効果が失われることから,供託者が債務免脱の効果を求めて供託制度を利用している限り,供託金取戻請求権を行使することはおよそ期待できないとの権利の性質に内在する障害の存在を前提とするものと解されるのであり,平成8年判決は,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)72条1項前段に定める保障請求権に関するものであるところ,同請求権は自賠法3条による請求権の補充的な権利という性質を有するから,被害者が加害自動車の保有者ではないかとみられる者との間で自賠法3条による請求権の存否について訴訟をしている間は,自賠法3条による請求権の不存在を前提とする保障請求権の行使を期待することはできないとの権利の性質に内在する障害の存在を前提とするものと解される。

これに対し,不当利得返還請求権の場合は,上記のような権利の性質に内在する障害はないのであって,昭和45年判決や平成8年判決と本件とは事案を異にするといわざるを得ない

また、仮に、権利の性質に内在する障害とまではいえなくとも、権利者に当該権利の行使を期待しえないような特段の事情があるときは消滅時効が進行しないとの見解に立ったとしても,原告は,本件遺産分割協議書が税理士によって訂正されたことを,同協議書が作成された約1か月後の平成8年10月終わりころに知った旨を主張しているところ,そうであれば,その時点で,原告は本件遺産分割協議が無効であることを知ったというべきであるから,前訴判決の確定時点まで消滅時効が進行しないと解すべき特段の事情があるものと認めることはできない(なお,原告は,前訴判決によって,本件遺産分割協議書の無効が確定した旨主張するが,遺産分割協議の有効性については前訴の訴訟物にはなっていないから,前訴における本件遺産分割協議書が無効である旨の理由中の判断に既判力はない。)。

よって,本件においては,原告の被告Y1に対する不当利得返還請求権は時効消滅していると言わざるを得ないから,争点(2)について判断するまでもなく,原告の被告Y2に対する請求は理由がない。」


パーマリンク

コメントは停止中です。

弁護士法人栗田勇法律事務所 〒420-0858 静岡県静岡市葵区伝馬町9-10NTビル301 TEL 054-271-2231 アクセスページへ ご相談のお申込に関するQ&A お問い合わせはこちら
営業エリア

静岡市葵区・駿河区・清水区、焼津市、藤枝市、島田市、
吉田町、牧之原市、御前崎市、菊川市、掛川市、袋井市、
磐田市、浜松市中区・東区・西区・南区・北区、湖西市、
富士市、富士宮市、裾野市、沼津市、御殿場市、三島市、
熱海市、伊豆の国市