重要判例【神戸地判平成23年10月5日】低髄液圧症候群(消極)、低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症関係の治療費、素因減額

1 低髄液圧症候群について

低髄液圧症候群については、従来の定説は、脳脊髄液が漏出してこれが減少し、脳が沈下して頭蓋内の痛覚の感受組織が下方に牽引されて生じる頭痛を特徴とすることから、最も特徴的な症状を起立性頭痛とし、画像所見や髄液圧が一定の数値より低いことなどの他、硬膜外血液パッチ後72時間内に頭痛が解消するなどを診断基準としている

髄液が漏出しても髄液圧が陛下しない例もあり(慢性期には髄液圧が正常の場合が多いという。)、また、その典型症状がなく、それ以外の症状が生じる場合があるところから、上記定説では説明できない患者があるとして、その病気の範囲をより広くとらえようとする説が提唱されるに至っている。病名についても「脳脊髄液減少症」という名称が用いられている

しかしながら、従来の定説では説明できない患者が出てくるという意味において、同説に限界があるというのは確かであるが、他方、脳脊髄液減少症の範囲を画することが極めて曖昧になり、その機序も説明が困難になるということは否定できない

ところで、低髄液圧症候群において、最も典型的な症状であるところの起立性頭痛や体位による症状の変化については、本件において、15分以内に生じる起立性頭痛はなかったと診断されていること、硬膜外血液パッチ後、72時間以内に頭痛が消失したわけではないことが認められ、前記診断基準を満たしていないから、原告が低髄液圧症候群を発症したということはできないものといわざるを得ない。

2 治療関係費について

前記認定のとおり、原告(女・事故時26歳・症状固定時36歳・会社員)に脳脊髄液減少症であるか否かはともかく、その主張の症状は少なくとも頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)によるものであると考えられ、原告の主張する治療費のうち低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症の関係の治療費は、本件事故による損害といえるかが問題とはなる。

しかしながら、原告が治療を受けた病院に直接治療費が支払われるなど既払いの治療関係費があり、原告は、自らの症状を訴えてその治療・緩和を図るために各医療機関を受診したにとどまり(脳脊髄液減少症との診断をしてその治療をしたのは医療機関側の判断によるものである。)、原告が各医療機関で治療を受けるという選択をしたことが相当性を欠くものとまでいうことはできないし、現実に、各医療機関においてブラッドパッチ等の治療を受けた結果、原告の症状が徐々にではあるが改善し、頭痛等については治癒しており、治療の効果があったと評価することができるから、原告の症状が脳脊髄液減少症といえるかどうかはともかく、その治療費等を損害として認めるのが相当である。

3 素因減額について

被告は、原告の症状は、心因性のものである可能性が高いので、大幅な素因減額が必要である旨主張する。

原告の精神的な素因が本件事故による後遺障害とされる症状の原因となり、本件事故後の治療の経過にも影響したのではないかといえなくもないが、他方で、本件事故の態様などに照らすと、原告の前記症状が本件事故のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであるとも直ちにいい難いところである。

よって、原告の後遺障害の程度など本件事案の性質に照らして、その損害の減額はしないこととする。