【重要】改正公益通報者保護法が令和8年12月1日に施行されます。
公益通報者保護法の一部を改正する法律が令和7年6月11日に公布され、令和8年12月1日から施行されます。
通報者への解雇・懲戒に対する刑事罰の新設など、企業の通報対応は大きく変わります。施行前の体制点検・社外窓口の整備をお勧めいたします。
【令和8年12月1日施行】改正公益通報者保護法のポイント
公益通報者保護法の一部を改正する法律は、令和7年6月4日に成立し、同月11日に公布され、令和8年12月1日に施行されます。
令和2年改正(令和4年6月施行)に続く大幅な制度見直しであり、「制度はあるが機能しない」内部通報の実効性を、罰則・立証責任の転換・行政権限の強化によって引き上げる内容です。
企業実務に影響の大きいポイントは、次の5点です。
① 通報者への解雇・懲戒に対する刑事罰(直罰規定)の新設
公益通報をしたことを理由として解雇又は懲戒をした者に対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科され、法人には両罰規定により3000万円以下の罰金が科されます。
従来は民事上の効果(解雇・懲戒の無効)にとどまっていた不利益取扱いの禁止が、刑事罰を伴う規制へと大きく転換します。戒告等の比較的軽微な懲戒処分であっても、公益通報を理由とする場合には処罰の対象となり得る点に注意が必要です。
② 立証責任の転換(推定規定の導入)
公益通報の日から1年以内にされた解雇又は懲戒は、公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。
通報者側が「通報を理由とする処分だ」と立証する必要があった従来の構造が転換され、企業側が「通報とは無関係の正当な処分である」ことを立証しなければならなくなります。通報者に対する人事上の措置には、これまで以上に慎重な検討と記録化が求められます。
③ 通報妨害・通報者探索の禁止
正当な理由なく公益通報を妨げる行為が禁止され、これに違反してされた合意等の法律行為は無効とされます。
また、正当な理由なく通報者を特定しようとする探索行為も禁止されます。「誰が通報したのか」を詮索する行為そのものが法律上明確に禁じられることになり、社内調査の進め方にも配慮が必要となります。
④ 保護対象がフリーランスにも拡大
特定受託業務従事者(いわゆるフリーランス。業務委託終了後1年以内の者を含みます。)が、公益通報者として保護の対象に追加されます。
施行後は、従業員だけでなく業務委託先のフリーランスも通報窓口の利用対象に含めるなど、業務委託契約や通報体制の見直しが必要となります。
⑤ 消費者庁の権限強化と体制の周知義務
従事者指定義務(常時使用する労働者数300人超の事業者が対象)への違反について、勧告に従わない場合の命令権限と命令違反への罰金(30万円以下)、立入検査権限が新設されます。
また、通報対応体制を労働者等に周知する義務が法律上明示されました。「窓口を設置しただけ」では足りず、従業員に認知され、実際に利用される制度であることが求められます。
中小企業(従業員300人以下)も無関係ではありません。
内部通報対応体制の整備・従事者指定は従業員数301人以上の事業者の義務(300人以下は努力義務)ですが、解雇・懲戒への刑事罰、推定規定、通報妨害・通報者探索の禁止は、企業規模を問わず適用されます。いざ通報があったときに誤った対応をすれば、企業規模にかかわらず刑事罰・損害賠償・レピュテーション毀損のリスクに直結します。
出典:消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)」、改正後の法定指針(令和8年3月31日公表)
施行までに企業が行うべき対応
- 内部通報規程の改定(推定規定・通報妨害/探索禁止・フリーランス対応の反映)
- 通報窓口の利用対象の拡大(フリーランス・退職者等を含む範囲の再設定)
- 公益通報対応業務従事者の指定・指定書交付の再点検(従業員301人以上の事業者)
- 役員・管理職への研修(不利益取扱い・通報者探索の禁止の周知徹底)
- 通報対応体制の全従業員への周知(周知義務への対応)
- 通報者が安心して利用できる社外窓口(外部窓口)の整備
そして、これらの対応の実効性を最終的に左右するのが、「通報者が本当に安心して通報できる窓口があるか」という一点です。当事務所の社外窓口サービスは、まさにこの課題にお応えするものです。
内部通報制度の活用により企業不祥事の発見と抑止を!
これまでに耳目を集めた企業不祥事の多くが従業員の内部通報により発覚したことは多言を要しません。
このように内部通報制度を活用することは、企業不祥事の発見に資することは言うまでもありませんが、これに加えて、不正行為者に対する牽制となり、ひいては不正行為の抑止につながるものと言えます。
しかしながら、内部通報制度のこのような効果は、あくまでも同制度が十分に機能していることが大前提です。
逆に言えば、いくら内部通報に関する規程をつくり、内部窓口及び外部窓口を設置したとしても、従業員が同制度を利用する意思・意欲がなければ絵に描いた餅です。
過去の企業不祥事案件を見ても、継続的・組織的に行われてきた不正行為について、複数の従業員がその不正を認識していたにもかかわらず、誰も通報に至らなかったというのが内部通報制度の機能不全の典型例です。
実際、法令違反や基準違反等の不正発覚後に行われた外部調査委員会の調査報告書には、複数の従業員が不正を認識しながら通報に至らなかった理由について、以下のとおり記載されています。
・内部通報しても是正されないと思った。
・内部通報をすると、報復される可能性があると思った。
・匿名で通報したとしても、通報内容から通報者が特定されてしまうので、働き続けるつもりであれば内部通報はできない。
・通報窓口は原則として実名を記載する必要があるため使いにくい。
いかがでしょうか。
これらの従業員の意見を見ると、いかに内部通報制度の機能不全が企業不祥事発見・抑止に対して無力か、おわかりいただけるかと思います。
今般の令和7年改正は、まさにこうした「報復への不安」「通報者特定への恐れ」に正面から応えるものであり、報復的な解雇・懲戒への刑事罰の新設や通報者探索の禁止は、通報を躊躇させてきた要因を法制度の側から除去しようとするものです。裏を返せば、企業側には、通報者保護を徹底できる体制の構築が、これまで以上に厳格に求められることになります。
内部通報制度の機能不全を解消するためには、内部通報に対する正しい理解・認識を全従業員に周知させるとともに、報復(不利益取扱い)への不安感を徹底的に払拭すること、通報後のフローを明確化することが必要不可欠です。
これらは、いずれも言うは易しですが、実際に行うことは想像以上に大変なことです。
しかしながら、動き出さなければ状況は何も変わりません。
効果的な内部通報制度の導入・運用をお考えでしたら、一度、弁護士法人栗田勇法律事務所にご相談ください。
内部通報制度における社外窓口の意義及び必要性
弁護士法人栗田勇法律事務所では、内部通報制度における社外窓口を受託しております。
内部通報制度の社外窓口は、企業内で発生している各種問題(例えば、従業員や顧客の健康、財産、安全、信頼を損なう行為、調達先、納入先、委託先などの取引先に対する信義に反する行為、法令や社内規程への違反、人権侵害行為、重大な倫理違反、不正な会計処理、これらの事象が生じるおそれや疑いがある場合)について、従業員が弁護士法人栗田勇法律事務所に対して通報できるシステムをいいます。
当該制度を導入することにより、企業は、従業員が日頃感じていても上司や社長に面と向かって言えない問題点・改善点を知ることができ、当該問題について調査・検討・対策を講じることができるようになります。
それにより、問題点・改善点を放置することにより発生し得た従業員の退職や休職、従業員からの損害賠償請求訴訟等のリスクを減らすことができるわけです。
企業が、公益通報者保護法を踏まえ、実効性のある内部通報制度を整備・運用することは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与し、消費者、取引先、株主・投資家、地域社会等を始めとするステークホルダーからの信頼獲得に資する等、企業価値の向上や事業者の持続的発展にもつながることは言うまでもありません。
実際、多くの消費者・事業者・労働者が、下記のとおり、自らと関係を有する事業者の内部通報制度の実効性に高い関心を有しています。
すなわち、「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」(消費者庁)によれば、「実効性の高い内部通報制度を整備している企業の商品・役務を購入したい」と回答した者は86%を占め、「実効性の高い内部通報制度を整備している企業と取引したい」と回答した事業者の割合は89%を占め、「実効性の高い内部通報制度を整備している企業に就職・転職したい」と回答した者の割合は82%とそれぞれ極めて高い割合を占めています。
社外窓口の設置場所(顧問弁護士に社外窓口を依頼することの適否)
一般に、内部通報制度の社外窓口を設ける場合の選択肢としては、法律事務所や民間の専門会社等が考えられます。
「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」(消費者庁)によれば、社外窓口の委託先として最も多いのは法律事務所(顧問弁護士)の49.2%、次いで法律事務所(顧問でない弁護士)の21.6%、そして通報受付の専門会社14.9%となっています。
このように社外窓口を採用する企業の約半数が社外窓口を顧問弁護士に委託しているわけですが、一般的に、内部通報の社外窓口を顧問弁護士にすることは以下の理由から推奨されていません。
すなわち、顧問弁護士は、契約上、当該企業の利益を擁護する立場にあるため、通報者(従業員)からすると中立性・公正性に疑義(通報したって結局、会社の味方をして有耶無耶にされてしまうのではないかという不信感)が生じうること、仮に内部通報を契機として通報者と会社との間で紛争が生じた場合、通報者から当該紛争に関して詳細に話を聞いているため、その後、当該紛争について会社の代理人として活動することは利益相反に該当しうることなどがその理由です(「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(消費者庁))。
例えば、同報告書によると、通報窓口に寄せられた通報の内容としては「職場環境を害する行為(パワハラ・セクハラなど)」が55.0%と最も多いとされていますが、このような通報を顧問弁護士が受けた場合、その後、仮に通報者(従業員)が加害者及び会社を相手に損害賠償請求訴訟を提起した場合、顧問弁護士は会社の訴訟代理人として対応すると利益相反に該当するおそれがあります。
以上の理由から、もし御社が内部通報制度を「絵に描いた餅」にせず、実効性のある制度にするお気持ちがありましたら、顧問弁護士とは別に社外窓口を設けることをお勧めいたします。
なお、前記のとおり、当該制度は、中立性・公正性が極めて重要ですので、弁護士法人栗田勇法律事務所と顧問契約を締結されている企業様はご利用いただけません。
費用及びサービス内容
(1) 費用
| ① 導入費用 | 22万円(税込) |
|---|---|
| ② 運用費用 | 月額2万2000円(税込) |
| ③ 通報対応費用 | 1件につき5万5500円(税込) |
(2) サービス内容
① 通報者からの聴取は全て弁護士が行います(*1)。
② 聴取内容につき報告書を作成するとともに口頭でも説明いたします。
③ 内部通報制度の設計・導入(社内規程の整備、従業員への周知方法及び内容等)について助言いたします。(希望制)
*令和8年12月1日施行の改正法(推定規定・通報妨害/探索禁止・フリーランス対応・周知義務等)を踏まえた社内規程の整備・見直しにも対応いたします。
④ 役員及び管理職に対して内部通報制度の運用上の留意点についてセミナー(研修会)を実施いたします。(希望制)
*内部通報制度の運用上の留意点を一言で言うならば、「内部通報制度の機能不全要因を徹底的に除去すること」に尽きます。そのための第一歩として、まずは内部通報制度の機能不全要因を理解することが肝要です。
*特に、特定リスク(通報者が誰であるかを把握されてしまうリスク)の高い通報内容の場合(例えば、不正行為が密室で行われた場合、業務上知り得る者が限定されている場合、通報者がすでに会社に対して問題提起をしている場合等がこれにあたります。)、いかなる方法で社内調査を実施するかを理解することは極めて重要です。改正法により通報者を特定しようとする探索行為が明文で禁止されることを踏まえると、その重要性は一層高まっています。
*内部通報者に対する不利益な取扱い(例えば、退職願の提出の強要、労働契約の更新拒否、本採用・再採用の拒否、降格、不利益な配転・出向・転籍、長期出張等の命令、昇進・昇格における不利益な取扱い、懲戒処分、減給その他の給与・一時金・退職金等における不利益な取扱い、損害賠償請求、事実上の嫌がらせ等)が禁止されていることは言うまでもありませんが、改正法の施行後は、公益通報を理由とする解雇・懲戒が刑事罰の対象となり、通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とすると推定されます。その前提として、社内において通報者の探索を禁止することもまた同様に重要となります。これらの留意点について、過去の重要判例に基づき、内部通報への対処の成功例・失敗例をご説明いたします。
⑤ 社内窓口担当者に対し、「通報対応フォーマット」の提供、対応する際の留意点、聴取ポイント等についてセミナー(研修会)を実施いたします。(希望制)
*「公益通報者保護法に基づく指針」(令和3年内閣府告示第118号)においても、以下のとおり、社内窓口担当者に高度の能力を期待し、十分な教育・研修の必要性を説いています。
「実効性の高い内部通報制度を運用するためには、通報者対応、調査、事実認定、是正措置、再発防止、適正手続の確保、情報管理、周知啓発等に係る担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルの向上が重要であるため、必要な能力・適性を有する担当者を配置するとともに、十分な教育・研修を行うことが必要である。」
*また、公益通報者保護法の令和2年改正(①内部通報対応体制の整備義務、②外部通報の保護要件の緩和、③通報対象事実の拡大、④通報主体・保護内容の改正)に加え、令和7年改正(令和8年12月1日施行。①解雇・懲戒への刑事罰の新設、②推定規定による立証責任の転換、③通報妨害・通報者探索の禁止、④フリーランスへの保護拡大、⑤体制の周知義務の明示等)を正確にフォローすることが求められています。消費者庁が令和8年3月31日に公表した改正後の法定指針への対応も必要です。
(*1) 聴取方法・利用ルール
① 通報者はメールで弁護士法人栗田勇法律事務所に当該制度の利用を希望する旨のご連絡をいただきます。
その際、通報者は弁護士に対してのみ会社名及び氏名をお伝えいただきます。
弁護士は法律上守秘義務を負っております。氏名を通報者の明示の同意なく会社に伝えることは絶対にいたしません。
*「公益通報者保護法に基づくヘルプライン担当弁護士が通報者の実名を本人の承諾なく、もしくは適正な承諾手続を経ずに雇用者に通知し、通報者が不利益な扱いを受けたとして、秘密保持義務違反が問われた事例において、「ヘルプライン担当弁護士は、ヘルプラインの相談業務を弁護士の業務として行うものであるから、ヘルプラインの相談によって知り得た通報者に関する個人情報や通報に関する事実は、『その職務上知り得た秘密』であり、『保持する・・・義務を負う』(弁護士職務基本規程23条)。・・・殊にヘルプラインは、相談者である弁護士の職業によって通報者の匿名性が保持されることを前提とするものであり、公益通報者保護法の根幹となるものである」として、守秘義務違反を理由として懲戒処分をした原弁護士会の決定を相当とした例がある(日弁連懲戒委平成21年10月26日)。ヘルプライン制度は企業からの依頼により弁護士がその任に就くものであるが、通報者の意思に反してその氏名を企業に伝えてはならない。ヘルプライン担当となった弁護士は、通報者に当該制度の趣旨を十分に説明して通報を受ける必要がある。」(解説弁護士職務基本規程第3版58頁)
② その後、実際にお話を伺う日時を決め、弁護士が通報者からお話を伺います。
お話を伺う方法は、通報者のご希望により、法律事務所における対面、電話又はZoomのいずれかをお選びいただきます。
(*2) 聴取内容の報告後の個別具体的な対応方法(調査方針・事実認定・再発防止措置等)に関するご相談・ご依頼は中立性・公正性確保の観点から応じかねます。貴社の顧問弁護士等に別途ご相談ください。
通報受付専門会社との顧問契約もお受けいたします
弁護士法人栗田勇法律事務所では、内部通報の社外窓口をお受けされている企業との顧問契約もお受けしております。
日々の対応業務を適切に進める上で、貴社に責任が及ばないように必要な法的アドバイスをいたします。
顧問契約の内容や費用につきましては、こちらのページをご覧ください。
内部通報の社外窓口に関するよくあるご質問
「窓口は社内に置けば足りるのではないか」「外部に委託するほどのことか」——内部通報制度のご相談で最も多いご質問の1つです。しかし、社内窓口の運営には、法律上の義務と刑事罰を伴う責任、そして通報者の秘密保持という、担当者個人には荷が重い実務が伴います。令和8年12月1日には改正公益通報者保護法が施行され、その負担とリスクは一層重くなります。ここでは、社内で窓口を運営する場合に実際に生じる論点を、消費者庁の公表資料に即して整理します。
Q1内部通報窓口は、社内に設置すれば足りるのではないですか。
法律上、窓口を社内に設置すること自体は可能です。人事部門に設置することも禁じられてはいません。
もっとも消費者庁は、人事部門に通報することを躊躇する者が存在し、そのことが法令違反の早期把握を妨げるおそれがある点に留意が必要である、としています。
実務でも、「人事評価に響くのではないか」「結局は上司の耳に入るのではないか」という不安から、社内窓口には通報が集まりにくい傾向があります。窓口を設置したのに通報が一件も来ず、その一方で行政機関や報道機関への外部通報によって初めて問題を知る——これが企業にとって最も避けるべき事態です。
Q2社内の従業員を窓口担当者にすると、その担当者にはどのような負担が生じますか。
窓口の担当者は「公益通報対応業務従事者」(従事者)として指定する必要があり(法11条1項)、従事者には法律上の守秘義務が課されます。正当な理由なく通報者を特定させる事項を漏らした場合、刑事罰(罰金刑)の対象となります(法12条、22条)。
さらに、この守秘義務は、従事者の指定が解除された後も期限の定めなく続きます。異動しても、退職しても、負い続けることになります。
令和7年改正後は、従事者を指定する際に、守秘義務が課されること及び罰則の適用対象となり得ることを本人に明らかとなる方法で指定することが求められます。つまり企業は、従業員に対し「あなたは刑事罰のリスクを負う職務に就く」と明示して指定しなければなりません。
Q3通報者の秘密を守ることは、実際にはどれほど難しいのですか。
想像以上に難しい、というのが実務の実感です。
「公益通報者を特定させる事項」は、氏名や社員番号に限られません。消費者庁は、大阪支店の女性社員が1名のみの企業において「大阪支店の女性が内部公益通報を行った」という情報も、これに該当すると考えられるとしています。属性の組合せだけで特定に至るのです。
また、必要最小限の範囲を超えて通報者情報を共有する行為(範囲外共有)を防ぐため、次のような細かな管理が求められます。
- 通報事案の記録・資料を閲覧できる者を必要最小限に限定し、施錠して管理する
- 専用の電話番号・専用メールアドレスを設ける
- 面談は勤務時間外に、個室又は事業所外で行う
- 通報メールがシステム上、上司等に同報される設定になっていないか確認する
- 記録に記載された関係者の固有名詞を仮称表記・マスキングにする
Q4匿名の通報にも対応しなければなりませんか。
はい。匿名であっても法律上の要件を満たせば公益通報に該当するため、窓口では匿名の通報を受け付ける必要があります。また、匿名であることのみを理由に調査を行わないことは、正当な理由には当たりません。
問題は、匿名のまま、いかにして通報者と連絡を取り、追加の事実確認を行うかです。消費者庁は、匿名での連絡を可能とする仕組みの例として、「外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み」を挙げています。
Q5受け付けた通報が「公益通報」に当たるかどうか、社内の担当者に判断できるでしょうか。
消費者庁は、通報の受付時点で公益通報該当性が明確である通報は少ないと考えられるとし、まずは受け付けた通報が公益通報であるとの前提で対応する必要があるとしています。
もっとも、通報対象事実とは「最終的に刑事罰や過料につながる行為」であり、対象となる法律は多数にのぼります。ある事実が通報対象事実に当たるのか、当たらないとしても社内規程違反として調査すべきなのか——この振り分けは、法令の知識なしに行うことは困難です。判断を誤れば、公益通報として扱うべき通報を通常の相談として処理してしまい、後日、体制整備義務違反や不利益取扱いの問題に発展しかねません。
Q6嫌がらせ目的と思われる通報や、同じ内容を繰り返す通報には、どう対応すべきですか。
対応を誤ると、かえって会社が責任を問われる典型的な場面です。
「不正の目的」による通報は法律上の保護対象外ですが、消費者庁は、単に交渉を有利に進める目的や会社に対する反感等が併存しているというだけでは足りず、専ら不正の利益を得る目的又は他人に不正の損害を加える目的による通報であると認められる必要があるとしています。通報の背景に不満や怨恨があると認められる場合であっても、最終的に「不正の目的」が認定されず、公益通報に該当する可能性があるため、慎重な判断が求められます。
「これは悪意の通報だ」と決めつけて懲戒処分を行えば、令和8年12月1日以降は、公益通報を理由とする懲戒として刑事罰の対象となるおそれすらあります。しかも、通報の日から1年以内にされた解雇・懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定されます(法3条3項)。
Q7社長や役員が関係する通報が来た場合、社内窓口で対応できますか。
構造的に困難です。指針は、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとることを求めています。しかし、自らの人事権を握る役員に関する通報を、社内の従業員が独立して処理することは、現実には期待しにくいのが実情です。
消費者庁は、独立性を確保する措置の例として、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)への報告、これらによるモニタリングとともに、「内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置する」ことを挙げています。
Q8通報があった後、社内で「誰が通報したのか」を調べてはいけないですか。
令和7年改正により、正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする行為(通報者探索)が法律上禁止されます(法11条の3、令和8年12月1日施行)。
通報した可能性のある者に対して通報したか否かを問う行為や、通報者を特定するために従業員の端末・サーバーの内容を確認する行為が典型例とされています。消費者庁は、表面上は別の目的を掲げていても、実際には通報者探索の目的でアンケート等を利用して調査する行為は通報者探索に該当し得るとし、これに該当した場合には民事上の違法行為となるため、風評被害はもとより、損害賠償請求を受けることや株主から経営責任を追及されるなど、会社運営上さまざまなリスクがあるとしています。
社内窓口では、通報があったという事実が社内に伝わった瞬間から、「犯人探し」の誘因が生じます。悪意がなくとも、調査の過程で結果的に探索と評価される行為に及んでしまう危険は小さくありません。
Q9当社は従業員300人以下です。それでも社外窓口は必要ですか。
体制整備義務及び従事者指定義務は、常時使用する労働者の数が301人以上の事業者に課され、300人以下の事業者については努力義務とされています(法11条3項)。
もっとも、次の規律は、事業者の規模を問わず適用されます。
- 公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰(行為者個人は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人は3,000万円以下の罰金。法21条1項、23条1項1号)。戒告等の軽微な懲戒処分も対象となり得ます。
- 通報の日から1年以内の解雇・懲戒を、公益通報を理由とするものと推定する規定(法3条3項)
- 通報妨害の禁止(法11条の2)、通報者探索の禁止(法11条の3)
むしろ、専任の法務部門を持たない中小企業ほど、社内だけで適切な対応を完結させることは難しく、外部の専門家を関与させる意義が大きいといえます。
Q10社外窓口に委託すると、会社の負担はどの程度軽くなりますか。
通報の受付、通報者からの聴取、記録化、法的な整理、会社への報告を弁護士が担います。会社側で常時対応できる担当者を確保する必要がなくなり、刑事罰付きの守秘義務を負う従事者の範囲も限定できます。通報者にとっても「弁護士が直接聴取する」ことは大きな安心材料となり、制度の利用率が高まります。
他方で、調査及び是正措置は、法律上、事業者自身の責任で行うべき業務です。社外窓口に委託すれば会社が免責される、というものではありません。
なお消費者庁は、通報対応に係る業務を外部委託する場合には、事案の内容を踏まえ、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所等の起用は避けることが適当としています。当事務所では、受任に際して利益相反の有無を確認したうえでお引き受けしています。
社外窓口の設置・運用についてご相談ください。
改正公益通報者保護法の施行日(令和8年12月1日)まで、準備の時間は限られています。既存の内部規程の点検、従事者の指定方法の見直し、社外窓口の設置まで、一貫してご相談をお受けしています。
弁護士法人栗田勇法律事務所
〒420-0858 静岡市葵区伝馬町9-10 NTビル3階
TEL 054-271-2231 / FAX 054-271-2232
【出典】消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」(令和8年5月29日時点)、公益通報者保護法(令和7年法律第62号による改正後のもの。令和8年12月1日施行)、公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)。
本ページの記載は、令和8年7月時点の法令及び公表資料に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。


