おはようございます。
今日は、月例給与の査定に裁量権の逸脱、濫用があるとして、月例給与の引下げを無効とした事案を見ていきましょう。
Xグループほか事件(東京地裁令和7年2月17日・労経速2591号13頁)
【事案の概要】
本件は、Yグループに雇用され、Z社に出向して勤務していたXが、令和3年下期の査定及び令和4年上期の査定に基づく月例給与の引下げ及び賞与額の決定がいずれも権利濫用により無効であると主張して、以下の各請求をする事案である。
(1)Yグループに対する労働契約に基づく差額賃金等の支払請求
ア 従前どおりの査定であれば支払われたはずの令和3年12月分から令和4年7月分までの給与及び賞与と実際の支給額との差額賃金(合計63万1311円)
イ 上記アの差額賃金に対する遅延損害金
(2)Z社に対する労働契約の債務不履行(査定権の濫用)に基づく損害賠償金等の支払請求
ア 慰謝料80万円
イ 上記アの損害賠償金に対する遅延損害金
【裁判所の判断】
Yグループは、Xに対し、14万5517円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 雇用契約の内容として、使用者は労働者の人事評価一般について広範な裁量権を有すると解されるから、Xに対して行われた人事考課(査定)も、最終的な評価を行う被告Xグループの広範な裁量的判断に委ねられているというべきであるが、評価の根拠とされた事実の基礎が欠けていたり、事実の評価が著しく不合理であるなど、裁量権の逸脱、濫用があると認められる場合には、Xに対する人事考課と、それに基づく月例給与の改定、賞与の算定は、権利濫用により無効になるというべきである。
なお、Xに対する人事考課は、Yグループが最終的な評価を行うとされているが、Yグループは、1次評価から3次評価を出向先であるZ社に委ね、また、Yグループによる最終評価は、基本的にはZ社の評価を変更しないという運用で行われていたのであるから、Z社における人事考課に裁量権の逸脱、濫用があると認められる場合には、Yグループによる最終評価についても裁量権の逸脱、濫用があることになるというべきである。
2 Xに対する令和4年6月査定において、コンピテンシー評価がC評価とされた点についても、評価の根拠となる事実の基礎がそもそも欠けていたといわざるを得ない。
そして、以上に対するY社らの主張は、令和3年12月査定に関する主張と同様であり、それらが採用できないことは、上記で述べたとおりである(補足すると、Y本部長は、令和4年6月査定直後のフィードバック面談においても、Xのコンピテンシー評価がC評価とされた理由について、コンピテンシー項目に沿った具体的な説明をしていないから、令和4年6月査定の評価期間においてもXがAAの格付に見合うコンピテンシーを発揮できなかった旨を述べるY証言がにわかに採用し難いものであることは変わらない。)。
以上によれば、Z社が、Xに対する令和4年6月査定において、コンピテンシー評価をC評価とした点も、評価の根拠とされた事実の基礎を欠いており、人事考課がY社らの広範な裁量的判断に委ねられているという点を考慮しても、Z社の評価には裁量権の逸脱、濫用があると認められ、したがって、Yグループの最終評価についても、裁量権の逸脱、濫用があり、同評価とそれに基づく月例給与の降給は、権利濫用により無効であるというべきである。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。