おはようございます。
今日は、就業規則が実質的に周知されていなかったことから、同規則が定める変形労働事件制は適用されないとした事案を見ていきましょう。
三和エンジニアリング事件(東京地裁令和7年7月3日・労経速2603号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結して勤務していたXが、Y社に対し、上記労働契約に基づき、〈1〉令和2年3月分から令和5年1月分までの時間外労働等に対する賃金合計636万8779円及びこれに対する遅延損害金の支払、並びに、〈2〉労基法114条が定める付加金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、649万9474円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは、本件事務所において勤務中、首都高速道路で事故等が発生した場合には休憩時間中であっても出動を命ぜられて緊急点検業務に従事していた。また、休憩時間の前に出動し引き続き休憩時間中も緊急点検業務に従事したこともあった。なお、休憩時間中に保安規制調査業務に従事していたこともあった。
これらの事情を踏まえると、Xは、休憩時間中においても、労働契約に基づく義務として、出動命令に対して直ちに緊急点検業務等に就くことが義務付けられていたといえる。したがって、休憩時間については、全体として、労働からの解放が保障されていたとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたものであり、労基法上の労働時間に当たるというべきである。
2 変形労働時間制は、労基法が定める労働時間規制の例外として、使用者が同法32条所定の労働時間を超えて労働者を労働させることを認めるものであるから、新たに1か月単位の変形労働時間制を導入した本件改定は労働条件の不利益変更に当たる。したがって、これが原告に適用されるためには、労契法10条が定める周知性が認められることが必要となる。
この点、本件事務所においては、就業規則等が綴られたファイルが被告の担当者のロッカー内に保管されていたことが認められるところ、Y社は、上記担当者が他の従業員に対して就業規則等の保管場所や就業規則等を自由に閲覧することができる旨を口頭で伝達していたと主張し、Y社の従業員であるEもこれに沿う供述をしている。
しかしながら、Dは、本件事務所の担当者に対して就業規則等の保管場所や保管方法について特段の指示はしておらず、本件事務所における就業規則等の保管場所も把握していなかったことからすれば、本件事務所における就業規則等の保管場所や保管方法については基本的に担当者に一任されていたと認められる。
また、Y社は、Xから就業規則の周知方法について尋ねられた際も、依頼に対して個別に提示している旨を回答しており、本件事務所に備え付けている旨やその保管場所等を回答することはしていない。これらの事情に照らすと、本件事務所における就業規則等の保管が従業員に対する周知という趣旨で行われていたとは認められないから、本件事務所で勤務する従業員に対して就業規則等の保管場所やこれを自由に閲覧することができる旨に関する周知が徹底されていたかについては疑問が残るといわざるを得ない。
そうすると、Xを含む本件事務所において勤務する従業員全員に対して就業規則等の保管場所やこれを自由に閲覧することができる旨について漏れなく口頭で伝達されていたとするEの供述を全面的に採用するのは難しく、上記事実を認めることはできないというべきである。
以上のとおり、本件では、本件規定等が本件事務所の担当者のロッカーにおいて保管されていたことは認められるものの、そのことや上記のロッカー内に保管されている本件規定等を他の従業員も自由に見ることができる旨がXに対しても告知されていたとは認められない。