Category Archives: 賃金

賃金302 運賃着服等を理由とする退職手当不支給処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、運賃着服等を理由とする退職手当不支給処分の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

京都市(懲戒免職処分取消等請求)事件(最高裁令和7年4月17日・ジュリ1613号4頁)

【事案の概要】

本件は、Y市が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していたXが、運賃の着服等を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、Y市公営企業管理者交通局長から、Y市交通局職員退職手当支給規程8条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部を支給しないこととするを受けたため、Y市を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、本件全部支給制限処分の取消請求を認容した。

【裁判所の判断】

原判決中Y市敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、Xの控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである(最高裁令和5年6月27日判決参照)。
本件着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。そして、バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、Y市交通局職員服務規程において、勤務中の私金の所持が禁止されている(20条)。そうすると、本件着服行為は、Y市が経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。

2 また、本件喫煙類似行為についてみると、Xは、バスの運転手として乗務の際に、1週間に5回も電子たばこを使用したというのであるから、勤務の状況が良好でないことを示す事情として評価されてもやむを得ないものである。
そして、本件非違行為に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、Xは、それらが発覚した後の上司との面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない。
これらの事情に照らせば、本件着服行為の被害金額が1000円でありその被害弁償が行われていることや、Xが約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る本件管理者の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
以上によれば、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る管理者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

Xが公務員だから、でしょうか。

この事案でXは1211万4214円の退職手当等全額の支給がされなくなります。

バランスがとれているといえるでしょうかね。

一般企業で同種事案が発生した場合には異なる結論になるかと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金301 トラック運転手の乗務手当の固定残業代性及び出来高払制賃金該当性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、トラック運転手の乗務手当の固定残業代性及び出来高払制賃金該当性が否定された事案

東輪ケミカル事件(福岡地裁小倉支部令和7年3月27日・労判ジャーナル161号20頁)

【事案の概要】

本件は、第1事件において、Y社と雇用契約を締結してトラック等の運転手として稼働してきたA、B及びCが、Y社に対し、雇用契約に基づく未払割増賃金及び労働基準法114条所定の付加金等の支払を来め、第2事件において、Aらが、Aらの組合活動を理由に、令和4年1月からAらに長距離及び休日の乗務を割り当てず、時間外労働をさせない措置を執った会社の行為は不当労働行為(労働組合法7条1号、3号)であり、Aらは、令和4年1月分以降の各月の賃金と時間外労働をしていた令和3年12月分までの賃金との差額相当額の損害を被り、全国一般労働組合福岡地方本部は組合活動に対する無形の損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金一部認容

損害賠償等請求認容

【判例のポイント】

1 乗務手当との名称からは時間外労働の対価が含まれることが明らかでなく、給与明細にも乗務手当に時間外労働の対価を含む旨の記載はないから、雇用契約上,乗務手当時間外労働分が時間外労働の対価として支給されていたとは認められず、乗務手当は、時間外労働分も含め、全額が基礎賃金に算入される。

2 乗務手当の出来高払制賃金への該当性について、Y社が、各給与期間の走行距離と1km当たりの単価、これに応じて算出された同期間の乗務手当支給額を記載した就業明細書(計算書)を運転手らに毎月交付していたことに照らせば、走行距離に応じて乗務手当を支払うことが雇用契約の内容となっていたというべきであるから、乗務手当は、その金額を、出来高払制賃金(労基則19条1項
6号)として、基礎賃金に算入すべきである。

上記1は、固定残業制度の基本中の基本ですので、しっかりと押さえておきましょう。

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賃金300 月例給与の査定に裁量権の逸脱、濫用があるとして、月例給与の引下げを無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、月例給与の査定に裁量権の逸脱、濫用があるとして、月例給与の引下げを無効とした事案を見ていきましょう。

Xグループほか事件(東京地裁令和7年2月17日・労経速2591号13頁)

【事案の概要】

本件は、Yグループに雇用され、Z社に出向して勤務していたXが、令和3年下期の査定及び令和4年上期の査定に基づく月例給与の引下げ及び賞与額の決定がいずれも権利濫用により無効であると主張して、以下の各請求をする事案である。
(1)Yグループに対する労働契約に基づく差額賃金等の支払請求
ア 従前どおりの査定であれば支払われたはずの令和3年12月分から令和4年7月分までの給与及び賞与と実際の支給額との差額賃金(合計63万1311円)
イ 上記アの差額賃金に対する遅延損害金
(2)Z社に対する労働契約の債務不履行(査定権の濫用)に基づく損害賠償金等の支払請求
 ア 慰謝料80万円
 イ 上記アの損害賠償金に対する遅延損害金

【裁判所の判断】

Yグループは、Xに対し、14万5517円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 雇用契約の内容として、使用者は労働者の人事評価一般について広範な裁量権を有すると解されるから、Xに対して行われた人事考課(査定)も、最終的な評価を行う被告Xグループの広範な裁量的判断に委ねられているというべきであるが、評価の根拠とされた事実の基礎が欠けていたり、事実の評価が著しく不合理であるなど、裁量権の逸脱、濫用があると認められる場合には、Xに対する人事考課と、それに基づく月例給与の改定、賞与の算定は、権利濫用により無効になるというべきである。
なお、Xに対する人事考課は、Yグループが最終的な評価を行うとされているが、Yグループは、1次評価から3次評価を出向先であるZ社に委ね、また、Yグループによる最終評価は、基本的にはZ社の評価を変更しないという運用で行われていたのであるから、Z社における人事考課に裁量権の逸脱、濫用があると認められる場合には、Yグループによる最終評価についても裁量権の逸脱、濫用があることになるというべきである。

2 Xに対する令和4年6月査定において、コンピテンシー評価がC評価とされた点についても、評価の根拠となる事実の基礎がそもそも欠けていたといわざるを得ない。
そして、以上に対するY社らの主張は、令和3年12月査定に関する主張と同様であり、それらが採用できないことは、上記で述べたとおりである(補足すると、Y本部長は、令和4年6月査定直後のフィードバック面談においても、Xのコンピテンシー評価がC評価とされた理由について、コンピテンシー項目に沿った具体的な説明をしていないから、令和4年6月査定の評価期間においてもXがAAの格付に見合うコンピテンシーを発揮できなかった旨を述べるY証言がにわかに採用し難いものであることは変わらない。)。
以上によれば、Z社が、Xに対する令和4年6月査定において、コンピテンシー評価をC評価とした点も、評価の根拠とされた事実の基礎を欠いており、人事考課がY社らの広範な裁量的判断に委ねられているという点を考慮しても、Z社の評価には裁量権の逸脱、濫用があると認められ、したがって、Yグループの最終評価についても、裁量権の逸脱、濫用があり、同評価とそれに基づく月例給与の降給は、権利濫用により無効であるというべきである。

認容額だけを見ますと、費用対効果が合わないように思うかもしれませんが、通常、同判決後は、同社は、人事評価の判断方法を変更することになりますので、そういう意味では、意味のある訴訟になったと評価することもできます。

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賃金299 退職金にかかる支給制限・支給日規定の不利益変更を無効とする一方、賃金減額合意を有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、退職金にかかる支給制限・支給日規定の不利益変更を無効とする一方、賃金減額合意を有効とした事案について見ていきましょう。

ジベック事件(東京地裁令和7年3月31日・労経速2593号41頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、〈1〉労働契約に基づく退職金(功労一時金)請求として、372万2400円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉XとY社との間の賃金減額合意が無効であるとして、労働契約に基づく賃金請求として、未払賃金合計79万9200円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、372万2400円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 旧支給制限規定は、「退職後に懲戒解雇事由に該当する行為が判明した」場合をその対象とするものであるが、これは、従業員が在職中に行った行為が懲戒解雇事由に該当することが当該従業員の退職後に判明した場合をいうものと解されるから、従業員が退職後に行った行為(誓約事項違反)を支給制限の対象に加える改正支給制限規定は、労働条件を労働者に不利益に変更するものということができる。
また、その不利益の程度は、功労一時金の支給制限の対象を従業員の退職後の行為にまで拡大し、それに該当した場合には、原則として功労一時金の全部を支払わないとするものであるから、労働者の受ける不利益は、極めて大きいということができる。なお、その変更により不利益を受ける従業員に対し、不利益を軽減するための措置が講じられたとは認められない
Y社は、従業員代表から令和3年改正規程への変更につき異議がない旨の意見書の提出を受けているものの、従業員代表の選出方法(従業員代表の意見書には立候補による選出である旨が記載されている。)や従業員代表への説明内容、交渉経過等は具体的に明らかでないし、従業員に対する説明会等が行われたなどの事情もうかがえない。そうすると、従業員代表の意見書の提出がされたことをもって、従業員に対し、変更による不利益等に関する説明や意見聴取が十分に行われたとは認められない。
以上からすれば、Y社においては、平成29年以降、J社によるBグループの従業員に対する引き抜き及びそれに伴うY社保有情報の流出を警戒する状況が継続しており、そうした事態に対応する必要から令和3年改正規程による労働条件の変更がされたものといえ、相応の必要性があり、改正支給制限規定の内容も一定の相当性を認め得ることを勘案しても、労働者が上記の不利益変更を許容すべきほどの事情があったということはできず、改正支給制限規定への変更が合理的であるとはいえない
したがって、改正支給制限規定への変更は、無効である。

2 Xの年俸総額が減額とされたのは、Xの本件報告指示違反を原因とする責任範囲の縮小やXの査定結果の低下によるものであり、相当な理由があったといえるほか、その減額幅も不相当であるとまではいえない(なお、上記前提事実のとおり、基本給は減額されておらず、主に調整時間外手当及び深夜調整手当が減額されているところ、Xの責任範囲が縮小されていることからすれば、時間外労働の時間も相応に減少するものと考えられる。)。また、Xも減額理由を理解した上で本件賃金減額合意をしたものといえる
以上からすれば、本件賃金減額合意は、Xの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由があったと認められる。

上記判例のポイント1はしっかりと理解しておきましょう。

賃金や退職金の不利益変更はそう簡単にはできませんのでご注意を。

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賃金298 株式会社の労働者に対する賃金未払いについて、代表取締役の任務懈怠を認め、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、株式会社の労働者に対する賃金未払いについて、代表取締役の任務懈怠を認め、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を認めた事案を見ていきましょう。

MAGUMOほか事件(東京地裁令和7年3月31日・労経速2502号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営するラーメン店の営業に携わっていたXが、XとY社との間には雇用契約が成立しているところ、令和元年8月分から令和3年1月分までの賃金が支払われていないと主張して、①Y社に対しては、雇用契約に基づく未払賃金請求として、各支払を求め、また、②Y社の代表者であるY2に対しては、会社法429条1項の任務懈怠責任に基づく損害賠償請求として、各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、Xに対し、596万1420円+遅延損害金を支払え。
 Y2は、Xに対し、540万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 株式会社の取締役は、会社との委任関係に基づき、会社に対して、善管注意義務(民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を負い、法令等を遵守して会社のため忠実にその職務を行わなければならないところ、労働基準法は、使用者に対して賃金の全額払いを義務付けている(労基法24条)。そして、本件において、Y2には、Xに対する1年半もの長期間にわたる賃金の未払につき任務懈怠があり、かつ、その点について少なくとも重過失があったと認められる。 

2 Y2には任務懈怠につき少なくとも重過失があり、会社法429条1項により、Xに生じた損害を賠償すべき責任を負うところ、Xが現時点まで未払賃金の支払を受けることができておらず、しかも、Yらが本件訴訟の追行を放棄したというべき経過もあることを踏まえると、本件においては、XがY社に対して未払賃金の支払請求権を有しているという点を考慮しても、Xには、未払賃金相当額(540万円)の損害が生じているというべきである

会社と代表者が各自、未払賃金相当額についての損害賠償責任を負うとされています。

すごいですね・・。

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賃金297 固定残業代の有効性、休憩時間に係る未払賃金請求をともに否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代の有効性、休憩時間に係る未払賃金請求をともに否定した事案を見ていきましょう。

マツモト事件(東京地裁令和6年12月19日・労経速2585号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でそれぞれ雇用契約を締結し、塵芥車によって廃棄物収集・運搬等の業務に従事していたXらが、Y社に対し、1〈1〉Y社との間の雇用契約においては有効な固定残業代の合意は存在せず、かつ、多忙であって2時間の所定休憩時間を取ることができなかったなどとして、令和2年2月度から令和6年3月度までの未払割増賃金がX1には合計898万7384円、X2には合計1073万8633円、X3には合計951万7024円発生している旨主張するとともに、〈2〉Y社との間の雇用契約において、令和2年2月25日支払分から令和3年5月分までの基本給が東京都の最低賃金を下回る金額であったことから、差額分に相当する賃金が未払であるとして、令和2年2月度から令和3年5月度までの未払賃金がX1には合計96万0452円、X2には合計70万1000円、X3には合計100万8305円ある旨主張し、上記〈1〉及び〈2〉の未払賃金請求として、X1については合計994万7836円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を、X2については1073万8633円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を、X3については合計1052万5329円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を求めるとともに、
2Y社には付加金の支払が命じられるべきである旨主張し、付加金請求として、X1については776万6805円、X2については947万5527円、X3については820万2778円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、521万2219円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X2に対し、614万7521円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X3に対し、496万8888円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X1に対し、388万2102円を支払え。
5 Y社は、X2に対し、427万7385円を支払え。
6 Y社は、X3に対し、342万7300円を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、本件割増手当について、これが固定残業代であることは入社時にXらそれぞれに説明しており、給与明細書上も、時間外手当と分かる名称で他の賃金と明確に区分してXらに支給していたなどとして、本件割増手当が固定残業代として有効である旨主張し、Y社代表者もこれに沿う供述をする。
この点について、Y社は、Xら就労期間1及び2を通じて、給与明細書上、令和2年4月分から令和3年6月分までは「時間外深夜割増手当」との名目で、令和3年7月分以降は「残業深夜等割増手当」との名目で、本件割増手当を支払っていたことからすると、給与明細書上の費目の名称としては、本件割増手当が割増賃金として支払う趣旨であることがうかがわれる名称にはなっていることは確かである。
しかしながら、Y社は、Xらそれぞれとの間で、Xらの入社時点で、雇用契約書を作成しておらず、かつ、Y社の就業規則及び給与規程を通覧しても、「時間外深夜割増手当」又は「残業深夜等割増手当」との名称の手当に関する規定はなく、そもそも固定残業代に関する定めも置かれていない。また、Y社代表者は、本件の尋問において、Xらの入社の際に、Xらそれぞれに対し、給与明細書のひな型を用いて、Y社がXらに支払う賃金について説明をした旨の供述をするものの、その説明の具体的な内容はY社代表者自身の供述においても明らかではなく、他方で、Xらはいずれも固定残業代に関する説明を受けたことはない旨を供述していることからすると、XらとY社との間で、Xらの入社に当たり、給与明細書上の「時間外深夜割増手当」として計上された金額が固定残業代であることについての合意が形成されていたとは認め難い。そして、Y社がXらに交付していた給与明細書は、XらとY社との間の雇用契約を規律する契約書等ではなく、Y社が一方的に作成してXらに交付していた文書にすぎず、かかる給与明細書の交付が続いていた事実をもって、有効な固定残業代についての合意が形成されたと認めるには足りないし、そもそも対価性要件で判断されるのは賃金の実質であって費目の名称ではないところ、以下のとおり、本件割増手当は時間外労働等に対する対価であったとは認め難い。
すなわち、Xらに対して支給された本件割増手当の額は前記のとおりであるところ、Y社の主張を前提としても、本件割増手当の額は、1か月当たりの最大時間外労働時間数である45時間分と、1か月当たりの最大深夜労働時間数である189時間分に対応する割増賃金を前提として算出された金額であって、深夜の時間帯に回収業務を行うXらの勤務状況とはかけ離れた想定し難い時間数を前提として計算されたものであることに加え、いかなる労働に対する対価であるかの位置付けが不明確な調整金(バッファー)をも含むものである。また、多くの時間外労働等の時間を想定した上記のY社主張と異なり、遅くとも令和4年7月25日頃から掲載されていたY社の求人情報には、「月給34万円以上!しかも残業がほぼない。」などと記載されている。これらに加え、Y社代表者の供述を前提とすると、本件割増手当の金額の定めは従業員に支給する賃金総額を見ての「丼勘定」であったとのことであり、かつ、深夜の時間帯の勤務であったXらのみならず日中の時間帯の勤務であった他の従業員らにも本件割増手当をほぼ同額で支給していたとのことであるから、Y社は、本件割増手当について、従業員らに対して支給する賃金総額との兼ね合いでその金額を定めていたものであることが認められる。これらからすると、本件割増手当は、その名称にもかかわらず、実質においては、通常の労働時間の賃金が含まれていたものといわざるを得ない。
 以上によれば、本件割増手当が全体として時間外労働等に対する対価という趣旨であったとは認めることはできない。そして、このような本件割増手当が対価性要件を欠く以上、判別要件も満たさない。
 したがって、本件割増手当につき、有効な固定残業代としての合意があったとは認めることはできない。

固定残業制度は、要件を満たすことが十分可能な制度です。

しかしながら、いまだに多くの会社で不十分な対応をしています。

結果、基礎賃金が増額され、とんでもない金額の未払残業代が認定されています。

日頃からしっかりと労務管理をしていれば、間違いなく防ぐことができる紛争類型です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金296 タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

正和自動車事件(東京地裁令和6年11月29日・労経速2582号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対して、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、168万7611円+遅延損害金
(2)付加金+遅延損害金
(3)不当利得に基づき、6万円+遅延損害金

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、15万4273円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、11万9729円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法27条及び労基則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」とは、労働者の賃金が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みを指すものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解される。また、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないとしても、その賃金支払合意が、労基法等の法令に反しない内容で労使間で合意されている場合には、そのような賃金支払合意も出来高払制賃金の支払合意と認めて差し支えないと解される。

2 本件雇用契約は、原告の賃金について給与規定を適用する旨が定められており、給与規定が本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。そして、給与規定13条では、歩合給の計算方法について(1)歩合給=営業収入×歩率×業務比率とし、(2)歩率について、〈1〉営業収入のうち38万円以下の部分(49%)、38万0001円以上42万円以下の部分(91%)、42万0001円以上46万円以下の部分(95%)、46万0001円以上の部分(100%)ごとに定め、〈2〉ただし、歩合給の額が営業収入の62%を超える場合、歩率全体が62%となる、(3)業務比率について、総労働時間を、総労働時間、みなし残業時間に0.25を乗じた時間及びみなし深夜時間に0.25を乗じた時間の合計で除して算出すると定められている。

3 次に、上記の歩合給の計算に関し、みなし残業時間が3時間、みなし深夜時間が7時間であることが、本件雇用契約の内容となっているかについて検討するに、給与規定14条は、みなし残業時間及びみなし深夜時間を各人ごとに定めるものの、給与規定にそれ以上の定めはなく、被告から、原告に対し、原告のみなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることの説明がされていないこと自体は、当事者間に争いがない
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、上記で計算する場合に、給与規定13条の定める最大歩率62%ではなく、61%で計算していたことがあったことがうかがわれるものの、基本的に給与規定13条の計算式に基づいて計算がされていたと認められ、これに対し、Xが歩合給の計算額に異議を述べていたという事情はうかがわれず、Xは、Y社の計算式に基づく歩合給を受領していたと認められる。
そうすると、みなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることは、本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。

4 上記の計算式に加え、みなし残業時間が3時間であること及びみなし深夜時間が7時間であることが本件雇用契約の内容となっていることからすれば、歩合給は、営業収入という労働者の成果に応じて一定比率で定められているといえる。
これに対し、Xは、原告の営業収入の額と歩合給の額が正比例の関係にない、また、歩合給の計算に、労働者の勤務日数という成果以外の計算要素が影響すると主張する。
しかし、上記からすれば、出来高払制賃金について賃金が労働給付の成果と正比例の関係にあることを要するとはいえず、この点をもって、歩合給が出来高払制賃金でないとはいえない
また、総労働時間が一定である場合、みなし残業時間及びみなし深夜時間が増えれば増えるほど(みなし残業時間とみなし深夜時間は、勤務日数が増えれば、これに比例して増える。)、業務比率の割合が減ることになるものの、勤務日数が増えれば総労働時間もそれに合わせて増えることが多く、勤務日数の増減に応じて直ちに業務比率が増減する関係にあるとはいえない。勤務日数によって業務比率の割合が影響を受ける関係にあり、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないものの、このことによって、歩合給が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている賃金と評価することができないとまではいえない。また、このような本件雇用契約の内容が、労基法等の趣旨に反しているとまでは評価できない。
そうすると、歩合給は、労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解され、出来高払制賃金に該当すると認めるのが相当である。
よって、歩合給は、出来高払制賃金であると認められる。

上記判例のポイント3の認定は、やや危うい感じがしますがいかがでしょうか。

出来高払制賃金を採用している会社は少なくありませんが、実際には、法律上のそれに該当しないケースも散見されますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金295 名義借契約を理由に懲戒解雇となった保険営業員への退職金全部不支給が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、名義借契約を理由に懲戒解雇となった保険営業員への退職金全部不支給が無効とされた事案を見ていきましょう。

マニュライフ生命保険事件(東京地裁令和6年10月22日・労経速2579号3頁)

【事案の概要】

本件は、生命保険会社であるY社において保険営業の業務に従事していたXが、Y社に対し、①労働契約上の退職金に関する規定に基づき、退職金999万7000円+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、299万9100円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 生命保険契約における名義借契約は、①生命保険の基本的な原則の一つである給付反対給付均等の原則と相容れないものであること、②名義上の保険契約者と営業職員との間の紛争を誘発するものであり、こうした紛争は、営業職員が属する保険会社への社会的な信頼を棄損することにつながり、保険会社も当該紛争に事実上巻き込まれることになりかねないこと、③営業職員の真実の営業成績を偽るものであり、保険会社による人事評価の適正を著しく害するものであることから、「保険募集に関し著しく不適当な行為」(保険業法307条1項3号)に当たるものと解される。このように名義借契約は、悪質性の高い行為であることから、保険会社から監督官庁に対する届出が必要とされており、Y社も、本件生命保険契約に係る名義借契約について、関東財務局長に対して、不祥事件として届出をしている。加えて、名義借契約を含む保険募集に関する不適切な行為については、社会的にも厳しい評価がなされている。本件生命保険契約に係る名義借契約は、営業成績を偽ることを目的とした典型的な名義借契約であるということができ、相当に悪質なものというべきである。
Y社は、本件生命保険契約の締結手続がなされる前から、名義借契約を含む作成契約を行った場合には、解雇ないし懲戒解雇になる旨、Xを含む営業職員に対して説明しており、実際、名義借契約を行った職員に対しては、懲戒解雇としている。したがって、Xは、名義借契約を行えば懲戒解雇等の厳しい処分がなされることを想定できていたはずであり、それにもかかわらず本件生命保険契約に係る名義借契約に及んだことは、それ自体、非難に値するといえるし、本件懲戒解雇が、Y社による他の職員に対する処分との間で不均衡があるともいえない

2 Xの本件懲戒解雇に係る懲戒事由に当たる行為は、Xのそれまでの勤続の功を一定程度減殺する悪質性があるものといわざるを得ない。Y社は、監督官庁に本件生命保険契約に係る名義借契約について、不祥事件として届出をしており、Y社の社会的な信用を棄損する事態となっていることや、Xが、一旦は名義借契約を認める趣旨の言動をしておきながら、その後、それを一転させ、全面的に否定する態度に転じ、これにより、Y社をして、Xの不適切な行為に対する対応に、相応な負担を生じさせていることも、軽視することはできない。
他方、Xは、本件懲戒解雇以外にY社から懲戒処分を受けたことはなかったこと、本件における名義借契約は、本件生命保険契約に係る1件のみであることなどを考慮すると、Xのそれまでの勤続の功を全て抹消するほどの著しい背信行為があったとまではいうことはできない
そうすると、本件退職金不支給条項は、Xの退職金の7割を超えて不支給とする限りで無効であると解すべきであり、Xは、Xに支給されるべきであった退職金999万7000円の3割である299万9100円については、退職金請求権を失わない。

7割という数字自体は、どこかに計算式があるわけではなく、担当裁判官の匙加減です。

現場において、適切な減額割合を客観的に判断することはほとんど不可能であるため、事案の性質上、全額不支給とすることも多いと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金294 グループホームでの泊まり勤務における割増賃金の算定基礎(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、グループホームでの泊まり勤務における割増賃金の算定基礎に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人A会事件(東京高裁令和6年7月4日・労判1319号79頁)

【事案の概要】

1 本件は、Y社との間で労働契約を締結して、Y社の運営するグループホームの生活支援員として勤務していたXが、Y社に対し、夜勤時間帯(午後9時から翌日午前6時まで)の泊まり勤務について、Y社には労基法37条に基づく割増賃金の支払義務があると主張して、〈1〉平成31年2月から令和2年11月までに支給されるべき未払割増賃金312万9684円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉労基法114条所定の付加金312万9684円+遅延損害金の支払を求める事案である。
 
2 原審は、夜勤時間帯が労働時間に当たると認めた上で、泊まり勤務1回につき6000円の夜勤手当が支給されていたことに鑑み、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を6000円とすることが労働契約の内容となっていたと認定し、割増賃金算定の基礎となる賃金単価を750円としてこれを算定して、Xの請求を、〈1〉未払割増賃金69万5625円及びこれに対する各支給日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金、〈2〉付加金69万5625円及びこれに対する判決確定日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

1 原判決を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、331万5789円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、付加金312万9684円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法37条の割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎として算定すべきものである。本件雇用契約に基づきXに支給される賃金には、基本給のほか、基本給の6%相当額の夜間支援体制手当、月額5000円の資格手当があり、これらの手当は労基法37条にいう通常の賃金に含まれるものと解すべきであるから、Xに対し支給されるべき割増賃金の額は基本給、夜間支援体制手当及び資格手当の合計額を基礎として算定すべきである。

2 これに対し、Y社は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を夜勤手当6000円とする旨の賃金合意があったから、夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は750円となると主張する。
しかし、Y社は、これまで、グループホームの夜勤時間帯にY社の指揮命令下で生活支援員が行うべき業務はほとんど存在しないという認識を前提として、就業規則においては、巡回時間を想定した午前0時から午前1時までの1時間を除き、夜勤時間帯を勤務シフトから除外し、本件訴訟においても、夜勤時間帯については緊急対応を要した場合のみ申請により実労働時間につき残業時間として取り扱う運用をしていると主張し、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当することを争ってきたものであって、XとY社との間の労働契約において、夜勤時間帯が実作業に従事していない時間も含めて労働時間に該当することを前提とした上で、その労働の対価として泊まり勤務1回につき6000円のみを支払うこととし、そのほかには賃金の支払をしないことが合意されていたと認めることはできない。

3 労働契約において、夜勤時間帯について日中の勤務時間帯とは異なる時間給の定めを置くことは、一般的に許されないものではないが、そのような合意は趣旨及び内容が明確となる形でされるべきであり、本件の事実関係の下で、そのような合意があったとの推認ないし評価をすることはできず、Y社の上記主張は採用することができない。

上記判例のポイント3は、一般論としては異論がないところですが、通常、夜勤帯のほうが時間給が高くなることから、業務量が相対的に少ないことをもって、日中の時間給よりも減額することはそう簡単なことではないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金293 調整手当等に関する固定残業代該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、調整手当等に関する固定残業代該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

ジャパンプロテクション事件(東京地裁令和6年5月17日・労経速2568号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、割増賃金1055万5272円+遅延損害金
(2)労働基準法114条所定の付加金として、1055万5272円+遅延損害金

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、693万1129円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、付加金669万0110円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 変形労働時間制について、令和3年就業規則27条は、「本社管理職又は現業要員の就業時間については、始業及び終業の時刻並びに勤務の態様をその勤務場所毎に指示する。」、「本社管理職又は現業要員の就業時間等の取扱いは毎月1日を起算日とする1カ月単位(毎月1日~末日)を基準とした変形労働時間制を適用し、1カ月を平均して1週間40時間以内の労働時間とする。時間外労働及び休日労働については、時間外労働に関する協定届の範囲内で時間外労働をさせることがある。」と定めるものの、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められているとは認められない
これに対し、Y社は、事業統括本部において事前に警備員稼働予定表を作成し、これをもって事前に各日の勤務時間を従業員に告知している旨主張するが、Y社の主張によっても、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められていたと認められないから、この点は、労基法32条の2第1項に反するか否かの判断を左右するものといえない。
そうすると、Y社の変形労働時間制は、労基法32条の2第1項に反し、無効であるから、その余の点を判断するまでもなく、Xには適用されない。

2 基本給、職能給、役職手当及び隊長手当を合計した金額(令和2年3月分は基本給13万円及び役職手当3万円の合計16万円、同年4月分から令和3年8月分までは基本給13万円及び役職手当4万円の合計17万円)を月平均所定労働時間174時間で除すると、令和2年3月時点で920円、同年4月から令和3年8月までが977円となり、いずれも令和2年3月から令和3年8月までの当時の東京都の最低賃金である1013円を相当程度下回る。
Xが「調整手当(固定残業代)」と記載のある雇用契約書に署名したことがあることを考慮しても、Xがこのような労働条件を了承するとは考え難いし、Y社が、Xに対し、令和2年3月ないし令和3年8月当時、基本給及び役職手当の合計額を月平均所定労働時間で除すると、最低賃金を下回る旨の説明をしたとも認められない。また、平成21年給与規程13条及び平成29年給与規程13条では、基本給は、本給及び職能給をもって構成するとし、本給は、満年齢、本人の勤続、学歴等に応じて定める額とし、職能給は、本人の職務遂行能力に応じて定める額とするところ、Xの基本給は、平成23年契約書の12万4000円から令和4年4月の退職時の13万円までの間、10年以上勤務したにもかかわらず、6000円の増加にとどまっている。他方、Xの役職手当及び調整手当がそれぞれ増加しているところ、役職手当の増額は、Xの役職が、主任、課長へと昇格したことによるものと考えられるものの、調整手当が平成23年契約書の4万6000円から令和2年契約書の11万8000円まで7万円以上増額している。このようにXの基礎賃金となる額が、最低賃金の額を下回る上、勤続等を考慮するXの基本給がほとんど増額せず、調整手当が増額するなどのXの賃金の経過も踏まえると、調整手当には、固定残業代以外の通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると認めるのが相当であり、その部分については、時間外労働等に対する対価性を欠くといえる。
そうすると、調整手当について通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできず、少なくとも令和2年3月分から令和3年8月分までの調整手当は、固定残業代の定めとして有効であるとは認められない

上記判例のポイント1のように、変形労働時間制が無効となる理由・パターンはだいたい決まっています。

判例のポイント2のように、固定残業制度については、おおよそ解釈は固まってきていますが、とにもかくにも「やりすぎ注意」ということを肝に銘じておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。