Monthly Archives: 7月 2026

競業避止義務36 退職労働者に対して同一市内における競業避止義務を課す特約の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職労働者に対して同一市内における競業避止義務を課す特約の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ロイヤル通商事件(札幌高裁令和5年12月26日・ジュリ1610号186頁)

【事案の概要】

本件は、賃貸物件の管理業務等を業とする控訴人が、元従業員である被控訴人に対し、退職後の競業禁止を合意していたところ、退職直後に競業会社に就職し、退職前後に顧客に虚偽の事実を述べるなどして、当該顧客と控訴人の管理委託契約を解約させ、競業会社との間で同契約を締結させたとし、競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為に基づく1529万5796円の損害賠償(逸失利益と弁護士費用相当損害金の合計額)及びこれに対する令和2年9月30日(解約された管理委託契約における最終の契約終了日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、215万円及びこれに対する令和3年3月16日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 被控訴人は、本件誓約書に署名押印し、控訴人に提出しており、控訴人と被控訴人との間には、本件誓約書に記載された内容の合意(本件合意)が成立しているものと認められる。
 (4) これに対し、被控訴人は、本件合意が公序良俗違反により無効である旨を主張し、上記のとおり、〈1〉控訴人には保護利益がないこと、〈2〉被控訴人は一従業員にすぎず、競業避止義務を課す必要がある立場にないこと、〈3〉競業避止義務の存続期間に合理性がなく、期間も長期にすぎ、また、地域的な限定がされていないこと、〈4〉禁止される競業行為の範囲について必要な制限がされていないこと、〈5〉代償措置が講じられていないことを挙げる。
 しかしながら、〈1〉と〈2〉は、控訴人は、新規の顧客を開拓し、また顧客との管理委託契約を継続するために、営業担当者により、賃貸物件の所有者らに対する各種の営業活動を行わせ、そのために相応の費用や労力をかけ、被控訴人はその営業活動を担っていたことは上記認定のとおりである。また、管理委託契約は継続的な契約関係であって、控訴人及びその担当者と顧客との間では一定の信頼関係が形成されるものといえる。してみると、控訴人の営業担当者が退職直後に競業して、顧客に対する営業活動を行い、顧客との管理委託契約を終了させてしまうことは、控訴人には大きな損失であるし、他方、退職した従業員が就労中に得た情報、信頼関係等を利用して退職直後に営業活動を行うことは不当な利益の取得に当たり得るものと考えられる。したがって、控訴人には退職する従業員に対して競業避止義務を課す必要があり、保護されるべき利益があると認められるとともに、一従業員であるからといって、直ちに競業避止義務を課す必要がないということにはならない
 〈3〉と〈4〉は、本件合意3項〈2〉についてみると、退職後2年もの間、在職時に担当したかにかかわらず、控訴人の顧客に対して営業活動を行わないと定め、地域的な限定もされていない。してみると、上記の控訴人の保護されるべき利益に照らして、競業避止義務を負う範囲は広きにすぎるといわざるを得ない。そして、控訴人がB市に本店を置いて不動産の管理委託業務を営み、管理委託契約は解約告知による終了も予定され、実際にも相応の件数が解約されているところ、管理委託業務の営業活動を担った従業員に対し競業の禁止を求めるという観点に照らすと、本件合意3項〈2〉は、B市内において、退職後6か月の間、競業会社に就職して、控訴人在職時に担当していた顧客に対して営業活動を行わないとの範囲を超える部分は合理性がなく、当該部分は公序良俗に反するものであって無効であり、上記範囲の限度で被控訴人は競業避止義務を負うと解することが相当である。
 〈5〉は、競業避止義務について、上記のとおり、B市において、6か月の間、競業会社に就職して、担当していた顧客に対する営業活動を禁止するという内容であれば、退職直後の、退職前の営業活動を利用した、顧客に対する解約申入れと新規契約締結という不当な勧誘行為を防止するものにすぎないといえ、代償措置が講じられなければならないと解することはできない
 以上によれば、被控訴人は控訴人に対し、本件合意3項〈2〉について、B市内において、退職後6か月の間、競業会社に就職して、控訴人在職時に担当していた顧客に対して営業活動を行わないとの範囲で競業避止義務を負っていたと認められ、その余の控訴人の主張及び被控訴人の主張は採用することができない。

競業避止義務違反に関する事案の多くは、本件同様、原告が十分な賠償を得られません。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

本の紹介2252 バビロンの大富豪 「繁栄と富と幸福」はいかにして築かれるのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から18年前に出版された本ですが、再度、読み返してみました。

古代世界で最も裕福な都市であったバビロンにおける英知がまとめられています。

今も昔も「当たり前」とされていることをいかにちゃんとやり続けられるかが最も重要である、ということがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

あり得ないような莫大な利益を生ませようとしたり、詐欺師の魅惑的な誘いに従ったり、あるいは自らの未熟で非現実的な欲望に頼ったりするような人間からは、黄金は逃げてゆくことだろう。」(130頁)

連日、朝刊に掲載されている投資詐欺被害が典型例ですが、おいしい話には必ず裏があります。

一見遠回りのように見える日々の積み重ねこそが、人生という長期戦では活きてきます。

自己投資こそが投資の王道であると確信しています。

人生は短距離走ではなく、フルマラソンです。

瞬間最大風速を競うのではなく、途中で退場せずに走り続けることに価値があります。

解雇439 部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性に関する判例を見ていきましょう。

糸島市・市消防本部消防長(懲戒免職処分取消等、懲戒処分取消請求)事件(最高裁令和7年9月2日・ジュリ1616号4頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者である糸島市消防長から、部下に対する言動等を理由とする懲戒免職処分を受けたため、Y市を相手に、その取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求及び損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。
Xがした各指導は、訓練やトレーニングとして通常行われる範囲を逸脱したものではあるけれども、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難い。各発言についても、これにより精神的に苦痛を受けた者が相当数に上るものの、言い過ぎの面や、表現が適切でなく、口の悪さが現れたにすぎないところもある。被害を受けた職員に重大な負傷も生じていないことを踏まえると、Y市がした非違行為による他の職員及び社会に対する影響が特に大きいとまではいえない上、Xが、本件処分以前に懲戒処分を受けたことがなく、訓練やトレーニングの際の指導等につき個別に注意等を受けたとの事情も見当たらないこと、Xが一定の反省の態度を示していること等をも考慮すると、懲戒の中で最も重い免職を選択した本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。

【裁判所の判断】

1 原判決中Y市敗訴部分を破棄する。
 第1審判決中Y市敗訴部分を取り消す。
3 前項の取消部分につきXの請求をいずれも棄却する。
 第1項の破棄部分に関するXの附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為のうち各指導は、いずれも、Xが職場内における優位性を背景として、採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上で力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせるなどしたものであり、部下に傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練やトレーニングに係る指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するものというほかない。
また、各発言には、部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したりするもののみならず、その家族をも侮辱したりするものも含まれている。このように、本件各行為は、部下に対する言動として極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いというべきである。
また、消防職員については、火災等の現場において住民の生命や身体の安全確保のための活動等を行うという職務の性質上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱する各指導が許容される余地はないのであって、各指導を含む本件各行為が、部下に対する悪感情等の赴くままに行われた部分が大きかったことからしても、Xが本件各行為に及んだ経緯に酌むべき事情があるとはいえない。
さらに、本件各行為は、小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあるXが、少なくとも10人もの部下に対し、十数年もの長期間、多数回にわたり、上記のような不適切な指導や発言を執拗に繰り返したというものであり、甚だしく職場環境を害し、Y市の消防組織の秩序や規律を著しく乱すものというべきである。消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上重要であることにも鑑みれば、本件各行為が及ぼす上記のような悪影響は看過することができないものである。消防本部においてXらによるいじめやしごき等により若手の職員の退職が相次いでいるなどの記載がある文書の提出を受けたY市長の指示により調査が行われ、多数の職員がXの職場復帰に反対する旨の書面を提出したことは、以上の現れということができる。

2 以上説示したところに照らせば、Xには本件処分以外に懲戒処分歴がないこと等の事情があり、免職処分が公務員の地位の喪失という重大な結果を生じさせるものであることを踏まえても、Xに対する処分として免職を選択した消防長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

ご覧のとおり、判断する裁判官によって、同じ事案でも180度異なる判決が書けてしまいます。

どの事情に光を当てるかによって、こうも違う判決になります。

あきらめたらそこで終わり。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

本の紹介2251 外資系金融ママがわが子へ伝えたい人生とお金の本質(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは、「自由にあきらめずに生きる」です。

人生を通じて精神的・経済的自由を獲得・維持することがいかに大切であるかがわかります。

兎に角、自分に力をつけて、自立することです。

依存は楽ですが不自由です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お金の『使い方』とは、『その人の人生の価値観を反映するもの』です。人生の価値観を確かめずに、ただ働き、ただ貯める。それは一体誰のため、何のためのお金なのでしょう?」(81頁)

『お金をどう使うか』をひたすら考えてみると、自分の価値観や人生観が浮き彫りになってきたのです。そのとき、私は気がつきました。『モノは飽きる』と。」(105頁)

自分の価値観・人生観が明確になっていないと、ただなんとなく時間やお金を消費してしまいます。

みんながそうしているから、嫌われたくないから、ほかにやりたいことがないから・・・

でも、これでは一向に幸せ度は上がりません。

世間一般のいわゆる「常識」「当たり前」「普通はそうする」に縛られ、自分の価値観・人生観に基づいた選択をしていないからです。

他人は他人。自分は自分です。

労働時間123 事業場外みなし労働時間制の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、事業場外みなし労働時間制の適用が否定された事案について見ていきましょう。

西原商会事件(福岡高裁宮崎支部令和7年8月27日・労判ジャーナル165頁22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社に対し、未払割増賞金及び労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求めたところ、原審が、1年単位の変形労働時間制は無効であること等からXの未払割増賃金及び付加金等支払請求を一部認容したため、Y社及びXが原判決中敗訴部分の取消しを求めて控訴、附帯控訴をそれぞれ提起した事実である。

【事案の概要】

一部認容(認容額減額)

【裁判所の判断】

1 Xの休日出勤の予定については、人事部採用チームの業務内容及びスケジュール管理等をするための勤務カレンダーにおいて共有されていたこと、同カレンダーには、会場への移動時間や手段、同イベントの開始時間及び終了時間、開催場所などが記載されており、出張先の業務については、上記イベントの内容、時間帯や場所により、業務内容、開始時間及び終了時間等があらかじめ具体的に確定されていたということができ、これに加え、就活生向けイベントは、これを行うことや参加すること自体はY社が決定するものであり、イベントの参加者も会社が決定した式次第に従って参加し、行動したと考えられること、Y社がXに対し、社用携帯を支給しており、業務について指示をしたり、上記カレンダーで予定されていた業務内容や業務時間が実際の業務内容や時間と異なるかどうかについて確認したりすることも可能であったことを考慮すると、Xの休日出勤時の出張につき、事業場外みなし労働時間制の適用があると解することは困難というべきである。

本件に限らず、ここ最近の裁判例を見る限り、もはや事業場外みなし労働時間制は適用場面がほぼないと考えるのが妥当ではないでしょうか。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

 

本の紹介2250 これも修行のうち。#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは「実践!あらゆる悩みに『反応しない』生活」です。

いろんなことにすぐに反応して落ち込んでしまう方向けの本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

今あらためて思うのは、人間は何も知らない小さな生き物で、しかも与えられた時間は限られているということ。だからこそ、つまらないこだわりはいさぎよく捨てて、できなかったことができるようになる喜びを大事にしようではないか、ということです。」(216頁)

これも解釈の問題ですね。

half fullと考えるか、half emptyと考えるか。

みんな解釈という眼鏡を通して、人生のあらゆること・ものを見聞きしています。

ものごとそれ自体には意味はありません。

自分で意味付けをしているだけです。

解雇438 酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

静岡鐵工所事件(大阪地裁令和7年9月26日・労判ジャーナル165頁16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求並びに労働契約に基づく未払賃金等の支払及び不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件酒気帯び運転は、本件就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するところ、本件酒気帯び運転は、長時間にわたり相当量の飲酒をした後に行われたものであり、Xの血中アルコール濃度が本件酒気帯び運転から約8時間経過した時点でも高濃度であったこと、運転中の異常な運転態様及び警察官から職務質問を受けた際の異常な対応に照らせば、運転中のアルコールによる影響は非常に強いものであったというべきであり、交通事故を起こす可能性の高い非常に危険なものであったと評価するのが相当であり、本件酒気帯び運転は、Y社の業務終了後に行われたものであるものの、社用車を運転するものであり、その運転中に交通事故を起こした場合、Y社に自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任等による民事上の損害賠償責任が発生し得るものであったといえるから、単なる私生活上の行為にとどまるものであったとはいえず、加えて、警察官に対し、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりしたものであるから、近隣住民に与えた不安及び迷惑並びに警察官の職務を遅滞させたことは軽視できず、本件酒気帯び運転後の事情も悪質であるから、本件解雇は、懲戒権を濫用したものとは認められない。

この事案だけを見れば、結論に疑問を持つ方は多くはないと思いますが、裁判例の中には、類似の事案でも、解雇を無効と判断する例があるため、現場の判断を悩ませます。

これに退職金請求が加わるとさらに悩ませることになります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。