Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ98 減給の懲戒処分について、労基法93条の限度を超える金額は無効であることの確認が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、減給の懲戒処分について、労基法93条の限度を超える金額は無効であることの確認が認められた事案について見ていきましょう。

一般財団法人NHK財団事件(東京地裁令和7年5月29日・労判ジャーナル165号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、Y社がXに対して令和6年4月17日付でした減給の懲戒処分は懲戒権を濫用するものであるから無効であると主張して、①本件減給処分が無効であることの確認を求めるとともに、②雇用契約に基づき、本件減給処分に係る減給相当額9290円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社が、令和6年4月17日付で、Xに対してした減給の懲戒処分のうち、減給の額が6143円を超える部分が無効であることを確認する。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 B職員は、令和2年2月から3月にかけて、Xから、職場から一緒に帰る、あるいは週末にハイキングに出かけるといった職務外のプライベートな付き合いに誘われたところ、「個人的なお誘いは遠慮させてください。」と明確にこれを断り、令和5年10月以降も、Xのランチやサイクリングの誘いに応じることなく拒否的に対応しており、Xも、B職員の上記対応から、同人が、Xに対し、私的な領域に踏み込まれたくないとの意向を有していることは、十分に認識していたと認められる。それにもかかわらず、Xは、B職員の上記意向を顧みることなく本件言動に及んだものであり、B職員が被った不安感、不快感は、到底軽視することはできない。
また、①Xは、Y社に提出した顛末書において、B職員が、偽名のLINEアカウントを利用してXにプライベートで接触しようとした、あるいは仮病を用いて勤務時間の短縮や在宅勤務をしたなどと、根拠に乏しい事実を挙げてB職員を非難し、自己の行為を反省する態度を示さなかったこと、②減給処分は、Y社の懲戒処分の中で下から2番目に軽いものであることからすれば、本件減給処分が「社会通念上相当であると認められない場合」(労契法15条)に当たるとはいえない。

2 原告の給与は毎月末日締め、当月20日払いであるところ、本件減給処分がされた令和6年4月17日(労基法12条「算定すべき事由の発生した日」)以前の3か月において原告に支払われた賃金は、令和6年1月分(同月末締め、同月19日支給)として32万5289円、同年2月分(同月末締め、同月20日支給)として36万0429円、同年3月分(同月末締め、同月19日支給)として46万8027円であり、このうち、同年3月分の賃金(46万8027円)には、6か月分の通勤交通費7万1100円が含まれていたと認められる。そうすると、「これを算定すべき事由が発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額」(労基法12条1項)に含まれるのは、7万1100円のうち、その3か月分に相当する3万5550円にとどまるというべきであり、上記賃金の総額は111万8195円となる。
また、上記期間の総日数は91日である。
そうすると、平均賃金は1万2287円となり(111万8195円÷91日=1万2287.85円、争いなし)、労基法91条の定める減給の上限額は6143円となる。
これに対し、Y社は、本件減給処分において、労基法12条所定の平均賃金の算出に当たって、①6か月分の通勤交通費である7万1100円をそのまま賃金総額に加えたこと、②Xの賃金は当月末日が締切日であり、「算定すべき事由の発生した日以前三箇月にその労働者に対し支払われた賃金」は令和6年1月分から3月分の賃金であるのに、同年2月分から4月分の賃金としたこと、③原告の賃金は月給制であり、「賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合」(労基法12条1項1号)に該当しないにもかかわらず、これに該当するとして、同法12条1項ただし書を適用し、同項1号によって算出した額(1万8579.02円)を平均賃金として採用したことにより、労基法91条の定める上記上限額(6143円)を超える金額(9290円)を減給したと認められる。
したがって、本件減給処分は、労基法91条に違反する。

3 労基法91条が減給額につき上限を設けた趣旨は、減給額が多額になって労働者の生活を脅かす事態を回避する点にあることからすれば、労基法91条の制限を超える減給処分がされたとしても、必ずしも減給処分全体が違法・無効となるものではなく、労基法91条の制限を超える部分が違法・無効となるにとどまると解すべきである。

減給処分が労基法91条に違反するとされた珍しい裁判例です。

平均賃金に関する単純な計算間違いですが。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

【労基法91条】就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

【労基法12条】この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

セクハラ・パワハラ97 会社の代表者によるパワハラ発言による慰謝料の金額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社の代表者によるパワハラ発言による慰謝料の金額に関する裁判例を見ていきましょう。

NJH事件(東京地裁令和6年7月25日・労判ジャーナル156号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社の代表取締役であるC及びDからそれぞれ違法な退職勧奨、パワー
ハラスメント、名誉毀損行為を受け、また、Y社から令和4年8月分以降の月額給与を毎月2万円ずつ違法に減額されたと主張して、C及びDに対しては共同不法行為に基づく損害賠償として、Y社に対しては会社法350条又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料等330万円等の連帯支払を求め、また、XとY社との間の令和4年11月20日をもって退職する旨の合意は有効に成立していないにもかかわらず、退職扱いとされたと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、XとY社との間の雇用契約に基づく未払賃金請求として、Y社に対し、違法に減額された未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

合意退職は有効

C及びDのパワハラ→慰謝料10万円

【判例のポイント】

1 本件面談において、Cは、Xに対し、Xの経理部での仕事ぶりに対するCの認識に関する発言の域や、Xの経理部での働きぶりに対してXに反省を求める発言の域を超えて、「うーん。すごい人だね、あなたね。心の中、のぞいてみたいよね。夜叉だよ、夜叉。そんなことをね、言う人はね、普通じゃないって」などと、Xに対する個人的な人格非難と評価されてもやむを得ない発言をするとともに、「もうあなたに給料出す気はないし、早く、1日でも早く辞めてほしい。いなくなってほしい」、「有休マックスなんか、取れると思っちゃ、大間違いだからね。言っとくけど。大間違い」などと、有給休暇の取得を否定する発言をしたことが認められ、本件面談においてCが行った発言のうち、少なくとも上記各発言に関しては、Xに対する選法なパワーハラスメントとして不法行為を構成する。

2 Dは、本件面談に同席し、本件面談を通じて、CがXに対して各発言をすることを制することもな<、かえって、「最後に正義が勝つんだなって、僕、思ってるし、なぜE君(元社長)がこういうふうに精神的に追い詰められたかって、今、自分でもずっと考えてて。うん。その理由は、まあ、本人の問題もあるだろうけど、うん、Aちゃん(Xのこと)もあるんじゃないかなと思います」などと、Cに同調する発言もしていたことからすると、CとともにXに対して共同不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

いろいろとあったことは容易に想像できます。

とはいえ、このご時世、仮に心の中で思っていたとしても、それを1度でも口に出したらこのような問題に発展してしまいます。

慰謝料額よりもレピュテーションダメージのほうがはるかに大きいです。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ96 セクハラ被害に対する使用者の対応が不十分であるとして、安全配慮義務違反を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、セクハラ被害に対する使用者の対応が不十分であるとして、安全配慮義務違反を認めた事案を見ていきましょう。

ジャパンチキンフードサービス事件(東京地裁令和6年10月22日・労経速2578号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する飲食店で勤務していた元従業員Xが、Y社に対し、勤務先で会社の外国人スタッフから性的嫌がらせを受け、これにより精神的苦痛を被ったとして、安全配慮義務違反の債務不履行又は使用者責任に基づき、慰謝料300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、60万円を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社の外国人スタッフであるAは、Xと向かい合う位置に立ち、右手でXの上着の袖を引っ張ってXの体を自分の方に引き寄せようとしたり、Xの右肩に左手を伸ばしてXの上着の襟首をめくったりし、また、Xの背中付近に左手を伸ばし、Xの服の上から背中付近をつまんで揺らすようにしてブラジャーのホックを外そうとしたことが認められるところ、本件はXが本件店舗で勤務するようになってから3日程度しか経っていない日の出来事であり、XがAによる身体的接触を許容するとはおよそ考え難いことからすれば、Aの前記行為は、Xの意思に反してされた性的嫌がらせに当たると認められるから、Aの前記行為は、Xに対する不法行為を構成するというべきであり、また、Y社が経営する本件店舗で行われたものであるから、Y社は、使用者責任(民法715条)を負う

2 Xは、もともとADHDに罹思して精神科に通院していたところ、Aによる性的嫌がらせの後、不眠等の症状が悪化したことなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、使用者責任に基づき、Y社がXに対して支払うべき慰謝料の額は30万円と認めるのが相当であり、また、上記の事情に加え、Y社において、Xが性的嫌がらせを受けないようにするための対策等が講じられていなかったこと、Y社は、XがAから性的嫌がらせを受けた後、Y社の副社長がXの相談に応じ、Aによる性的嫌がらせの状況が撮影された録画データを確認し、Xの希望に沿ってXの勤務先を変更するなどしたものの、XやAから詳細な状況の聞き取り調査を行ったり、Aに対する指導やXに対する謝罪の措置等を講じたりするなどした事実はなく、Xから慰謝料の請求を受けても、その話合いに応じることもなく、むしろ、Xが本件訴えを提起すると、Xのシフトを減らすなどの対応に及んでいることなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、会社が従業員に支払うべき慰謝料の額は30万円と認めるのが相当である。

ハラスメント事案においては、事前の予防措置及び事後の対応が慰謝料額に影響を与えます。

素人判断で動くと、かえって逆効果のケースもあるので、すぐに顧問弁護士に相談しましょう。

セクハラ・パワハラ95 上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

キャドワークス事件(東京地裁令和6年4月19日・労判ジャーナル153号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、A社及びA社の元代表取締役Yに対し、Yからセクハラを受けたとして損害賠償を請求するとともに、休職期間満了による自然退職の効力を争い、地位確認等を求めた事案だる。

【裁判所の判断】

YらはXに対し、110万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Yは、配偶者がいながら、Xに対し、異性として好意を抱いていることを伝え・・・、Xから否定的な返答を受けた後も、二人での旅行、オペラ鑑賞、登山及び寿司といった、業務とは無関係の外出に繰り返し誘い、Xは二人での外出を断っていた・・・ものである。これらの行為は、A社の代表者という立場から、部下であるXに対し、A社の代表者と従業員という関係を超えた交際を求めるものであり、要求を断った場合の職場での不利益を懸念させ、Xの職場環境を害する行為である。さらに、Yが、A社の従業員にXとの関係を問い質したこと・・・は、Xに交際を求めることと相まってXの職場環境を害する行為であり、Xに従業員との関係を問い質したことは、Xを困惑させ不快感を与える行為である。

2 Yは、Xに対する好意から、Xから拒否されているにもかかわらず交際を申込み、他の従業員にXとの関係を問い質す等してXの職場環境を悪化させ、さらに本件展示会でのG及びXの対応に苛立った挙句、業務の適正な範囲を超えてXにYや取引先への不合理な謝罪を命じ、Xに不快感や屈辱感を与えたものであり、こうしたYの一連の行為は、Xの人格権を侵害する違法な行為であり、不法行為に該当するというべきである。

3 Yの不法行為の内容や期間、頻度に加え、Xが適応障害を発症したこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は100万円、弁護士費用はその1割の金額として10万円と認めるのが相当である。

上司・部下の関係において、上司が部下に対して恋愛感情を持つと、最後はこうなってしまいます。

今に上司部下間恋愛禁止法ができるのではないかとすら感じます。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ94 取締役の言動等に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、取締役の言動等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

イーライフ事件(東京地裁令和6年1月19日・労判ジャーナル151号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、未払割増賃金及び労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求め、また、不法行為に基づく損害賠償請求として、300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等支払請求棄却

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の取締役であるCの令和2年9月30日の発言は、XとC以外にも、正確な人数は不明であるが複数の従業員がウェブ会議等を通じて参加する営業会議という場でされたものであり、そして、Cは、Xが同日を最終出勤日とすること及び急な引継ぎを要することの説明に加え、同月28日及び同月29日のXとCとのやり取りや顛末の詳細を述べ、その中では、自閉症や対人恐怖症といった精神に関わる障害の名称を示して、Xには対人関係の構築等に問題があるとの意見があったことを述べつつ、CはXを評価しXの労働環境に配慮をしていたにもかかわらず、Xが転職先も答えず、最終出勤日の2日前に退職届を提出し、引継ぎに関するCからの要請に応じなかったことを非難したものであり、その時間は10分から15分に及ぶものであり、このようなCの発言は、業務上の必要に基づくXへの叱責や他の従業員への説明という範疇を超えて、Xの名誉感情を著しく害する行為というべきであるから、Xに対する不法行為となると認めるのが相当であり、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、20万円と認めるのが相当である。

慰謝料の相場観で言うとこのような金額です。

弁護士費用との関係ではなかなか判断が難しいところですが、会社のレピュテーションダメージをいかに捉えるかが和解で終わるかに直結しています。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ93 上司のパワハラ及び会社の違法なけん責処分につき、安全配慮義務違反が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、上司のパワハラ及び会社の違法なけん責処分につき、安全配慮義務違反が認められた事案を見ていきましょう。

アイエスエフネット事件(東京地裁令和6年2月1日・労判ジャーナル150号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社の上司らからパワーハラスメント等を受けて適応障害を発症したなどと主張して、Y社に対し、安全配慮義務違反又は使用者責任に基づき、慰謝料等の支払を求め、また、Y社から理由なく賃金を減額されたとして、Y社に対し、主位的に、不法行為に基づき、減額分等支払を、予備的に、雇用契約に基づき、減額分等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 G部長発言は、Xに対して、残業代の請求をした場合には人事評価が下がる旨を伝えたものであり、Xの権利行使のための行為を不当に阻害するものであるといえるから、違法なものといえ、また、本件けん責処分について、令和2年2月3日、Xは、C支店での勤務時間中、他の従業員と午後10時30分から約2時間30分にわたって通話をしていた時間について残業代を請求しているところ、XのC支店からの退出時刻は、前日は午後10時30分頃、当日は午前1時7分頃、翌日は、午後2時頃であったことが認められることからすれば、Xは実際に処理すべき業務量が多かったものと推認することができ、これを前提にすると、X供述のとおり、当日、Xは、業務に関連する電話を受けた後に、通話作業をしながら業務を行っていたものと認めるべきであり、このような行為が作業密度等の点において問題がないとはいえないとしても、それを理由にけん責処分までするのは重きに失し、相当性を欠いているというべきであるから、本件けん責処分は、違法なものといわざるを得ず、これらはXに精神的な苦痛を生じさせるものであるから、Y社の安全配慮義務違反を構成し得るものであるところ、Xは選択的に使用者責任に基づく請求もしているが、そちらの法律構成の方が認容額が増え得るという関係にはないので、Y社の安全配慮義務違反を前提に検討する。

2 Xは、Y社の安全配慮義務違反によって、自律神経失調症等を発症したというが、当該疾病の発生機序については立証が尽くされているということはできないから、Y社による安全配慮義務違反との間に相当因果関係を認めることはできないものの、Xに精神的苦痛が生じたこと自体は否定することができず、安全配慮義務違反の継続期間や、Xに与えた影響の大きさに照らせば、その慰謝料額としては30万円が相当である。

G部長の気持ちも理解できなくはありませんが、労働時間管理のしかたを根本的に変えないと問題は解決しません。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ92 原判決を変更し、上司の性的暴行等に基づく損害賠償等請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、原判決を変更し、上司の性的暴行等に基づく損害賠償等請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

東京税理士会神田支部事件(東京高裁令和6年2月22日・労判1314号48頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社との間で雇用契約を締結し、事務局職員として稼働していたXが、総務部長であるBから性的暴行を受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、休職せざるを得なくなったと主張して、B及びY社に対し、Bについては不法行為に基づき、Y社については使用者責任又は安全配慮義務違反に基づき、連帯して休業損害等の合計約1380万円等の支払を求め、また、Xが、本件性的暴行を原因として休職したものであり、Y社による解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払賃金等の支払等を求め、反訴において、Bが、Xが本訴請求の提訴前に記者会見を開き、Bから性被害にあったため損害賠償請求をするなどと説明したことが名誉毀損に当たると主張して、不法行為に基づき、慰謝料等550万円等の支払並びに謝罪広告の掲載を求めた事案である。

原判決は、解雇は有効であるとして、解雇無効地位確認等請求を棄却し、Bの性的暴行は認められない等として、損害賠償請求も棄却し、Bの名誉毀損に基づく慰謝料等請求を棄却したため、X及びBが控訴した。

【裁判所の判断】

原判決変更

損害賠償等請求一部認容(本訴)

慰謝料等請求棄却(反訴)

【判例のポイント】

1 令和元年8月21日にBの事務所内で行われた一連の性的行為は、Xにおいては、支部役員である税理士と支部事務局の職員という関係を意識して、Bの言動に対してあからさまに拒絶的な態度をとることを当初控えていたものの、Bと性的行為に及ぶことを期待も受容もしていなかったのに、Bにおいて、Xに対し性的関心を抱き、性交まで進む意図の下に、徐々に性的行為をエスカレートさせていく形で、一方的に行ったものであると推認され、全体として、同意のない性的行為であったとの評価を免れず、また、Xの供述中に、居酒屋での滞在時間や、事務所内での双方の位置関係、移動状況等に関する点で事実と整合しない部分やあいまいな部分があることは、上記認定を妨げる事情とはいえないから、Bは同意のない性的行為によりXの人格権を侵害したことについて、不法行為責任を負う。

2 本件性的暴行は、XとBが、支部の業務とは無関係に、私的に飲食を共にする目的で、業務時間外に二人で居酒屋において会食をした後に、引き続き二人でBの事務所で過ごす間に起きた出来事であって、これに起因して発症したXのPTSDは業務上の疾病であるとはいえず、また、本件面談に起因してXの体調が出金できないまでに悪化したとは認められないから、本件解雇は、業務上疾病にかかり療養のために休業する期間中にされたものとは認められず、労働基準法19条に反するとはいえない。

立場に上下関係がある場合には、特に注意をする必要があります。

昨今の不同意わいせつ、不同意性交事案同様、行為者が、相手が同意していたと思っていた(勘違いしていた)としても、大きな問題に発展しますので、気を付けましょう。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ91 職場いじめの有無と休憩室での録音(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、職場いじめの有無と休憩室での録音に関する裁判例を見ていきましょう。

ハイデイ日高事件(東京地裁令和5年2月3日・労判1312号66頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Yに対し、YのXに関する言動等が職場いじめに当たり、これにより精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Yの発言は、「いやだ」、「気持ち悪い」、「大っ嫌い」等と主としてYのXに対する主観的な感情・評価を吐露するものにすぎず、Xに係る個別具体的な事実を摘示し、これによりXが社会から受ける客観的な評価を低下させるようなものであったとはいえないし、具体的な事実に基づく論評・評価に当たるものであったともいえない。そして、Xは、Yが出勤する日はほぼ毎日のように録音し、その数は500件以上であるところ、Yの発言中、Xに対する否定的評価が含まれるものは上記2日間のものに限られ、本件全証拠を精査しても、Yによる継続的な言動があったと認めるに足りないし、いずれもX不在の本件店舗の休憩室における一時的な会話であり、Xが秘密録音したことによって、Xの知るところとなったにすぎないのである。このような行為4の1及び行為4の2に係る具体的な状況を踏まえてみると、これがXに対する不法行為に当たるものとまでは解されない。

2 Yは、平成29年3月14日及び同月28日の各会話を録音した媒体及びその反訳書について、違法収集証拠に該当するから証拠能力がないと主張するが、上記録音媒体は、Xが、本件店舗の従業員が共同して使用する本件店舗の休憩室での会話を、Yが知らない間に録音したというにとどまり、その録音の手段・方法に照らして、著しく反社会的な手法で人格権を侵害して取得されたとまでは認められないのであり、証拠能力は否定されないというべきである。

上記判例のポイント2のように、秘密録音については、よほど秘密性の高い会話を除き、違法収集証拠とは評価されません。

なお、証拠能力の問題とは別に、プライバシーや個人情報保護の観点から、社内での録音は禁止と就業規則等に規定し、周知することをおすすめいたします。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ90 セクハラ行為による精神障害発症について加害者及び会社の責任を認めたものの、休業期間の長期化は原告側にも原因があるとして休業損害額を4割の限度で認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラ行為による精神障害発症について加害者及び会社の責任を認めたものの、休業期間の長期化は原告側にも原因があるとして休業損害額を4割の限度で認めた事案について見ていきましょう。

A社事件(鳥取地裁令和6年2月16日・労経速2551号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、勤務先であるY社及びかつて上司であったZに対し、次の各請求をする事案である。
(1) 不法行為及び使用者責任に基づく損害賠償請求
Y社らに対する、Zから継続的に人格権を侵害する違法なセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントを受け、これにより精神的苦痛を被るとともに、精神疾患を発病して休職を余儀なくされたなどと主張した、Zについては不法行為に基づく、Y社については使用者責任に基づく、損害賠償金2527万4746円(慰謝料1000万円、治療費9万1144円、休業損害438万9514円、逸失利益849万6384円及び弁護士費用229万7704円の合計額)+遅延損害金の連帯支払請求
(2) 債務不履行に基づく損害賠償請求
Y社に対する、Y社において、①セクハラ及びパワハラ被害防止策の周知徹底を怠ったため(事前の安全配慮義務違反及び職場環境調整義務違反)、Zによるセクハラ及びパワハラが発生するとともに、②同セクハラ及びパワハラの発覚後、速やかに必要かつ十分な措置をとることを怠ったため(事後の安全配慮義務違反及び職場環境調整義務違反)、精神的苦痛を被ったなどと主張した、債務不履行に基づく、損害賠償金660万円(慰謝料600万円及び弁護士費用60万円の合計額)+遅延損害金の支払請求

【裁判所の判断】

Y社らは、Xに対し、連帯して594万7156円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが適応障害との診断を受けたのは平成30年10月22日で、その後にうつ病との診断を受けたのは令和元年11月16日である。そして、これを休業損害の算出基礎となる休業期間(平成30年11月1日から令和5年10月20日までの1815日間)との関係で考慮するならば、休業期間のおおむね8割程度の部分がうつ病の発病以降の期間となる。
Xの主治医の意見は、Xが「うつ病」を発病した主な要因には、Zがした不法行為ないしその後の言動のほかに、Y社の事後対応があり、さらには、Y社の事後対応により、Xが「健全な社会的関係性の感覚」を損なうなどして、うつ病が遷延しているというものである。このような主治医の意見に、ZのF支店への出張、F支店長への降格によってXとZの接触がないものとなったことを併せ考慮すれば、Xがうつ病を発病した後、上記に認定した休業期間の終期にまでうつ病が遷延しているのは、Y社の事後対応についてのX自身の受止めが強く作用しているとみるのが合理的である。これを換言すれば、上記の休業損害期間について、それが終期に近づけば近づくほど、その時点での休業の原因がX側の事情にあるとの側面が強まっているとの評価が可能である。
このように、そもそもXがZの不法行為によって適応障害ないしうつ病を発病したものであるとはいえ、うつ病が遷延して長期に及び休業期間が発生したことについて、上述したとおりのX側の事情というべきものがあって、その休業期間のおおむね8割に相当する部分については、休業期間の終期に向かって順次、そのX側の事情が原因となっている側面が強まっていること、治療費とは異なって休業損害は高額にわたるものであること等を踏まえると、損害の公平な分担の観点に照らし、Zの不法行為による休業損害額は、もはや一旦算出した金額の半額をやや下回るものになると認めるのが相当である。
このような考慮に基づく休業損害について具体的金額をもって示すと、基礎収入(日額8548円)に休業期間(1815日間)を乗じて一旦算出した休業損害額1551万4620円の4割に相当する620万5848円の限度にとどまるものとするのが相当である。

パワハラ等による精神疾患発症事案において、使用者側が着目すべき点が記載されています。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ89 上司らの発言につき安全配慮義務違反に基づく損害賠償等請求が一部認容された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、上司らの発言につき安全配慮義務違反に基づく損害賠償等請求が一部認容された事案を見ていきましょう。

アリスペッドジャパン事件(東京地裁令和5年3月2日・労判ジャーナル146号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払残業代等の支払を求め、また、在職中に職場内でパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けたと主張して、安全配慮義務違反又は使用者責任に基づき、損害賠償金300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払残業代等支払請求棄却

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 D課長の各行為は、職務上何らの必要性のない、粗暴又は性的な言動であって、Xの就業環境を害するものであることは明らかであるから、Y社はXに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うものというべきであり、また、C代表は、1年以上過去の出来事について、食事会の場で、他の従業員の前で叱責をすること自体、指導方法として極めて不相当であるといえるから、Xの就業環境を害するものであったといえ、Y社は、Xに対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。
そして、Xは、C代表及びD課長が性的な言動を繰り返していたと主張するところ、上記の各行為から推認される両名の人物像及びY社の職場環境からすれば、そのような言動があったものと推認することができるが、その点については、慰謝料を算定する際の考慮要素の一つとするのが相当であるから、Xに生じた精神的損害に係る慰謝料額としては、60万円が相当である。

性的言動を繰り返していたという主張について、仮に客観的な証拠が存在しない場合でも、上記のような推認により認定されることがありますので注意しましょう。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。