Monthly Archives: 4月 2026

配転・出向・転籍60 転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通ほか事件(東京地裁令和7年3月21日・労経速2594号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社らに対し、以下の請求をする事案である。なお、Xは、以下の(1)及び(2)の各請求について、同時審判の申出(民訴法41条)をした。
(1)Y社に対する請求
XがY社に労契法18条の無期転換申込権を行使し、かつ、XとY社との間の上記労働契約の使用者の地位をA社に移転(転籍)する旨のX、Y社及びA社との間の合意が無効又は取り消されるなどしており、Y社との間で期間の定めのない労働契約があるなどと主張して、Y社に対し、以下のアないしウの請求
ア 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 労働契約に基づき、令和5年3月から毎月10日限り、同年2月分以降の賃金54万2500円+遅延損害金の支払
ウ 令和2年9月26日から令和5年1月末日までの分の未払賃金(割増賃金を含む。)896万4171円+遅延損害金の支払
(2)A社に対する請求
仮に上記合意が有効に成立したとしても、A社との間で期間の定めのない労働契約があり、A社の解雇は無効であるなどと主張して、A社に対し、上記(1)アないしウと同じ内容の請求
(3)Y社らに対する請求
Y社らが共謀してY社の従業員が虚偽の説明及び強迫をして、Xに上記合意をさせた行為が不法行為であると主張して、不法行為(民法719条1項)に基づく損害賠償として、Y社らに対し、330万円+遅延損害金の連帯支払

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、XがY社らに対し、本判決確定の日の翌日から、毎月10日限り54万2500円+遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 A社は、Xに対し、7万1899円+遅延損害金を支払え。
 XのY社に対するその余の請求及びA社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、本件合意が自由な意思に基づくものではない旨主張する。
この点に関連し、最高裁判決の中には、労働者の同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するとするものがある(最高裁判所昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁)。
しかし、これらの最高裁判決は、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無について、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基盤となる情報を収集する能力にも限界があることに照らし、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から判断されるべきものと解するのが相当であるとしたものであるのに対し、本件のように転籍の意思表示の有無が問題となる場面では、労働者は、転籍により従前の使用者の指揮命令下から離脱することになり、転籍に伴う不利益の内容を認識し得るといえ、本件は、上記の最高裁判決とは事案を異にするといえる。
もっとも、労働者の個別の転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるといえる。しかし、上記の事情からすれば、Xは、転籍の意味を相当程度理解した上で、Y社からA社に転籍する意図をもってY社及びA社との間で本件合意をしたものと認められる。また、Xは、F人事部長らから事実に反する説明や強迫をされたなどと主張するが、この点は、本件合意の有効性(錯誤無効や詐欺取消し等の成否)に影響し得るとしても、本件合意の成立の有無(転籍の同意の有無)に影響を及ぼすものとまではいえない。

転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるものの、「自由な意思」論をそのまま適用することは否定しています。

転籍を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介2234 仕事頭がよくなるアウトプット勉強法#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から13年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

タイトルは「勉強法」とされていますが、本の内容としては、単なる勉強法にとどまらず、社会人としての心構えが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

つまるところこちらが質問しているのは、『結論として売り上げはいくら?』ということ。このことを理解し、まず『結論ファースト』で話せるかどうかは、その人のロジカル度を見るポイントです。・・・『理由なんてものは、聞かれたら答えればいい』というのが私の考え。理由が知りたければ、向こうから効いてくるはずなのです。」(188頁)

これ、実際のところ、指導されたとしても、なかなか直りませんよね(笑)

人の話し方(答え方)や聞き方は、長年の癖なので、そう簡単には直らないのです。

質問されていることにストレートに回答できなかったり、聞いているときに「はい、はい、はい、はい」という相槌を連呼したり、途中で自分の話を始めたり(笑)

その人の話し方や聞き方を見れば、その人の人となりや知性を垣間見ることができるように思います。

継続雇用制度37 58歳で退職させたうえで7年間継続雇用する制度が適法とされ、当該継続雇用制度における待遇も「高年法の趣旨」に反しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、58歳で退職させたうえで7年間継続雇用する制度が適法とされ、当該継続雇用制度における待遇も「高年法の趣旨」に反しないとされた事案を見ていきましょう。

成田国際空港事件(東京地裁令和7年3月27日・労経速2594号36頁)

【事案の概要】

Y社は、定年を60歳とした上で高年法9条1項2号の継続雇用制度として65歳まで雇用する制度を定めているが、本件再雇用制度では、本件再雇用制度の利用を希望する労働者は定年前の58歳で退職することが必要であるとされており、本件再雇用制度を利用しないまま60歳に達した者は定年退職することとなる。
本件は、60歳でY社を定年退職とされたXが、本件再雇用制度が高年法又は労働契約法に反するなどと主張して、(1)主位的に、定年退職後に本件再雇用制度による労働契約が成立するとして、同労働契約に基づき、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉令和5年2月以降の各月支払分の賃金(本件再雇用制度により雇用継続がされた場合に得られるべき賃金20万7750円)+遅延損害金の支払、〈3〉令和5年2月以降の毎年6月及び12月支払分の賞与(本件再雇用制度により雇用継続がされた場合に得られるべき賞与17万6588円)+遅延損害金の支払を求め、(2)予備的に、高年法の規定又は趣旨に反する本件再雇用制度を定めたことが65歳まで賃金を得る権利又は65歳まで雇用を継続できるという法的保護に値する期待を侵害する不法行為に該当するとして、不法行為に基づき、損害賠償金1309万2405円(本件再雇用制度により雇用継続された場合に得られるべき賃金と賞与の合計額又は慰謝料)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年法における「定年」とは、労働者が所定の年齢に達したことを理由として自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度であると解されるところ、Y社の従業員は本件再雇用制度を利用せずに60歳で定年退職することを選択することもできるから、本件再雇用制度を利用する場合に58歳で退職する必要があることをもって、Y社が定年を58歳と定めたとはいえない

2 高年法8条が、事業主が定年の定めをする場合には、当該定年は「60歳を下回ることができない。」として同条の予定する定年制の内容を一義的に規定しているのに対し、高年法9条1項2号の継続雇用制度については、条文の文言上、制度の内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得るものとなっている。また、高年法9条の改正の基礎となった労働政策審議会の建議においても、年金支給開始年齢までの雇用の確保を進める一方で、経済社会の構造変化等が進む中で厳しい状況が続く企業の経営環境等を考慮すれば65歳までの雇用確保の方法については個々の企業の実情に応じた対応が取れるようにするべきである旨が指摘されている。
これらのことからすれば、高年法9条1項は、同項2号の継続雇用制度の具体的な内容については、65歳までの安定した雇用の確保という同項の目的(同項柱書)に反しない限り、各事業主がその実情等に応じて定めるところに委ねる趣旨であると解される。そして、定年退職後に引き続いて雇用される制度としなければ65歳までの安定した雇用の確保という同項の目的に反するということはできない。
そうすると、同項2号の継続雇用制度が、現に定年まで雇用されている労働者が希望するときはその定年退職後に引き続き雇用される制度であることを要するということはできない
以上によれば、本件再雇用制度を利用する場合に58歳で退職する必要があることをもって、実質的に58歳を定年と定めたものとはいえず、高年法8条及び9条に反するということはできない。

3 この点につき、Xは、高年法9条1項2号が、継続雇用制度を「その定年後も引き続いて雇用する制度」としていることから、継続雇用制度は、定年で退職した労働者を引き続き雇用する制度であることを要する旨主張する。しかしながら、上記規定内容は、「定年と定められた年齢に達した後も引き続いて雇用する制度」と解することもできるのであり、既に説示した同項の趣旨からするとそのように解することが合理的である。

非常にユニークな制度設計ですが、上記判例のポイント1、2からしますと許容される制度であると考えられますね。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

本の紹介2233 成功する起業家の「非・常識」勉強法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

ビジネスパーソンが日々、どのような着眼点でインプット、アウトプットすべきかが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

実は、『他業界の成功法則』を工夫して自社の業界用にアレンジして持ち込むのが、最も手っ取り早く成功を手にすることになるのです。しかし、多くの経営者は『自社の業界用にアレンジする』という頭を使う部分が面倒で、それをやろうとせず、『うちの業界には当てはまらない』という免罪符を使っているだけなのです。」(59頁)

自分の業界の模倣ばかりだと、どこも似たり寄ったりになってしまいます。

全くの異業種のサービスを形を変えて取り入れるほうがいいですね。

同じものを見ても、感じ方は人それぞれです。

常にアレンジの材料を探す意識を持っていることが大切なのだと思います。

継続雇用制度36 65歳以降の雇用について雇止め法理の適用を否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、65歳以降の雇用について雇止め法理の適用を否定した事案を見ていきましょう。

大成ロテック事件(東京地裁令和7年3月11日・労経速2594号3頁)

【事案の概要】

本件は、道路工事等の設計、施工、管理及びコンサルティング等を目的とする株式会社であるY社を定年退職した後に、期間の定めのある労働契約をY社と締結し、複数回更新してきたが、その後、Y社から契約更新を拒絶されたXが、Y社に対し、前記有期労働契約は労契法19条1号又は2号により更新された旨主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和5年7月から本件判決確定の日まで、毎月25日限り、20万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 有期労働契約締結の際には、いずれも、Y社の人事担当者が原告と面談をしてXの契約締結の意向を確認した上で、XとY社との間で雇用契約書が作成されており、本件労働契約は、その更新手続が形がい化していたとはいえないから、更新の回数等を考慮しても、労契法19条1号に該当するものとはいえない。

2 満65歳までの雇用区分を再雇用社員とする有期労働契約とそれ以降の雇用区分を契約社員とする有期労働契約では、労働契約更新の期待の程度には大きな差異があり、後者についてXを含むY社の従業員が労働契約更新の期待をもつことが合理的であるということは困難というべきである。このような事情に加えて、最終的に雇用区分を再雇用社員とする有期労働契約が終了した後の、XとY社との間の雇用区分を契約社員とする有期労働契約は、1回しか更新されていない上、その更新の際、Y社からXに対し、それ以降の更新はない旨伝えられていること、Y社は、Xに対して、令和5年7月以降も雇用が継続されることを期待させるような言動は行っていないこと、令和5年度における契約社員の契約更新状況をみても、70歳未満で契約更新を希望した34人の内、Xを含む6人が契約更新されず雇用契約が終了となっており、65歳以降も原則として契約更新がなされる取扱いであったとまでは評価できないこと等の事情も併せ考慮すれば、本件労働契約の契約期間の満了時に満66歳に達するXにおいて、本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められない。

65歳以降の継続雇用は、現在のところ、努力義務であり、上記判例のポイント2の各要素を踏まえれば、裁判所の判断は妥当であると思います。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

本の紹介2232 10年後に生き残る最強の勉強術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

450以上の資格を持つ著書が、今後おすすめの資格・検定とその勉強法を説いています。

資格取得をばかにする人がいますが、気にしなくて大丈夫です。

そんなことを気にする前に、寸暇を惜しんで勉強しましょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

時間がないことが問題なのではなく、本質的にはモチベーションの問題なのです。本当に心の底から取りたい資格や身に付けたいスキルがあるなら、多少仕事をおろそかにしたり、残業を一切拒否したりしてでも、勉強時間をひねり出したり、スクールの講義への出席だけは絶対確保したりという行動に出られるはずです。それができないのは、単にそこまでの情熱がないだけです。」(150頁)

あらゆることは、単なる優先順位の問題です。

限られた時間を何に費やすか、ただそれだけの話です。

ないのは、時間ではなく、やる気です。

まあ、日々の仕事や家事や育児等で本当にどうしようもなく時間がない方もいますが・・。

メンタルヘルス17 労災認定後に行われた解雇が労基法19条1項本文の解雇制限に反せず有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労災認定後に行われた解雇が労基法19条1項本文の解雇制限に反せず有効とされた事案を見ていきましょう。

一般財団法人あんしん財団事件(東京地裁令和7年7月24日・労経速2595号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、平成27年6月から休職をしていたXらが、令和4年5月にY社からそれぞれ解雇されたことについて、被告に対し、①上記各解雇が労基法19条1項本文に反し無効であるとして、Xらが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②上記各解雇が不法行為を構成し、これによって精神的苦痛をそれぞれ被ったとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用相当損害金の合計各440万円+遅延損害金の各支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 療養期間に関する医学的知見に関して、精神医学等の専門家から成る専門検討会においては、最新の医学的知見を踏まえ、業務による心理的負荷等につき適切かつ迅速に評価・判断する方法が検討され、令和5年7月にその検討結果が取りまとめられており、これによれば、一概に示すことは困難とされつつも、療養期間の目安について、「うつ病の経過は、未治療の場合、一般的に(約90%以上は)6か月~2年続くとされていること」、「適応障害の症状の持続は遷延性抑うつ反応(F43.21)の場合を除いて通常6か月を超えず、また、遷延性抑うつ反応については持続は2年を超えないとされている」との医学的知見が示されている。
そして、Xは、平成27年3月中旬に適応障害を発病したとされており、令和4年5月に被告により解雇をされた時点において、7年間余りが経過していたものである。
また、Xは、この間の平成29年6月には、Y社に対し、「復職願」を提出して復職しているところ、復職に際し、Xの主治医は、その当時のXの状態について、「心理検査:(略)病的所見は見られない。」、「業務に影響を与える可能性のある精神症状または状態像」は「特になし」、「予想される現時点での職場への適応度」は「職場として平均的な業務遂行能力を満たすと思われる」、「職場復帰への準備状況」は「総合職として社内外の関係者と連携・協力を行うなど、対人折衝等複雑な調整等にも耐え得る程度の精神状態にまで回復していることを前提にした職場復帰に関する全体的評価」に関し「81%以上:ほとんど問題なく復職可能」等と診断している。そして、復職後の就労状況については、実際に営業業務を開始した平成30年1月から同年9月までのコール数は合計782件であり、この間のアポ率は2.2%であり、平成30年度における被告の女性職員による平均アポ率1. 02%を上回るものであった

2 以上のような諸事情を総合考慮すると、平成27年3月中旬における適応障害の発症と令和4年5月の解雇当時におけるXの休業との間に相当因果関係があると認めるには足りず、当該解雇の当時、Xが労基法19条1項本文所定の「療養のために休業する」状態にあったということはできないと判断するのが相当である(なお、当該解雇が「療養のために休業する期間」「の後30日間」にされたということもできない。)。
なお、Xらが、前記のとおり、本争点については相当因果関係が問題とならない旨主張することに鑑み、ここで説示すると、労基法19条1項本文の解雇制限について、業務起因性のある疾病の療養と関わりのない療養や治ゆ後に新たに発症した疾病の療養、症状固定後の後遺障害等の療養等のために休業している場合にまで解雇を制限する趣旨であると解することはできず、このような見地から、同条項の適用においては業務と休業との間に相当因果関係が認められることを要するものと解するのが相当である。

上記判例のポイント1の「令和5年7月にその検討結果が取りまとめられており」は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」です。

同種事案における検討においては必読です。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。