Daily Archives: 2026年4月15日

配転・出向・転籍60 転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通ほか事件(東京地裁令和7年3月21日・労経速2594号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社らに対し、以下の請求をする事案である。なお、Xは、以下の(1)及び(2)の各請求について、同時審判の申出(民訴法41条)をした。
(1)Y社に対する請求
XがY社に労契法18条の無期転換申込権を行使し、かつ、XとY社との間の上記労働契約の使用者の地位をA社に移転(転籍)する旨のX、Y社及びA社との間の合意が無効又は取り消されるなどしており、Y社との間で期間の定めのない労働契約があるなどと主張して、Y社に対し、以下のアないしウの請求
ア 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 労働契約に基づき、令和5年3月から毎月10日限り、同年2月分以降の賃金54万2500円+遅延損害金の支払
ウ 令和2年9月26日から令和5年1月末日までの分の未払賃金(割増賃金を含む。)896万4171円+遅延損害金の支払
(2)A社に対する請求
仮に上記合意が有効に成立したとしても、A社との間で期間の定めのない労働契約があり、A社の解雇は無効であるなどと主張して、A社に対し、上記(1)アないしウと同じ内容の請求
(3)Y社らに対する請求
Y社らが共謀してY社の従業員が虚偽の説明及び強迫をして、Xに上記合意をさせた行為が不法行為であると主張して、不法行為(民法719条1項)に基づく損害賠償として、Y社らに対し、330万円+遅延損害金の連帯支払

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、XがY社らに対し、本判決確定の日の翌日から、毎月10日限り54万2500円+遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 A社は、Xに対し、7万1899円+遅延損害金を支払え。
 XのY社に対するその余の請求及びA社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、本件合意が自由な意思に基づくものではない旨主張する。
この点に関連し、最高裁判決の中には、労働者の同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するとするものがある(最高裁判所昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁)。
しかし、これらの最高裁判決は、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無について、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基盤となる情報を収集する能力にも限界があることに照らし、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から判断されるべきものと解するのが相当であるとしたものであるのに対し、本件のように転籍の意思表示の有無が問題となる場面では、労働者は、転籍により従前の使用者の指揮命令下から離脱することになり、転籍に伴う不利益の内容を認識し得るといえ、本件は、上記の最高裁判決とは事案を異にするといえる。
もっとも、労働者の個別の転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるといえる。しかし、上記の事情からすれば、Xは、転籍の意味を相当程度理解した上で、Y社からA社に転籍する意図をもってY社及びA社との間で本件合意をしたものと認められる。また、Xは、F人事部長らから事実に反する説明や強迫をされたなどと主張するが、この点は、本件合意の有効性(錯誤無効や詐欺取消し等の成否)に影響し得るとしても、本件合意の成立の有無(転籍の同意の有無)に影響を及ぼすものとまではいえない。

転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるものの、「自由な意思」論をそのまま適用することは否定しています。

転籍を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。