Author Archives: 栗田 勇

本の紹介2268 普通の人が資産運用で99点をとる方法とその考え方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

帯には「『やるべきこと』は1年に30分で完結 最高のリターンが得られる」と書かれています。

俗にいう「ほったらかし系」です。

この本のとおりにできればいいのですが、多くの人は、その退屈さに飽きてしまうのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

「全自動洗濯機が登場したとき、これまで洗濯板で洗濯をしていた人たちは『全自動洗濯機は思考停止。自分で洗濯しないと人は成長しない』と全自動洗濯機を利用して楽をする人たちに苦言を呈していたようです。いつの時代でも、自分たちが苦労してきた分野に新しい技術が登場すると、その技術を利用して楽をする人たちに対して思わず苦言を呈してしまいたくなるものです。」(132頁)

これは、SNS等で「インデックス投資は思考停止。成長しない。毎日、投資に真剣に向き合うべき」という声があることに対する意見です。

例えが秀逸です。

AIの登場も全く同じです。

いずれにせよ、これまでも、これからも、変化を止めることはできません。

柔軟性や探求心を失った時点で、時代に取り残されることになります。

賃金304 運行先に応じた支払限度額を目安として都度任意の調整手当が支払われていたとしても、時間外手当等の「割増賃金」該当性は否定されないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運行先に応じた支払限度額を目安として都度任意の調整手当が支払われていたとしても、時間外手当等の「割増賃金」該当性は否定されないとされた事案について見ていきましょう。

ダイワ運輸事件(東京地裁令和7年7月9日・労経速2604号44頁)

【事案の概要】

1 X1は、Y社に対し、X1とY社との間の雇用契約に基づき、令和2年4月支払分から令和4年6月支払分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」という。)に係る割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、同割増賃金の不払に係る付加金(除斥期間が経過したものを除く。)+遅延損害金の支払を求めている。
X1は、Zに対し、Y社の代表取締役であるZがY社に前記の割増賃金の支払をさせなかったことが取締役の任務懈怠に当たるとして、会社法429条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

2 X2は、Y社に対し、X2とY社との間の雇用契約に基づき、令和2年4月支払分から令和4年10月支払分までの時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、同割増賃金の不払に係る付加金(除斥期間が経過したものを除く。)+遅延損害金の支払を求めている。
X2は、Xに対し、Y社の代表取締役であるZがY社に前記の割増賃金の支払をさせなかったことが取締役の任務懈怠に当たるとして、会社法429条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、56万3422円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X1に対し、付加金40万4149円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X2に対し、49万4756円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X2に対し、37万8286円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件時間外手当等の名称(時間外手当、深夜手当、休日出勤手当)や本件時間外手当等の金額が時間外労働等の時間に応じて算定されていること等を加味すれば、本件時間外手当等は時間外労働等に係る割増賃金に当たるものといえる。
これに対して、Xらは、XらとY社との間で定額ルート給を支払う旨の合意が成立していたことを前提として、Y社の賃金体系は、国際自動車(第2次上告審)事件や熊本総合運輸事件において割増賃金に当たらないとされたものと同様に、その実質において、元来は通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金について、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを本件時間外手当等に置き換えて支払うこととするものであるから、本件時間外手当等は、通常の労働時間の賃金として支払うべき部分を相当程度含んでいるものと解されるなどとして、本件時間外手当等は、通常の労働時間の賃金に当たる部分との判別ができず、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているともいえないと主張し、さらに、本件時間外手当等を割増賃金とすることは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する労働基準法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする同法37条の趣旨に反するという観点からも、本件時間外手当等は割増賃金に当たらないと主張する。
しかし、XらとY社との間で定額ルート給を支払う旨の合意が成立していたとは認められないから、定額ルート給を「元来は通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金」とみることはできず、本件時間外手当等に通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれているとはいえない。また、本件時間外手当等が割増賃金であるとみても、前記認定の契約内容のもとで、被告会社は労働基準法37条等に定められた方法により算定された金額を下回らない金額の割増賃金を支払うことになるから、同条の趣旨に反するとはいえない。
このことは、Y社が契約上義務付けられた基本給等に調整手当を加算することで「支払限度額合計」の金額とおおむね一致する金額を支払っていたことをもって変わるものではない。

2 Xらは、Zが、故意又は重過失により、被告会社に労働基準法37条を遵守させ、Xらに対して割増賃金を支払わせるという任務を怠ったものであり、この任務懈怠によって、Xらは本来であれば受領可能であった割増賃金の支払を受けることができず、Xらには割増賃金相当額の損害が生じていると主張する。
しかし、XらはY社に対して未払の割増賃金及び各支払期日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める権利を有しているのであって、Zの任務懈怠によってこの権利を失ったということはないから、Xらに損害が生じたとは認められない。

運送業における賃金制度については、今もなお、訴訟における論点として議論されています。

制度自体、非常に複雑なため、個別具体的に制度を確認していく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2267 あなただけのAI社員(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

AIは使うか否かの選択ではなく、いかに効果的に使うかであり、使わないという選択肢はありません。

この本ではさまざまなAIの使い方が紹介されており、実践すれば今よりも効率よく仕事が進められることは間違いありません。

それとともに、これまでの人間の仕事がどんどん消失していきますね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

「AIやデジタルの普及によって、当たり前のことができなくなっている人が増えた。時間を守る、約束を守る、連絡を返す、期限を守る、報連相する、社会人としての常識と言われることだ。・・・信頼を削る行為をしているわけだ。人と人で商売をしている以上、この凡事徹底、信頼を積み上げることが大事なのは、AI以前もAI以降も変わらない。」(152頁)

AIやデジタルの普及と凡事徹底の欠如との間に因果関係はあるでしょうか。

いつの時代も、できる人はできる。できない人はできない、ただそれだけのことではないかと思います。

強いて言えば、今は、昔ほど、指導をしてくれなくなった、という違いが影響しているかもしれません。

パワハラだの老害だの言われるのは煩わしいので、もうあまり多くを求めず、あらゆるマナーや言葉遣いについて大目に見るという傾向にあるように感じます。

良く言えば、寛容になった。

悪い言えば、諦めている。

今後ますます、IQよりもEQの時代になると確信しています。

解雇445 店長兼バーデンダーの従業員に対する普通解雇を無効とし、不法行為を構成するとした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、店長兼バーデンダーの従業員に対する普通解雇を無効とし、不法行為を構成するとした事案を見ていきましょう。

ワンダーストリーム事件(東京地裁令和7年8月8日・労経速2607号18頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、令和5年7月13日付け解雇が無効であり、また、不法行為を構成すると主張して、(1)労働契約上の権利を有する地位の確認、(2)民法536条2項に基づき、同月分以降の賃金45万円+遅延損害金の支払、(3)不法行為に基づき、慰謝料及び弁護士費用相当損害金の合計110万円+遅延損害金の支払、(4)労働契約に基づき、同年6月13日からの自宅待機命令に対応する期間のうち同月7月1日から同月12日までの賃金18万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、法定の労働時間を超えて就労したと主張して、(5)令和4年4月1日から令和5年6月13日までの割増賃金+遅延損害金の支払、(6)(5)と同額の労基法114条本文に基づく付加金+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、令和5年7月13日から本判決確定の日まで、毎月10日限り、45万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、44万円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、292万5895円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、付加金292万5895円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、従業員の面前で、令和4年10月21日には、酒に酔ったY社代表者から「今日でクビでいいよ。」などと叱責され、同年12月15日には、閉店時間である午前5時頃から約1時間程度にわたり、酒に酔ったY社代表者から、店長としての能力が不足しているとして「店長辞めよっか。」、「お前店長は無理だよ。」、「ばかなの?」、「器が無い。」などと怒気を込めて叱責され、また、売上げが十分でないとして「お前言い訳ばっかり、なんかお前女々しいな、末っ子かおめぇ。」、「男らしくない」、「人生舐めてんぞ。」、「ガキ」、「カッコ悪いぞ男として。だっせぇよお前。めちゃくちゃだせぇわ。口先ばっかりだよ。」などと怒気を込めて叱責され、さらには、「一回おれとおめぇで喧嘩するか?」との発言と共に胸倉を掴まれるなどし、挙げ句、令和5年6月13日には、何ら客観的に合理的な理由なく本件解雇をされるに至った。本件解雇は、著しく相当性を欠くもので、Xに対する不法行為を構成するといわざるを得ない。
そして、Xが本件解雇をされるまでに、Y社代表者から、酒に酔って叱責するという態様で、令和4年12月15日には未明に長時間にわたって、明らかに業務上の必要性を欠く、人格を否定し、また、侮蔑的な言葉を浴びせかけられるなどし、さらには、「一回おれとおめぇで喧嘩するか?」との言葉とともに胸倉をつかまれるなどの有形力の行使を受けていることからすれば、本件解雇が無効であって、これを前提とした賃金の支払を受けることを踏まえても、それによっては賄いきれないほどの精神的損害が発生したというべきであり、それを慰藉する費用としては、40万円が相当であるというべきである。

2 確かに、Xは、アルバイトのシフト管理や求人、採用、フードメニューの考案等について権限を有していた。もっとも、X自身やアルバイトに対する人事考課については、Y社代表者が担うというものであった。
また、Xは、午後5時から午後5時30分には本件店舗に出勤し、ディナー営業が開始する時間に合わせて勤務しなければならず、本件店舗唯一のバーテンダーとして接客に従事し、来店客が退店し、閉店するまで応対しなければならなかった。
このようなXの勤務態様に照らせば、Xの業務内容は相当程度現業的業務によって占められ、また、勤務時間についても裁量があったと評価することはできない。現に、Xは、午後6時頃に出勤した際に、Y社代表者から「今日でクビでいいよ。」などと叱責されている。
さらに、その待遇は、毎月の支給額が合計45万円とそれ自体多額であるとまではいうことができないものであり、本件解雇後にされた本件店舗に係る求人情報によれば、店長候補・マネージャーの毎月の支給額よりも低額となっており、管理監督者として相応の待遇であったとまではいい難い。また、令和5年5月には、Xは、バーテンダーに降格され、Xを監視監督する者として支配人の立場としてEが本件店舗に勤務するようになったが、これによってXの月毎の給与支給額に変化はなく、この点においても、管理監督者としての権限に対応する何らか待遇を受けていたということができない。
これらの事情からすれば、Xが労基法41条2号の管理監督者に該当するということはできず、これに該当するとするY社の主張は採用できない。

解雇が無効であることは多言を要しません。

結果、多額のバックペイが発生し、加えて慰謝料も認められています。

管理監督者性が否定されましたが既定路線です。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

本の紹介2266 まわりにいい影響をあたえる人がうまくいく#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には、「あなたの人生をうまくいかせる最短の道はまわりの人をうまくいかせることです」と書かれています。

そして、自分よりも立場が弱い人に威張らないことです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

「謙虚さを学ぶ授業は生涯続きます。高慢な人は、誰からも敬遠されます。謙虚であれば、あなたは近づきやすく心を通わせやすい存在になります。」(249頁)

すべては、その人のキャラ設定に依拠します。

オラついている人というのは、ある意味、そういうキャラを演じ続けているのです。

そして、それが次第に、言葉遣いや態度として定着していきます。

主語が「オレ」の人と「僕」の人とでは、もうそれだけで印象が違います。

自分を大きく見せようとすればするほど、周りは、その人の人間の小ささを感じるものです。

メンタルヘルス20 休職期間満了時点では、復職要件を満たしておらず、休職期間満了日からの賃金請求を棄却した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了時点では、復職要件を満たしておらず、休職期間満了日からの賃金請求を棄却した事案を見ていきましょう。

トヨテック事件(東京地裁令和7年8月6日・労経速2607号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、休職していたXが、令和2年12月7日時点で、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したにもかかわらず、Y社は、Xを令和3年9月14日まで復職させておらず、Y社は、令和2年12月7日から令和3年9月13日までの期間について、民法536条2項に基づき、賃金の支払義務を負うとして、雇用契約に基づき、同期間の賃金384万3535円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、在宅勤務規程3条1項の在宅勤務対象者に該当せず、また、Xは、かつて、令和2年4月8日以降、リモートワークをしていたが、これは、あくまでコロナ禍における緊急事態宣言を受けた緊急事態時における例外的な措置にすぎないものと認められるため、Xが従前の職務を通常程度に行える健康状態になるか、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったといえるためには、Xが出社できる状態にあったことが必要である。

2 Xは、障害者に対する合理的配慮の観点から、休職事由の消滅の判断において、出社の可否は考慮すべきではないと主張する。
しかしながら、Xは在宅勤務規程3条1項の在宅勤務対象者に該当しない以上、障害者に対する合理的配慮の必要性を踏まえても、Xが出社できる状態にあったといえなければ、休職事由の消滅は認められないというべきであり、Xの主張は理由がない。
令和2年11月26日付けの本件診断書では、Xについて、片麻痺があるため、長時間の歩行や満員電車でのAからBまでの通勤は困難であるとされていることから、Xは、同年12月7日の時点において、公共交通機関を使用しての出社は困難であったと認められる。
そして、Xは、令和3年3月29日、Y社に対し、自動車通勤を認めてほしい旨のメールを送信しているが、Y社は、自動車関連の事業を営んでおり、運転による過労や事故の危険を考慮し、安全配慮上万全を期すため、自動車通勤を認めていないところ、Y社の自動車通勤の禁止の理由は不合理とはいえないし、Xは、足に傷病を抱えており、Y社が事故の危険性をより慮るのも不合理とはいえない。
さらに、Y社は、通勤ラッシュの時間帯を避けた時短勤務の許可等の配慮はする姿勢は示しており、障害者に対する合理的配慮の観点を考慮しても、Y社の対応が不合理なものとはいえない。
したがって、Xは、令和2年12月7日の時点では、出社は困難であったといわざるを得ないから、従前の職務を通常程度に行える健康状態になるか、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったとはいえない。

障害者に対する合理的配慮の内容・程度については、明確な基準があるわけではないため、現場においては、非常に判断に悩まれることが多いです。

弁護士等と相談をしながら、合理的と思える範囲で対応するほかありません。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

本の紹介2265 インフレ地獄を生き抜く資産戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

帯には「通貨安、倒産ドミノ、タワマン崩壊、外資買い漁り・・・」「動かなければ、あなたの資産がゴミになる!」と書かれています。

もはやこのインフレは止まりませんので、何もしなければどんどん資産は目減りしていきます。

もっとも、多くの方にとっての目下の課題は、投資に回す原資(種銭)をいかに捻出するかです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

「何より重要なのは、その人が置かれているステージだ。富裕層に成り上がった人たちは、一足飛びにその地位に立ったわけではなく、段階を踏んで資産を増やしている。成り上がりを目指す人がどの段階にあるのかで、取り組むべきことや設定するゴールは大きく異なるのだ。要するに、自分が今、どのフェーズにいるのかを見極め、それに応じた戦略を取る必要がある。」(216頁)

自分をどれだけ客観的に評価できるか、という簡単そうで難しい課題を克服する必要があります。

今いるステージから次のステージにステップアップするために、どのような準備をすべきか。

「やるべきこと」を間違えてしまうと、なかなか結果に結びつきません。

A、B、Cと順番にステップアップするという意識を持つことが肝心です。

Zにいる人を見て、AからいきなりZに飛んでいこうとすると、たいてい失敗します。

Zにいる人も、ある日突然、Zにいるわけではないのですから。

メンタルヘルス19 休職期間中に提出した退職願による意思表示につき、錯誤取消しを認めなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間中に提出した退職願による意思表示につき、錯誤取消しを認めなかった事案を見ていきましょう。

マックスグループ事件(東京地裁令和7年7月30日・労経速2605号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、休職中であったXが、休職事由が消滅しており、また、退職願を提出したが、これが辞職の意思表示又は合意退職の申込みのいずれであったとしても、錯誤があったから取り消すとして、Y社に対し、〈1〉Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉賃金請求権に基づき、令和5年12月1日から本判決確定の日まで毎月末日限り、25万6750円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xについては、令和5年11月13日付けで、うつ病の症状が改善したため、同月14日より就労再開可能である旨の診断書が作成されているものの、同年12月には、同診断書を作成した医師によって、同診断書で就労再開可能とされている日のわずか2週間後の同年11月28日から同年12月24日までうつ病で就労困難とする旨の「健康保険傷病手当金支給申請書(療養担当者記入用)」が作成されている。
その上、Xは、令和2年頃から、心身症、うつ病等を理由として欠勤・休職を繰り返しており、令和5年6月、体調不良で連続して有給休暇を取得し、Y社に対し、同月30日付けでうつ病と診断された旨の診断書を提出し、同年7月も、21日以降、体調不良で連続して欠勤し(一部有給休暇の取得あり)、同年8月30日、出勤し、同年9月も、体調不良を理由として4日欠勤し、2日早退し、同年10月も、体調不良を理由として5日欠勤しており、同年においても、出勤と多数回にわたり出勤しないこと(欠勤、有給休暇の取得)を繰り返している状況にある。
これらのことからすれば、同年10月30日に休職となってからわずか2週間しか経たない同年11月14日の時点において、Xが従前の職務を通常程度に行える健康状態になったとはいえないし、また、Xを当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったともいえない。そして、上記のXの状態からして、Xが労務の提供をすることができるような配置される現実的可能性があると認められる他の業務があったとも認められない。
以上によれば、令和5年11月14日時点で、Xについて休職事由が消滅していたとは認められないし、また、その後、Xの退職願の提出までの間に、Xについて休職事由が消滅していたことを認めるに足りる証拠はない。

2 Xは、令和5年10月30日から休職となっていたところ、同年11月29日のC本部長及びBとの面談において、〈1〉週3日(1日4時間)の時短勤務、〈2〉他部署に異動した上で週3日(1日4時間)の時短勤務、〈3〉Xの意思に基づく退職の3つの選択肢を示され、一旦は、令和6年1月から週3日(1日4時間)の時短勤務で勤務に復帰することとなった。
しかし、Xは、フルタイムで復職できるようになるまで休職を延長することを希望するようになったが、C本部長からは、上記〈1〉から〈3〉までの選択肢の中から決めるよう伝えられ、また、Bからは、過去の勤務の状況等を鑑みて時短勤務での復職は必須である旨伝えられている。これらのやり取りにおいて、C本部長やBは、休職期間を延長しても直ちにフルタイムでの復職は困難で、まずは時短勤務で様子を見ることが必須である旨を伝えているにすぎず、休職期間の延長自体が不可能であるとは伝えていない。
また、Xは、過去に休職をしたことがあり、令和5年7月31日には、C本部長に対し、休職期間について尋ねていることもあり、休職期間について、一定の知識を有していたことがうかがわれるところ、同年12月のC本部長やBとのやり取りにおいては、休職期間について尋ねることはしていない。これらのことからすれば、Xは、休職期間が令和6年1月9日までで延長することができないと誤解していた旨陳述しているが、その陳述を裏付ける証拠はなく、これを採用することはできず、Xが引き続き休職することができないとの錯誤に陥っていたと認めるに足りる証拠はない。

上記判例のポイント1のようなケースは決して珍しくありません。

そのため、裁判所は、診断書の記載内容のみから復職の可否を判断することはありません。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

 

本の紹介2264 貧乏はお金持ち#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは「『雇われない生き方』で格差社会を逆転する」です。

自由な生き方を選択するために必要な知識や覚悟が書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

「ひとびとはいま、自由な人生に背を向け、安定を求めて会社に束縛されることを求めている。自由の価値がこれほどまでに貶められた時代はない。だがその一方で、会社はもはや社員の生活を保証することができなくなっている。”サラリーマン”は絶滅しつつある生き方であり、彼らの楽園は、いずれこの世から消えていくことになるだろう。」(310頁)

アメリカにおけるAIリストラは対岸の火事ではありません。

日本は解雇規制により雇用が相対的に守られていますので、直ちにアメリカのようにはなりませんが、その代わりに、新規採用を絞るという方向で策が講じられるものと思われます。

そして、理屈上は、人手不足の業界へと余剰人員がシフトしていくということなのでしょうが、果たしてそんなにうまくいくものでしょうか。

解雇444 接待交際費の不正請求を多数回にわたって繰り返した従業員の普通解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、接待交際費の不正請求を多数回にわたって繰り返した従業員の普通解雇の有効性について見ていきましょう。

テクトロン事件(東京地裁令和7年7月18日・労経速2605号3頁)

【事案の概要】

1 第1事件
ア Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
Y社が令和3年9月6日付けで行った懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認
イ 民法536条2項に基づき、解雇日以降の未払賃金21万4400円+遅延損害金
ウ 民法536条2項に基づき、主位的には、令和3年12月以降の賞与として毎年6月末日限り42万1333円及び毎年12月末日限り141万6500円、予備的には、同年12月以降の賞与として毎年12月末日限り67万3000円+遅延損害金の支払
エ Y社が令和3年6月1日付けで行った配転命令及びこれに伴う役職手当の減額はいずれも無効であるとして、営業推進部長としての賃金体系上の地位の確認
オ 役職手当の減額分として令和3年7月分及び8月分の差額賃金の各1万円(合計2万円)+遅延損害金の支払
カ 在職中の令和元年9月1日から令和2年3月31日までの時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する未払割増賃金合計85万0850円+遅延損害金並びに同年4月1日から令和3年9月6日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計112万8246円+遅延損害金
キ 前記カの割増賃金の不払につき、労基法114条に基づく付加金126万5896円の支払+遅延損害金
ク 〈1〉Y社が令和3年5月14日付けでXに譴責処分を行い、さらにX配転命令及びX懲戒解雇を行ったこと、〈2〉Y社の取締役らがA社の取締役らにXが接待交際費を不正受給したこと等を伝えたこと、〈3〉Y社の取締役がB社の代表取締役に対し、Xが接待交際費を不正受給したために懲戒解雇した旨を伝え、これが伝播したことについて、〈1〉ないし〈3〉がそれぞれ不法行為に当たると主張して、民法715条ないし709条に基づき、〈1〉〈2〉の損害として慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の賠償並びに〈3〉の損害として慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の賠償+遅延損害金の支払
を求める事案である。
2 第2事件
Y社が、Xらに対し、Xらが共謀して、虚偽の事実を申告した請求により実態のない接待交際費を被告に支払わせたことが共同不法行為に当たるとして、民法709条、719条1項に基づき、連帯して253万8154円の損害賠償+遅延損害金の支払
を求める事案である。
3 第3事件
Y社との間で労働契約を締結していたZが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
ア Y社が令和3年9月22日付けで行った懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認
イ 民法536条2項に基づき、解雇日以降の未払賃金37万0700円及び令和3年11月以降の賃金として毎月28日限り月額40万9000円+並びに遅延損害金の支払
ウ 民法536条2項に基づき、主位的には、令和3年12月以降の賞与として毎年6月末日限り45万1000円及び毎年12月末日限り115万5000円、予備的には、同年12月以降の賞与として毎年12月末日限り59万円+遅延損害金の支払(前記第1の3(5))
エ Y社が令和3年6月1日付けで行った配転命令及びこれに伴う役職手当の減額はいずれも無効であるとして、次長としての賃金体系上の地位の確認
オ 役職手当の減額分として令和3年7月分から9月分までの差額賃金の各1万円(合計3万円)+遅延損害金の支払
カ 在職中の令和元年11月21日から令和2年3月20日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計47万2237円+遅延損害金並びに同月21日から令和3年9月22日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計163万5219円+遅延損害金の支払
キ 前記カの割増賃金の不払につき、労基法114条に基づく付加金163万5219円の支払+遅延損害金
ク Y社が令和3年5月14日付けで乙山に譴責処分を行い、さらにZ配転命令及びZ懲戒解雇を行ったことは不法行為に当たると主張して、慰謝料150万円及び弁護士費用15万円の賠償+遅延損害金(始期は不法行為以後の日)の支払

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、2万円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Zに対し、3万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、5万5000円+遅延損害金を支払え。
4 Xは、Y社に対し、64万2423円+遅延損害金を支払え。
5 Zは、Y社に対し、39万3155円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 D取締役は、B社の代表取締役に対し、Xは接待交際費の不正受給により懲戒解雇にしたことを伝えた事実が認められる。
B社は、Y社が導入していたMの電子カルテシステムのサポート体制等についてY社からヒアリングをする目的で面談を打診したものと認められるところ、そのような面談の趣旨やY社の立場からすれば、Y社としてはB社に対し、Y社のガバナンスやサポート体制に問題がないことを説明する必要があったと認められるが、その限度で足りたというべきである。
仮に、サポート体制への懸念に対する対応として、多数の退職者が生じた経緯にY社の責めに帰すべき事情がなかったことを説明する必要があったとしても、B社に対して、Xという個人名を挙げて同人が接待交際費の不正受給により懲戒解雇になった事実まで伝える業務上の必要性は見出し難い。B社において、Y社との面談前にXの接待交際費の不正受給や懲戒解雇の事実まで認識していたと認めるに足りる証拠はなく、これらの事実が一般には第三者に公表されることを欲しない個人情報であることや、現にかかる事実がB社からXの雇用主であった株式会社Jに伝播したことにも鑑みれば、D取締役の上記伝達行為は、業務行為としても相当ということはできず、少なくともXに対するプライバシー侵害の不法行為を構成するというべきである。
また、D取締役は、Y社の取締役の地位にあるが、代表者として包括的な権限を有しているわけではなく、B社への伝達行為もY社の事実上の指揮監督の下でその業務を行うについてされたものというのが相当であるから、D取締役によるプライバシー侵害の不法行為について、Y社は民法715条に基づく使用者責任を負うというべきである。
したがって、B社に対する伝達行為についてプライバシー侵害による不法行為が成立し、Y社は民法715条に基づく責任を負うが、D取締役による伝達行為の態様や、伝達した事実の内容が限定的であること等の事情も考慮すれば、Xが被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては、5万円とするのが相当である。

2 Xらは、記入した日付に接待を行った事実がないにもかかわらず、虚偽の接待の事実を経費申請書に記載して接待交際費の請求を行い、Y社から相当額の支払をさせたものであって、これらの行為はY社に対する詐欺を構成し、故意によってY社の財産を侵害したものというべきである。
他方、Y社は、平成30年1月31日から令和3年8月2日までの間、Xらが、C及びIとともに4名で共謀の上、継続して、Y社に対して、虚偽の接待交際費の請求を行っており、かかる行為が共同不法行為に該当すると主張する。
たしかに、Xらは、平成30年1月頃から、C及びIとの間において、メールやLINEメッセージを通じて接待交際費に関するやりとりをしており、その中には、接待交際費の経費申請の内容をあらかじめ情報共有し、重複や矛盾が生じないように口裏合わせをしているかのように受け取れる内容も含まれていることが認められる。
しかし、かかるメールやLINEメッセージのやりとりのみをもって、別紙3のX非違行為及び別紙4のZ非違行為の個々の不正請求行為について、Xら両名ないしCやIとの間において、具体的な共謀があったと認めるには足りないし、Xらがそれぞれ個別に接待交際費を請求し、支払を受ける行為に関連共同性があったとも認め難い。

金額の多寡はさておき、上記判例のポイント1は注意しましょう。

意識しておかないとやってしまいがちですから。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。