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管理監督者66 コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案を見ていきましょう。

X社ほか事件(東京地裁令和7年4月24日・労経速2596号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から令和4年9月21日付けで解雇されたこと及びY社での就労において管理監督者に該当するとして時間外労働及び休日労働に係る割増賃金の支払を受けていなかったことに関し、
(1)第1事件において、Y社に対し、〈1〉Y社についてはその完全親会社であるA社との関係で法人格が否認されるとの主張を前提に、Y社が整理解雇として行った本件解雇は無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後である令和4年10月から本判決確定までの月例賃金として毎月25日限り42万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉自らは労基法41条2号所定の管理監督者に該当しないと主張し、Y社での令和2年7月1日から令和4年8月31日までの期間の未払であった時間外労働及び休日労働に係る割増賃金として合計902万1321円+遅延損害金の支払を求め、
(2)第2事件において、第1事件における上記法人格否認の主張を前提に、A社に対し、
〈1〉XがA社に対しても雇用責任を追及することができると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社のXに対する割増賃金債務をA社も負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求め、
(3)第3事件において、第1事件における上記法人格否認の主張に加え、A社の旧商号と同一の商号で設立されたB社はA社との関係で法人格が否認され、かつ、会社法22条1項に基づく責任を負うとの主張を前提に、B社に対し、
〈1〉A社がXとの間で雇用責任を負う以上、B社もこれを負うものと主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社に対する割増賃金債務をA社が負う以上、B社もこれを負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、900万0959円+遅延損害金を支払え。
2 XのA社、B社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 株式の所有関係、役員派遣、営業財産の所有関係、専属的取引関係などを通じて親会社が子会社を支配し、両者間で業務や財産が継続的に混同され、その事業が実質上同一であると評価できる場合には、子会社の法人格は完全に形骸化しているといえるものと解する。

2 Y社は、まさに、A社との間で締結した本件オペレーション委託契約に基づき、A社から受託した本件ホテルの操業業務を行う法実体として存在していたものといえ、その法人格が目的に沿って利用されていたものというべきである。これらからすると、Y社の法人格が完全に形骸化していたと認めることはできない。

3 Y社は、従業員の解雇を回避するため、J社との間で、Y社の従業員の雇用継続を交渉し、全従業員についてY社とほぼ同様の労働条件によってJ社への転籍を可能とし、その結果、実際に、Y社の全従業員58名のうち74%に相当する43名が実際にJ社に転籍することとなったことが認められる。そして、Xも上記転籍の打診を受けたものの、本件ホテルで稼働していた当時の下位の役職の者が転籍先であるJ社においては自身の上役になるとの話を聞いたため、転籍を辞めることになったことが認められる。
これらに加え、Y社においては、この時点でA社から委託を受けて操業業務を行っている他のホテルは存在しなかったのであるから、配転可能な他の事業所等は存在しておらず、本件ホテルで稼働していたY社の従業員にとって、同ホテルでの稼働が継続できる上記転籍が最適な雇用継続の方法であったといえることからすると、Y社は、解雇回避努力義務を尽くしていたといえる。

4 Xは、管理職として、本件レストランの部下に当たる従業員について、そのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当などを行っていたものの(なお、このうちシフトの作成に関しては、Xが作成したシフト案をMが確認していたことが認められる。)、本件レストランで稼働する従業員のうち調理部門に属する従業員やパートについてのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当は行っていなかったことが認められる。
その上、Xは、本件ホテルにおいて毎週開催されていたFB週次会議に出席することが要求されていたものの、その参加者は、Y社において管理職とされた従業員に限られていたものではなく、一般職とされた従業員も参加していたことが認められるほか、上記会議の位置付けは、本件ホテルの日頃の操業業務に関する情報共有を目的としていたものであって、上記会議の議事録におけるXの発言を通覧しても、本件レストランの運営全体に関する発言は認められないことからすると、Xが経営者のいわば分身として本件レストランの運営を行う立場にあったものと認めることはできない
また、Xは、本件ホテルの料飲部門とQとの間の月次会議や、本件ホテルの経営に関するオーナー会議には参加していなかったのであるから、Xが本件レストランに関する業務を超えて、本件ホテルの経営上の決定に参画していたとも認めることはできない。
これらからすると、Xが本件レストランの責任者として付与された権限、責任は限定的であったものといわざるを得ない。

Xはレストランの責任者ですが、管理監督者性が否定されています。

役員でなく、労働者として、「経営者の分身」と評価できる方が世の中に一体どれほどいるでしょうか。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

管理監督者65 管理監督者と認められ、未払割増賃金請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、管理監督者と認められ、未払割増賃金請求が棄却された事案を見ていきましょう。

SMAジャパン事件(東京地裁令和6年3月28日・労判ジャーナル154号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、労働契約に基づき、時間外労働及び深夜労働に係る未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社代表者とともにJMCメンバーとして会社の経営の中核に関与するとともに、Y社代表者に代わって、法務・人事部門という会社にとって重要な部門を続括し、同部門の社員の人事及び労務管理を行う権限を相当程度有していたものと認められるから、労働基準法の定める労働時間規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務と権限を付与されていたといえ、また、Xが職務繁忙等の理由により所定労働時間内は就業を余儀なくされるような状況にあったとしても、Xの勤怠が厳格に管理されていたと評価することはできず、そして、Xは、本件請求期間中、令和3年4月支給分までは理論年収1200万円、同年5月支給分以降は理論年収1420万円の賃金の支給を受けていたところ、これらの額は、Y社において管理監督者ではない者として扱われているジョブレベル6以下の社員の平均理論年収645万円と比較すると、相当に高額であるといえ、さらには、管理監習者として扱われているジョブレベル7以上の社員の中でも3番目に高く、これら社員の理論年収の中央値970万円と比較しても、相当に高額であるから、Xには、従業員の職務及び権限に相応しい待遇がされていたと評価することができ、XはY社において同号所定の管理監督者の地位にあったものと認めるのが相当である。

管理監督者性が肯定されています。

とはいえ予見可能性に乏しい分野のため、リスクを考えると、なかなかお勧めできない制度です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

管理監督者64 経理課長の管理監督者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、経理課長の管理監督者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

スター・ジャパン事件(東京地裁令和3年7月14日・労判1325号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労しているXが、Y社に対し、平成28年6月から令和元年11月までの期間(以下「本件請求期間」という。)における時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する割増賃金の不払がある旨主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、各割増賃金の合計1523万0698円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1523万0698円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、〈1〉Xが、雇用契約当初からその後本訴提起の直前に至るまで一貫してY社がXを管理監督者として扱うよう誘導し、〈2〉Xに対して時間外労働の抑制などの時間管理をする機会を奪わせ、〈3〉他方で自分で勝手に労働時間を長くしてから、〈4〉長期にわたりその状態を自ら放置して時間外の請求をすることなく、2年半以上過ぎてから請求したことを理由に、本件請求は禁反言の原則、信義則に違反する旨主張している。
しかしながら、Xは、Y社に正社員として入社した平成28年1月当時、自己が残業代の支払を受けることができる立場ではないと認識してはいたものの、就労する中で管理監督者としての権限を有していないという認識に至ったことから本件請求を行ったというのであるから、Xを管理監督者として扱うようY社を誘導したなどとは評価し難いし、入社後2年半以上過ぎてから請求したからといって、禁反言の原則や信義則に反するとはいい難い。また、Xは、平成30年8月頃に、正社員の増員についての打診があった際、採用は平成31年3月以降にするように希望を述べているが、これは、新規採用社員の入社時期が繁忙期に重ならないようにするためであるから、この点をもってXが自ら不当に労働時間を長くしているとはいえないし、Xの時間外労働を抑制する機会を失ったというのも、Y社が管理監督者に該当しない者を管理監督者として扱ったことによる帰結にすぎない。
したがって、XのY社に対する割増賃金請求が信義則に反するということはできない。

2 Y社が割増賃金を支払わなかったのは、Xが管理監督者に該当すると認識していたためであるところ、結果としては管理監督者に該当するとは認められないものの、XのY社内における肩書、労務管理権限及びその処遇に照らして、Xが管理監督者に該当すると認識したことには相応の理由があり、また、X自身、当初は割増賃金が支払われる立場ではないと認識していたことや、Y社は、管理監督者であっても支払義務のある深夜割増賃金については支払っており、労基法を軽視しているとはいえないことを踏まえると、Y社の割増賃金の不払は悪質なものとは評価できない。
したがって、本件において、Y社に付加金の支払を命ずるのは相当でない。

会社側の気持ちはよくわかります。

とんでもない金額ですしね・・。

とはいえ、管理監督者の有効要件の厳しさからすれば、そもそも管理監督者として扱うこと自体がとてもリスキーなのです(過去の裁判例を見ると、ほんの一部を除き、管理監督者性は否定されています。)。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

管理監督者63 執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。

日本硝子産業事件(静岡地裁令和6年10月31日・労経速2573号3頁)

【事案の概要】

(1)甲事件
Xは、Y社に対し、時間外労働及び休日労働に従事したことで割増賃金が発生したと主張し、下記ア及びイの各請求をしている。また、通勤手当のうち未払分があると主張し、下記ウの請求をしている。
ア 労働契約に基づき、割増賃金+遅延損害金の支払請求
イ 労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金の支払請求
ウ 労働契約に基づき、未払通勤手当+遅延損害金の支払請求
(2)乙事件
Xは、Y社に対し、休職期間経過前に休職事由が消滅したから、休職期間が経過してもY社との労働契約は終了しておらず、Xを復職させなかったことについて不法行為が成立すると主張し、主位的請求として、下記ア、イ及びカの各請求をしている。また、休職の原因とされた疾病が業務に起因すると主張し、下記ウからオまでの各請求をしている。さらに、Xが休職中に受けた健康診断費用は、Y社が負担すべきものであると主張し、下記キの請求をしている。
加えて、下記イからエまでの請求につき、予備的請求として、労基法26条に基づき、賃金及び賞与のそれぞれ60%の休業手当及びこれらに対する主位的請求と同様の遅延損害金の支払請求をしている。
(3)丙事件
Y社は、Xに対し、不当利得に基づき、立替金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Xの甲事件請求及び乙事件請求をいずれも棄却する。

2 Xは、Y社に対し、86万9474円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に入社した当初から執行役員に就任しており、品質保証室長や品質保証グループ等の所属管理者よりも上位にあったこと、医薬品担当部門の長の地位にあったことが認められる。また、令和3年5月29日以降は、品質保証部長代理の地位にあり、同部長と同等の権限を有してしたこと、正医薬品製造管理者として、医薬品製造事業を統括する地位にあったことも認められる。
これらのことからすると、Xは、Y社の品質保証部門において、全体の統括的な立場にあったものということができる。

2 Xが、Y社から、労働時間を指示され又は早朝に出勤することをやめるよう指示されたことはない
Xは、遅刻、早退、半欠又は欠勤した場合であっても減給されたことはなかった
Xは、欠勤等について、人事評価上、不利益に取り扱われたこともなかった
原告は、自らの労働時間に関し、広い裁量を有していたと認められる。

3 Xは、基本給30万円に加え、職能給5万円、資格手当3万5000円、役職手当10万円、諸手当10万円など月額合計58万7000円の給与を得ていたことが認められる。
これは、一般的に見て相当に高額な報酬であり、社会通念上、執行役員としての待遇にふさわしいものであったといえる。Xも、本人尋問において、上記の月額報酬には満足しており、不満はなかったと陳述している。
また、Xに対する上記報酬額は、Y社の従業員のうち非管理監督者の報酬と比べると、著しく高額なものであったことも認められる。

4 以上によれば、Xは、職務内容等、勤務実態及び給与のいずれの面からしても、経営者と一体的な立場にある者に当たると認められるから、労働基準法41条2号の管理監督者に当たる。

珍しく管理監督者性が認められています。

今回は、結果オーライですが、予測可能性に乏しい論点のため、リスクヘッジのため、管理監督者扱いにするのではなく、役職手当等を固定残業代として支給する選択肢もあり得るところです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

管理監督者62 中古自動車販売買取店の店長の管理監督者性が肯定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、中古自動車販売買取店の店長の管理監督者性が肯定された事案を見ていきましょう。

自動車販売事業A社事件(岐阜地裁令和6年8月8日・労経速2565号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され店長として稼働していたXが、Y社に対し、未払時間外労働賃金及び付加金等の支払を求めるとともに、上司から指導の域をはるかに逸脱した暴言を受けるなどしたと主張し、不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として慰謝料及び弁護士費用の合計220万円等の支払を求める事案である。Xが令和4年9月24日に死亡したため、Xの父母が本件訴訟手続を承継した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xの父母各自に対し、27万5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 買取店の店長は、買取店における中心的な業務である買取業務に関し、一切の権限、すなわち、営業方法を決め、これに応じて店舗の従業員に対し指揮命令を行う権限、買取りを行うか否か及び適正な買取金額を決定する権限、顧客への代金の振込みを承認する権限並びに買い取った車の販売方法を決定する権限を有しており、勤務態様については、遅刻や早退による減給等の不利益はなく、状況に応じて自らの判断で直帰するなど労働時間に関する裁量を有し、また、人事の関係では、正社員の採用権限及び部下従業員の人事考課に関与する権限を有している。そうすると、買取店の店長は、自身が店長を務める買取店という一店舗単位でみれば、当該店舗の実質的な経営者であると評価することができ、利益を生み出す主体である買取店の、被告における重要性に鑑みれば、買取店の店長は、被告の経営者と一体的な立場にあるとも評価することができる。なお、買取店の店長は労働時間に関する裁量が実際には相当程度制限される場合もあるが、店長の職責や職務内容に照らしやむを得ないと考えられるのであって、これをもって上記評価が直ちに左右されるものではない。
以上に加え、買取店の店長が労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定を適用しないこととしても保護に欠けることにはならないと評価し得る程度の待遇が設けられていると認められることも踏まえれば、買取店の店長は、労働基準法41条2号の掲げる管理監督者に該当すると認めるのが相当であり、この点に関する原告らの主張はいずれも採用できない。
したがって、買取店の店長は、管理監督者に該当し、労働基準法37条等の規定の適用はないから、争点(1)について検討するまでもなく、XのY社に対する未払時間外労働賃金支払請求権が存するとは認められない。

珍しく管理監督者性が肯定されています。

一店舗単位でみれば、経営者と同等の裁量が与えられていたことが決め手となっています。

店長であれば、当然に管理監督者に該当するわけではないので、ご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

管理監督者61 部長職の管理監督者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、部長職の管理監督者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

ネクスコン・ジャパン事件(大阪地裁令和3年3月12日・労判1313号98頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、①平成28年12月21日から平成31年2月20日までの間に時間外労働を行ったとして割増賃金+遅延損害金の支払、②年俸の一部(賞与とされている部分の一部)が未払いであるとして、未払額+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 職務内容・権限及び責任の重要性について
a Xは、Y社の営業管理部の部長であったところ、Y社において部長職にあったのは、Y社及びCの2名であり、Xより上位の職にあったのはY社代表者らの取締役のみであったものである。そうすると、Xは、Y社において、取締役に次ぐ高位の地位にあったと評価することができる。
b また、Y社では取締役会が開催されていたところ、取締役会の参加者はY社代表者、取締役2名、X(経営管理部長)、C(技術開発部長)、営業部次長の6名であり、その参加者の役職及び会の名称に照らせば、Y社の経営方針の決定等に関する重要な会議であったということができる。そして、Xは、取締役会に出席して、業務、決算、事業計画等について、報告や意見を述べるなどしていたものであるから、Xは、Y社の経営方針の決定に参画していたといえる。
c さらに、Y社はデジタル端末機用バッテリー保護回路製造業、リチウムイオン電池用保護回路の設計、開発、製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社であったところ、Xは、不動産事業に関する社外講座を受講するなどした上で、平成30年5月に、これまでの事業とは異なる不動産事業及び人材紹介事業という新規事業に参入することを立案し、新規事業計画書を提出している。しかも、同新規事業に関する一連のやり取りをみると、XがあたかもY社で不動産事業及び人材紹介業を行うことが決定事項であるとして取締役に対し、住民票の提出を求めたのに対し、Y社代表者が更なる協議や定款変更の手続が必要であるとの意見を述べたが、Xは、Y社代表者に対し、定款変更が取締役会の決議事項ではなく株主総会の決議事項であるとしてY社代表者の誤りを指摘すると共に、新規事業計画書提出するという推移をたどっているところ、このような時系列やメールの文面に照らせば、Xが積極的に新規事業計画を立案し、取締役らに対し、提案していたことが明らかである。そして、新規事業を行うというのは正に経営に関する事項である。
d 加えて、Y社においては、平成30年4月頃、売上げが減少し、会社の規模が縮小していくなどの理由からリストラが計画されていたところ、リストラが、企業の経営に大きな影響を与える極めて重要な施策であることはいうまでもない。Xは、誰かから指示されたものではなく、自らリストラを立案して提案し、リストラ計画の責任者として、平成30年4月19日にY社代理人事務所を訪問し、リストラの時期、対象者の選定、対象者への説明について協議し、削減対象者との面接も行うなどしているところ、このようなXが果たしていた役割に照らせば、Xが、リストラというY社における重要な施策の中心的立場にあったということができ、ひいては、経営の中枢に参画していたものといえる。
e Xの供述を前提とすれば、Xは従業員の出勤簿の承認欄に押印していること、勤怠管理システムが利用できない場合にはX宛に残業時間を申告するよう指示していることが認められるところ、かかる事実からは、Xが従業員の労働時間の把握という労務管理をする立場にあったということができる。
f Xは、労働組合との団体交渉に会社側担当者として出席していたところ、団体交渉の意義に照らせば、労使双方が必要資料等に基づき、賃金や賞与の額等の交渉事項について協議を行っていくものであり、会社側担当者として出席するためには、交渉事項について、事前の準備・検討が必要であることがいうまでもなく、Xが、会社側担当者として、事前の準備・検討を行った上で団体交渉に出席し、実質的な協議に臨んでいたことは既に説示したとおりである。そうすると、Xは、Y社の経営に関与していたと評価することができる。
g 以上に加えて、XがY社の貴重品を管理する立場にあったことなどをも併せ考慮すれば、Xは、Y社において、対外的にも対内的にも重要な職務に関与していたものであり、その権限及び責任は重要なものであったと評価することができる。

珍しく管理監督者性が肯定されています。

このような働き方をしている「部長」が世の中にどれほどいるでしょうか・・・。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

管理監督者60 取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案を見ていきましょう。

アスク事件(東京地裁令和5年4月12日・労経速2547号32頁)

【事案の概要】

1 本訴は、Y1社において営業職として勤務していたXが、Yらに対し、次の各請求をする事案である。
ア Y1社に対し、時間外労働等に対する未払賃金として594万5288円+遅延損害金の支払
イ Y1社に対し、付加金として497万0113円+遅延損害金の支払
ウ Y1社に対し、退職金として、424万6504円+遅延損害金の支払
エ Xは、Y1社から退職金の現物給付として本件自動車を支給することが決まっていたのに、これが履行されていないと主張し、①Y2社に対し、Y2社との間の退職金の支給に係る債務引受合意に基づき、本件自動車の所有権移転登録手続の請求(主位的請求)、②Y1社に対し、本件自動車を支給しなかったとの債務不履行に基づき、損害賠償として230万円(本件自動車の時価)+遅延損害金の支払(予備的請求)
2 反訴は、①Y1社が、XにはY1社に在任中に労働契約上の義務違反(債務不履行)及び不法行為を構成する行為があったとして、Xに対し、これらの行為による損害賠償(債務不履行による損害6万2670円、不法行為による損害232万3269円)+遅延損害金を請求するとともに、②Y2社が所有権に基づき、Xに対し、Xが占有する本件自動車の引渡しを請求する事案である。

【裁判所の判断】

 Y1は、Xに対し、448万8522円+遅延損害金を支払え。
 Y1は、Xに対し、100万円+遅延損害金を支払え。
 Y2は、Xに対し、別紙2車両目録記載の自動車について所有権移転登録手続をせよ。
 Xは、Y1に対し、6万2670円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の本訴請求を棄却する。
 Y1のその余の反訴請求及びY2の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 ①Xは、従業員の人事考課を行っていたものの、最終的な決定は代表取締役が行っており、Xの意見が覆されることもあった。
②Xは、人材の採用に関して、応募してきた者の面接を行い、社長に意見を述べていたものの、Y社代表者が最終的な決定を行い、Xが採用すべきとの意見を述べた場合(6件)のうち、2件についてはY社代表者がこれと異なる意見を述べて、不採用となった。
③Xは、部下の異動について代表取締役に意見を述べていた。
④Xは部下の日報を確認していた。
以上の認定事実を踏まえて検討すると、たしかに、Y1社の機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた点では経営に関与しているとともに、人事考課、人材の採用等の場面において、代表取締役に意見を述べて、人事・労務管理に一定の役割を果たしたこと自体は否定できない
しかしながら、①Xは取締役ではあったものの、取締役会を通じて経営に参画していたとはいえないこと、②合同会議で議題されていた内容は経営方針そのものというよりは、それぞれの部門の実務的な課題と評価されるものであること、③統括部営業会議は、部門長が出席する会議であり、会議の内容を考慮しても、経営に関する意思決定が行われていたとはいえないこと、④Xには建設機械を購入する権限がなかったことからすると、Xが経営上の決定に参画していたとはいえない。
また、人事・労務管理上の権限に関しても、Xは意見を述べるにとどまり、最終的な決定権限は代表取締役にあり、代表取締役の権限が形骸化していたとも評価できない。Y社代表者は、Y社代表者が面接をしないで採用が決まったこともある旨供述するが、その数は少ないとも供述しており、採用の決定権限がY社代表者にあったとの認定を左右しない。また、日報については、Y社代表者は、日報は労務管理のためのものである旨供述する一方で、Xは部下に営業の指導、アドバイスをするために部下の日報を見ていた旨供述しており、C専務もXは日報とタイムカードの双方を確認していない旨供述していることからすると、日報が労務管理を目的として作成されていたとまでは認められない。そうすると、Xが部下の日報を見ていたとしても、人事・労務管理上の権限を有していたこととはいえない。
以上によれば、Xは機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた等の点で一定程度経営に関与していたことは否定できないものの、それ以外に経営に関与していたと評価できる事情はなく、特に人事・労務管理上の権限に関しては、最終的にはY社代表者に権限があったと認められるのであって、Xは、経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとまではいえない。

ご覧のとおり、もはや管理監督者性についてはあきらめたほうが無難かと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

管理監督者59 工場部門に置かれた業務部(製造部門)の責任者の管理監督者性が否定された事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、工場部門に置かれた業務部(製造部門)の責任者の管理監督者性が否定された事案を見ていきましょう。

三栄事件(大阪地裁令和5年3月27日・労判ジャーナル140号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、平成30年9月21日から令和2年3月4日までの未払割増賃金合計745万4359円+遅延損害金、②労基法114条に基づき、付加金510万8321円+遅延損害金、③雇用契約に基づき、本件請求期間における未払の食事手当合計12万4950円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、Xに対し、562万7090円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、付加金374万1093円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、13万0692円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、工場部門に置かれた業務部(製造部門)の練りの責任者であったことが認められ、Y社の役員を除けば、工場部門の長である工場長、業務部(製造部門)の長である総責任者に次ぐ地位にあったことが認められる。
しかしながら、他方、Y社の経営方針は幹部会議において決定されていたところ、幹部会議の出席者は、会長、社長、専務その他の役員のみであり、Xが出席したことは一度もなかったこと、Xは、労務管理や人事の権限を有していなかったことが認められ、これらのことからすると、XがY社の経営に参画していたとはいえず、Xが経営者と一体的な立場にあったとは認められない。
Y社は、Xが製造部門の中核かつ最も重い責任のある立場にあったと主張するが、そのことは、Y社が出荷する生コンの質の良し悪しを決定づけるという意味においてその立場が重視されていたというにすぎず、Xが経営者と一体的な立場にあったことを基礎づけるものとはいえない。
また、Xが他の従業員に対し業務上の指示を行い得る立場にあったことをもってXが経営者と一体的な立場にあったともいえない
   
2 Xが遅刻や欠勤をした場合でも賃金控除がされていなかったものの、Xの労働時間は、タイムカードによって管理されていたほか、Xは、就業時間中に被告営業所を中抜けして本件歯科医院に通院していたことが発覚してY社に始末書を提出していることが認められることからすると、Xが勤務時間に関する裁量を有していたとは認め難い。日曜日や大型連休に出勤を要することは直ちに勤務時間に関する裁量を有していたことに結びつくものではない。
   
3 Xの年収は、平成30年は729万円余り、平成31(令和元)年も679万円余りであったことが認められ、その金額自体はそれなりに高額であるといえるものの、かかる金額は、他の従業員と比較しても、時間外手当を含めれば、その年収が特に高額であったとは認められない。また、Xの平成24年4月分以降の給与の額は、X自身の同年1月分から同年3月分までの給与と比較しても、時間外手当を含めれば、その差は最大でも2万円程度にとどまり、遜色はないものと認められる上、平成30年1月から令和2年2月分までとの比較でも、基本給の増額分が2万0375円又は2万8486円が加算されるにすぎず、その差が大きいとまではいい難い。これらのことからすると、Xが管理監督者として相応の待遇を得ていたとまではいい難い。

4 以上によれば、Xは労基法41条2号にいう管理監督者には当たらないというべきである。

ご覧のとおり、管理監督者に該当する労働者はほぼ存在しませんのでご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者58 管理本部経理部長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理本部経理部長の管理監督者性に関する裁判例を見ていきましょう。

国・広島中央労基署長(アイグランホールディングス)事件(東京地裁令和4年4月13日・労判1289号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、業務上の事由により適応障害を発症したとして、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく休業補償給付の請求をし、平成30年3月23日付けで休業補償給付の支給決定を受けたのに対し、Xは労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下に該当せず、本件処分には給付基礎日額の算定に誤りがあるとして、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

広島中央労働基準監督署長が原告に対し平成30年3月23日付けでした労働者災害補償保険による休業補償給付を支給する旨の処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 労基法41条2号の管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者をいい、具体的には、当該労働者が労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担い、責任を負っているか否か、労働時間に関する裁量を有するか否か、賃金等の面において、上記のような管理監督者の在り方にふさわしい待遇がされているか否かという三点を中心に、労働実態等を含む諸事情を総合考慮して判断すべきである。
そして、ここでいう経営者と一体的な立場とは、あくまで労務管理に関してであって、使用者の経営方針や経営上の決定に関与していることは必須ではなく、当該労働者が担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある旨をいう趣旨であることに留意すべきであり、その際には、使用者の規模、全従業員数と当該労働者の部下従業員数、当該労働者の組織規定上の業務と担当していた実際の業務の内容、労務管理上与えられた権限とその行使の実態等の事情を考慮するとともに、所掌、分掌している実態があることの裏付けとして、労働時間管理の有無、程度と賃金等の待遇をも併せて考慮するのが相当である。

2 Xは、経理部の部下に対する労務管理や人事考課につき何らの権限を持たず、決定権限を与えられていたのは、所掌事務のうち仕訳についてのみであったことになる。権限の範囲が限定されていたことにつき、Xが入社間もないことに伴う時限的措置であったと認めるに足りる証拠もない。
Y社においては経理業務の整備が上場へ向けた重要課題であったことを踏まえても、上記の権限しか有しないXについて、経営者と一体となって労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担っていたと評価することは困難である。

3 Xには、労働時間や出退勤に関し、労基法による労働時間規制の対象外としても保護に欠けないといえるような裁量はなかったと評価するのが相当である。

ここでも管理監督者性が否定されています。

上記判例のポイント1の「経営者と一体的な立場」の意味はしっかりと理解しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者57 管理監督者該当性と深夜業(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者該当性と深夜業に関する裁判例を見ていきましょう。

F.TEN事件(大阪地裁令和4年8月29日・労判ジャーナル130号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく未払割増賃金及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の組織図をみると、Xより上位に配置されているのはY社代表者とA専務のみであったこと(なお、A専務は非常勤勤務)、Xは本社の営業部長であったこと、本社を含めてX以外に「部長」は配置されていないこと、X自身が、本社営業部長より上の地位は役員ぐらいである旨自認していること、また、Xは、ルート営業部の売り上げ目標を立てているところ、本社の営業部門という主要部門の売上目標を立てるということは、Y社の経営に関する重要な事柄であるということができ、さらに、Xは、韓国にバカンスを兼ねた重役会議に行っているところ、その参加者に照らせば、経営の首脳陣のみが参加するものであったということができ、加えて、Xは、商品の値段決定等に関する権限を有していたこと、また、労働時間についても、一定の裁量を有していたということができ、さらに、管理監督者としてふさわしい待遇であったと評価することができること等から、Xは、管理監督者の地位にあったと認めることができる

2 仮に、役職手当に、残業代として支払われる部分が含まれていたとしても、Y社の賃金規程では、役職手当のうち、時間外労働の対価部分と職責の対価部分とが区別されておらず、ほかに、明確に区分されていたことを的確かつ客観的に裏付ける証拠もなく、また、そもそも、Y社の賃金規程をみると、割増賃金の算定に際して、基本給と役職手当の合計を月平均所定労働時間で除したものを基礎賃金と定めているから、Y社の賃金体系において、役職手当は基礎賃金に入るものとされているということができるから、役職手当は基礎賃金に含まれることとなる。

珍しく管理監督者性が肯定されています。

一般的な営業部長とは全く異なる状況のようですので、役職名だけを参考しないように気を付けましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。