管理監督者66 コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案を見ていきましょう。

X社ほか事件(東京地裁令和7年4月24日・労経速2596号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から令和4年9月21日付けで解雇されたこと及びY社での就労において管理監督者に該当するとして時間外労働及び休日労働に係る割増賃金の支払を受けていなかったことに関し、
(1)第1事件において、Y社に対し、〈1〉Y社についてはその完全親会社であるA社との関係で法人格が否認されるとの主張を前提に、Y社が整理解雇として行った本件解雇は無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後である令和4年10月から本判決確定までの月例賃金として毎月25日限り42万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉自らは労基法41条2号所定の管理監督者に該当しないと主張し、Y社での令和2年7月1日から令和4年8月31日までの期間の未払であった時間外労働及び休日労働に係る割増賃金として合計902万1321円+遅延損害金の支払を求め、
(2)第2事件において、第1事件における上記法人格否認の主張を前提に、A社に対し、
〈1〉XがA社に対しても雇用責任を追及することができると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社のXに対する割増賃金債務をA社も負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求め、
(3)第3事件において、第1事件における上記法人格否認の主張に加え、A社の旧商号と同一の商号で設立されたB社はA社との関係で法人格が否認され、かつ、会社法22条1項に基づく責任を負うとの主張を前提に、B社に対し、
〈1〉A社がXとの間で雇用責任を負う以上、B社もこれを負うものと主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社に対する割増賃金債務をA社が負う以上、B社もこれを負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、900万0959円+遅延損害金を支払え。
2 XのA社、B社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 株式の所有関係、役員派遣、営業財産の所有関係、専属的取引関係などを通じて親会社が子会社を支配し、両者間で業務や財産が継続的に混同され、その事業が実質上同一であると評価できる場合には、子会社の法人格は完全に形骸化しているといえるものと解する。

2 Y社は、まさに、A社との間で締結した本件オペレーション委託契約に基づき、A社から受託した本件ホテルの操業業務を行う法実体として存在していたものといえ、その法人格が目的に沿って利用されていたものというべきである。これらからすると、Y社の法人格が完全に形骸化していたと認めることはできない。

3 Y社は、従業員の解雇を回避するため、J社との間で、Y社の従業員の雇用継続を交渉し、全従業員についてY社とほぼ同様の労働条件によってJ社への転籍を可能とし、その結果、実際に、Y社の全従業員58名のうち74%に相当する43名が実際にJ社に転籍することとなったことが認められる。そして、Xも上記転籍の打診を受けたものの、本件ホテルで稼働していた当時の下位の役職の者が転籍先であるJ社においては自身の上役になるとの話を聞いたため、転籍を辞めることになったことが認められる。
これらに加え、Y社においては、この時点でA社から委託を受けて操業業務を行っている他のホテルは存在しなかったのであるから、配転可能な他の事業所等は存在しておらず、本件ホテルで稼働していたY社の従業員にとって、同ホテルでの稼働が継続できる上記転籍が最適な雇用継続の方法であったといえることからすると、Y社は、解雇回避努力義務を尽くしていたといえる。

4 Xは、管理職として、本件レストランの部下に当たる従業員について、そのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当などを行っていたものの(なお、このうちシフトの作成に関しては、Xが作成したシフト案をMが確認していたことが認められる。)、本件レストランで稼働する従業員のうち調理部門に属する従業員やパートについてのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当は行っていなかったことが認められる。
その上、Xは、本件ホテルにおいて毎週開催されていたFB週次会議に出席することが要求されていたものの、その参加者は、Y社において管理職とされた従業員に限られていたものではなく、一般職とされた従業員も参加していたことが認められるほか、上記会議の位置付けは、本件ホテルの日頃の操業業務に関する情報共有を目的としていたものであって、上記会議の議事録におけるXの発言を通覧しても、本件レストランの運営全体に関する発言は認められないことからすると、Xが経営者のいわば分身として本件レストランの運営を行う立場にあったものと認めることはできない
また、Xは、本件ホテルの料飲部門とQとの間の月次会議や、本件ホテルの経営に関するオーナー会議には参加していなかったのであるから、Xが本件レストランに関する業務を超えて、本件ホテルの経営上の決定に参画していたとも認めることはできない。
これらからすると、Xが本件レストランの責任者として付与された権限、責任は限定的であったものといわざるを得ない。

Xはレストランの責任者ですが、管理監督者性が否定されています。

役員でなく、労働者として、「経営者の分身」と評価できる方が世の中に一体どれほどいるでしょうか。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。