Category Archives: メンタルヘルス

メンタルヘルス20 休職期間満了時点では、復職要件を満たしておらず、休職期間満了日からの賃金請求を棄却した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了時点では、復職要件を満たしておらず、休職期間満了日からの賃金請求を棄却した事案を見ていきましょう。

トヨテック事件(東京地裁令和7年8月6日・労経速2607号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、休職していたXが、令和2年12月7日時点で、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したにもかかわらず、Y社は、Xを令和3年9月14日まで復職させておらず、Y社は、令和2年12月7日から令和3年9月13日までの期間について、民法536条2項に基づき、賃金の支払義務を負うとして、雇用契約に基づき、同期間の賃金384万3535円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、在宅勤務規程3条1項の在宅勤務対象者に該当せず、また、Xは、かつて、令和2年4月8日以降、リモートワークをしていたが、これは、あくまでコロナ禍における緊急事態宣言を受けた緊急事態時における例外的な措置にすぎないものと認められるため、Xが従前の職務を通常程度に行える健康状態になるか、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったといえるためには、Xが出社できる状態にあったことが必要である。

2 Xは、障害者に対する合理的配慮の観点から、休職事由の消滅の判断において、出社の可否は考慮すべきではないと主張する。
しかしながら、Xは在宅勤務規程3条1項の在宅勤務対象者に該当しない以上、障害者に対する合理的配慮の必要性を踏まえても、Xが出社できる状態にあったといえなければ、休職事由の消滅は認められないというべきであり、Xの主張は理由がない。
令和2年11月26日付けの本件診断書では、Xについて、片麻痺があるため、長時間の歩行や満員電車でのAからBまでの通勤は困難であるとされていることから、Xは、同年12月7日の時点において、公共交通機関を使用しての出社は困難であったと認められる。
そして、Xは、令和3年3月29日、Y社に対し、自動車通勤を認めてほしい旨のメールを送信しているが、Y社は、自動車関連の事業を営んでおり、運転による過労や事故の危険を考慮し、安全配慮上万全を期すため、自動車通勤を認めていないところ、Y社の自動車通勤の禁止の理由は不合理とはいえないし、Xは、足に傷病を抱えており、Y社が事故の危険性をより慮るのも不合理とはいえない。
さらに、Y社は、通勤ラッシュの時間帯を避けた時短勤務の許可等の配慮はする姿勢は示しており、障害者に対する合理的配慮の観点を考慮しても、Y社の対応が不合理なものとはいえない。
したがって、Xは、令和2年12月7日の時点では、出社は困難であったといわざるを得ないから、従前の職務を通常程度に行える健康状態になるか、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったとはいえない。

障害者に対する合理的配慮の内容・程度については、明確な基準があるわけではないため、現場においては、非常に判断に悩まれることが多いです。

弁護士等と相談をしながら、合理的と思える範囲で対応するほかありません。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス19 休職期間中に提出した退職願による意思表示につき、錯誤取消しを認めなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間中に提出した退職願による意思表示につき、錯誤取消しを認めなかった事案を見ていきましょう。

マックスグループ事件(東京地裁令和7年7月30日・労経速2605号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、休職中であったXが、休職事由が消滅しており、また、退職願を提出したが、これが辞職の意思表示又は合意退職の申込みのいずれであったとしても、錯誤があったから取り消すとして、Y社に対し、〈1〉Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉賃金請求権に基づき、令和5年12月1日から本判決確定の日まで毎月末日限り、25万6750円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xについては、令和5年11月13日付けで、うつ病の症状が改善したため、同月14日より就労再開可能である旨の診断書が作成されているものの、同年12月には、同診断書を作成した医師によって、同診断書で就労再開可能とされている日のわずか2週間後の同年11月28日から同年12月24日までうつ病で就労困難とする旨の「健康保険傷病手当金支給申請書(療養担当者記入用)」が作成されている。
その上、Xは、令和2年頃から、心身症、うつ病等を理由として欠勤・休職を繰り返しており、令和5年6月、体調不良で連続して有給休暇を取得し、Y社に対し、同月30日付けでうつ病と診断された旨の診断書を提出し、同年7月も、21日以降、体調不良で連続して欠勤し(一部有給休暇の取得あり)、同年8月30日、出勤し、同年9月も、体調不良を理由として4日欠勤し、2日早退し、同年10月も、体調不良を理由として5日欠勤しており、同年においても、出勤と多数回にわたり出勤しないこと(欠勤、有給休暇の取得)を繰り返している状況にある。
これらのことからすれば、同年10月30日に休職となってからわずか2週間しか経たない同年11月14日の時点において、Xが従前の職務を通常程度に行える健康状態になったとはいえないし、また、Xを当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常程度に行える健康状態になったともいえない。そして、上記のXの状態からして、Xが労務の提供をすることができるような配置される現実的可能性があると認められる他の業務があったとも認められない。
以上によれば、令和5年11月14日時点で、Xについて休職事由が消滅していたとは認められないし、また、その後、Xの退職願の提出までの間に、Xについて休職事由が消滅していたことを認めるに足りる証拠はない。

2 Xは、令和5年10月30日から休職となっていたところ、同年11月29日のC本部長及びBとの面談において、〈1〉週3日(1日4時間)の時短勤務、〈2〉他部署に異動した上で週3日(1日4時間)の時短勤務、〈3〉Xの意思に基づく退職の3つの選択肢を示され、一旦は、令和6年1月から週3日(1日4時間)の時短勤務で勤務に復帰することとなった。
しかし、Xは、フルタイムで復職できるようになるまで休職を延長することを希望するようになったが、C本部長からは、上記〈1〉から〈3〉までの選択肢の中から決めるよう伝えられ、また、Bからは、過去の勤務の状況等を鑑みて時短勤務での復職は必須である旨伝えられている。これらのやり取りにおいて、C本部長やBは、休職期間を延長しても直ちにフルタイムでの復職は困難で、まずは時短勤務で様子を見ることが必須である旨を伝えているにすぎず、休職期間の延長自体が不可能であるとは伝えていない。
また、Xは、過去に休職をしたことがあり、令和5年7月31日には、C本部長に対し、休職期間について尋ねていることもあり、休職期間について、一定の知識を有していたことがうかがわれるところ、同年12月のC本部長やBとのやり取りにおいては、休職期間について尋ねることはしていない。これらのことからすれば、Xは、休職期間が令和6年1月9日までで延長することができないと誤解していた旨陳述しているが、その陳述を裏付ける証拠はなく、これを採用することはできず、Xが引き続き休職することができないとの錯誤に陥っていたと認めるに足りる証拠はない。

上記判例のポイント1のようなケースは決して珍しくありません。

そのため、裁判所は、診断書の記載内容のみから復職の可否を判断することはありません。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

 

メンタルヘルス18 休職期間満了を理由とする退職扱いの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了を理由とする退職扱いの有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

B WORLD PATENT&TRADEMARK事件(大阪地裁令和7年9月18日・労判ジャーナル165号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して勤務し、その後精神疾患を発症して休職していた元従業員Xが、休職期間満了を理由とする退職扱いは無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職扱い無効

【判例のポイント】

1 休職期間の終期に関する問い合わせを受けた使用者は、休職中の労働者に対し、雇用契約に付随する義務として、その終期を教示すべき義務を負うというべきであるところ、Y社が、休職期間の終期を教示すべき義務を怠ったことは明白であり、ひいては、同義務に違反したことにより、Xの復職の機会を不当に制限し、あるいは事実上失わせたというべきであるから、本件において、Y社が、休職期間の終期までに復職可能である旨の診断書の提出がなかったこと等を理由に、Xを退職扱いとすることは、信義則違反あるいは権利の濫用として許されないというべきである。

2 Y社は、Xは就労の意思を喪失したと主張するところ、確かにXが、令和5年5月15日、G看護師に対し、会社に戻るつもりはないと述べたこと、その後ハローワークを通じて就職活動を行うなどしていたことが認められるが、G看護師に対する上記発言は、D病院を受診した際のものであり、Xの確定的な意思を示すものとは直ちに認め難く、加えて、Xは、組合を通じてY社に対し、同年6月13日付け「要求」をもって、休職期間満了による退職扱いを撤回するよう求め、その後も復職を前提とする協議を求め続けていたことなどからすれば、Y社が指摘する各事情を考慮しても、Xは、現時点でも、Y社において就労する意思を有していると認めるのが相当である。

上記判例のポイント1は、あまり見かけない内容ですが、当然のこととして、終期を教示しましょう。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス17 労災認定後に行われた解雇が労基法19条1項本文の解雇制限に反せず有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労災認定後に行われた解雇が労基法19条1項本文の解雇制限に反せず有効とされた事案を見ていきましょう。

一般財団法人あんしん財団事件(東京地裁令和7年7月24日・労経速2595号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、平成27年6月から休職をしていたXらが、令和4年5月にY社からそれぞれ解雇されたことについて、被告に対し、①上記各解雇が労基法19条1項本文に反し無効であるとして、Xらが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②上記各解雇が不法行為を構成し、これによって精神的苦痛をそれぞれ被ったとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用相当損害金の合計各440万円+遅延損害金の各支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 療養期間に関する医学的知見に関して、精神医学等の専門家から成る専門検討会においては、最新の医学的知見を踏まえ、業務による心理的負荷等につき適切かつ迅速に評価・判断する方法が検討され、令和5年7月にその検討結果が取りまとめられており、これによれば、一概に示すことは困難とされつつも、療養期間の目安について、「うつ病の経過は、未治療の場合、一般的に(約90%以上は)6か月~2年続くとされていること」、「適応障害の症状の持続は遷延性抑うつ反応(F43.21)の場合を除いて通常6か月を超えず、また、遷延性抑うつ反応については持続は2年を超えないとされている」との医学的知見が示されている。
そして、Xは、平成27年3月中旬に適応障害を発病したとされており、令和4年5月に被告により解雇をされた時点において、7年間余りが経過していたものである。
また、Xは、この間の平成29年6月には、Y社に対し、「復職願」を提出して復職しているところ、復職に際し、Xの主治医は、その当時のXの状態について、「心理検査:(略)病的所見は見られない。」、「業務に影響を与える可能性のある精神症状または状態像」は「特になし」、「予想される現時点での職場への適応度」は「職場として平均的な業務遂行能力を満たすと思われる」、「職場復帰への準備状況」は「総合職として社内外の関係者と連携・協力を行うなど、対人折衝等複雑な調整等にも耐え得る程度の精神状態にまで回復していることを前提にした職場復帰に関する全体的評価」に関し「81%以上:ほとんど問題なく復職可能」等と診断している。そして、復職後の就労状況については、実際に営業業務を開始した平成30年1月から同年9月までのコール数は合計782件であり、この間のアポ率は2.2%であり、平成30年度における被告の女性職員による平均アポ率1. 02%を上回るものであった。

2 以上のような諸事情を総合考慮すると、平成27年3月中旬における適応障害の発症と令和4年5月の解雇当時におけるXの休業との間に相当因果関係があると認めるには足りず、当該解雇の当時、Xが労基法19条1項本文所定の「療養のために休業する」状態にあったということはできないと判断するのが相当である(なお、当該解雇が「療養のために休業する期間」「の後30日間」にされたということもできない。)。
なお、Xらが、前記のとおり、本争点については相当因果関係が問題とならない旨主張することに鑑み、ここで説示すると、労基法19条1項本文の解雇制限について、業務起因性のある疾病の療養と関わりのない療養や治ゆ後に新たに発症した疾病の療養、症状固定後の後遺障害等の療養等のために休業している場合にまで解雇を制限する趣旨であると解することはできず、このような見地から、同条項の適用においては業務と休業との間に相当因果関係が認められることを要するものと解するのが相当である。

上記判例のポイント1の「令和5年7月にその検討結果が取りまとめられており」は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」です。

同種事案における検討においては必読です。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス16 休職期間満了による退職を有効と判断した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了による退職を有効と判断した事案について見ていきましょう。

東日本電信電話事件(東京地裁令和7年3月14日・労経速2592号30頁)

【事案の概要】

(1)Xは、Y社に対し、定年後再雇用制度に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和5年4月から本判決確定の日まで毎月20日限り18万8500円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(2)また、Xは、Y社に対し、上記(1)の前提として、主位的に、定年前に休職期間満了を理由として退職扱いとなったことについて、休職の原因となった精神疾患は治癒しており復職可能であったと主張して、雇用契約の終了を争い、令和4年2月から令和5年3月31日まで毎月20日限り39万1550円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(3)さらに、Xは、Y社に対し、上記(1)の前提として、予備的に、定年前に休職期間満了によって雇用契約が終了していたとしても、Y社が設ける再採用制度によって、Y社との間で改めて雇用契約が締結されていたと主張して、令和4年10月から令和5年3月31日まで毎月20日限り39万1550円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(4)このほか、Xは、Y社に対し、Y社による復職拒否、退職扱いが不法行為に当たると主張し、慰謝料等110万円+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 E医師は、令和3年11月26日、Xについて同月27日から職場復帰可能な状態であるとする診断書を作成し、同月30日、Xにつき、症状は改善傾向にあって、同年8月からは不安や抑うつ気分などは軽快しており、同年12月より復職可能であるとする病状調書を作成した。
さらに、E医師は令和5年7月3日、「回答書」と題する書面を作成し、一般的にうつ病の疾患を有する者が復職可能と判断するには寛解に至っていることに加え、生活機能や知的能力が十分に改善し、休職に至った職場での原因が解決される必要があるとし、Xについては、前2者の条件は満足するものの、職場の受入れ態勢及びX本人の覚悟という側面があるため、「Ptさえ覚悟を決めれば書きます」と説明したものであり、Xについては、その後、症状が寛解していたこと、リワークプログラムや野鳥の会に参加して生活機能や知的能力が十分に改善していたことのほか、Xに復職意向があり心理的準備が進んでいたことから復職可能と診断したと説明している。

2 しかしながら、E医師は、令和4年8月29日付けで、Xの障害者年金の受給に関する「診断書(精神の障害用)」を作成し、現症日である同日以前1年程度の原告の状況について、要旨、「抑うつ状態」「思考・運動制止」「憂うつ気分」が見られ、「抑うつ気分や意欲低下が続いている」状況にあり、「不変」「変化なし」であり、「他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行える」か否かについては「助言や指導があればできる」にとどまり、「精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。(たとえば、習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とする。社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある。金銭管理が困難な場合など。)」に当たり、「現在、抑うつ気分や意欲低下がつよく労働能力が低下している。」状態にあり、予後についても「不明」と診断した。
上記診断によれば、Xは、「他者とのコミュニケーションがほとんどできず、近所や集団から孤立しがちである。友人を自分からつくり、継続して付き合うことができず、あるいは周囲への配慮を欠いた行動がたびたびあるため、助言や指導を必要とする。」「医療機関等に行くなどの習慣化された外出は付き添われなくても自らできるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。身辺の清潔保持が自発的かつ適切にはできない。対人交流が乏しいか、ひきこもっている。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来たしやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。」状態にあったといえる。

3 以上のとおり、E医師は、Xにつき、生活機能等が回復し、令和3年11月27日から復職可能であると判断する一方、令和4年8月29日以前1年程度にわたり、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを要する程度にあるとも診断していたのであって、このような相矛盾したE医師の診断によって、同年1月29日までに原告が復職可能な程度に治癒・寛解していたとまでは認めることはできない。

心療内科の主治医は患者との関係性を考慮し、本件同様の診断書を提出することが珍しくありません。休職期間中は長期にわたり復職不可の診断書を書きつつ、休職期間満了直前になって、突如、復職可とする診断書を書くというのもよく目にします。

会社としては、主治医の診断書を鵜呑みにすることはできませんのでご注意ください。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス15 パワハラ被害者の休職期間満了退職の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラ被害者の休職期間満了退職の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TCL JAPAN ELECTRONICS事件(東京地裁令和5年12月7日・労判1336号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、
(1)当時のY社の代表取締役、副社長及び直属の上司からパワーハラスメント行為を受けるなどした後に適応障害を発症して休職したところ、Y社が休職期間満了前に休職事由が消滅したと認められないとして就業規則の規定を根拠に休職期間満了日をもって自然退職扱いとしたことについて、Y社のパワーハラスメント行為等により適応障害を発症したものであり、かつ休職期間満了前である令和元年6月17日に復職可能と診断した医師の診断書を提出して復職を求めていたから同日をもって休職事由は消滅した等と主張して、
〈1〉雇用契約上の地位確認、
〈2〉令和元年6月17日以降本判決確定日までの月額賃金+遅延損害金、
〈3〉休日労働に係る未払賃金+遅延損害金
の各支払を求めるとともに、
(2)前記パワーハラスメント行為により適応障害を発症し、強い精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき、慰謝料、医療関係費及び弁護士費用等合計562万7347円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、16万4500円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和元年7月1日から令和2年2月29日まで毎月末日限り32万9000円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、令和2年3月1日から本判決確定の日まで毎月末日限り、32万9000円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、45万2205円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、1万9998円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則は、社員が同38条各号に定める休職事由に該当するときは休職を命ずることがあり、休職期間満了後においても休職事由が消滅しないときは休職期間満了の日をもって自然退職とする(同39条4項)と定めている。このような就業規則の定めによれば、Y社において、休職命令は、休職期間満了までの間、解雇を猶予するものであるということができる。そうすると、「休職事由が消滅したとき」とは、職員が雇用契約で定められた債務の本旨に従った履行の提供ができる状態に復することであり、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解するのが相当である。そして、休職事由の消滅については、解雇を猶予されていた職員において主張立証しなければならないと解するのが相当である。
同年6月17日に休職事由が消滅したとのXの主張は採用できず、休職期間満了までに休職事由が消滅したとも認められない。

2 XはY社の業務に起因して適応障害を発症したと認められるから、労働基準法19条1項類推適用により、就業規則39条4項は適用されない。よって、就業規則39条4項に基づきXを退職扱いとすることは許されず、本件雇用契約は継続していると認められる。

3 X自身が反省するというより、婉曲的にGを非難する内容の反省文を提出したこと等が認められ、このような婉曲的に相手を蔑んだり、慇懃無礼であったり、挑発的であったりするXの対応は、XとGとの衝突や関係悪化をより深刻化させる方向に機能したと考えられるところ、そこにはXの気分変調症、境界性パーソナリティ障害又は易刺激性や情動易変性及び社会適応能力の問題が影響していると認めるのが相当である。このような本件の事情を考慮すれば、本件では2割の素因減額を認めることが相当である。

パワハラが原因で精神疾患を発症し、休職した場合、当該傷病について業務起因性が認められ、労基法の解雇制限に該当するとなると、私傷病を前提とする休職期間満了による自然退職の制度は適用対象外となります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

メンタルヘルス14 適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案について見ていきましょう。

東京都葬祭業協同組合事件(東京地裁令和6年9月25日・労経速2575号3頁)

【事案の概要】

(1)Xは、休職期間満了による自然退職の効力を争い、Y社との間の労働契約が終了していないなどと主張し、労働契約に基づき、次の各請求をしている。
ア 労働契約上の地位を有することの確認
イ 令和3年12月から判決確定の日まで各月の賃金(令和3年12月分は同月1日から同月20日までの20日間の日割り)及び各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
ウ 令和3年12月から判決確定の日まで毎年6月及び12月支払の賞与並びに各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払(予備的に不法行為に基づき、同額の損害賠償を請求している。)
(2)Xは、正当な理由のない自己都合退職等と記載した離職票の発行が不法行為に当たると主張し、不法行為に基づき、損害賠償金及び不法行為日以降の法定利率による遅延損害金の支払を請求している。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することを確認する。
2 Y社は、Xに対し、21万5883円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和4年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り33万4620円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年4月6日に本件主治医の診察を受け、不眠、吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状が出現した旨を訴え、適応障害と診断され、以後、通院を続け、抑うつ、不眠、全身倦怠感が持続しているため休務を要する旨の診断を受けていたが、同年11月24日の受診時には症状が改善して同年12月1日から復職可能である旨の診断を受けており、本件主治医において、同年12月1日時点で休職事由となる疾病は治癒したと判断されている。
Xの症状について、Xは、本人尋問において、5月頃には吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状はなくなっていたと述べ、夏頃には不眠の症状も軽減し、10月下旬以降はほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、同年8月11日の受診時には「笑うことができるようになっている」とされるなど改善の傾向がみられ、同年10月以降の受診時には具体的な症状の訴えがみられなくなっている。
これらのことからすれば、Xの適応障害の症状は、令和3年12月1日時点で、従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたと認められる。

2 これに対して、Y社は、Xの症状について、情動安定な状態と情動不安定な状態を繰り返している、薬を飲まなくてもよい状態に回復していたとはいえない、Xは令和4年3月2日に終診とされており、令和3年12月時点では精神科を受診し続けなければならない状態であったなどと主張する。
しかし、傷病が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していれば、休職事由は消滅したといえ、それ以上に、症状が消失することや通院・服薬の必要がなくなることまで求められるわけではない。そして、Xの症状の経過は前記認定のとおりであるから、Y社が指摘する事情はいずれも前記の判断を左右するものとはいえない。

3 さらに、Y社は、Y社の就業規則では就労の可否は専らY社が指定した医療機関での受診結果を基にして行うこととなるところ、本件指定医はXが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない旨を診断していると主張する。また、Y社は、本件指定医は、Xの主訴だけでなく、服薬状況や過去及び現在の症状等の事情、親族との関係等を聴取した上で診断しており、その診断の信用性は高いとも主張する。
しかし、休職期間満了時に休職事由が消滅しているかどうかは自然退職の効力に直結する事項であるから、就業規則の内容にかかわらず、主治医の診断書等の資料が提出されている場合にY社が指定した医療機関での受診結果のみをもって直ちに休職事由が消滅していないものと取り扱うことは許されない。そして、本件指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、Xが、本件指定医に対して、不眠等の症状がない旨を述べ、服薬状況について「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べていることに加えて、診療レポートには令和3年4月から同年11月までのXの症状の経過は特に記載されておらず、本件指定医がXの症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもってXの症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。

4 Y社は、本件指定医の診断書等を参照して休職事由が消滅していないと判断し、Xを休職期間満了による自然退職としたのであって、Xに対する嫌がらせであるとはいえない。また、失業保険金の給付の判断は、離職票の記載のみに基づいて行われるものではなく、離職票の記載は事業主の主張にとどまるから、Y社が休職事由の消滅に関する判断を誤って離職票を発行したからといって、そのことが不法行為に当たるとはいえない。

本件では、指定医ではなく、主治医の判断が採用されています。

裁判所は、両医師の判断過程、根拠について実質的に比較検討します。

また、上記判例のポイント3の第2段落は誤解しがちな点ですので、しっかりと押さえておきましょう。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス13 主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案を見ていきましょう。

ホープネット事件(東京地裁令和5年4月10日・労経速2549号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して主に営業職として就労していたXが、双極性感情障害を発症して平成30年9月1日からY社を休職していたところ、Y社から、就業規則で定められた休職期間の満了を理由に令和2年3月31日をもって自然退職したものと取り扱われたことにつき、上記の双極性感情障害は、職場でパワーハラスメントを受けたことによるストレスに起因して発症した業務上の疾患である上、令和2年3月31日時点において、休職前に従事していた通常の業務を遂行できる程度にまで回復し、あるいは、復職後ほどなく回復する見込みがあったほか、休職前の業務以外の他業務であれば復職することは可能であったから、休職期間の満了を理由に原告を退職扱いとしたY社の措置は無効であり、また、Y社による上記の措置及び職場におけるパワーハラスメントはXに対する不法行為を構成し、これにより精神的苦痛を被ったと主張し、Y社に対し、(1)雇用契約に基づき、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和2年5月から本判決確定の日までの毎月25日を支払日とする賃金月額52万6000円+遅延損害金の支払、③令和2年5月から本判決確定の日までの毎年3月28日を支払日とする賞与24万3000円、毎年6月8日を支払日とする賞与41万3100円、毎年12月10日を支払日とする賞与37万3000円+遅延損害金の支払、(2)不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円及び弁護士費用150万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、令和2年2月21日の診察時に、C医師から症状の改善を認めるため同年3月1日より復職可能と判断できる旨の診断がされている旨を主張する。
この点、C医師により上記の旨が記載された本件診断書が作成されているものの、Xについては、同年3月時点においても、本件傷病に対する治療内容や処方内容等に特段の変化は見受けられず、多剤投与が続いていたことからすれば、通院当初から継続して行われている治療が継続されている状態にあったものと解されるのであって、Xが休職期間の満了後である令和2年5月22日に河内クリニックを受診した際にG医師からあらためて「躁うつ病」と診断されたことも上記の判断を裏付けるものである。
また、C医師は、同年3月から復職が可能であると判断した理由について、本人が働けるかどうかを一番分かっているので、復職を希望するXの言葉を聞いて同日から復職可能であると判断し、ただ、いきなりフルタイムということはあまりないので労務軽減を要する旨の診断をしたことが認められ、特にXの従前の就労状況や担当業務を踏まえて復職可能という判断をしたものではないことがうかがわれる。
かかる諸事情に加え、Xにおいて、当初復職を目指していた令和2年3月1日の直前である同年2月の時点でも、復職に向けた取組は何ら行われていなかったことや双極性障害の治療において重要とされている生活リズムのコントロールが十分に図られていなかったことなどの事情も併せると、C医師の本件診断書に係る意見が、Xが未だ治療途上にあり復職できるほどに回復した状況にあったとはいい難い旨のD医師の意見を超える有意性を有するとまでは認め難いものといわざるを得ない。したがって、Xの上記主張は採用することができない。

2 Xが「最初の1か月間は午前中のみの勤務とし、労務軽減した形での復職が望ましい。」と記載された本件診断書を被告に提出したことをもって、配置される現実的可能性がある他の業務について労務の提供を申し出ていたものと解する余地もあるため、さらに検討するに、Y社は、令和2年4月期において672人の従業員を擁していたが、実質的には、そのほとんどはY社の取引先である派遣先への派遣が予定されている者、あるいは現に派遣先に派遣されている者であって、Y社の本来業務に従事している従業員(派遣先へ派遣されている者及び派遣予定の者を除いた従業員)は54人程度であったこと、Y社の事業内容は人材派遣業及びそれに関連する事業が主体であることが認められるから、Y社が多様な職種や業務部門を有していたとまでは認め難い。
また、平成30年10月に株式会社bの完全連結子会社となり、令和2年3月当時も○○グループの一翼を担っていたが、Y社と株式会社bとの間、あるいはY社と○○グループの他の企業との間で人事交流や異動等がされるということはなかったことがうかがわれる。
加えて、令和2年3月時点でXの本件傷病は未だ治療中であり、当該時点において本件傷病が復職後ほどなく軽快することが見込まれていたとは認め難いところ、本件全証拠を子細にみても、令和2年4月時点で存在したY社の業務部門の中で、Xが休職原因となった本件傷病(双極性障害)を有する状態のまま就労可能な業務密度や業務量の少ない業務や部署が現に存在したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

主治医と産業医で復職の可否に関する意見が割れることは決して珍しいことではありません。

このような場合、会社としてはどのように判断すればよいのか悩むところだと思います。

本件では、産業医の意見が採用されましたが、事案によっては主治医の意見が採用されることもあります。事案によるわけです。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス12 原告の退職の意思表示を有効とする一方で、精神的不調がうかがわれる原告に言動を注意・警告する際に、職場環境調整義務違反があり慰謝料の支払いが認められた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、原告の退職の意思表示を有効とする一方で、精神的不調がうかがわれる原告に言動を注意・警告する際に、職場環境調整義務違反があり慰謝料の支払いが認められた事案を見ていきましょう。

イーオン事件(東京地裁令和5年3月22日・労経速2533号37頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、次のとおりの請求を行った事案である。
(1)地位確認及びこれに関する未払賃金請求
Xが、平成29年11月29日にY社と労働契約を締結したところ、Y社に対し、①雇用契約(本件契約)上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件契約に基づく賃金として、②令和2年3月31日以前に支払期日が到来する59万4000円(2か月分の賃金)+遅延損害金の支払を求め、③令和2年4月1日以降提訴日(令和3年7月10日)までに支払期日が到来する445万5000円(15か月分の賃金)+遅延損害金の支払を求め、④令和3年7月(提訴日より後)から本判決確定の日までに支払期日が到来する賃金(毎月25日限り29万7000円)+遅延損害金の支払を求めた。
(2)不法行為(主位的請求)又は債務不履行(予備的主張)
職場環境調整義務違反及び違法な退職勧奨を理由とする民法709条の不法行為又は本件契約の債務不履行に基づく損害賠償として、合計290万1845円(債務不履行については、弁護士費用26万3804円を除いた263万8041円)+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、適応障害に罹患していたものの、退職願を提出する前に、これに大きな影響を与える出来事があったとはいえないし、退職願提出後にも、再度、弁護士等と共に検討し、退職手続を進めていて、退職願提出時、適応障害の影響で真意に基づく判断ができなかったとはいい難い。更に、退職を決意させる大きな理由となった、異動が認められなかった点についても、Y社の裁量の逸脱・濫用があったとはいえない。そうすると、仮に、退職の意思表示に関し、自由意思の客観的合理的事情が必要であるとしても、かかる事情があると認められる。
よって、Xの退職願提出によって、退職の意思表示があったと認められる。

2 Cは、令和元年11月27日、再びXと面談し、Xの行動について、再び問題行動を繰り返すことがあれば直ちに解雇することを示唆しつつ、警告を行った。
Y社は、Xが飲酒した上で出勤したことや、令和元年11月18日の公休日に本件カウンセラーに会うためa校に現れたこと、同月21日に女性同僚に対し不適切なセクハラ発言をしたことを前提として注意を行っている。
これらの行為のうち、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言については、事実であると認められ、就業規則に抵触するものであり、注意の必要性があったことを否定できない。
しかし、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言は、Xの精神状態の悪化を示唆するものともいえるから、言動を注意する場合でも、精神状態を悪化させかねない方法を避けて慎重に行う必要があった。
次に、本件公休日出勤については、公休日にa校に現れたことの目的が、本件カウンセラーに会うためであったと認めるに足りる証拠がなく、これについては注意の必要性があったのか疑問が残る。また、仮に、これらの行動が事実であり、注意の必要性があったとしても、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言と同様、この行動自体がXの精神状態の悪化を示唆するものであるともいえるから、言動を注意する際には、精神状態を悪化させかねない方法を避けて慎重に行うべきである。

精神的不調がうかがわれる従業員に対して言動を注意・警告する際の注意点が判示されていますが、判決文を読むと、使用者側に対する過度な要求であるようにも読めてしまいます。

現場において、精神疾患のある従業員に対して腫れ物に触るような対応になっているのもやむを得ないように思います。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

メンタルヘルス11 従業員との間のコミュニケーションがほぼ不可能であった原告に、休職期間満了から1か月後の復職が可能との診断書を踏まえても、期間満了による解雇が有効とされた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員との間のコミュニケーションがほぼ不可能であった原告に、休職期間満了から1か月後の復職が可能との診断書を踏まえても、期間満了による解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

三菱電機保険サービス事件(東京地裁令和5年3月10日・労経速2533号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結して就労し、その後、休職期間満了により解雇されたXが、当該解雇は解雇権濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
(1) 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
(2) 解雇後の月例賃金の支払(後記前提事実(3)のとおり、原告の賃金は毎月末日締め・同月20日払いとされていたが、請求は、毎月末日締め・翌月20日払いとして計算されている。)
ア 令和元年5月分から令和2年6月分までの月例賃金合計389万9000円+遅延損害金
イ 令和2年8月20日支払分から本判決確定の日までの月例賃金月27万8500円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件において、Xは、業務外の傷病である睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態により就労不能に陥り、その期間が50日以上継続したため、本件休職命令を受けたものである。そして、本件休職期間中、原告は、月1回から2回の頻度で本件クリニックでの受診を継続して抗うつ薬の処方を受けており、抗うつ薬を服用している間は調子が良いが、薬がなくなると寝たきりの状態になってしまうなどと訴えており、平成31年2月頃以降、受診をしなくなった時期もあるものの、医師の判断によるものとは認めることはできず、Xの症状が明確に好転していた形跡はない。
さらに、平成30年以降は、Y社からXに対して連絡が度々試みられたものの、Xの対応としては、平成31年4月18日に、体調不良のため対応できないと記載したメールを送信したのみであり、本件休職期間満了後も、やはり体調不良のため面談ができないなどと述べて、Y社従業員との間のコミュニケーションがほとんど不可能であったことからすれば、本件休職期間満了後に作成された令和元年5月診断書に、抑うつ状態の症状に改善が見られ、同月31日時点で復職が可能である旨記載があることを踏まえても、本件休職期間満了までに、Xが、Y社において、従前の業務である生命保険及び損害保険の営業業務に従事することが可能になっていたと認めることはできない。さらに、上記のとおり、本件休職期間満了時において、Y社従業員とのコミュニケーションですらほとんど不可能であったというXの状態からすれば、同時点において、ほどなく従前の業務をこなせる程度に回復すると見込まれていたともいえず、また、仮にXを配置転換するとしても、その当時のXにおいて、債務の本旨に従った労務の提供が可能となるような軽減業務があったと認めることもできない。
したがって、Xにつき、本件休職期間満了までに、本件雇用契約に基づく就労義務の本旨に従った履行が可能となる程度にまで傷病休職の原因となった睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態が治癒していたということはできない。

2 Xは、Y社が、Xの復職希望の意思を確認することなく、退職することを前提にXに連絡をし、Xの復職希望を受け付けないという態度を示したために、復職の意思の伝達が遅くなった旨主張する。しかし、Y社がXの復職希望の意思を確認するか否かは、本件休職期間満了による解雇猶予の終了とは無関係である。また、本件解雇規定においては、従業員に対し、休職期間の満了時に退職届を提出することを求める規定が置かれているところ、Y社就業規則、傷病休職取扱規則に基づく傷病休職の性質からすれば、解雇猶予の効果がなくなる時点で、本件解雇規定に基づく解雇に先立って、自主退職を求めること自体は、不合理なものではないということができるから、Y社が、本件休職期間満了が近づいても、Y社従業員とのコミュニケーションがほとんど不可能であったXに対し、上記規定に基づいて、退職届の提出を求めることが、不当な措置であったということはできない。また、Xにつき、本件休職期間満了までに、睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態が治癒していなかったのであるから、Xの復職申し出が遅れたとしても、本件解雇が無効ではないという結論に影響を及ぼすものではない。

上記判例のポイント1の思考過程はしっかりと押さえておきましょう。

特に休職期間満了時に、主治医の診断書では復職可とされているような事案においては慎重に対応する必要があります。

使用者としていかなる判断をするべきかについては、顧問弁護士の助言の下で検討するのが賢明です。