メンタルヘルス10 精神疾患を発病した従業員への降格処分が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、精神疾患を発病した従業員への降格処分が無効とされた事案を見ていきましょう。

セントラルインターナショナル事件(東京高裁令和4年9月22日・労経速2520号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しているXが、Y社に対し、
 Y社がXに対して平成28年7月7日付けで行った降格処分(第2降格処分)及びこれに伴う基本給の減額は無効であるなどと主張して、労働契約に基づき、同月16日から平成29年1月15日まで減額前の賃金との差額月額7万円の割合による未払賃金42万円+遅延損害金の支払を求め、
 Xは業務過重、上司との関係悪化、Y社がこれらを放置したこと等により平成27年12月頃に精神疾患を発病し、同月以降医療機関に通院することになり、また、平成29年1月16日から同年6月15日まで就業不能となったなどと主張して、Y社の安全配慮義務違反に基づき、月額35万円の割合による賃金相当額175万円の損益相殺後の残額52万7520円+遅延損害金の支払を求め(当審における拡張請求、一部請求)、
 Y社がXの復職に関する団体交渉を拒否し、復職条件を提示せず、復職時期を平成29年10月16日まで引き延ばしたなどと主張して、不法行為又は労働契約上の労務提供の違法な拒否に基づき、同年6月16日から同年10月15日まで月額35万円の割合による賃金相当額140万円及びこれに対する上記①と同様の遅延損害金の支払を求める
事案である。

原審は、上記①の請求を棄却し、上記②の賃金相当額の請求部分につき、5万5864円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、上記③の請求をいずれも棄却したところ、Xが敗訴部分を不服として控訴するとともに、上記②の通院慰謝料の請求部分につき請求の拡張をし、他方で、Y社が敗訴部分を不服として附帯控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
1 Y社は、Xに対し、234万7520円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、254万円+遅延損害金を支払え(当審における拡張請求)。

【判例のポイント】
1 Xは、平成27年12月頃には、Y社の業務に起因して遷延性抑うつ反応を発病していたものであり、本件処分事由①から本件処分事由⑩までは、いずれもその頃以降の事実と認められる。また、Xは、メディア企画事業部におけるB部長の業務執行の在り方(部下である控訴人に対する命令・指示、控訴人に担当させた業務の内容、業務量等を含む。)について既に平成27年3月には疑問や不満を抱いており、B部長やE専務に対して業務の改善を繰り返し要望するなどしたが、同人らによって十分な対応がされた事実は認められず、この対応の不備等が要因となってXの遷延性抑うつ反応が引き起こされたことが認められる。
そして、B部長、E専務が、Xが平成27年12月頃に「遷延性抑うつ反応」を発病したと認識することは困難であったとしても、その頃までにXの心身の異常やその原因となる事情について現に認識し又は認識し得る状況にあったことは、XとB部長又はE専務との間でやりとりされたメールの内容等から明らかである。
加えて、本件処分事由⑦及び本件処分事由⑩に関する録音内容にも照らせば、Y社において、平成28年7月に第2降格処分をする際、Xの心身の更なる異常等について認識し得たものというべきである。
以上の事情に、次の(ア)ないし(オ)等の諸点も総合すれば、第2降格処分は、重きに失し、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、懲戒権を濫用したものとして無効であるというべきである。」

現場における対応の難しさというのは、経験をした人にしかわからないと思います。

訴訟等に発展する前に、日頃から弁護士に相談の上、適切に対応することがとても大切です。

使用者として何をどの程度行うべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。