セクハラ・パワハラ98 減給の懲戒処分について、労基法93条の限度を超える金額は無効であることの確認が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、減給の懲戒処分について、労基法93条の限度を超える金額は無効であることの確認が認められた事案について見ていきましょう。

一般財団法人NHK財団事件(東京地裁令和7年5月29日・労判ジャーナル165号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、Y社がXに対して令和6年4月17日付でした減給の懲戒処分は懲戒権を濫用するものであるから無効であると主張して、①本件減給処分が無効であることの確認を求めるとともに、②雇用契約に基づき、本件減給処分に係る減給相当額9290円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社が、令和6年4月17日付で、Xに対してした減給の懲戒処分のうち、減給の額が6143円を超える部分が無効であることを確認する。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 B職員は、令和2年2月から3月にかけて、Xから、職場から一緒に帰る、あるいは週末にハイキングに出かけるといった職務外のプライベートな付き合いに誘われたところ、「個人的なお誘いは遠慮させてください。」と明確にこれを断り、令和5年10月以降も、Xのランチやサイクリングの誘いに応じることなく拒否的に対応しており、Xも、B職員の上記対応から、同人が、Xに対し、私的な領域に踏み込まれたくないとの意向を有していることは、十分に認識していたと認められる。それにもかかわらず、Xは、B職員の上記意向を顧みることなく本件言動に及んだものであり、B職員が被った不安感、不快感は、到底軽視することはできない。
また、①Xは、Y社に提出した顛末書において、B職員が、偽名のLINEアカウントを利用してXにプライベートで接触しようとした、あるいは仮病を用いて勤務時間の短縮や在宅勤務をしたなどと、根拠に乏しい事実を挙げてB職員を非難し、自己の行為を反省する態度を示さなかったこと、②減給処分は、Y社の懲戒処分の中で下から2番目に軽いものであることからすれば、本件減給処分が「社会通念上相当であると認められない場合」(労契法15条)に当たるとはいえない。

2 原告の給与は毎月末日締め、当月20日払いであるところ、本件減給処分がされた令和6年4月17日(労基法12条「算定すべき事由の発生した日」)以前の3か月において原告に支払われた賃金は、令和6年1月分(同月末締め、同月19日支給)として32万5289円、同年2月分(同月末締め、同月20日支給)として36万0429円、同年3月分(同月末締め、同月19日支給)として46万8027円であり、このうち、同年3月分の賃金(46万8027円)には、6か月分の通勤交通費7万1100円が含まれていたと認められる。そうすると、「これを算定すべき事由が発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額」(労基法12条1項)に含まれるのは、7万1100円のうち、その3か月分に相当する3万5550円にとどまるというべきであり、上記賃金の総額は111万8195円となる。
また、上記期間の総日数は91日である。
そうすると、平均賃金は1万2287円となり(111万8195円÷91日=1万2287.85円、争いなし)、労基法91条の定める減給の上限額は6143円となる。
これに対し、Y社は、本件減給処分において、労基法12条所定の平均賃金の算出に当たって、①6か月分の通勤交通費である7万1100円をそのまま賃金総額に加えたこと、②Xの賃金は当月末日が締切日であり、「算定すべき事由の発生した日以前三箇月にその労働者に対し支払われた賃金」は令和6年1月分から3月分の賃金であるのに、同年2月分から4月分の賃金としたこと、③原告の賃金は月給制であり、「賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合」(労基法12条1項1号)に該当しないにもかかわらず、これに該当するとして、同法12条1項ただし書を適用し、同項1号によって算出した額(1万8579.02円)を平均賃金として採用したことにより、労基法91条の定める上記上限額(6143円)を超える金額(9290円)を減給したと認められる。
したがって、本件減給処分は、労基法91条に違反する。

3 労基法91条が減給額につき上限を設けた趣旨は、減給額が多額になって労働者の生活を脅かす事態を回避する点にあることからすれば、労基法91条の制限を超える減給処分がされたとしても、必ずしも減給処分全体が違法・無効となるものではなく、労基法91条の制限を超える部分が違法・無効となるにとどまると解すべきである。

減給処分が労基法91条に違反するとされた珍しい裁判例です。

平均賃金に関する単純な計算間違いですが。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

【労基法91条】就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

【労基法12条】この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額