メンタルヘルス12 原告の退職の意思表示を有効とする一方で、精神的不調がうかがわれる原告に言動を注意・警告する際に、職場環境調整義務違反があり慰謝料の支払いが認められた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、原告の退職の意思表示を有効とする一方で、精神的不調がうかがわれる原告に言動を注意・警告する際に、職場環境調整義務違反があり慰謝料の支払いが認められた事案を見ていきましょう。

イーオン事件(東京地裁令和5年3月22日・労経速2533号37頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、次のとおりの請求を行った事案である。
(1)地位確認及びこれに関する未払賃金請求
Xが、平成29年11月29日にY社と労働契約を締結したところ、Y社に対し、①雇用契約(本件契約)上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件契約に基づく賃金として、②令和2年3月31日以前に支払期日が到来する59万4000円(2か月分の賃金)+遅延損害金の支払を求め、③令和2年4月1日以降提訴日(令和3年7月10日)までに支払期日が到来する445万5000円(15か月分の賃金)+遅延損害金の支払を求め、④令和3年7月(提訴日より後)から本判決確定の日までに支払期日が到来する賃金(毎月25日限り29万7000円)+遅延損害金の支払を求めた。
(2)不法行為(主位的請求)又は債務不履行(予備的主張)
職場環境調整義務違反及び違法な退職勧奨を理由とする民法709条の不法行為又は本件契約の債務不履行に基づく損害賠償として、合計290万1845円(債務不履行については、弁護士費用26万3804円を除いた263万8041円)+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、適応障害に罹患していたものの、退職願を提出する前に、これに大きな影響を与える出来事があったとはいえないし、退職願提出後にも、再度、弁護士等と共に検討し、退職手続を進めていて、退職願提出時、適応障害の影響で真意に基づく判断ができなかったとはいい難い。更に、退職を決意させる大きな理由となった、異動が認められなかった点についても、Y社の裁量の逸脱・濫用があったとはいえない。そうすると、仮に、退職の意思表示に関し、自由意思の客観的合理的事情が必要であるとしても、かかる事情があると認められる。
よって、Xの退職願提出によって、退職の意思表示があったと認められる。

2 Cは、令和元年11月27日、再びXと面談し、Xの行動について、再び問題行動を繰り返すことがあれば直ちに解雇することを示唆しつつ、警告を行った
Y社は、Xが飲酒した上で出勤したことや、令和元年11月18日の公休日に本件カウンセラーに会うためa校に現れたこと、同月21日に女性同僚に対し不適切なセクハラ発言をしたことを前提として注意を行っている。
これらの行為のうち、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言については、事実であると認められ、就業規則に抵触するものであり、注意の必要性があったことを否定できない
しかし、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言は、Xの精神状態の悪化を示唆するものともいえるから、言動を注意する場合でも、精神状態を悪化させかねない方法を避けて慎重に行う必要があった
次に、本件公休日出勤については、公休日にa校に現れたことの目的が、本件カウンセラーに会うためであったと認めるに足りる証拠がなく、これについては注意の必要性があったのか疑問が残る。また、仮に、これらの行動が事実であり、注意の必要性があったとしても、本件飲酒出勤や本件セクハラ発言と同様、この行動自体がXの精神状態の悪化を示唆するものであるともいえるから、言動を注意する際には、精神状態を悪化させかねない方法を避けて慎重に行うべきである。

精神的不調がうかがわれる従業員に対して言動を注意・警告する際の注意点が判示されていますが、判決文を読むと、使用者側に対する過度な要求であるようにも読めてしまいます。

現場において、精神疾患のある従業員に対して腫れ物に触るような対応になっているのもやむを得ないように思います。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。