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今日は、年俸制の従業員の賃金について、客観的に合理的な年俸制の決定方法が合意されているとはいえないとして、使用者による一方的な賃金減額を否定した事案を見ていきましょう。
フォーラムエイト事件(東京地裁令和7年6月5日・労経速2601号12頁)
【事案の概要】
本訴は、Y社との間で雇用契約を締結し、就労していたXが、Y社に対し、〈1〉Y社が、Xの給与につき、令和2年7月1日付けで、従前の年俸800万円から年俸650万円に改定したのは、違法な減額であるとして、Y社に対し、同年8月分から同年12月分まで賃金不足額として各月12万5000円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉Y社がXに対し、令和2年7月1日に上記賃金の減額を行ったこと、同年12月9日に退職勧奨を行ったこと、令和3年6月21日に総合職から一般職に降格させるとともに、年俸を650万円から480万円に減額したこと、同年7月6日にNへの転勤及び営業職への変更を命じたことは、いずれも違法・不当であり、不法行為を構成するとして、Y社に対し、慰謝料として700万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
反訴は、Y社が、Xに対し、不当利得返還請求権に基づき、令和4年7月31日までにY社が立替払を行った原告の社会保険料等(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険、雇用保険及び住民税をいう。以下同じ。)及び勤怠控除すべき賃金の合計45万7200円の支払+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 Y社は、Xに対し、62万5000円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、110万円+遅延損害金を支払え。
3 Xは、Y社に対し、45万7200円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 本件雇用契約にかかる雇用契約書には、「給与の改定は、原則として7月と1月に実施する。ただし、改定が実施されない場合は上記年俸を継続して適用する。」(以下「本件給与改定合意」という。)とされているほかに、同書面及び本件就業規則上も、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無等具体的な定めが置かれていない。
賃金が労働条件の中でも最も重要なものの一つであり、このような労働条件は、労働者及び使用者が対等の立場で合意して決めるべき事項であること(労働契約法3条、労働基準法115条、89条参照)に照らすと、本件給与改定合意は、XとY社が客観的で合理的な年俸額の決定方法を合意した場合に、これに従って、Y社にXの年俸額を決定する権限を付与することを合意したものと解するのが相当である。
Y社は、力量基準レベルに基づいて各従業員の力量・成果を各グループ長が査定し、100点を最高点として評価点を付け、従業員を順位付けし、かかる人事評価の序列と年収(諸手当、賞与等を加えたもの)が可能な限り一致するよう均衡を図り、給与額を決定するという方法をとっていたものである。力量基準レベルは、求められる力量が3段階で示されたものであり、査定する際の考慮要素は示されているものの、これがどのように評価されて点数化されるのかは明らかでなく、また、どのような場合に、どの程度の金額が減額されるのかといった客観的な基準が示されたものでもない。
Y社は、Xについて、その査定の序列とXの年収の乖離が激しいとして、Xの年収を減額しているが、序列とそれに見合う年収の乖離率といった基準があるとも認められないし、そもそもその序列は新入社員を含めた全社員を一律に並べるというものであって、そのような序列とXの年収の乖離を見るということ自体の合理性も疑問がある。
さらに、減額の限界も設定されておらず、減額の幅が大きくなりすぎないようY社において事実上配慮して給与額を決定するというのであり、制度的に恣意性が排除されることが担保されているものともいえない。
そうすると、XとY社との間で、客観的で合理的な年俸額の決定方法が合意されているとはいえないから、本件給与改定合意をもってY社がXの年俸額を一方的に決定する権限を有しているとは認められない。
したがって、Xの同意なくされた本件賃金減額〈1〉は無効である。
また、本件賃金減額〈1〉は、年俸を800万円から650万円とし、減額の幅は18.75%に及び、労働基準法91条が定める減給の制裁についての限界をも大きく超えるものであることからしても、無効であるというべきである。
2 本件賃金減額〈1〉は無効であり、その減額の幅は18.75%に及び、Xの生活を脅かす重大なものであったといえ、不法行為に当たるというべきである。Xの精神的苦痛は、減額分の給与が支払われることにより相当程度慰謝されるものといえることのほか、本件に顕れた一切の事情を考慮し、かかる不法行為に基づく精神的苦痛を慰謝するために必要な金額は、10万円と認めるのが相当である。
年俸制を採用する際の留意点がとてもわかりやすく記載されています。
本件裁判例が求める程度の具体的な年俸制度の内容を取り決めていないケースも散見されますので注意しましょう。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。