メンタルヘルス11 従業員との間のコミュニケーションがほぼ不可能であった原告に、休職期間満了から1か月後の復職が可能との診断書を踏まえても、期間満了による解雇が有効とされた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員との間のコミュニケーションがほぼ不可能であった原告に、休職期間満了から1か月後の復職が可能との診断書を踏まえても、期間満了による解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

三菱電機保険サービス事件(東京地裁令和5年3月10日・労経速2533号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結して就労し、その後、休職期間満了により解雇されたXが、当該解雇は解雇権濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
(1) 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
(2) 解雇後の月例賃金の支払(後記前提事実(3)のとおり、原告の賃金は毎月末日締め・同月20日払いとされていたが、請求は、毎月末日締め・翌月20日払いとして計算されている。)
ア 令和元年5月分から令和2年6月分までの月例賃金合計389万9000円+遅延損害金
イ 令和2年8月20日支払分から本判決確定の日までの月例賃金月27万8500円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件において、Xは、業務外の傷病である睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態により就労不能に陥り、その期間が50日以上継続したため、本件休職命令を受けたものである。そして、本件休職期間中、原告は、月1回から2回の頻度で本件クリニックでの受診を継続して抗うつ薬の処方を受けており、抗うつ薬を服用している間は調子が良いが、薬がなくなると寝たきりの状態になってしまうなどと訴えており、平成31年2月頃以降、受診をしなくなった時期もあるものの、医師の判断によるものとは認めることはできず、Xの症状が明確に好転していた形跡はない
さらに、平成30年以降は、Y社からXに対して連絡が度々試みられたものの、Xの対応としては、平成31年4月18日に、体調不良のため対応できないと記載したメールを送信したのみであり、本件休職期間満了後も、やはり体調不良のため面談ができないなどと述べて、Y社従業員との間のコミュニケーションがほとんど不可能であったことからすれば、本件休職期間満了後に作成された令和元年5月診断書に、抑うつ状態の症状に改善が見られ、同月31日時点で復職が可能である旨記載があることを踏まえても、本件休職期間満了までに、Xが、Y社において、従前の業務である生命保険及び損害保険の営業業務に従事することが可能になっていたと認めることはできない。さらに、上記のとおり、本件休職期間満了時において、Y社従業員とのコミュニケーションですらほとんど不可能であったというXの状態からすれば、同時点において、ほどなく従前の業務をこなせる程度に回復すると見込まれていたともいえず、また、仮にXを配置転換するとしても、その当時のXにおいて、債務の本旨に従った労務の提供が可能となるような軽減業務があったと認めることもできない
したがって、Xにつき、本件休職期間満了までに、本件雇用契約に基づく就労義務の本旨に従った履行が可能となる程度にまで傷病休職の原因となった睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態が治癒していたということはできない。

2 Xは、Y社が、Xの復職希望の意思を確認することなく、退職することを前提にXに連絡をし、Xの復職希望を受け付けないという態度を示したために、復職の意思の伝達が遅くなった旨主張する。しかし、Y社がXの復職希望の意思を確認するか否かは、本件休職期間満了による解雇猶予の終了とは無関係である。また、本件解雇規定においては、従業員に対し、休職期間の満了時に退職届を提出することを求める規定が置かれているところ、Y社就業規則、傷病休職取扱規則に基づく傷病休職の性質からすれば、解雇猶予の効果がなくなる時点で、本件解雇規定に基づく解雇に先立って、自主退職を求めること自体は、不合理なものではないということができるから、Y社が、本件休職期間満了が近づいても、Y社従業員とのコミュニケーションがほとんど不可能であったXに対し、上記規定に基づいて、退職届の提出を求めることが、不当な措置であったということはできない。また、Xにつき、本件休職期間満了までに、睡眠時無呼吸症候群及び抑うつ状態が治癒していなかったのであるから、Xの復職申し出が遅れたとしても、本件解雇が無効ではないという結論に影響を及ぼすものではない。

上記判例のポイント1の思考過程はしっかりと押さえておきましょう。

特に休職期間満了時に、主治医の診断書では復職可とされているような事案においては慎重に対応する必要があります。

使用者としていかなる判断をするべきかについては、顧問弁護士の助言の下で検討するのが賢明です。