おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。
今日は、部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性に関する判例を見ていきましょう。
糸島市・市消防本部消防長(懲戒免職処分取消等、懲戒処分取消請求)事件(最高裁令和7年9月2日・ジュリ1616号4頁)
【事案の概要】
本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者である糸島市消防長から、部下に対する言動等を理由とする懲戒免職処分を受けたため、Y市を相手に、その取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求及び損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。
Xがした各指導は、訓練やトレーニングとして通常行われる範囲を逸脱したものではあるけれども、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難い。各発言についても、これにより精神的に苦痛を受けた者が相当数に上るものの、言い過ぎの面や、表現が適切でなく、口の悪さが現れたにすぎないところもある。被害を受けた職員に重大な負傷も生じていないことを踏まえると、Y市がした非違行為による他の職員及び社会に対する影響が特に大きいとまではいえない上、Xが、本件処分以前に懲戒処分を受けたことがなく、訓練やトレーニングの際の指導等につき個別に注意等を受けたとの事情も見当たらないこと、Xが一定の反省の態度を示していること等をも考慮すると、懲戒の中で最も重い免職を選択した本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。
【裁判所の判断】
1 原判決中Y市敗訴部分を破棄する。
2 第1審判決中Y市敗訴部分を取り消す。
3 前項の取消部分につきXの請求をいずれも棄却する。
4 第1項の破棄部分に関するXの附帯控訴を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件各行為のうち各指導は、いずれも、Xが職場内における優位性を背景として、採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上で力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせるなどしたものであり、部下に傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練やトレーニングに係る指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するものというほかない。
また、各発言には、部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したりするもののみならず、その家族をも侮辱したりするものも含まれている。このように、本件各行為は、部下に対する言動として極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いというべきである。
また、消防職員については、火災等の現場において住民の生命や身体の安全確保のための活動等を行うという職務の性質上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱する各指導が許容される余地はないのであって、各指導を含む本件各行為が、部下に対する悪感情等の赴くままに行われた部分が大きかったことからしても、Xが本件各行為に及んだ経緯に酌むべき事情があるとはいえない。
さらに、本件各行為は、小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあるXが、少なくとも10人もの部下に対し、十数年もの長期間、多数回にわたり、上記のような不適切な指導や発言を執拗に繰り返したというものであり、甚だしく職場環境を害し、Y市の消防組織の秩序や規律を著しく乱すものというべきである。消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上重要であることにも鑑みれば、本件各行為が及ぼす上記のような悪影響は看過することができないものである。消防本部においてXらによるいじめやしごき等により若手の職員の退職が相次いでいるなどの記載がある文書の提出を受けたY市長の指示により調査が行われ、多数の職員がXの職場復帰に反対する旨の書面を提出したことは、以上の現れということができる。
2 以上説示したところに照らせば、Xには本件処分以外に懲戒処分歴がないこと等の事情があり、免職処分が公務員の地位の喪失という重大な結果を生じさせるものであることを踏まえても、Xに対する処分として免職を選択した消防長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
ご覧のとおり、判断する裁判官によって、同じ事案でも180度異なる判決が書けてしまいます。
どの事情に光を当てるかによって、こうも違う判決になります。
あきらめたらそこで終わり。
日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。