Daily Archives: 2019年11月5日

継続雇用制度27 再雇用基準の不充足を理由とした更新拒絶(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

73日目の栗坊トマト。実が増えてきましたー。まだ緑色ですけど。

今日は、再雇用基準不充足を理由とした更新拒絶の適法性等に関する裁判例を見てみましょう。

エボニック・ジャパン事件(東京地裁平成30年6月12日・労判1205号65頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元正社員であるXが、平成27年3月31日付けで60歳の定年により退職し、雇用期間を1年間とする有期雇用契約(以下「本件再雇用契約」という。)により再雇用された後、「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」(以下「本件労使協定」という。)所定の再雇用制度の対象となる者の基準(以下「本件再雇用基準」という。)を充足しないことを理由として、平成28年4月1日以降は同契約が更新されず、再雇用されなかったこと(以下「本件雇止め」という。)について、実際には同基準を充足していたことなどから、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされること、平成27年分及び平成28年分の業績賞与の査定等に誤りがあることなどを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)並びに前期業績賞与の未払分の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 達成度評価における評価値(点数)が3点であるということは、平成25年までは「期待どおりであった」ことを、平成26年以降は「目標は完全に達成された」ことを意味するのであり、単年度だけでみても、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上であるか、少なくとも3点以上であるということは、特に良いとも悪いともいえないような大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含む趣旨で使用され得る「普通の水準」という用語の一般的な意味から外れるものである。まして、3年連続で全従業員の平均点以上の成績を収めることのできる従業員は、全従業員の半数を大きく下回る人数にとどまるのであり、「普通の水準」という用語の一般的な意味からは大きく逸脱する
そもそも、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上であることを要求する基準を設定する場合には、平均(アベレージ)という用語を使用するのが通常であると考えられるところ、本件人事考課基準において、かかる用語は使用されていない。
また、本件労使協定の交渉段階において検討された「グッドパフォーマンス」という基準ですら、達成度評価の評価値(点数)が4点以上であるなどの高い水準を意味していたとは考えがたいところ、これよりも低い「普通の水準(オーディナリーパフォーマンス)」が基準とされたものであるし、本件労使協定が締結された当時、Y社の社内において、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上ないし3点以上でなければ、本件人事考課基準を充足したことにはならない旨の説明がなされたことを窺わせる形跡もない。

2 以上検討したところに加え、本件労使協定に基づく再雇用制度は、高年法上の高年齢者雇用確保措置の1つである継続雇用制度として設けられたものであることを踏まえると、本件人事考課基準が、過去3年間のいずれの年においても、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上とか、3点以上といった趣旨であるとは解しがたい。むしろ、「普通の水準」は、大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含む趣旨と解すべきであるし、「過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上であること」というのは、過去3年間について、3年連続で「普通の水準」以上であることを要求するものではなく、過去3年間を通じて評価した場合に「普通の水準」以上であれば足りるという趣旨と理解するのが合理的である。

3 Y社は、①本件雇止めが行政取締法規である高年法に違反するとしても、その違反の効果として私法的効力が生じる余地はないこと、②定年退職者全員が有期雇用となる被告における定年後の再雇用において労働契約法19条を適用することは、法の趣旨に反すること、③特別支給年金受給開始年齢到達後の継続雇用制度と同年齢到達前の継続雇用制度とは別個のものであること、④就業規則16条2項は、平成24年改正法前後の継続雇用制度が別制度であるとの理解を反映したものであることを指摘して、平成28年4月1日以降のXの再雇用について、労働契約法19条の適用は問題とならないと主張する。
しかしながら、上記①については、高年法それ自体が私法的効力を有していないとしても、高年法の趣旨に沿って設けられた就業規則16条2項及び本件労使協定が私法的効力を有することは明らかであり、これらの解釈に当たり高年法の趣旨が参照されることに支障があるとはいえない
また、労働契約法19条は適用対象となる有期雇用契約の類型等を特に限定しておらず、他の同種の従業員全員が有期雇用であるとか、定年後の再雇用であるといった理由により、その適用自体が否定されるものではないから、同②の指摘は失当である。
そして、同③及び④の指摘については、本件再雇用契約が「更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」か否かを検討するに当たり考慮すべき事項であるとしても、労働契約法19条の適用自体を否定する根拠とはなり得ないから、労働契約法19条の適用は問題とならないとの上記Y社の主張を採用することはできない。

久しぶりの継続雇用関係の裁判例です。

継続雇用については、同一労働同一賃金関係の訴訟とともに、本件のような入り口でのトラブルもありますので注意しましょう。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。