労働時間56(長崎市立病院事件)

おはようございます。
92日目の栗坊トマト。 もう食べてもいいですかね?

今日は、抄読会、学会への参加及び自主的研さんが労働時間に当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

長崎市立病院事件(長崎地裁令和元年5月27日・労経速2389号3頁)

【事案の概要】
(1) 第1事件
 Y社が開設するY1において、心臓血管内科医として勤務していた亡H(以下「H」という。)の妻である原告A並びにHの子である原告B及び原告Cが、Hが被告病院において時間外労働をしたにもかかわらず、割増賃金が一部未払であるとして、Y社に対し、次の各金員のうち原告Aらが各法定相続分(原告Aにつき2分の1、原告B及び原告Cにつき各4分の1)により相続した金額の支払を求める事案である。
ア(ア) Hと被告の労働契約に基づく平成26年4月1日から同年12月17日までの未払割増賃金848万4715円
 (イ) 上記(ア)の金員に対する各支払期日の翌日から退職日である平成26年12月18日まで民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金16万4331円
 (ウ) 上記(ア)の金員に対する退職日の翌日である平成26年12月19日から支払済みまで賃金の支払確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金
イ 労働基準法114条に基づく付加金782万8424円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(以下、省略)

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Hは、平日の所定労働時間外や、当直業務や拘束業務がない所定休日においても、担当の入院患者の診察や、容体急変への対応など、その時々の業務上の必要に応じて通常業務に従事していたと認められ、また、拘束業務中に来院要請を受けた場合にはこれに応じて緊急カテーテル手術を行うなどしており、このような通常業務に従事した時間は原則として労働時間に該当する。もっとも、Hは、他の心臓血管内科医が行うカテーテル治療の見学を自主的に行っていたと認められるところ、所定労働時間外に行われた5時間39分の自主的見学時間については、被告の指揮命令に基づく労働であるとはいえないから、労働時間には該当しないといえる。

2 Hは、当直業務に従事していた。Y病院は、24時間態勢で高度な循環器医療を提供することを診療方針としており、当直医は、当直室において待機して仮眠をとることもできるが、心臓疾患の救急患者が来院するなどした場合には速やかに対応を行うことが義務づけられており、現に、当直医の平均仮眠時間は3時間ないし6時間程度であると認められることに照らせば、仮眠時間も含めて当直業務中に労働から離れることが保障されていたとはいえず、当直業務は、全体として手待時間を含む労働時間に該当するというべきである。

3 看護師勉強会、救命士勉強会及び症例検討会については、心臓血管内科の主任診療部長であるIが心臓血管内科医らに対し、講義や発表の担当を行うよう打診し、あるいは割振りを行っていたと認められ、心臓血管内科の若手医師であるHにとっては、その講義の担当や、発表の担当を断ることが困難であったことからすれば、これらを担当するように上司から指示されていたものと評価することができる。そして、その内容も、看護師勉強会については新たに心臓血管内科に配属となった看護師に対する教育を内容とするものであり、救命士勉強会及び症例検討会は、心臓血管内科で扱われた症例を前提とした意見交換や知識の共有を目的とするものであるから、いずれも心臓血管内科における通常業務との関連性が認められる。そうすると、看護師勉強会の講義時間及びその準備時間、救命士勉強会及び症例検討会の発表時間や準備時間については、使用者の指揮命令下にある労務提供と評価することができ、労働時間に該当するというべきである。

4 Hは、派遣講義の講師を担当していたところ、派遣講義については、Y病院長の指示により派遣されるものであることからすれば、労働時間に該当するというべきである。もっとも、Hは、長崎市医師会看護専門学校から派遣講義に対する対価として相応の講師料を受領していたと認められるから、派遣講義の準備や生徒に対する試験の採点などの業務に要する時間は、業務起因性を判断するに当たっての労働時間には該当するが、割増賃金の清算の対象となる労働時間とはならない

5 Hは、就労期間中に、Y病院での抄読会に参加し、また学会発表を行うなどし、さらに、Y病院内で自主的な研さん活動を日常的に行っていたと認められる。
 抄読会については、通常業務が繁忙である場合には中止となることも多かったと認められ、その内容も英語の論文の要旨を発表するというもので、心臓血管内科における症例についての検討等を内容とする救命士勉強会及び症例検討会と比較すると、業務との関連性が強いとは認められず、自主的な研さんの色合いが強かったと推認されるから、抄読会の準備時間が労働時間に該当するとはいえない。また、学会への参加についても、IがHに対して学会への参加を提案し、これにHが応じたということがあったと認められるものの、Hはカテーテル治療の習熟に熱心に取り組んでおり、知識の習得に積極的であったといえることに照らせば、学会への参加は自主的研さんの範疇に入るものといえ、学会への参加やその準備に要した時間は労働時間とはいえない。その他、Hは、被告病院滞在中に、自身の担当する患者の疾患や治療方法に関する文献の調査だけでなく、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法等に関する文献の調査を行うなどし、自己研さんを行っていたところ、自身の担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが、他方、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法に関する文献の調査に関しては、この部分に要した時間を労働時間と認めることはできない

拘束時間の長い職業について労基法を原則通り適用するとこのような結果となってしまいます。

難しい問題です。