賃金191 PCログ記録から労働時間を認定?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、残業を月30時間以内とする指導の事実を考慮し、PCログ記録を根拠に労働時間が認定された事案を見てみましょう。

大作商事事件(東京地裁令和元年6月28日・労経速2409号3頁)

【事案の概要】

本訴請求事件は、Y社の従業員として稼働していたXが、在職期間中、時間外・深夜労働に従事していたとして、Y社に対し、労働契約に基づき、時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、付加金の支払を求めた事案である。

反訴請求事件は、Y社が、Xにおいて、在職中、遅刻をしていたのに給与を不正に取得していたなどとして、Xに対し、不法行為又は不当利得に基づき、損害金又は不当利得金78万9577円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Xが在職中、不正な出勤簿を作成し、不正なパソコンのログデータを作成し、挙句、不正な本訴請求に及んだことが不法行為又は債務不履行に該当するとして、Xに対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害金712万4040円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、139万8751円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金50万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、X主張を裏付ける証拠として、自身が利用していたパソコンから抽出した記録であるというログ記録を提出している。その内容は概ね別紙4記載のとおりであって、これによれば、Xが出勤簿記載の労働時間よりも長く業務に従事していた可能性があるとみることができる。
よって検討するに、X本人は、出勤簿を作成するほかログ記録を残していた理由について、要旨、残業実績が出勤簿記載の労働実績より実際には多かったため、念のため残しておいた旨の供述をしている、かかる供述内容自体に特段不自然な点は見出されず、その抽出方法も、他の証拠に照らし、自然なものとして首肯することができる
この点、Y社は、ログイン・ログアウトを人為的に行った記録を特定することは困難であるとの意見書を提出し、ログ記録について争うが、上記甲号証に照らせば、少なくとも使用していたパソコンのWindowsの起動と正常シャットダウンの日時の特定に妨げないものとはいえる。
また、Xは、Y社において本件業務に当たってきたものであるところ、その業務の性質上、パソコンを多く利用する業務であったことは前記認定のとおりである。しかも、Xの供述によればもちろん、証人Bの証言によっても、パソコンを利用するのは、基本的には当該パソコンを割り当てられた個々の従業員であったものである。この点、証人Bの証言中には、他の従業員がXのパソコンを使用することもあったという趣旨の供述部分はあるが、B自身も頻繁にはないとしている上、具体的な頻度について自発的に明確な供述をできておらず、その供述を裏付ける証拠もないから、その証言はたやすく採用できない。しかも、前記認定のとおり、Y社においては週初めの午前8時30分から朝礼が行われていたところ、ログ記録は、内容的にもこうした事実に多く沿っているとみることができるほか、グループウェアのタイムカード記録(出勤記録)との齟齬もほぼ認められず、むしろ、ごくごく断片的証拠ではあっても、Y社の業務に係る画像データや動画データの更新日時との符合も認められる。なお、Y社は、これらデータにつき、更新日時を変更することが可能で信用性がないなどとも主張しているが、そのように改変がなされたと見るべき形跡は認められない。

2 Y社は、X本人が、本人尋問において、新人研修の際にY社従業員のCから月当たりの残業時間を30時間以内としなければならない旨の指導を受けたなどと供述していることをとらえて、そのような事実はなく、その旨述べるX本人の供述は不自然であるなどと主張する。確かに、証人Cは、月30時間を超える残業時間を記載することを禁ずる指導をしたことを否定する証言をしており、他にそのような指導がなされたことを裏付ける的確な証拠もなく、かえって、Y社の従業員の中には月30時間を超える残業時間を申告していた者がいると認められることは前記認定のとおりである。
しかしながら、X申告の出勤簿の残業時間をみると、月当たり30時間未満とされている月も散見されるものの、どの月も30時間を超えることはなく、多くは寸分違わず30時間と申告されているところであって、このこと自体、Xが、実際の労働時間いかんにかかわらず、月30時間以内に残業時間をとどめようとしていたことを強く窺わせるものといえる。そして、証人Bや同Cも、業務の効率的遂行といった観点から、個々の従業員の月当たりの残業時間が30時間以内となるよう指導していたこと自体は否定をしていない。そうしてみると、Xがこうした指導故に出勤簿記載の残業時間を多くとも30時間にとどめることとしていたと推認するのが合理的というべきであって、X本人の供述は同旨を述べるものとしてむしろ首肯することができる。
したがって、Y社指摘の点は、上記説示の点においてXの供述の信用性を高めこそすれ、その信用性を損なうものということはできない

残業時間を一定限度に制限するよう指導することはよくあることですが、ただ指導するだけでは足りず、当該指導に従わない従業員に対する労務管理を行わないと、結局、指導が有名無実化してしまいます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。