賃金197 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業手当と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

レインズインターナショナル事件(東京地裁令和元年12月12日・労判ジャーナル100号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、(1)時間外労働、休日労働及び深夜労働をし、かついわゆる固定残業代の支払が無効であるなどと主張して、時間外労働等に対する割増賃金約871万円等並びに労働基準法114条に基づく付加金約793万円等の支払を求め、(2)仮に固定残業代の支払が有効であるとしても、求人票記載の給与額の範囲内の基本給が支給されるとの期待を侵害しないよう基本給の額を定める信義則上の義務に違反した旨主張して、不法行為による損害賠償として上記割増賃金相当額の慰謝料の支払を求めるとともに、(3)Xの心身の不調を来す危険のある長時間労働に従事させたことが安全配慮義務違反であるなどと主張して、債務不履行又は不法行為による損害賠償として慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は一部認容+同額の付加金認容

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 固定残業手当の支払が割増賃金の弁済として有効か否かについて、給与規程における賃金の種類、本件固定割増手当規定の規定振り及び時間外勤務手当の算定方法に照らすと、Y社の賃金体系上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であることが明らかにされているというべきであり、そして、実際にXに支払われた固定割増手当の額は基本給を基礎賃金として計算した70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額と概ね一致し、加えて、時期によっては本件固定割増手当規定に係る時間外労働及び深夜労働の時間数と比較的大きな差があるものの、Y社は、割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたことを考慮すると、本件労働契約上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきであるから、固定割増手当の支払は割増賃金の弁済として有効であり、また、固定割増手当は労働基準法37条にいう「通常の労働時間」の賃金に当たらない。

2 安全配慮義務違反の成否及び損害の有無等について、Xは長時間労働により平成25年6月頃に脳梗塞を発症した旨主張するが、脳梗塞の発症前の長時間労働について具体的な主張すらしないから失当であるし、Xが脳梗塞を発症した事実を認めるに足りる証拠もなく、また、Xは、長時間労働をさせられたこと自体によって精神的苦痛を被った旨も主張するが、Aの指示による本件システム記録の労働時間の修正等を考慮しても、割増賃金の支払によってその精神的苦痛は慰謝されるというべきであり、損害が生じたとは認められないから、安全配慮義務違反を理由とする請求には理由がない。

固定残業制度が適切に運用されている例です。

いまだに固定残業制度の有効要件を充足していない例が散見されます。

残業代請求の消滅時効が今後ますます伸びますので、ご注意ください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。