Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ58(N商会事件)

おはようございます。 今年も一年よろしくお願いいたします。

今日は、セクハラに対する会社の対応につき債務不履行責任を否定した裁判例を見てみましょう。

N商会事件(東京地裁平成31年4月19日・労経速2394号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の従業員であるCからセクハラに該当する行為を受けたところ、Y社がこれに関する事実関係の調査をせず、安全配慮義務ないし職場環境配慮義務を怠ったこと等により精神的苦痛を被ったなどと主張して、債務不履行に基づき、損害金904万1960円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成25年9月頃に、Xから、Cよりメールを送信されて困っているなどとセクハラ行為に係る相談を持ち掛けられたのを受けて、まもなく、Cに対し、事実関係を問い、Cから事実認識について聴取するとともに、問題となっている送信メールについてもCに任意に示させて、その内容を確認するといった対応をとっているものである。
そうしてみると、Y社において、事案に応じた事実確認を施していると評価することができるところであって、Y社に債務不履行責任を問われるべき調査義務の違背があったとは認め難い
Xは、Y社において、CとXとの間で交わされたメールの提出を求め、あるいは、従業員全員から聴取を行うべきであったなどと主張しているが、Y社において、メールの確認はしているし、そのような事実確認も経ている中、プライバシーに関わる相談事象について、他の従業員に対し、殊更事実確認を行うことが必須ということもできず、Y社にXが主張するような具体的な注意義務があったとまでは認め難い。

2 Xは、Y社において、Xに対する職場環境配慮義務ないし安全配慮義務として、配置転換等の措置を取るべき注意義務があり、その違反があったとも主張する。
しかしながら、CがXに対してした所為が前記の範囲にとどまるものであったことや、そういった行為であってもXに不快な情を抱かせるものとしてCに対して厳重に注意もなされていること、そして、Cも自身の行為を謝し、Xもひとまずこれを了とし、その際、あるいはそれ以降、特段、Cから、メール送信等によりXに不快な情を抱かせるべき具体的言動がなされていたともY社に認められていなかったことは前記のとおりであるところ、Y社には本社建物しか事業所が存せず、配転をすることはそもそも困難であった上、この点措いても、そもそも倉庫業務担当者と営業補助担当者との接触の機会自体、伝票の受け渡し程度で、乏しかったものである(後に伝票箱による受け渡しで代替される程度にとどまっていることからもこの点は窺われる。)。しかも、Y社は、Xの発意に基づくものであったかは措くとしても、上記わずかな接触の機会についても、その意向も踏まえ、納品伝票を入れる伝票箱に入れることでやり取りをすることを認めたり、さらには担当者自体を交代するといったことも許容していたものである。そうしてみると、Y社において、事案の内容や状況に応じ、合理的範囲における措置を都度とっていたと認めることはできるところであって、Xが指摘するような注意義務違反があったとは認め難い。

ハラスメント事案が発生した場合の具体的な対応のヒントになる裁判例です。

どこまでいってもケースバイケースですが、考え方を学ぶにはこのような裁判例を理解しておくことが役に立ちます。

セクハラ・パワハラ57(学校法人工学院大学事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

94日目の栗坊トマト。 3つのトマトが赤くなっています。そろろそ食べますかね。

今日は、ハラスメントを理由とする減給処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人工学院大学事件(東京地裁令和元年5月29日・労判ジャーナル42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が設置するY大学の准教授が、Y社から、減給の懲戒処分を受けたことから、同処分が無効であると主張して、その旨の確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分の対象としての准教授の行為は、2名の女子学生に対し、性的な嫌悪感を抱かせる表現をしたり、指導等を施す立場にあることを背景に、交友関係に過度に干渉し、あるいは二人きりでの食事を求めるなどし、さらには再試験に関して便宜を図ろうとするなどしたものであって、指導の目的という側面が皆無ではないものもあるとはいえ、総じて、不見識であったり、手法として甚だ不適切な行為であったといわざるを得ず、そして、そうした准教授の所為の結果、2名の女子学生は困惑したり、不快の念を訴えて、その就学にも支障を来したとしてハラスメント申立てに至っているところであって、その被害についても軽視できないものがあり、准教授のかかる行為は、学校法人が、人権侵害のない快適な教育・研究環境作りを推進する観点から本件防止規程や本件行動規範を制定してハラスメント防止に取り組んできた努力を損ないかねないものであったといわざるを得ず、准教授は、学校法人による弁解の手続においても、反省の情に薄いところがあったと評価せざるを得ず戒告に次ぐ懲戒処分である減給程度の懲戒処分をもって臨んだからといって、これが重すぎて相当性を欠くということはできないから、本件懲戒処分が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえず、本件懲戒処分は有効と認められる。

ハラスメント事案では、懲戒処分の選択をする際、相当性要件に配慮して決定しなければなりません。

特に懲戒解雇を選択しようとする場合には、その後の訴訟リスクの検討が欠かせません。

セクハラ・パワハラ56(学校法人弘徳学園事件)

おはようございます。
75日目の栗坊トマト。実がどんどん大きくなってきています!

今日は、降格処分とハラスメントについて争われた裁判例を見てみましょう。

学校法人弘徳学園事件(神戸地裁豊岡支部令和元年7月12日・労判ジャーナル91号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の事務局長であったXが、Y社から受けた降格処分は理由のない無効なものであり、これにより賃金及び賞与を減額されたことに理由はないとして、雇用契約に基づく減額賃金及び賞与等の支払を求め、また、Y社に対し、上記降格処分の通知の際の亡学長のXに対する発言がハラスメントないしハラスメントに類する違法行為なのに、Y社のハラスメント防止委員会がXの苦情申立てに対応しなかったとして、職場環境保存義務違反による雇用契約の債務不履行による損害賠償として慰謝料50万円、また、Y社の准教授であるBが、Y社に対し、亡学長がBに対してした教授会での叱責等の言動がハラスメント行為なのに、Y社のハラスメント防止委員会がBの苦情申立てに対応しなかったとして慰謝料50万円を求め、Y社及び亡学長の承継人らに対し、亡学長の行為が業務指示の範囲を超えるものでかつBに専門外の講義をさせることがハラスメント行為であるとして、慰謝料50万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格処分は有効

ハラスメントに基づく損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件降格処分を告げられた際、亡学長から「納得できなければ裁判でもすればいい。裁判すれば、ここには居られなくなる」と言われ、かかる言動がハラスメントに当たると主張するところ、亡学長の言動は、Xが本件降格処分を不服として裁判をすれば、Xが職務上の何らかの不利益を被るかもしれないという恐怖心を与えるものであり、Xが本件降格処分についての裁判を提起するという正当な権利の行使を躊躇せしめるものであり、ハラスメントに当たるといえるが、もっとも、Xは、本件訴訟を提起したことで、Y社において、特に不利益を被っていないこと、Y社も、亡学長の言動を不適切と判断して、譴責の懲戒処分をしたことが認められることから、Xの被った精神テック痛は、大きいとまではいえないから、これを金銭的に評価すれば、10万円が相当である。

2 亡学長が、新入生歓迎会のしおりについて、教授会でBを叱責したことについてはハラスメントに該当し、Bは、精神的苦痛を受けたといえるところ、Bは、亡学長の言動について、ハラスメントとして苦情申立てをしたが、Bが申立ての方式を誤解していたとはいえ、Y社による対応が何もなされていないことから、Bの精神的苦痛は回復されていないといえるが、もっとも、Bは、亡学長の叱責をうけた直後は心理面について要診療とされるような状態であったが、診療は受けておらず、その後は、正常な状態に戻ったことが認められ、これらの事情を踏まえれば、Bの精神的苦痛は大きいとはいえず、金銭的に評価すれば、10万円が相当である。

金銭的なダメージよりもレピュテーションダメージを気にするべきです。

セクハラ・パワハラ55(キムラフーズ事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、同意のない賃金減額とパワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

キムラフーズ事件(福岡地裁平成31年4月15日・労判ジャーナル88号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務する従業員Xが、Y社に対し、平成29年5月支払分以降の月額賃金のうち、基本給について1万円、職務手当について5万円及び調整手当について1万円をそれぞれ減額されたことについて、上記賃金減額は労働契約法8条に違反し、また、Y社の給与決定に関する裁量権を逸脱したものであるから、無効であると主張して、従前の月額賃金として基本給、職務手当及び調整手当の合計の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、平成29年5月支払分から労働契約終了時までの間の差額賃金の支払を求め、平成27年夏季賞与から平成29円年末賞与までの各賞与額を不当に減額されたことにより、本来支給されるべき賞与額との差額分の損害を受けたとして、又は精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求め、会社代表者及び会社従業員からのパワハラにより精神的苦痛を受けたとして、労働契約上の就業環境配慮義務違反による債務不履行責任若しくは民法709条、会社法350条及び民法715条による不法行為責任に基づく損害賠償金等の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

賃金減額無効確認等請求、差額賃金等支払請求は認容

損害賠償等請求は一部認容

【判例のポイント】

1 本件賃金減額は、従業員の同意もないまま、就業規則等の明確な根拠もなく行われたものであるといえるから、本件賃金減額は無効であるといわざるを得ず、Y社は、Xに対し、平成29年5月支払分以降、毎月10日限り、差額賃金の7万円の支払義務を負う。

2 Xの主張する会社代表者のパワハラ行為のうち、Xのミスを怒鳴って、肘でXの胸を突いた行為、Xの背中を叩いた等の行為は、いずれもXの身体に対する暴行であり、Y社代表者がこれらの行為に及び必要性があったとは認められないから、Xに対する違法な攻撃として、不法行為に該当し、次に、会社代表者の発言や言動のうち「私はあなたのことを全く信用していない」、「給料に見合う仕事ができていないと判断したら給料を減額する」等の発言は、従業員の人格権を侵害する行為といえ、不法行為に当たるというべきであり、また、Y社の従業員Cが、Xに対し、「作業は1回しか教えない、社長に言われている」と発言したり、会社代表者から、途中の休憩は取らせるなと言われている旨等を告げた事実についても、会社代表者によるトイレ休憩をとらせないよう言った指示と相俟ってXの人格権を侵害する行為といえ、不法行為に当たるというべきであるから、Y社は、会社法350条及び民法715条に基づき、従業員が受けた精神的苦痛について賠償責任を負い、Xの身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額は50万円が相当である。

慰謝料額だけを見るとそれほど大きな金額ではありませんが、レピュテーションダメージは計り知れません。

パワハラ問題のコアは、アンガーマネジメントです。

規程を設けるだけでハラスメントがなくなればどれだけ楽か・・・。

セクハラ・パワハラ54(学校法人アナン学園事件)

おはようございます。

今日は、ハラスメントを理由とする懲戒解雇の可否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人アナン学園事件(大阪地裁平成31年2月5日・労判ジャーナル88号46頁)

【事案の概要】

本件は、教員として勤務していたXが、Y社から懲戒解雇されたが、同解雇は無効であるなどとして、地位確認並びに未払賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が主張する本件各セクハラ行為は、学校において、生徒に対して行ったとされているものであるから、「私生活上の違法行為」には該当せず、就業規則の懲戒解雇理由に該当するとは認められず、本件パワハラ行為及び本件各セクハラ行為が、就業規則上の懲戒解雇理由に該当するということはできず、Xを懲戒解雇することはできない

2 練習時に右肩を負傷し、それがXから直接新しい技を掛けられたためであるとまでは認め難く、仮にそうであるとしても、Xが故意に暴行を加えて負傷させたと評価することはできず、当該負傷を理由に合気道部を退部したとしても、そのような選択をした結果にすぎないというべきであり、Xが、後ろ回り受け身の練習をした日に、その臀部を触ったのは、補助を行う際の出来事であるところ、性的意図をもって臀部を触ったとまで認めることはできず、「彼氏はおるん?」、「彼氏とどこまでした?」、「ちゅーした?」、「今日調子悪いけど生理?」との各発言については、全幅の信用性を認めることは困難な証言のみに依拠するものであるが、仮にこれら及び「女の子は子宮に気をつけなあかん。」との発言を行った場合に、不快に感じたであろうことは想像に難くないが、これらの発言等により、Xとしての地位を失わせる以外の何らかの処分をもって自戒の機会を与えることなく直ちに解雇にまで踏み切ることは、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、普通解雇は無効である。

上記判例のポイント1のようなケアレスミスをなくすために、必ず顧問弁護士の助言に従って手続きを進めるべきです。

同様に、上記判例のポイント2についても、弁明の機会を与えること、処分の相当性等について慎重に検討する必要があります。

セクハラ・パワハラ53(佐賀県農業協同組合事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

佐賀県農業協同組合事件(佐賀地裁平成30年12月25日・労判ジャーナル86号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元職員Xが、在職中、Y社の組合員による研修旅行に随行した際、Xからわいせつ行為を受けたため心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、Y社に対し、債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償として、約2441万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件の中核である行為(2)は、組合員であるAが、部会の研修旅行の際、Xの宿泊する部屋を深夜に1人で訪れ、入室させるよう求め、これに応じたXと室内で話をしていた際、30分ほどが経過したところで、いきなりXに抱き付いてキスをし、口の中に舌を入れ、着衣内に手を入れて乳房を揉み、着衣内に顔を押し込んで乳房を舐め回し、ショーツの上から臀部を撫で回すなどのわいせつ行為をしたというものであり、他方、Y社の予見可能性を基礎付ける出来事としてXが主張するのは、Y社の組合員が部会の研修旅行中に昼間から飲酒の上、移動のパスの中でXの脚を触り、背後からXに抱き付いて胸に手を当てた、全裸でサービスをするコンパニオンを懇親会に呼んだ等というものであるが、上記の出来事に係る行為者は、いずれもAではないし、行為(2)は、行為を抱いていた女性の部屋で、深夜2人きりになったことを奇貨として及んだわいせつ行為であり、部会の研修旅行に係る営農指導員としての業務の遂行に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することは困難であり、また、Xが主張する出来事が本件事件を予見させるものであったとは認められないから、本件事件について、Y社に予見可能性があったということはできない

2 職員でないAに対し、Y社が実効性のある措置を講ずることには困難な面があるところ、Y社は、内部的に、Aが、Xに対し、被害賠償を行う措置を講じており、Xは、懇親会にコンパニオンを呼ぶこと自体をやめるべきであるというが、部会の行為に係る意思決定は部会自身が行うのであり、研修旅行・懇親会の内容について決定するのも部会自身であるから、コンパニオンを呼ばない等の懇親会に係る監督・指示・決定の権限がY社にあるとは認められず、Y社の職員は、事務委託契約に基づき、部会の研修旅行に随行するにすぎないから、随行を要しないとするのは、再発防止に向けた措置として、より現実的なものというべきであること等から、本件事件に関し、Y社に事後措置義務違反があったとはいえず、農協に安全配慮義務違反があったとは認められないから、Xの請求は理由がない。

請求棄却とはいえ、使用者側のレピュテーションダメージは計り知れません。

それにしてもどんな研修旅行やねん・・・

セクハラ・パワハラ52(A市事件)

おはようございます。

今日は、コンビニエンスストア店員へのセクハラ行為を理由とする停職処分が適法とされた判決を見てみましょう。

A市事件(最高裁平成30年11月6日・労経速2372号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の男性職員であるXが、勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員に対してわいせつな行為等をしたことを理由に、停職6月の懲戒処分を受けたが、同懲戒処分については、処分事由の一部に該当する事実がなく、また、処分の量定において裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があるから違法であると主張して、同懲戒処分の取消しを求める事案である。

原審は、Xの請求を認容した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される。

2 原審は、①本件従業員がXと顔見知りであり、Xから手や腕を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと、②本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まず、そのためもあってXが警察の捜査の対象にもされていないこと、③Xが常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められないこと、④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと等を、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くことを基礎付ける事情として考慮している。
しかし、上記①については、Xと本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから、本件従業員が終始笑顔で行動し、Xによる身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは、客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、身体的接触についての同意があったとして、これをXに有利に評価することは相当でない。
上記②については、本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まないとしても、それは、事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される
さらに、上記③については、行為1のように身体的接触を伴うかどうかはともかく、Xが以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2)、これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは、本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。
そして、上記④についても、行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上、複数の新聞で報道され、Y社において記者会見も行われたことからすると、行為1により、Y社の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり、社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。
そして、市長は、本件指針が掲げる諸般の事情を総合的に考慮して、停職6月とする本件処分を選択する判断をしたものと解されるところ、本件処分は、懲戒処分の種類としては停職で、最も重い免職に次ぐものであり、停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって、Xが過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば、相当に重い処分であることは否定できない。
しかし、行為1が、客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難さ
れるべき行為であって、Y社の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり、また、Xが以前から同じ店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情に照らせば、本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、市長の上記判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

3 以上によれば、本件処分に裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

同じ事案でも判決を書く裁判官が違えば、こうも事実の評価の仕方が変わるという典型例です。

評価は絶対的なものではなく極めて相対的なものです。

事実なんてものはどうとでも評価できるということがよくわかりますね。

親と裁判官は選べませんので、受け入れるしかありません。

セクハラ・パワハラ51(プラネットシーアール・プラネット事件)

おはようございます。

今日は、未払賃金請求とパワハラ等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

プラネットシーアール・プラネット事件(長崎地裁平成30年12月7日・労判ジャーナル84号20頁)

【事案の概要】

本件は、A社に採用されて休職した労働者が、A社から時間外労働に対する賃金が支払われていないとして、A社に対し、未払賃金合計約258万円等の支払、A社との間で労働契約上の地位を有することの確認を求め、前記休職は上司であったCのパワハラ等が原因で精神疾患を発病したことによるものであり、労働者は休職後も月例賃金及び賞与の請求権を失わないと主張して、A社に対し、休職後の月例賃金及び賞与等の支払を求め、Cに対し、不法行為に基づく損害賠償金約330万円等の支払を求めるとともに、A社に対してはCの使用者(民法715条1項)として、Bに対してはA社の代理監督者(同条2項)として、それぞれ前記金員の連帯支払を求め、また、本件訴訟係属中におけるA社の労働者に対する文書送付に基づき、A社に対し、慰謝料等110万円等の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 未払賃金等支払請求は一部認容

2 労働契約上の地位確認請求は却下

3 損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 上司であったCの叱責は、内容的にはもはや叱責のための叱責と化し、時間的にも長時間にわたる、業務上の指導を逸脱した執拗ないじめ行為に及ぶようになっていたところ、Xは、職場の状況から、多くの作業を抱え込み、長時間労働を余儀なくされており、更にCの前記のような嫌がらせ、いじめ行為を含む継続的な叱責を受けたため、強い精神的負荷を受け、その結果、適応障害を発病して休職を余儀なくされたと推認され、Xの休業が労働災害によるものと認められ、労働者が休業補償給付決定を受けたことからも肯認でき、Cの前記行為は、Xの人格権等を違法に侵害する不法行為(民法709条)に当たるというべきであり、Cは、Xの損害を賠償する責任を負うというべきであり、また、Cの当該行為はA社の業務を行うにつきされたものであるから、A社も、使用者責任(民法715条1項、709条)に基づき、Xの損害を賠償する責任を負うというべきである。

2 文書5、6は、文書1~4が訴訟代理人間で法的主張を交換する中でされたり、使用者の業務権限に基づいてされたものであるのと異なり、直接労働者に宛てて、全体として、労働者が自らのパワハラ被害を訴えてA社及びB社を批判し、本件訴訟で係争すること自体が非常識で分をわきまえない行為であるかのように労働者を見下して一方的に非難し、貶めたりするものであって、これらの文書を送付する行為は、労働者の名誉感情を侵害する違法な侮辱行為に当たり、不法行為を構成するものと認められ、また、文書5、6は、専らA社・B社の代表者であるDの意思で作成され、同時期に送付されたものであるから、文書5、6の送付行為は、D、B社代表者及びA社代表者の意思連絡の下でされた共同不法行為に当たると解するのが相当であるから、D、A社及びB社は、民法719条1項、709条、会社法350条に基づき、文書5、6の送付により労働者の被った損害を連帯して賠償する義務を負うと解するのが相当であり、労働者の精神的苦痛を金銭をもって慰謝するには20万円が相当である。

この類の訴訟は今も昔もとても多いです。

管理職に対して、パワハラに関する研修を定期的に実施するを強くお奨めします。

セクハラ・パワハラ50(大島産業事件)

おはようございます。

今日は、暴行及び人格権侵害等を理由とする損害賠償責任が認められた裁判例を見てみましょう。

大島産業事件(福岡地裁平成30年9月14日・労経速2367号10頁)

【事案の概要】

甲乙事件は、Y社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働していたXが、①Y社に対し、未払賃金929万7149円+遅延損害金を支払うよう求め、②B及びCに対し、Y社が前記①の未払賃金を支払わないことについて、Bが同社の代表取締役として、Cが同社の事実上の取締役として、それぞれ会社法429条1項又は民法709条に基づく損害賠償責任を負うと主張して、前記①の未払賃金+遅延損害金をY社と連帯して支払うよう求め、③Y社に対し、労働基準法114条に基づく付加金541万2912円+遅延損害金の支払を求め、④C及びY社に対し、CはXに対しパワーハラスメントと評価されるべき不法行為を行っていたところ、Cは民法709条に基づき損害賠償責任を負い、Y社は会社法350条の類推適用により事実上の取締役であるCがその職務を行うについてしたパワハラについて損害賠償責任を言うと主張して、165万円+遅延損害金を連帯して支払うよう求めるほか、Cに対しては前記165万円に対する不法行為の後である平成26年3月6日から平成27年8月31日まで同割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

丙事件は、Y社が、Xに対し、Xが平成25年9月28日及び平成26年3月7日に業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため、Y社は受注していた運送業務を履行できず損害を被ったと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、229万7635円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、937万0829円(未払賃金)+遅延損害金を支払え

2 Y社はXに対し、494万8855円(付加金)+遅延損害金を支払え

3 C及びY社はXに対し、連帯して110万円(パワハラの慰謝料等)+遅延損害金を支払え

4 CはXに対し、110万円に対する平成26年3月6日から平成27年8月31日までの遅延損害金を支払え

5 XはY社に対し、12万2609円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件失踪1の後に復職を認めてもらおうとしてY社に戻った際、E常務に指示されて、社屋入口前で、Cが出社して来るまで土下座をし続け、出社して来たCはこれを一瞥したが土下座を止めさせることはなく、Xはその後も数時間にわたり土下座を続けたことが認められる。
従業員が数時間にわたり社屋入口で土下座し続けるという行為は、およそ当人の自発的な意思によってされることは考えにくい行為であり、Cとしても、Xが強制されて土下座をしていることは当然認識し得たものとみられる。にもかかわらず、前記認定のとおり、Cは制止することなくXに土下座を続けさせたのであるから、XはCの指示で土下座させられたのと同視できるというべきである。したがって、Cは、民法709条に基づき、土下座を続けさせられたことによりXが受けた身体的、精神的苦痛について不法行為責任を負う。
また、上記Cの行為は、XのY社での就労再開に関して行われたもの、すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから、Y社は、会社法350条の類推適用により前記のXが受けた身体的、精神的苦痛について賠償責任を負う。

2 C名義のブログ記事は、これが他人から閲覧されればXの名誉を棄損する内容であり、前記のXに関する記事が掲載されることによって、Xの名誉を棄損するものであると認められる。そして、Cは従業員に対する名誉毀損行為を防止すべき義務を負っていたといえるから、ブログ記事の掲載を放置したことについて、民法709条に基づき不法行為責任を負う。
また、Cは事実上の代表取締役であると認められるから、Y社は、会社法350条に基づき、Cが職務を行うについてXに与えた精神的苦痛を賠償すべき責任を負う。

認容された未払賃金額もさることながら、事案の性質から来るレピュテーションダメージの方がよほど影響が大きいと思われます。

どこかの段階で口外禁止条項を付した和解ができなかったのでしょうか・・・。

セクハラ・パワハラ49(共立メンテナンス事件)

おはようございます。

今日は、上司による暴行が違法なパワーハラスメントと評価されたが、暴行を受けた労働者が発症した適応障害の業務起因性が否定された裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労経速2364号6頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xは、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司であったCからも勤務中に暴行を加えられたことによるものであると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、Cの上記暴行につき、Cに対しては民法709条に基づき、Y社に対しては民法715条に基づいて、連帯して200万円の損害賠償(慰謝料)+遅延損害金の支払を請求し、さらに、前記の上司等による継続的なパワーハラスメントに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、連帯して、Xに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Cは、平成27年7月11日午前、Xに対し、Xの仕事ぶりを非難して、Xの腕を掴んで前後に揺さぶる暴行を加えた上、別の客室で、再度、恫喝口調でXを詰問し、「やれよ。」「分かったか。」などと繰り返し述べて迫り、壁にXの身体を押し付け、身体を前後に揺さぶる暴行を加え、逃れようとしたXが壁に頭部をぶつけるなどし、Xに頭部打撲、頸椎捻挫の傷害を負わせたものであって、このようなCの行為が、Xに対する不法行為を構成することは明らかである。

2 上記Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上(Xは、本件事件から約2か月後の同年9月16日にもY1病院を受診しているが、医師の診察所見として意識清明で神経学的にも異常はなく、頭部CTの結果でも異常はないとされている。)、Cの行為態様としても、Xが主張するような頭部を壁に打ち付けるようなものではなかったことは前記で認定したとおりであり、その行為態様が強度なものであったとまではいい難いことや、Cの暴力行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかるCの暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発症するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ない。
そして、Xが、Y1病院のみならず本件事件当日に受診したY4病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xの適応障害の原因が本件事件以外の業務外の要因にもあるとの合理的な疑いを容れる余地がある

3 行政庁の上記判断が裁判所の判断を拘束する性質のものでないことはいうまでもないところであるし、前記のとおり、Cの暴力行為は本件事件当日のみのことであることや、Xの受けた傷害の程度が外傷を伴わないものでさほど重いものとはいえないことなどを考慮すると、上記労災医員の意見を過度に重視することは相当でないというべきである。

4 以上のとおり、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできないから、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものである。したがって、Xについては、平成28年1月12日の休職期間満了によりY社を退職したと認められ、これによりXとY社との間の本件雇用契約関係は終了したものであるから、Xの労働契約上の地位確認請求は理由がない。

非常に重要な裁判例です。

労災認定がされているにもかかわらず、裁判所は業務起因性を否定し、労基法19条1項の適用は認めませんでした。

裁判所がいかなる要素からこのような結論を導いたのかをしっかり理解することが大切です。