Category Archives: 労働時間

労働時間57(三村運送事件)

おはようございます。

今日は、トラック運転手らの時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三村運送事件(東京地裁令和元年6月26日・労判ジャーナル93号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の貨物自動車の運転業務等に従事する従業員ら9名が、平成26年7月16日から平成28年8月15日までの期間に行った時間外労働等に係る労働基準法37条1項及び4項所定の割増賃金並びに所定労働時間を超えるが法定労働時間を超えない労働に係る賃金が支払われていないと主張して、Y社に対し、未払割増賃金等並びに同法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

付加金については請求棄却

【判例のポイント】

1 休憩施設等滞在時間の労働時間該当性について、Xらは、休憩施設等において、車内で、睡眠を取ったり、飲酒したり、テレビを見たり、トラックを駐車した上でそこから離れて、飲酒物を購入したり、入浴したり、食事をとったりするなどして過ごしており、ホテル滞在時においても、トラックの確認は1日2回程度にとどまり、その他の時間は客室において携帯端末を用いてニュース記事を見たり、ゲームをしたり、テレビを見たり、飲食のために外出したりするなどしていたのであるから、そもそも積載貨物を常時監視していたとは認め難く、そして、Y社はこれらの行動を特に規制するような指示はしておらず、かえってトラック運転手の裁量にゆだねていたことからすれば、休憩施設等滞在時間は、Xらにおいて業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間であるということができるから、Xらが、長距離運行中休憩施設等に滞在する間、労働からの解放が保障されており、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、休憩施設等滞在時間は労働時間に該当せず、Xらの長距離運行期間中の始業・終業時刻は、Y社の主張するとおり認めるのが相当である。

長距離ドライバーの手待時間は本当に悩ましい問題です。

本件では、会社が休憩施設等の滞在時間については、休憩時間と判断されています。

決してドライバー任せにせず、会社でルールをしっかり決めることが重要です。

労働時間56(長崎市立病院事件)

おはようございます。
92日目の栗坊トマト。 もう食べてもいいですかね?

今日は、抄読会、学会への参加及び自主的研さんが労働時間に当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

長崎市立病院事件(長崎地裁令和元年5月27日・労経速2389号3頁)

【事案の概要】
(1) 第1事件
 Y社が開設するY1において、心臓血管内科医として勤務していた亡H(以下「H」という。)の妻である原告A並びにHの子である原告B及び原告Cが、Hが被告病院において時間外労働をしたにもかかわらず、割増賃金が一部未払であるとして、Y社に対し、次の各金員のうち原告Aらが各法定相続分(原告Aにつき2分の1、原告B及び原告Cにつき各4分の1)により相続した金額の支払を求める事案である。
ア(ア) Hと被告の労働契約に基づく平成26年4月1日から同年12月17日までの未払割増賃金848万4715円
 (イ) 上記(ア)の金員に対する各支払期日の翌日から退職日である平成26年12月18日まで民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金16万4331円
 (ウ) 上記(ア)の金員に対する退職日の翌日である平成26年12月19日から支払済みまで賃金の支払確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金
イ 労働基準法114条に基づく付加金782万8424円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(以下、省略)

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Hは、平日の所定労働時間外や、当直業務や拘束業務がない所定休日においても、担当の入院患者の診察や、容体急変への対応など、その時々の業務上の必要に応じて通常業務に従事していたと認められ、また、拘束業務中に来院要請を受けた場合にはこれに応じて緊急カテーテル手術を行うなどしており、このような通常業務に従事した時間は原則として労働時間に該当する。もっとも、Hは、他の心臓血管内科医が行うカテーテル治療の見学を自主的に行っていたと認められるところ、所定労働時間外に行われた5時間39分の自主的見学時間については、被告の指揮命令に基づく労働であるとはいえないから、労働時間には該当しないといえる。

2 Hは、当直業務に従事していた。Y病院は、24時間態勢で高度な循環器医療を提供することを診療方針としており、当直医は、当直室において待機して仮眠をとることもできるが、心臓疾患の救急患者が来院するなどした場合には速やかに対応を行うことが義務づけられており、現に、当直医の平均仮眠時間は3時間ないし6時間程度であると認められることに照らせば、仮眠時間も含めて当直業務中に労働から離れることが保障されていたとはいえず、当直業務は、全体として手待時間を含む労働時間に該当するというべきである。

3 看護師勉強会、救命士勉強会及び症例検討会については、心臓血管内科の主任診療部長であるIが心臓血管内科医らに対し、講義や発表の担当を行うよう打診し、あるいは割振りを行っていたと認められ、心臓血管内科の若手医師であるHにとっては、その講義の担当や、発表の担当を断ることが困難であったことからすれば、これらを担当するように上司から指示されていたものと評価することができる。そして、その内容も、看護師勉強会については新たに心臓血管内科に配属となった看護師に対する教育を内容とするものであり、救命士勉強会及び症例検討会は、心臓血管内科で扱われた症例を前提とした意見交換や知識の共有を目的とするものであるから、いずれも心臓血管内科における通常業務との関連性が認められる。そうすると、看護師勉強会の講義時間及びその準備時間、救命士勉強会及び症例検討会の発表時間や準備時間については、使用者の指揮命令下にある労務提供と評価することができ、労働時間に該当するというべきである。

4 Hは、派遣講義の講師を担当していたところ、派遣講義については、Y病院長の指示により派遣されるものであることからすれば、労働時間に該当するというべきである。もっとも、Hは、長崎市医師会看護専門学校から派遣講義に対する対価として相応の講師料を受領していたと認められるから、派遣講義の準備や生徒に対する試験の採点などの業務に要する時間は、業務起因性を判断するに当たっての労働時間には該当するが、割増賃金の清算の対象となる労働時間とはならない

5 Hは、就労期間中に、Y病院での抄読会に参加し、また学会発表を行うなどし、さらに、Y病院内で自主的な研さん活動を日常的に行っていたと認められる。
 抄読会については、通常業務が繁忙である場合には中止となることも多かったと認められ、その内容も英語の論文の要旨を発表するというもので、心臓血管内科における症例についての検討等を内容とする救命士勉強会及び症例検討会と比較すると、業務との関連性が強いとは認められず、自主的な研さんの色合いが強かったと推認されるから、抄読会の準備時間が労働時間に該当するとはいえない。また、学会への参加についても、IがHに対して学会への参加を提案し、これにHが応じたということがあったと認められるものの、Hはカテーテル治療の習熟に熱心に取り組んでおり、知識の習得に積極的であったといえることに照らせば、学会への参加は自主的研さんの範疇に入るものといえ、学会への参加やその準備に要した時間は労働時間とはいえない。その他、Hは、被告病院滞在中に、自身の担当する患者の疾患や治療方法に関する文献の調査だけでなく、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法等に関する文献の調査を行うなどし、自己研さんを行っていたところ、自身の担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが、他方、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法に関する文献の調査に関しては、この部分に要した時間を労働時間と認めることはできない

拘束時間の長い職業について労基法を原則通り適用するとこのような結果となってしまいます。

難しい問題です。

労働時間55(K社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、夜行バスの交代運転手として車内にいた時間の労働時間性が争われた事案を見てみましょう。

K社事件(東京高裁平成30年8月29日・労経速2380号3頁)

【事案の概要】

本件は、XらがY社に対し、①労働契約に基づき、未払賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づき、付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

原審は、Xらの請求をいずれも棄却した。これに対し、Xらが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社において、交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり、飲食することも可能であることは前記認定のとおりであって、不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。Y社が休憩や仮眠を指示したことによって、労働契約上の役務の提供が義務付けられたとはいえないから、亡A及びDが不活動仮眠時間においてY社の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできない。

2 交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし、その際に、制服の着用は義務付けられていたものの、Y社は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限りXらがY社の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。そうすると、交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ、制服の着用を義務付けられていたことをもって、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない。

3 ①亡A及びDが常務していたのは深夜夜行バスであり、車内は消灯して多くの乗客は入眠していること、②乗客に苦情や要望がある場合には、走行中の車内を歩いて交代運転手の席まで来るのではなく、サービスエリア等で停車している間に運転手又は交代運転手に伝えることが想定されていることは前記認定のとおりである。そうすると、交代運転手が不活動仮眠時間に乗客の苦情や要望に対する対応を余儀なくされることがあったとしても、それは例外的な事態であると考えられる。
また、交代運転手が不活動仮眠時間において道案内その他の運転手の補助を要する状況が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない。
これらの事情を総合すると、Y社における交代運転手の不活動仮眠時間は、労働からの解放が保障されているということができる。なお、上記のような例外的な事態が生ずる可能性があるけれども、その一事をもって、不活動仮眠時間についても交代運転手が乗客への対応等の業務を行うことを本来予定されている時間であるとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。

不活動仮眠時間については、大星ビル管理事件最高裁判決(最判平成14年2月28日)があります。

ドライバーの労働時間管理については、拘束時間が長いこともあり、いつも判断が悩ましいところです。

労働時間54(インサイド・アウト事件)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制の適用の可否に関する裁判例を見てみましょう。

インサイド・アウト事件(東京地裁平成30年10月16日・労判ジャーナル85号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、時間外労働等に対する割増賃金の支払がないこと及びY社による違法なハラスメントにより多大な精神的苦痛を受けたことなどを主張して、Y社に対し、平成26年9月1日から平成27年10月23日までの期間の稼働に係る割増賃金等、労働基準法114条所定の付加金等、並びに不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

専門業務型裁量労働制を適用を否定

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの担当業務が「広告等の新たなデザインの考案の業務」に該当することを前提として、本件労使協定及び本件無期契約に基づき、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)を適用していたから、Xの1日の労働時間は9時間とみなされるなどと主張するが、本件業務について、「その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」ような性質の業務であるとはいえないし、「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難」であるともいえず、本件業務が労働基準法施行規則24条の2の2第2項4号所定の「広告等の新たなデザインの考案の業務」に該当するとは認め難く、本件業務以外のXの業務についても、専門業務型裁量労働制の対象業務が含まれていることを窺わせる証拠は存しないから、本件無期契約について、専門業務型裁量労働制を適用する余地はなく、Y社の主張を採用することはできない。

2 Y社は、職務手当について、時間外労働等に対する割増賃金として支給されていたことを主張するところ、Y社の賃金体系における職務手当が、極めて長時間労働を恒常的に行わせることを想定した割増賃金の合意がされていたと認めることは困難であり、そして、Xの職務手当の金額について、Xに想定される勤務実態に沿って設定されたという形跡は窺われず、職種の違いに応じて設定されたとみるほかないこと等から、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分との区分が明確になされているとはいえないから、職務手当の支給をもって割増賃金の支払とみることはできない。

裁量労働制は、労基法上の労働時間規制の例外規定ですので、その解釈は厳格に行われます。

形式的に法律や施行規則の文言のみを見て、都合よく解釈してしまうと違法と判断されるリスクがありますのでご注意ください。

労働時間53(ナック事件)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし制の適用が認められた事業場外協定も有効とされた裁判例を見てみましょう。

ナック事件(東京高裁平成30年6月21日・労経速2369号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXをY社が懲戒解雇したことに関連して、X及びY社がそれぞれ以下の請求をする事案である。

1 XとY社との労働契約に基づく賃金支払請求、XとY社との労働契約に基づく立替金請求、不当利得返還請求、労働基準法114条、37条に基づく付加金請求

2 Y社の反訴請求

原審は、①本訴請求のうち、賃金支払請求について、平成24年1月分から平成25年11月分に係る残業代191万1867円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容したが、その余は、平成26年1月23日を解雇の日と認定した上で、弁済、民法536条1項の危険負担又は契約の終了により債務が消滅したとして、いずれも棄却した。
営業経費の立替金請求については、17万1030円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し、不当利得返還請求については、Y社に利得がない又は非債弁済に当たるとして、これを棄却した。
付加金請求については、除斥期間が経過していない平成24年8月分ないし平成25年11月分までの割増賃金について75万円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容した。

【裁判所の判断】

Y社の控訴に基づき、原判決中Y社の敗訴部分を取り消す。

Xは、Y社に対し、60万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが従事していた業務は、事業場(支店)から外出して顧客の元を訪問して、商品の購入を勧誘するいわゆる営業活動であり、その態様は、訪問スケジュールを策定して、事前に顧客に連絡を取って訪問して商品の説明と勧誘をし、成約、不成約のいかんにかかわらず、その結果を報告するというものである。訪問のスケジュールは、チームを構成するXを含む営業担当社員が内勤社員とともに決め、スケジュール管理ソフトに入力して職員間で共有化されていたが、個々の訪問スケジュールを上司が指示することはなく、上司がスケジュールをいちいち確認することもなく、訪問の回数や時間もXら営業担当社員の裁量的な判断に委ねられていた。個々の訪問が終わると、内勤社員の携帯電話の電子メールや電話で報告したりしていたが、その結果がその都度上司に報告されるというものでもなかった。帰社後は出張報告書を作成することになっていたが、出張報告書の内容は極めて簡易なもので、訪問状況を具体的に報告するものではなかった。上司がXを含む営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更について個別的な指示をすることもあったが、その頻度はそれ程多いわけではなく、上司がXの報告の内容を確認することもなかった。
そうすると、Xが従事する業務は、事業場外の顧客の元を訪問し、商品の説明や販売契約の勧誘をするというものであって、顧客の選定、訪問の場所及び日時のスケジュールの設定及び管理が営業担当社員の裁量的な判断に委ねられており、上司が決定したり、事前にこれを把握して、個別に指示したりすることはなく、訪問後の出張報告も極めて簡易な内容であって、その都度具体的な内容の報告を求めるというものではなかったというのであるから、Xが従事していた業務に関して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当である。

労働時間52(クロスインデックス事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、残業承認制度を採用していた会社において承認のない時間の労働時間性が肯定された事案を見てみましょう。

クロスインデックス事件(東京地裁平成30年3月28日・労経速2357号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、通訳・翻訳のコーディネーターとして勤務していたXが、Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、割増賃金+付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、80万6988円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金40万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 このように、Y社がXに対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、Xの時間外労働が常態化していたことからすると、本件係争時間のうちXがY社の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、Xが事前に残業を申請し、Y社代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくともY社の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである。

2 Y社においては、Xを含む従業員がやむを得ずY社承認時刻以降に残業を行うにしても、残業承認制度により割増賃金が支給されないため、可能な限り速やかに終了したいと考えるのが自然である。そして、Xは始業時間から業務メール送信時刻まで継続的に一定量のメールを送信し続けるなどしており、Y社がその可能性を指摘するY社代表者退社後の外出や睡眠といった事実を認めるに足りる証拠もない(なお、Xが本件係争時間中にパソコン画面上の送信メール記録を写真撮影していたことを認めるに足りる証拠はないが、仮に同時間中に写真撮影を行っていたとしても、後記の休憩時間に含まれるといえる。)からすると、本件係争時間については、基本的にその全ての時間においてY社の業務を行っていたものと認めるのが相当である。

特に新しい判断ではありませんが、上記判例のポイント1については使用者は理解をしておかなければなりません。

労働時間51(南海バス事件)

おはようございます。

今日は、待機時間が労働基準法32条の労働時間に該当しないとされた裁判例を見てみましょう。

南海バス事件(大阪高裁平成29年9月26日・労経速2351号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて路線バスの運転手として稼働するXが、Y社に対し、時間外割増賃金の一部が未払であると主張して、未払時間外割増賃金及びこれに対する各給与支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金並びに付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。
 不活動時間においては、その間、労働者が労働から離れていることを保障されて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるのであって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

2 バスの移動、忘れ物の確認、車内清掃等は、基本的にはバスターミナル到着後2分間及び次の運行開始時間前4分間で行うことが可能であり、それ以外の待機時間について、乗務員は、休憩を取ることが可能であった。そして、Y社は、乗務員が休憩するための施設として一部のバスターミナルに詰所を設置しており、Xを含む多くの乗務員がこれを使用していたこと、休憩中にはバスを離れて自動販売機等に飲料を買いに行くことも許されていたこと、乗務員がバスから離れることができるようバスには施錠可能なケースや運転台ボックスが設置されていたこと、X自身もバスを離れてトイレや詰所に行っていたことなどの事実に照らせば、乗務員が待機時間中にバスを離れて休憩することを許されていたことは明らかである
そして、上記のとおり、乗務員は、予定時間より早くバスを移動させることができるように準備しておく必要もなかったのであるから、出発時間の4分前にバスを停留所に接着できるようにバスに戻ればよく、その間は自由にバスを離れることが可能であった。
このように、待機時間中、乗務員は自由にバスを離れて休憩をとることが可能であった上、Y社は、乗務員が休憩中であることを理由に乗客対応を断ることや貴重品や忘れ物をバス車内に置いてバスを離れることを認めており、乗務員は、待機時間中には、乗客対応、貴重品や忘れ物、バス車体等の管理を行うことを義務付けられていたとは認められない。

3 これに対し、Xは、待機時間中も臨機応変にバスを移動できるように態勢を整えておかなければならず、そのような態勢を整えることが黙示的に義務付けられていたと主張するが、かかる主張は、X自身、トイレ以外の不急の事由でバスを離れていたことと相容れず採用できない。
また、Xは、運行途中でのバスの車体点検が業務である旨主張するが、他方でd営業所における休憩については、休憩室等の設置やバスが車庫で管理されていることなどを理由に職務から解放されている旨主張しているところ、運行途中のバス点検業務の有無は休憩所等の設置やバスの管理方法とは無関係なものであるはずであり、その主張に整合性はなく採用できない。
なお、Y社が待機時間中に業務を行った場合には延着時分申告書を提出する旨取り決めていたとしても、そのことをもって、Y社がXら乗務員に待機時間中の乗客対応やバスの移動等を黙示的に義務付けていたと評価することはできない。
 ・・・したがって、乗務員は、待機時間中、労働からの解放が保障されており、待機時間は、労基法上の労働時間とは認められない。

上記判断は、控訴審(大阪高裁平成29年9月26日)、上告審(最高裁平成30年4月17日)でも維持されています。

休憩時間なのか手待時間なのかという論点はよく出てきますので、裁判所がどのような点を見て判断しているのかを理解しておきましょう。

労働時間50(富士保安警備事件)

おはようございます。

今日は、2人勤務体制における仮眠時間の労働時間性が肯定された裁判例を見てみましょう。

富士保安警備事件(東京地裁平成30年1月30日・労経速2345号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXらが、Y社はXらの労働時間を過小計上し、東京都の最低賃金を下回る賃金しか支給されず、割増賃金もほとんどが支給されていなかったなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づく未払賃金(割増賃金を含む。)+遅延損害金の支払いを求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、338万7088円+遅延損害金、付加金283万9453円+遅延損害金を支払え。
Y社は、X2に対し、364万5521円+遅延損害金、付加金250万9350円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社が証人申請したY社従業員も、巡回終了後に休憩を取得することは特別になく、仮眠時間以外の拘束時間については対応を求められる状況にあったことを証言しているうえ、Xらは、巡回時以外には、警備ボックス又は守衛室での常駐を義務付けられており、仮眠時間以外に定められた休憩の時間帯はなく、仮眠時間帯であっても、守衛室から離れることは許されていなかった。そして、実際にも、本件センターは、150名弱の留学生が学生寮において生活を送っていたため、トラブル等が発生することも多く、近隣住民(とりわけ、パイロットマンションの住人)から直接苦情の電話が入ったり、近隣住民からの通報を受けた警察が来訪するなど、仮眠時間帯であっても、対応(実作業)を要する事態が発生することも少なくなかったものである。

2 警備員が2名体制となる午後5時から午前8時までの15時間のうち、午後5時から午後6時まで及び午前6時から午前8時までの3時間を除く12時間については、いずれかの警備員が仮眠に入っていたものであるから、警備員1名による勤務と基本的に相違がないと考えられる。そして、仮眠時間帯であっても2名での対応を要したり、仮眠を取る警備員が交代する際の引継ぎに時間を要する場合もあると考えられる。

仮眠時間の労働時間性が問題となる場合、形式面のみならず、実質面についても考慮されます。

上記判例のポイント1の「実際にも」以下がそれです。

ここで、確かに守衛室からルール上は離れることができなかったけれど、実際に何かが起こるのは年に1,2回だけとなると判断が変わり得ます。

労働時間49(ナック事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、携帯電話を保有する営業社員に事業場外みなし制の適用が認められた事案について見てみましょう。

ナック事件(東京地裁平成30年1月5日・労経速2345号3頁)

【事案の概要】

Xは、株式会社であるY社に勤務する営業担当社員であったところ、Y社は、平成25年12月19日、Xに自宅待機を命じた上、「Xが、顧客に対し、虚偽の契約条件を説明し、Y社の印鑑を悪用して作成した書面を提示するなどの不正な営業活動を行って、顧客との間で不正に契約を締結しながら、正当に契約が成立したかのように装って、Y社から契約実績に応じた成績給を詐取し、業務上の混乱及び経済的損害を与えた」旨の理由を主張して、遅くとも平成26年3月4日までにXを懲戒解雇した。

本訴事件、反訴事件は、解雇前の労働契約関係及び解雇理由とされた不正な営業活動に関連して、それぞれ賃金や不当利得、損害賠償等を請求する事案である。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の2第1項によれば、事業場外労働みなし制を適用するためには、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」,かつ「労働時間を算定し難い」ことを要する。
この「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かは、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは、その方法、内容やその実施の態様、状況等を総合して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である(最判平成26年1月24日参照)。
なお、携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能であっても事業場外労働みなし制の適用のためには労働時間の算定が不可能であることまでは要さないから、その方法の実施(正確性の確認を含む。)に過重な経済的負担を要する、煩瑣に過ぎるといった合理的な理由があるときは「労働時間を算定し難いとき」に当たるが、そのような合理的な理由がないときは使用者が単に労働時間の算定を怠っているに過ぎないから、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというべきである。

2 ①Xは、営業担当社員として事業場(支店)から外出して複数の都道府県にまたがって顧客のもとを訪問する営業活動に従事することを主要な業務としていたこと、
訪問のスケジュールは上司が具体的に決定することはなく、チームを構成する原告ら営業担当社員が内勤社員とともに決定していたこと、
③訪問のスケジュールの内容は内勤社員による把握やスケジュール管理ソフト入力である程度共有化されていたが、上司が詳細又は実際との異同を網羅的に把握したり、確認したりすることはなかったこと
④訪問の回数や時間はXら営業担当社員の裁量的な判断に任されていたこと、
⑤個々の訪問を終えた後は、携帯電話の電子メールや電話で結果が報告されていたが、書面による出張報告書の内容は簡易で、訪問状況が網羅的かつ具体的に報告されていたわけではなく、特にXに関しては、出張報告書に顧客のスタンプがあっても本当に訪問の事実があったことを客観的に保証する効果はなかったこと
⑥出張報告書の内容は、添付された交通費等の精算に関する領収書に日時の記載があれば移動の事実やそれに関連する日時は確認できるが、それ以外の内容の客観的な確認は困難であり、Y社から訪問先の顧客に毎回照会することも現実的ではないこと
⑦上司は、Xら営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更につき具体的に指示を出すことはあったが、Xら営業担当社員の業務全体と比較すると、その割合が大きいとはいえないこと
⑧Xら営業担当社員の訪問に上司その他の監督者が同行することはなく、チームを組む内勤社員もXの上司その他の監督者ではなかったこと
⑨Y社は、Xが訪問の際、不当営業活動を繰り返していたことを相当期間把握できないままであったことが認められる。これらの認定事実を総合すると、Xの労働時間の大部分は事業場外での労働であり、具体的な業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に照らして、Y社がXの勤務の状況を具体的に把握することは、かなり煩雑な事務を伴わなければ不可能な状況にあったということができるから、Y社がXの事業場外労働の状況を具体的に把握することは困難であったというべきである。

3 Y社は、カードリーダーで労働時間管理も実施し、朝礼出席も指示しているが、朝礼に出席せず、顧客訪問に直行することもあり、事業場外労働の開始及び終了の各時点をある程度把握可能であるにとどまり、事業場外労働全体の実情を困難なく把握可能であったとはいえない
前掲最判平成26年1月24日で労働時間算定の困難性が否定された事案は、スケジュールの遵守そのものが重要となる旅行日程の管理を業務内容とし、また、ツアー参加者のアンケートや関係者に対する問合せで具体的な報告内容の正確性の確認が可能であり、本件とはかなり事案を異にするものといえる。

4 以上によれば、Xは労働時間の一部について事業場外で業務に従事しており、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たる。

事業場外みなし労働時間制の適用が肯定された例です。

上記判例のポイント2をよく読んでみましょう。

適用範囲はそれほど広くはありません。

労働時間48(都市再生機構事件)

おはようございます。

今日は、事故対応のために携帯電話を貸与された場合の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

都市再生機構事件(東京地裁平成29年11月10日・労経速2339号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、携帯電話を渡され、休日も3時間以内に現地集合できるように指示されていたので、休日に待機していたとして、主位的に時間外手当の支払を求め、予備的に不法行為に基づき手当相当額の財産的損害及び慰謝料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最判平成24年2月28日、同平成19年10月19日)。

2 Y社からXに対し本件施設に3時間以内に到着できるよう自宅又はその周辺に待機するよう明示の指示はなかったと認められる。また、本件マニュアルのうち、本件資料には「(連絡)~3時間」に現地に集合する旨の記載はあるが、上記のとおり、本件資料の本件職場総務課長以外の者が行うべき対応の記載を見ても、1時間以内に本社へ出社、3時間以内に本社に到着などと記載されている者がおり、これらの者が全て記載された時間内に到着できるよう休日に待機を指示されていると解されるものではなく、本件マニュアルの他の資料を見ても「現地に赴く(できる限り早く)」などとなっているのであるから、本件資料は、事故等が起きたときの対応の目安を記載したものと解するのが自然である。
本件資料のみを見れば3時間以内に現地集合が必要と解釈することができないこともないが、3時間以内に現地集合するための待機の必要性について疑問があればXは容易に質問できたはずであり、それを妨げる事実は認められない上、本件業務に関して行われた4月3日のC所長からの説明、同月9日の合同ミーティング、同月20日頃のC所長からの説明、同月23日及び21日の安全衛生管理に関する研修会、毎月の時間外勤務の報告など待機の必要性の有無を確認しやすい機会が多数あったにもかかわらず、同年12月4日まで行われていない。これはXとしても本件資料により待機が指示されていたわけではないと理解していたことを推測させる(Xの認識がいかなるものであったとしても、本件資料により休日の待機が指示されていたとは認められない。)。
さらに、Y社貸与の携帯電話の携帯を指示されたからといって、当該携帯電話に連絡があるのは事故等が起こった場合のことであり、利用者からの問合せのように通常起きることが予測されているものではなく、平成25年度から平成27年度を見ても1件も連絡が必要となる事故等は起きておらず、Xが本件業務を担当している機関にも当該携帯電話にメールや電話があったことはなかったのであるから、業務の性質としても待機が必要なものとはいえず、待機の指示があったとはいえない
緊急連絡網にY社貸与の携帯電話番号よりも自宅の電話番号の方が上に記載されていることについては、Y社が携帯電話を貸与しているのであるから、自宅にいなくてもY社貸与の携帯電話へ連絡があると考えるのが自然であるから、これにより自宅待機を指示されていたとはいえない
Xが休日に常に自宅に待機していたわけではなく、外出していたことを認めていることからしても、Xとしても自宅待機の指示はなかったと認識していたといえる。
加えて、XはC所長から休日に登山に出かけると事前に言われることがあり、その時は必ず自分が対応できるようなおさら気が休まらなかったと供述しているが、本件資料によればXとは別にC所長も3時間以内に出社となっているにもかかわらず、休日に待機せずに外出していたことをXは認識していたのであるから、かかるXの供述は、かえって本件業務の担当者が待機不要であることをXが認識していたことを裏付ける
したがって、Xは、本件業務を担当していたとしても、休日につき、労働からの解放が保障されていたというべきであり、使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、Xの主張する時間外労働は労働時間とはいえない。

事実認定の点で非常に参考になりますね。

手待時間に該当するかについてはよく訴訟でも争点となるところですので是非参考にしてください。