Category Archives: 労働時間

労働時間62(有限会社スイス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、在職中の割増賃金算定のベースとして、GPS移動記録に基づく労働時間が認められた裁判例を見てみましょう。

有限会社スイス事件(東京地裁令和元年10月23日・労経速2416号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、①Y社により平成29年11月13日付けで普通解雇されたことについて、本件解雇が無効である旨を主張して、Y社に対し、本件雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や、本件解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与(下記②の合意による増額後の基本給)+遅延損害金の支払を求めるとともに、②XとY社はXの基本給を平成28年12月分から増額することを合意していた旨を主張して、Y社に対し、当該合意後の本件雇用契約に基づき、同月分から平成29年10月分までの当該合意による増額後の基本給額と実際に支給された基本給額との差額である52万1000円+遅延損害金の支払を求めるほか、③Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、労働基準法に従った平成28年10月から平成29年11月までの割増賃金+遅延損害金や、当該割増賃金に係る労働基準法第114条の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇無効

2 Y社は、Xに対し、175万2535円+遅延損害金を支払え。

3 Y社は、Xに対し、付加金165万9435円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件タイムライン記録は、平成30年2月5日から同月16日にかけて、Xのスマートフォンの画面をスクリーンショットしたものであるところ、Y社が指摘するとおり、事後に編集可能なものであり、それ自体が完全に客観的な証拠であるとはいえない上、実際の記録についても、自宅から徒歩2分程の距離にある最寄り駅である○○駅までの間の移動記録がなかったり、○○駅からb店又はa店までの間の移動記録が省略されているものが多く、記録されていても、平成29年3月29日に、表参道駅で20分滞在した後、同駅からa店まで6分で移動した旨が記録されたりするなど、実際の移動状況の全てが余すことなくそのまま正確に記録されているとまではいえないものである。

2 もっとも、本件タイムライン記録に記載されたXのb店及びa店における滞在時間は、b店の営業時間及びa店における勤務時間や、B氏の証言及び原告の供述に沿うものである。・・・その他、本件タイムライン記録には、休日の移動記録や、b店及びa店以外の場所への移動記録のほか、退勤後に寄り道をした記録もあり、これらの事情によれば、Xが、本件解雇後に、Y社に対し割増賃金を請求するため、編集機能を利用して本件タイムライン記録を一から作出したとは考え難いものである。
他方で、Y社が本件タイムライン記録の不自然性として指摘する諸事情は、Xが主張するとおり、GPSの感度の問題やタイムライン機能の設定の問題等として一応の説明をすることが可能であるところ、本件においては、本来、労働者の労働時間を適切に把握して然るべきY社において、Xの主張する本件タイムライン記録に基づく各日の労働時間が実際のXの労働時間と異なることについて、個別具体的に指摘し、その裏付けとなる客観的な証拠を提出しているわけでもない

3 上記に検討したところによれば、本件タイムライン記録には信用性が認められるというべきであり、Xがb店及びa店に滞在していた時間中に、休憩時間を除き、Y社の業務以外の事項を行っていたと認めるに足りる客観的な証拠はないから、Xは、本件タイムライン記録に記録されたb店及びa店の滞在時間(休憩時間を除く。)に、Y社の業務に従事していたものと認めるのが相当である。

残業代請求の訴訟においては、本件のように実際の労働時間を何に基づいて認定するかが争われることがあります。

その際、上記判例のポイント2のように、会社側が積極的に労働時間の立証ができない場合には、裁判所としては、労働者側の証拠を拠り所にせざるを得なくなります。

日頃の労務管理をしっかり行うこと、これが王道です。

労働時間61(白井グループ事件)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、管理監督者該当性と変形労働時間制の適用に関する裁判例を見てみましょう。

白井グループ事件(東京地裁令和元年12月4日・労判ジャーナル99号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の亡Xの相続人らが、亡XがY社において時間外労働に従事し死亡したため、亡Xの相続人らが亡Xの雇用契約に基づき賃金支払請求権及び労働基準法114条に基づく付加金請求権を相続したとして、法定相続分に応じて、未払割増賃金元金約1700万円等並びに付加金約1171万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Y社は、亡Xの管理監督者性が否定される場合には、一年単位の変形労働時間制の適用があると主張するが、Y社が労働者代表との協定により定めた適用対象者は、管理職を除く一般職であって、亡Xが含まれていたとはいえないことに加え、労基法上の管理監督者と会社の職制上の管理職は別であるから、労使協定において、労基法上の管理監督者性を否定されたY社の管理職を、変形労働時間制の適用対象者に含む合意をしたものとは認められず、また、明確な合意が認められないにもかかわらず、変形労働時間制の適用対象者に管理監督者性を否定された管理職を含むものと解することは、労働者に不利益な解釈を後付けで行うこととなって、変形労働時間制の適用に当たり労使協定等の締結を要件とした労基法の趣旨を没却するものであり、不相当であるから、亡Xには1年単位の変形労働時間制は適用されない。

2 亡Xは、管理監督者に当たらないため、時間外割増賃金が発生しているが、Y社は、法人格は異なるものの、亡従業員にA運輸の運転手の労務管理等の重要な職務を行わせていたこと、Y社を含むY系列各社全体において、167名中5番目の年収で処遇していたことなどを考慮すると、Y社が亡Xを管理監督者と扱っていたことに理由がないわけではなく、割増賃金の不払が悪質とはいえないから、Y社に付加金の支払を命ずることが相当とはいえない

上記判例のポイント1は興味深い内容です。

言うまでもなく、昨今、管理職の管理監督者性が肯定される例はほとんどありません。

そのような状況においても、多くの会社で従前通り、これを肯定した運用がなされています。

賃金の消滅時効が延長されたことのほかに今回の裁判例をような不利益についても十分考慮しなければなりません。

労働時間60(しんわコンビ事件)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、週6日・計48時間の労働契約の適法性と割増賃金の算定方法等に関する裁判例を見てみましょう。

しんわコンビ事件(横浜地裁令和元年6月27日・労判1216号38頁)

【事案の概要】

本件は、建築工事業等を業とする特例有限会社であるY社において就労していたXら5名が、Y社に対し、①未払の時間外割増賃金等+遅延損害金、②付加金+遅延損害金の各支払を求め、また、X1が、Y社に対し、③Y社がX1の健康保険料等を賃金から過剰に控除していたと主張して、主位的に未払賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として、過剰控除した金員の合計2万9378円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xらに対し、以下のとおりの金員を支払え。
1 X1:①460万8024円+遅延損害金、②付加金368万6154円+遅延損害金
2 X2:①106万6691円+遅延損害金、②付加金86万6538円+遅延損害金
3 X3:①208万4018円及び+遅延損害金、②付加金178万5775円+遅延損害金
4 X4:①212万8304円+遅延損害金、②付加金182万7817円+遅延損害金
5 X5:①138万1207円+遅延損害金、②付加金118万6189円+遅延損害金

【判例のポイント】

1 Y社における従業員の出退勤管理は、出勤簿に基づいてなされており、Xらは、原則として毎日これに出退勤時刻を記載し、毎月1回、X1を通じてY社に提出していたこと、Xらは日々の業務内容を、当該業務に従事した時間とともに、原則として毎日、日報に記載していたこと、この日報についても、X1を通じてY社に提出し、総務担当者やC、Bの決裁を得ていたことからすれば、出勤簿及び日報には、Xらの出退勤時刻が概ね正確に記載されているものと推認するのが相当である。
・・・Xらは、出勤簿について30分単位で出退勤時刻を記載していたのであるから、同じ時刻の記載が多く並んでいるからといって、何ら不自然ではなく,出勤簿等の記載内容の信用性を減殺するとはいえない。・・・Xら労働者の労働時間を管理する義務を負っているのは、使用者であるY社自身であることからすれば、およそ失当といわざるを得ない。その点は措くとしても、これらの出勤簿及び日報は、いずれもY社に提出され、毎日ではないにせよ、Y社側が決裁をした上で管理していたものであるところ、Y社からXらに対し、その記載内容に疑義があるなどの指摘をした等の事実も認められないことからすれば、これら出勤簿等の信用性がないとは到底いえない

2 XらとY社との間で締結された本件労働契約は、いずれも1日8時間、週6日勤務に対してその給与を月給制で支払うことを内容とするものであるところ、これは週48時間の勤務を所定労働時間とする点で、労基法32条1項に違反することが明らかである。そのため、本件労働契約の内容は、労基法13条、32条1項により、一週間当たりの所定労働時間を48時間と定める部分が無効となり、これが40時間(1日8時間、週5日勤務)へと修正されるものと解されるところ、月給制は原則として、月当たりの通常所定労働時間の労働への対価として当該金額が支払われる旨の合意であるから、Y社がXらに支払った月給は、上記のとおり労基法に従って修正された所定労働時間に対する対価として支払われたものと解するのが相当である。

3 Y社のXらに対する未払の割増賃金額は、最も少額であるX2についても確定遅延損害金を加えて100万円を超えており、最も高額であるX1については400万円にも上ること、Y社はXらとの間で、1日8時間,週6日勤務という明らかに労基法に違反した契約を締結させていることに加え、Y社においては就業規則や賃金規程が存在せず、Xらとの間でも労働契約書を作成していないこと、X1に対して健康保険料等を過剰に控除し、賃金の一部を支払っていなかったことからすれば、Y社は全体として労基法軽視の態度が著しく、賃金未払は悪質であるといわざるを得ない。したがって、Y社に対しては、各未払賃金計算書記載のとおりの付加金の支払を命じるのが相当である。

もはやどこから手をつけていいのかわからない状態です。

治外法権かのような状態ですので、いざ訴訟になるとこのような結果となってしまいます。

労働時間59(北九州市営バス事件)

おはようございます。

今日は、バス運転手の待機時間が概ね労働時間にあたらないとされた裁判例を見てみましょう。

北九州市営バス事件(福岡地裁令和元年9月20日・労経速2397号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y市の運営する市営バスの運転手として勤務するXらが、それぞれ、Y市に対し、未払時間外割増賃金を含む未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条本文に基づき、上記未払時間外割増賃金と同額の付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xらは、乗務員は待機時間中も臨機応変にバスを移動させる必要があったことから、待機時間は手待時間として労基法上の労働時間に当たると主張する。
まず、戸畑駅、折尾駅西口及び折尾駅(北口)の各転回場所については、同時に複数のバスが停止していることがあったものの、運行指示表又は発車順番表により各転回場所で待機するバスの発車時刻を知ることができ乗務員が臨機応変にバスを移動させることができるように常に待機していなければならなかったとはいい難い。確かに、他のバスの遅延や周囲の交通状況により、運行指示表又は発車順番表のとおりに運行することができない場合もあると考えられるが、証拠によれば、これらの転回場所においても、乗務員が待機時間中にトイレ以外の理由でもバスを離れることがあったことがうかがわれ、このことからすると、上記の事情を考慮しても、乗務員が待機時間中に予定外の移動を行わなければならないことが度々あったとは認められないから、これらの事情は上記認定を左右するまでのものとは考え難い。
次に、二島駅の転回場所についても、同時に複数のバスが停止していることがあったものの、平成26年6月のダイヤ改正により、ダイヤ上複数のバスが同時に待機することはなくなった上、証拠及び弁論の全趣旨によれば、同転回場所においては、仮に複数のバスが同時に待機することになったとしても、本来の待機場所及びそれとは異なる場所で待機することができ、その場合であっても他のバスが通過することのできる程度の間隔があったものといえるから、同転回場所において、乗務員が常に待機時間中の突発的な移動に備えておかなければならなかったものとは認め難い
また、本城陸上競技場(待機場側)の転回場所については、後に来たバスが先に出発する場合、先に来たバスは、運行指示表上の指示により、これにより突発的な移動の必要性が生じることを回避することができたと考えられる。確かに、証拠によれば、本来は先に到着しているはずのバスが遅れてきたことにより、そのバスが出発するために、先に到着したバスが転回場所から移動せざるを
得ない状況が生じることがあったと認められるが、証拠及び弁論の全趣旨によれば、同転回場所で複数のバスが同時に待機することは、ダイヤ上平日に各2回あったにすぎないことが認められ、このことに照らすと、上記のような状況が度々生じるものであったとは認められない。そうすると、同転回場所についても、上記のような状況が生じていたことから、待機時間中に乗務員が手待ち状態にあったということはできない

2 以上に述べるところからすると、待機時間は、Xらが主張するところとは異なり、概ね休憩時間と認めるべきものということができる。しかし、これら判示したところに照らしても、例えば、転回時間内に終了できない業務が発生したり、転回場所や始発場所におけるバスの移動等においても、なお労働時間と考えられる時間が全く存在しないとまでは見受けられず、他方において、遅れ報告書の提出が必ずしも普及していない現状に鑑みると、このような労働時間を存しないものとして割り切ることには躊躇を感ぜざるを得ない
また、路線バスにおける一つの系統の運転業務と次の系統の運転業務との間の時間の一部であるという待機時間の性質に鑑みると、その間が短い待機時間においては、仮にその間に実作業が生じなかったとしても、乗務員は、待機時間の開始後直ちに次の運転業務に備える必要があったということができるから、転回時間の存在を考慮しても、乗務員がその前後の労働から解放されていたとはいい難く、むしろ、乗務員は、なおY市の指揮命令下に置かれていたものと評価することができると
いうべきである
そこで、以上に述べるような事情に加え、証拠及び弁論の全趣旨から認められる各待機場所の性質及び待機時間の長さに鑑みて、待機時間の1割を労基法上の労働時間に当たるものと認めるのが相当である。

待機時間の労基法上の労働時間性が問題となっていますが、この裁判例では、割合的に労働時間性を認定しています。

この論点は、いつもとても悩ましいので、参考にしてください。

労働時間58(新栄不動産ビジネス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、仮眠時間の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

新栄不動産ビジネス事件(東京地裁令和元年7月24日・労判ジャーナル93号28頁)

【事案の概要】

本件は、建物の総合管理業務等を業とするY社の正社員として、ホテルの設備管理業務等に従事していたXらが、Y社に対し、平成26年7月1日から平成28年7月31日までの間における時間外労働に係る賃金の支払い等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Bシフトの仮眠時間が労働時間に当たるかについて、Xらは、午前零時から午前6時までの間は、仮眠時間として本件ホテル内の仮眠室(中央監視室及び蓄電池室)において仮眠をとることとなっていたものの、中央監視室には、設備管理モニターが3台設置され、仮眠時間中でも設備に以上が発生すれば、警報機が鳴る仕組みになっていたこと等の点を含む仮眠室の状況、クレーム表や日報からうかがわれるBシフト勤務担当者の実作業の状況や頻度等に照らせば、XらはY社と本件ホテルとの間の業務委託契約に基づき、Y社従業員として、本件ホテルに対し、労働契約上、役務を提供することが義務付けられており、使用者であるY社の指揮命令下に置かれていたものと評価するのが相当である。

2 変形労働時間制の有効性について、当該期間に該当する就業規則7条2項において、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間について、1か月を平均して1週間40時間を超えない範囲で、1日8時間、1週間40時間を超えて勤務を命じることができる旨定められていることが認められるが、同就業規則においては、勤務パターンごとの始業終業時刻、勤務パターンの組み合わせ、勤務割表(シフト表)の作成手続及び周知手続が全く定められておらず、Xらの実際の勤務時間はシフト表により定められていたことが認められ、また、シフト表自体は、毎月1日より前に従業員の希望を元に勤務日及び勤務時間を特定して作成されていたものの、シフト表からは、休憩時間や仮眠時間は明らかではないから、シフト表の記載に関わらず、単位休憩時間や仮眠時間は明らかではないから、シフト表の記載に関わらず、単位期間における各日、各週の労働時間が就業規則において特定されていたと評価することはできず、したがって、当該期間におけるY社の変形労働時間の定めは、労基法32条の2の要件を充足しないものとして無効である。

変形労働時間制を採用していながら、法定要件を満たしていない例が後を絶ちません。

固定残業制度同様、導入するのであれば、中途半端にならないことがとても重要です。

労働時間57(三村運送事件)

おはようございます。

今日は、トラック運転手らの時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三村運送事件(東京地裁令和元年6月26日・労判ジャーナル93号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の貨物自動車の運転業務等に従事する従業員ら9名が、平成26年7月16日から平成28年8月15日までの期間に行った時間外労働等に係る労働基準法37条1項及び4項所定の割増賃金並びに所定労働時間を超えるが法定労働時間を超えない労働に係る賃金が支払われていないと主張して、Y社に対し、未払割増賃金等並びに同法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

付加金については請求棄却

【判例のポイント】

1 休憩施設等滞在時間の労働時間該当性について、Xらは、休憩施設等において、車内で、睡眠を取ったり、飲酒したり、テレビを見たり、トラックを駐車した上でそこから離れて、飲酒物を購入したり、入浴したり、食事をとったりするなどして過ごしており、ホテル滞在時においても、トラックの確認は1日2回程度にとどまり、その他の時間は客室において携帯端末を用いてニュース記事を見たり、ゲームをしたり、テレビを見たり、飲食のために外出したりするなどしていたのであるから、そもそも積載貨物を常時監視していたとは認め難く、そして、Y社はこれらの行動を特に規制するような指示はしておらず、かえってトラック運転手の裁量にゆだねていたことからすれば、休憩施設等滞在時間は、Xらにおいて業務から解放されて自由に利用できる状態に置かれた時間であるということができるから、Xらが、長距離運行中休憩施設等に滞在する間、労働からの解放が保障されており、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、休憩施設等滞在時間は労働時間に該当せず、Xらの長距離運行期間中の始業・終業時刻は、Y社の主張するとおり認めるのが相当である。

長距離ドライバーの手待時間は本当に悩ましい問題です。

本件では、会社が休憩施設等の滞在時間については、休憩時間と判断されています。

決してドライバー任せにせず、会社でルールをしっかり決めることが重要です。

労働時間56(長崎市立病院事件)

おはようございます。
92日目の栗坊トマト。 もう食べてもいいですかね?

今日は、抄読会、学会への参加及び自主的研さんが労働時間に当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

長崎市立病院事件(長崎地裁令和元年5月27日・労経速2389号3頁)

【事案の概要】
(1) 第1事件
 Y社が開設するY1において、心臓血管内科医として勤務していた亡H(以下「H」という。)の妻である原告A並びにHの子である原告B及び原告Cが、Hが被告病院において時間外労働をしたにもかかわらず、割増賃金が一部未払であるとして、Y社に対し、次の各金員のうち原告Aらが各法定相続分(原告Aにつき2分の1、原告B及び原告Cにつき各4分の1)により相続した金額の支払を求める事案である。
ア(ア) Hと被告の労働契約に基づく平成26年4月1日から同年12月17日までの未払割増賃金848万4715円
 (イ) 上記(ア)の金員に対する各支払期日の翌日から退職日である平成26年12月18日まで民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金16万4331円
 (ウ) 上記(ア)の金員に対する退職日の翌日である平成26年12月19日から支払済みまで賃金の支払確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金
イ 労働基準法114条に基づく付加金782万8424円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(以下、省略)

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Hは、平日の所定労働時間外や、当直業務や拘束業務がない所定休日においても、担当の入院患者の診察や、容体急変への対応など、その時々の業務上の必要に応じて通常業務に従事していたと認められ、また、拘束業務中に来院要請を受けた場合にはこれに応じて緊急カテーテル手術を行うなどしており、このような通常業務に従事した時間は原則として労働時間に該当する。もっとも、Hは、他の心臓血管内科医が行うカテーテル治療の見学を自主的に行っていたと認められるところ、所定労働時間外に行われた5時間39分の自主的見学時間については、被告の指揮命令に基づく労働であるとはいえないから、労働時間には該当しないといえる。

2 Hは、当直業務に従事していた。Y病院は、24時間態勢で高度な循環器医療を提供することを診療方針としており、当直医は、当直室において待機して仮眠をとることもできるが、心臓疾患の救急患者が来院するなどした場合には速やかに対応を行うことが義務づけられており、現に、当直医の平均仮眠時間は3時間ないし6時間程度であると認められることに照らせば、仮眠時間も含めて当直業務中に労働から離れることが保障されていたとはいえず、当直業務は、全体として手待時間を含む労働時間に該当するというべきである。

3 看護師勉強会、救命士勉強会及び症例検討会については、心臓血管内科の主任診療部長であるIが心臓血管内科医らに対し、講義や発表の担当を行うよう打診し、あるいは割振りを行っていたと認められ、心臓血管内科の若手医師であるHにとっては、その講義の担当や、発表の担当を断ることが困難であったことからすれば、これらを担当するように上司から指示されていたものと評価することができる。そして、その内容も、看護師勉強会については新たに心臓血管内科に配属となった看護師に対する教育を内容とするものであり、救命士勉強会及び症例検討会は、心臓血管内科で扱われた症例を前提とした意見交換や知識の共有を目的とするものであるから、いずれも心臓血管内科における通常業務との関連性が認められる。そうすると、看護師勉強会の講義時間及びその準備時間、救命士勉強会及び症例検討会の発表時間や準備時間については、使用者の指揮命令下にある労務提供と評価することができ、労働時間に該当するというべきである。

4 Hは、派遣講義の講師を担当していたところ、派遣講義については、Y病院長の指示により派遣されるものであることからすれば、労働時間に該当するというべきである。もっとも、Hは、長崎市医師会看護専門学校から派遣講義に対する対価として相応の講師料を受領していたと認められるから、派遣講義の準備や生徒に対する試験の採点などの業務に要する時間は、業務起因性を判断するに当たっての労働時間には該当するが、割増賃金の清算の対象となる労働時間とはならない

5 Hは、就労期間中に、Y病院での抄読会に参加し、また学会発表を行うなどし、さらに、Y病院内で自主的な研さん活動を日常的に行っていたと認められる。
 抄読会については、通常業務が繁忙である場合には中止となることも多かったと認められ、その内容も英語の論文の要旨を発表するというもので、心臓血管内科における症例についての検討等を内容とする救命士勉強会及び症例検討会と比較すると、業務との関連性が強いとは認められず、自主的な研さんの色合いが強かったと推認されるから、抄読会の準備時間が労働時間に該当するとはいえない。また、学会への参加についても、IがHに対して学会への参加を提案し、これにHが応じたということがあったと認められるものの、Hはカテーテル治療の習熟に熱心に取り組んでおり、知識の習得に積極的であったといえることに照らせば、学会への参加は自主的研さんの範疇に入るものといえ、学会への参加やその準備に要した時間は労働時間とはいえない。その他、Hは、被告病院滞在中に、自身の担当する患者の疾患や治療方法に関する文献の調査だけでなく、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法等に関する文献の調査を行うなどし、自己研さんを行っていたところ、自身の担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが、他方、自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法に関する文献の調査に関しては、この部分に要した時間を労働時間と認めることはできない

拘束時間の長い職業について労基法を原則通り適用するとこのような結果となってしまいます。

難しい問題です。

労働時間55(K社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、夜行バスの交代運転手として車内にいた時間の労働時間性が争われた事案を見てみましょう。

K社事件(東京高裁平成30年8月29日・労経速2380号3頁)

【事案の概要】

本件は、XらがY社に対し、①労働契約に基づき、未払賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づき、付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

原審は、Xらの請求をいずれも棄却した。これに対し、Xらが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社において、交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり、飲食することも可能であることは前記認定のとおりであって、不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。Y社が休憩や仮眠を指示したことによって、労働契約上の役務の提供が義務付けられたとはいえないから、亡A及びDが不活動仮眠時間においてY社の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできない。

2 交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし、その際に、制服の着用は義務付けられていたものの、Y社は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限りXらがY社の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。そうすると、交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ、制服の着用を義務付けられていたことをもって、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない。

3 ①亡A及びDが常務していたのは深夜夜行バスであり、車内は消灯して多くの乗客は入眠していること、②乗客に苦情や要望がある場合には、走行中の車内を歩いて交代運転手の席まで来るのではなく、サービスエリア等で停車している間に運転手又は交代運転手に伝えることが想定されていることは前記認定のとおりである。そうすると、交代運転手が不活動仮眠時間に乗客の苦情や要望に対する対応を余儀なくされることがあったとしても、それは例外的な事態であると考えられる。
また、交代運転手が不活動仮眠時間において道案内その他の運転手の補助を要する状況が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない。
これらの事情を総合すると、Y社における交代運転手の不活動仮眠時間は、労働からの解放が保障されているということができる。なお、上記のような例外的な事態が生ずる可能性があるけれども、その一事をもって、不活動仮眠時間についても交代運転手が乗客への対応等の業務を行うことを本来予定されている時間であるとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。

不活動仮眠時間については、大星ビル管理事件最高裁判決(最判平成14年2月28日)があります。

ドライバーの労働時間管理については、拘束時間が長いこともあり、いつも判断が悩ましいところです。

労働時間54(インサイド・アウト事件)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制の適用の可否に関する裁判例を見てみましょう。

インサイド・アウト事件(東京地裁平成30年10月16日・労判ジャーナル85号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、時間外労働等に対する割増賃金の支払がないこと及びY社による違法なハラスメントにより多大な精神的苦痛を受けたことなどを主張して、Y社に対し、平成26年9月1日から平成27年10月23日までの期間の稼働に係る割増賃金等、労働基準法114条所定の付加金等、並びに不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

専門業務型裁量労働制を適用を否定

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの担当業務が「広告等の新たなデザインの考案の業務」に該当することを前提として、本件労使協定及び本件無期契約に基づき、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)を適用していたから、Xの1日の労働時間は9時間とみなされるなどと主張するが、本件業務について、「その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」ような性質の業務であるとはいえないし、「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難」であるともいえず、本件業務が労働基準法施行規則24条の2の2第2項4号所定の「広告等の新たなデザインの考案の業務」に該当するとは認め難く、本件業務以外のXの業務についても、専門業務型裁量労働制の対象業務が含まれていることを窺わせる証拠は存しないから、本件無期契約について、専門業務型裁量労働制を適用する余地はなく、Y社の主張を採用することはできない。

2 Y社は、職務手当について、時間外労働等に対する割増賃金として支給されていたことを主張するところ、Y社の賃金体系における職務手当が、極めて長時間労働を恒常的に行わせることを想定した割増賃金の合意がされていたと認めることは困難であり、そして、Xの職務手当の金額について、Xに想定される勤務実態に沿って設定されたという形跡は窺われず、職種の違いに応じて設定されたとみるほかないこと等から、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分との区分が明確になされているとはいえないから、職務手当の支給をもって割増賃金の支払とみることはできない。

裁量労働制は、労基法上の労働時間規制の例外規定ですので、その解釈は厳格に行われます。

形式的に法律や施行規則の文言のみを見て、都合よく解釈してしまうと違法と判断されるリスクがありますのでご注意ください。

労働時間53(ナック事件)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし制の適用が認められた事業場外協定も有効とされた裁判例を見てみましょう。

ナック事件(東京高裁平成30年6月21日・労経速2369号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXをY社が懲戒解雇したことに関連して、X及びY社がそれぞれ以下の請求をする事案である。

1 XとY社との労働契約に基づく賃金支払請求、XとY社との労働契約に基づく立替金請求、不当利得返還請求、労働基準法114条、37条に基づく付加金請求

2 Y社の反訴請求

原審は、①本訴請求のうち、賃金支払請求について、平成24年1月分から平成25年11月分に係る残業代191万1867円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容したが、その余は、平成26年1月23日を解雇の日と認定した上で、弁済、民法536条1項の危険負担又は契約の終了により債務が消滅したとして、いずれも棄却した。
営業経費の立替金請求については、17万1030円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し、不当利得返還請求については、Y社に利得がない又は非債弁済に当たるとして、これを棄却した。
付加金請求については、除斥期間が経過していない平成24年8月分ないし平成25年11月分までの割増賃金について75万円+遅延損害金の支払を命ずる限度で認容した。

【裁判所の判断】

Y社の控訴に基づき、原判決中Y社の敗訴部分を取り消す。

Xは、Y社に対し、60万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが従事していた業務は、事業場(支店)から外出して顧客の元を訪問して、商品の購入を勧誘するいわゆる営業活動であり、その態様は、訪問スケジュールを策定して、事前に顧客に連絡を取って訪問して商品の説明と勧誘をし、成約、不成約のいかんにかかわらず、その結果を報告するというものである。訪問のスケジュールは、チームを構成するXを含む営業担当社員が内勤社員とともに決め、スケジュール管理ソフトに入力して職員間で共有化されていたが、個々の訪問スケジュールを上司が指示することはなく、上司がスケジュールをいちいち確認することもなく、訪問の回数や時間もXら営業担当社員の裁量的な判断に委ねられていた。個々の訪問が終わると、内勤社員の携帯電話の電子メールや電話で報告したりしていたが、その結果がその都度上司に報告されるというものでもなかった。帰社後は出張報告書を作成することになっていたが、出張報告書の内容は極めて簡易なもので、訪問状況を具体的に報告するものではなかった。上司がXを含む営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更について個別的な指示をすることもあったが、その頻度はそれ程多いわけではなく、上司がXの報告の内容を確認することもなかった。
そうすると、Xが従事する業務は、事業場外の顧客の元を訪問し、商品の説明や販売契約の勧誘をするというものであって、顧客の選定、訪問の場所及び日時のスケジュールの設定及び管理が営業担当社員の裁量的な判断に委ねられており、上司が決定したり、事前にこれを把握して、個別に指示したりすることはなく、訪問後の出張報告も極めて簡易な内容であって、その都度具体的な内容の報告を求めるというものではなかったというのであるから、Xが従事していた業務に関して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当である。