Category Archives: 労働者性

労働者性30(思いやり整骨院事件)

おはようございます。

今日は、整骨院院長の雇用契約成立に基づく未払賃金等支払請求に関する事案を見てみましょう。

思いやり整骨院事件(大阪地裁令和2年1月17日・労判ジャーナル97号18頁)

【事案の概要】

本件は、柔道整復師であるY社の元院長Xが、「思いやりグループ」と称する本件整骨院を含む複数の事業所若しくは法人からなる集団の中で「総括」等と呼称される地位にある者に対し、主位的に、Xと総括の間に雇用契約が締結され、Xが総括経営に係る整骨院に勤務して労務を提供した旨主張し、未払賃金・未払時間外割増賃金・付加金等の支払並びに雇用保険資格取得届を怠ったという債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 総括は、Xから、高頻度かつ定期的に、本件整骨院の収支状況に関する詳細な報告書等の提出を受けるのみならず、さらに口頭での報告を受けていたことが認められ、この点は、総括のXに対する本件整骨院の業務に関しての指揮監督の存在を強くうかがわせるものであり、そして、Xが本件整骨院での業務に関与することによって得た収入は、売上高その他業績による変動がみられない「基本給」及び「交通費」名目での固定的な性質のもので、この点は、Xが労務提供の対価としての賃金を得ていたとの評価になじみやすいものといえ、また、Xが本件整骨院での業務に関与する契機となった求人情報は「正社員」若しくは「アルバイト・パート」を募集するもので、X自身「アルバイト勤務希望」と記載するなどした履歴書を作成したことが認められるところ、これはX及び統括がともに雇用契約の締結を念頭に置いていたことを推知させる事情にほかならず、また、Xが本件整骨院の院長を辞するに際しての「退職届」の作成は、他者に雇用されているとの意思を有していたことをうかがわせるものであるから、Xと統括の間には、業務委託契約ではなく、雇用契約が締結されたと認定することができる

2 雇用保険の手続不履行による債務不履行責任の有無等について、Xは、本件整骨院の院長を務めている間、統括に対し、雇用保険資格取得届の手続をするよう求めた形跡は見当たらず、そのような取扱いを受け容れていたとみる余地があることに照らせば、統括に対して慰謝料の支払を命ずるまでの精神的損害が発生したと認めるには足りないから、債務不履行に基づく損害賠償には理由がない。

マッサージ店等は労働者性が争われやすい分野です。

業務委託契約を締結する場合には、その実態が雇用契約に近づかないように最新の注意をしましょう。

労働者性29(エアースタジオ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、劇団員の裏方業務の遂行について労働基準法上の労働者性が肯定された裁判例を見てみましょう。

エアースタジオ事件(東京地裁令和元年9月4日・労経速2403号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の下で劇団員として活動していたXが法定労働時間に対する最低賃金法による賃金及び時間外労働に対する法定の割増率による割増賃金について未払があるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、428万5143円+遅延損害金の支払並びに労働基準法114条に基づく付加金請求として355万6074円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社がXを、1月に2日程度した休日を取得できず、1日3時間程度しか睡眠時間を取得できない環境で長きにわたり労務提供させた行為及びY社が従業員をして行わせた暴言、脅迫が不法行為に該当するとして、使用者責任に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円+遅延損害金並びに弁護士費用30万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、51万6502円+遅延損害金を支払え

Xのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件劇団は、年末には、翌年の公演の年間スケジュールを組み、2つの劇場を利用して年間90本もの公演を行っていたこと、本件入団契約においては、Xは、本件劇団の会場整理、セットの仕込み・バラシ、衣裳、小道具、ケータリング、イベント等の業務に積極的に参加することとされ、実際に、本件劇団の劇団員は、各裏方作業について「課」又は「部」なるものに所属して、多数の公演に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っていたこと、Xを含む男性劇団員は、公演のセット入替えの際、22時頃から翌日15時頃までの間、可能な限りセットの入替えに参加することとされ、各劇団員が参加可能な時間帯をスマートフォンのアプリケーションを利用して共有し、Xも相当な回数のセットの入替えに参加していたこと、音響照明は、劇団において各劇団員が年間4回程度担当するよう割り振りが決定され、割り当てられた劇団員は、割当日に都合がつかない場合には交代できる者を探し、割り当てられた公演の稽古と本番それぞれに音響照明の担当者として参加していたことが認められ、これらの点を考慮すると、Xが、セットの入替えや音響照明の業務について、担当しないことを選択する諾否の自由はなく、業務を行うに際しては、時間的、場所的な拘束があったものと認められる

2 また、Xは、劇団員のZ3とともに小道具課に所属し、同人との間で、年間を通してほぼ毎週行われる公演のうちどの公演の小道具を担当するか割り振りを決め、別の公演への出演等で差支えのない限り、日々各公演の小道具を担当していた事実が認められるところ、公演本数が年間約90回と多数であって、Xが、年間を通じて小道具を全く担当しないとか、1月に1公演のみ担当するというようなことが許される状況にあったとは認められないことからすると、Xが、本件劇団が行う公演の小道具を担当するか否かについて諾否の自由を有していたとはいえない。また、小道具は、公演の稽古や本番の日程に合わせて準備をし、演出担当者の指示に従って小道具を準備、変更することも求められていたことから、Xは、本件劇団の指揮命令に従って小道具の業務を遂行していたものと認められる

3 他方、公演への出演は任意であり、諾否の自由があったことはXも認めるとおりであるから、Xは、Y社の指揮命令により公演への出演という労務を提供していたとはいえず、チケットバックとして支払われていた金銭は、役者としての集客能力に対する報酬であって、出演という労務の提供に対する対価とはいえない

劇団員の労働者性が争われた事案です。

「修行」みたいな文化がある業界では、法的な要件で考えると労働者なのかもしれませんが、労基法をそのまま適用すると違和感があるようなケースもありますね。

難しいところです。

 

労働者性28(イヤシス事件)

おはようございます。

今日は、労基法上の労働者性と最低賃金適用の有無に関する裁判例を見てみましょう。

イヤシス事件(大阪地裁令和元年10月24日・労判ジャーナル95号24頁)

【事案の概要】

本件は、リラクゼーションサロンの経営等を目的とするY社の運営する店舗において整体やリフレクソロジー等の施術等の業務を行っていたXらが、XらとY社との間の契約が業務委託契約ではなく労働契約であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、それぞれ未払の時間外割増賃金等の支払、また、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金と同額の付加金等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

労基法上の労働者性肯定

【判例のポイント】

1 Xらの労働基準法上の労働者性について、Xらは、Y社によって業務従事時間の拘束を受けていたといわざるを得ず、また、Xらの報酬は、歩合制であったけれども、1日当たり6000円又は5000円の最低保証額が定められており、しかもXらの業務従事時間が8時間に満たない場合には減額されていたのであるから、Xらの報酬は労働の対価と評価せざるを得ず、そして、Xらが顧客の施術の依頼を自由に断れるわけではないこと、Y社が運営する店舗として他の店舗と同等のサービスを実施してもらう必要があったこと、XらがY社に対し、Y社データや売上兼出勤簿等によって業務報告をしていたこと、Xらの業務従事場所が本件店舗と定められていたこと、本件店舗自体及びその備品をY社が提供していたこと、Xらの報酬がほとんど最低保証額であって最低賃金を下回るものであり、Y社の他の従業員に比して高額なものであったとはいえないこと、本件各契約書には、「遅刻」や「始末書」等労働契約を前提とした文言が記載されていること等から、Xらは、労働基準法上の労働者に当たると認められる。

2 消滅時効について、Xらは、いずれも雇用者として勤務した期間の賃金が支払われていないとして、大阪府の最低賃金とY社の最低保証額の差額、残業代等の支払いを求める書面を送付しており、請求金額が本件請求とは一致しないとしても、同記載から雇用期間の最低賃金額とY社の最低保証額との差額や割増賃金を請求する趣旨であることが読み取れるから、催告として事項の中断効が認められるから、上記各催告から6か月以内に本件訴訟を提起している以上、Xらの本件賃金請求権は時効消滅していない。

リラクゼーションサロンをFCでやっている経営者のみなさん、スタッフと業務委託契約をしている方も多いかと思いますが、契約内容如何によっては、雇用とみなされますので、十分気を付けてください。

労働者性27(類設計室事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

51日目の栗坊トマト。縦とともに横にも大きくなってきました!

今日は、学習塾講師の労働基準法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

類設計室事件(大阪地裁令和元年5月30日・労判ジャーナル90号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する学習塾に務めていた元講師Xが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払の時間外、休日及び深夜割増賃金計約487万円等の支払、また、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金と同額の付加金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

付加金請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社の講師は、Y社が指定する教室においてY社が指定する教科を担当することが指示され、これを拒否することはできなかったこと、Y社が作成したテキストをY社が作成したマニュアルに従って授業を行わなければならなかったこと、原則として午後2時から午後11時までの間、指定された教室で、各種事務に加えてY社が定めた授業配置表に従って授業を行うとともに、活動記録により毎日の出退社時刻及び活動内容別の活動時間数を本部へ報告することを義務付けられていたこと、Y社の講師は、自己の判断だけで代講者を決めることはできなかったこと、毎月、給与の名目で固定額の基本給及び扶養手当から構成される報酬が支払われていたこと、Y社は、講師の報酬について給与所得として源泉徴収を行っており、かつ講師を労働保険の適用対象としていたことから、Y社の講師は、Y社の具体的な仕事の依頼、業務従事地域の指示等に対して許諾の自由を有しないこと、Y社から業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けていること、勤務場所・勤務時間に関する拘束性があること、業務の代替性が認められないこと、報酬の労務対償性があること等から、Xは、労働基準法上の労働者である。

まあ、これを雇用ではなく業務委託というのは無理がありますね。

労働法の適用を排除する目的で無理矢理、一人親方とするような例が後を絶ちませんが、大方、雇用ですので、裁判を起こされれば、多くは負けることになります。

労働者性26(ミヤイチ本舗事件)

おはようございます。

20日目の栗坊トマト。 葉っぱの数が増えてきました。

今日は、運転代行従事者の労働者性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ミヤイチ本舗事件(東京高裁平成30年10月17日・労判1202号121頁)

【事案の概要】

Y社は、運転代行業などを業とする株式会社である。X1は、平成24年7月頃から平成26年3月15日まで、X2は、平成24年5月22日から平成26年3月15日まで、いずれもY社において運転代行業に従事していた。

本件は、Xらが、Y社との雇用契約を締結していたと主張して、Y社に対し、未払残業代等の請求した事案である。

Y社は、主に、Xらとの契約が雇用契約ではなく業務委託契約であると主張して、Xらの請求を争った。

原審は、Xらが労働者に当たるとはいえないと判断して、Xらの各②③の請求を棄却するとともに、各①の請求について、請求に係る元本額+遅延損害金の限度でこれを認容した。

Xらは、原判決の上記判断を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

労基法上の労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 Xらは、就業規則と題する書面に署名押印させられ、勤務時間を定められ、職務専念義務及びY社の指示に従う義務を課せられた上、就業規則に定めのない事項は労働基準法その他の法令の定めるところによるとされていた。さらに、具体的な仕事の進め方についても、「代行本舗 社内遵守事項」が定められており、Xらは、業務遂行にあたって、仕事開始時間、待機の場所等について具体的に指示され、時間的場所的拘束を受けるだけでなく、Y社の指示に従う義務を課されるなど、Y社の包括的な指揮監督に服していた

2 具体的な業務内容である勤務シフトは、Y社側が一方的にシフト表を作成し(具体的にシフト表作成の事務を行っていたのはXらであるが、シフト表に従った勤務を命じているのはY社である。シフト表に従った勤務をできないときは、Y社の許可が必要であり、許可なしに勤務しなかった場合には、「代行本舗 社内遵守事項」によって、最高で1日2万円の制裁が科される。したがって、各月の運転代行業務について、Xらに諾否の自由があったとは認められない

3 他の代行運転者が業務委託契約書を交わしているのに対し、Xらについては、業務委託契約書が作成されていない上、Xらの業務は、他の代行運転者と異なるものであった。すなわち、Xらは、他の代行運転者よりも早く出社して、自動車を駐車場から事務所に移動させる業務、顧客を紹介する飲食店への手土産の購入などの業務、シフト表の作成業務、X1については電話番と手配業務などをしていたが、これらは代行業務に係る業務委託契約の範囲を超える業務であるというほかない。

4 Xらは、歩合報酬だけでなく、X1が電話番として勤務する以外の場面においても職務手当及び役職手当との名目で支払を受けていたこと、Y社の決算報告書において、Xらに対する支払いを業務委託料ではなく給料手当として計上していることからしても、Y社もXらとの関係を雇用関係であると理解していたとうかがわれる。
これらの諸事情を総合すると、XらとY社との関係は労働契約に基づくものというべきである。

これだけの事情がそろえば、労働者性は肯定されることはそれほど大変ではありません。

労働者性25(セブンーイレブン・ジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、コンビニオーナーの労基法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

セブンーイレブン・ジャパン事件(東京地裁平成30年11月21日・労判ジャーナル85号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でコンビニエンス・ストアの経営に関するフランチャイズ契約を締結するなどしていたXが、同契約に基づくXのY社に対する労務提供の実態からすると、Xは労働基準法第9条の「労働者」及び労働契約法第2条第1項の「労働者」に該当するにもかかわらず、Y社は、Xに対して、賃金の支払を怠る、使用者としての安全配慮義務に反して傷害を負わせる、無効な解雇を行うといった不法行為を行ったなどと主張して、Y社に対し、主位的には、不法行為に基づき、未払賃金相当額及び慰謝料等の損害金等の支払を求めるとともに、予備的には、労働契約に基づき、未払賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から業務遂行上の指揮監督を受けていたと主張するが、本件各店舗の仕入を援助し、その販売促進に協力することは、同契約に基づくY社の義務の履行を行い、使用者がその権限において行う労働者に対する指揮監督とはその性質がおよそ異なるものであり、また、Xは、時間的・場所的に強い拘束を受けていたなどと主張するが、本件各店舗という営業場所やその営業時間が指定されていたのは、Y社がXの業務の遂行を指揮監督する必要によるものではなく、フランチャイズ契約の内容によるものにすぎず、そして、Xの親族やXが雇用したアルバイト従業員が本件各店舗の店舗業務を行っていたことは、Xの労働者性を否定する方向に働く事情であり、また、本件各基本契約において、いかなる方法により貸借処理を行い、また、最低保証制度を設けるか否かは、原則として、フランチャイズ契約の内容をどのように設定するかという問題にとどまり、その他、Xが指摘する諸事情を考慮しても、Xの事業者性を減殺し、Xの労働者性を積極的に肯定できるまでの事情の存在を認めることはできない。

チャレンジングな訴訟ですが、結論的には異論はないと思います。

なお、労組法上の労働者性は労基法上のそれに比べて定義が広いため、FCでも認められることがあります。

労働者性24(メディカルプロジェクト事件)

おはようございます。

今日は、医師の労基法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

メディカルプロジェクト事件(東京地裁平成30年9月20日・労判ジャーナル84号48頁)

【事案の概要】

本件は、美容外科等の診療科目で開設された医院で稼働していた医師Xが、医院の経営に関するコンサルタント業務等を目的とするY社に対し、雇用契約に基づき、平成27年1月分の賃金150万円、平成26年12月分の賃金として支払われるべき未払いのインセンティブ4万7557円、平成26年8月1日から平成27年1月23日までに、所定休憩時間に休憩できず1日8時間を超えて労働したことに対する時間外割増賃金約105万円の合計260万円から、既払い金74万円を控除した残額約186万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

労基法上の労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 本件契約上、Xは、毎月末日を締日とする1か月の期間ごとに、所定の22日間の勤務を行うことが求められ、Y社は、これに対して、月額150万円の報酬を支払うことが定められており、この報酬については、医師の勤務日数が所定の日数を下回る場合には、日割り計算した分を減額されるなど、期間と勤務日数に対応した報酬という性格を有しており、また、本件各院における施術項目や診療体制等を決定していたのは、本件各院を実質的に運営していたY社であると認められ、Xは定められた施術項目や診療体制等に従って、患者の診療・施術等に当たっていたと認められるから、この限りにおいて、Y社の指揮命令に服していたと認められ、Xは、あらかじめ定められたシフトに基づき、勤務日に各院に出勤し、基本的には本件契約に基づく所定の勤務時間に従って、医療行為等の業務に従事していたと認められること等から、本件契約はXがY社に使用されて労働し、Y社がこれに対して賃金を支払うことを内容とする雇用契約(労働契約)に当たり、Xは、労基法9条の「労働者」に該当すると認めるのが相当である。

判決理由を読む限り、指揮命令下に置かれていたことは明らかですね。

労働者性23(国・瀬峰労基署長事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労基法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

国・瀬峰労基署長事件(東京地裁平成30年5月31日・労判ジャーナル80号52頁)

【事案の概要】

本件は、外壁工事等を営む義父の下で作業に従事していたXが、作業現場で転落して負傷したことが、業務に起因したものであるとして、瀬峰労基署長に対し、労働者災害補償保険法に基づき療養補償給付、休業補償給付及び障害補償給付の各請求をしたところ、Xは同法上の労働者ではないとの理由でいずれも不支給処分を受けたことから、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの本件事業主に対する家計費の支払状況やXに対する給与の支払状況、労働条件が明示されていなかったこと、X名義のローン代金等を実質的に負担していたことなどの事情を総合すると、X及びその妻子と本件事業主及びその妻とは、別個独立して生活を営んでいたとは認められず、生計を同じくする関係にあり、Xは本件事業主にとって同居の親族に当たると認められ、そして、本件事業場には常時使用されていたものはX以外におらず、業務の繁忙時期にのみ、臨時に労働者を使用していたが、その期間は、7か月間で6日であり、全く使用しない月が連続してあったことや、臨時労働者は年間で延べ30人程度であったことなどの事情を総合すると、本件事業場においてX以外の労働者を使用していた時期は一時的なものであったといえること等から、本件事業場は、本件事業主を経営者とする家族経営の事業であり、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業には当たらないから、労働基準法116条2項の趣旨等を併せ考慮すると、同事業に従事する同居の親族であるXを労働者災害法(労働基準法)上の労働者と認めることはできない

労働基準法116条2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定されています。

あくまでこの規定の「趣旨」を考慮するとされているにすぎず、直接適用はされていません。

労働者性22(ネットショップN社事件)

おはようございます。

今日は、元代表取締役の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

ネットショップN社事件(高松地裁平成29年4月18日・労判1180号147頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、XらとY社との間の労働契約に基づき、①時間外労働等による平成25年3月から12月までの割増賃金、②労働基準法114条に基づく付加金、③平成25年の冬季賞与及び④退職金を請求し、⑤いわゆるパワーハラスメントによって精神的苦痛を受けたことを理由とする不法行為、債務不履行(安全配慮義務違反)又は会社法350条に基づく慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 X1は平成25年9月1日以降、Y社の代表取締役として経済紙のインタビューに応じ、また、政策金融公庫に自ら出向き、現に800万円の融資を受け、その連帯保証人になるなど、代表取締役として業務を行っていたと認められる。他方で、残業手当の支給があること等X1が主張する事情は、X1とY社との間の労働契約関係の存在を推認するに足りない。

2 勤怠報告書は、Y社が労働時間管理に用いていたものではなく、Xらが平成27年5月22日に本訴を提起するに先立ち、自身の記憶に基づいて作成したというのであるから、客観的な資料とは言い難く採用できない
Xらは、Y社がY社事務所の入退室記録の開示を拒み、Xらの立証活動を妨害したというが、入退室記録から直ちにXらの個々の出退勤時刻が明らかになるわけではなく、開示を拒んだことが直ちに立証活動の妨害とは評価できない。また、Y社が従業員の労働時間を管理していたとは認められないものの、Xらの時間外労働を概括的に推認させる証拠すらない以上、Xらの主張は採用できない。

ときどき代表者の労働者性が問題となることがありますが、かなりハードルは高いですね。

また、使用者が適切に労働時間の管理をしていない場合、労働者側としては、そのことを理由に概括的な認定を要求しますが、裁判所としてもある程度判断の拠り所になる資料がないといかんともしがたいと考えるのです。

ここは難しいところで、この考えを突き詰めると、結局、ちゃんと労働時間を管理している使用者の方が不利になるように思えて、正直者がバカを見る感じになります。

和解でなんらかの解決が可能であればいいのですが、判決まで行くと今回の裁判例のような判断も十分考えられるので、注意が必要です。

労働者性21(美容院A事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、共同設立者である美容師の労働者性と賃金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

美容院A事件(東京地裁平成28年10月6日・労判1154号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営する美容院において稼働していたXが、Y社に対し、Y社との間に労働契約が成立している旨を主張して、同契約に基づく賃金(平成24年7月分から平成25年2月分までの未払賃金合計255万円)及び遅延損害金(上記各月分の賃金に対する各支給日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合によるもの)の支払を求めた事案である。

これに対し、Y社は、Xが、実質的にY社代表者とY社を共同経営する代表者の一人であり、労働契約に基づく賃金請求権を有するものではないし、また、同請求権を有していたとしても賃金減額に同意しており、全ての賃金が既払いとなっている旨を反論するものである。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、105万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが、勤務時間や場所等について、これらを自由に決定できる状況になく、自身を指名予約する顧客の有無にかかわらず、場合によっては、美容院を不在にすることの多いY社代表者を介して来店した顧客への対応も含めて、概ね週五,六日程度、出勤して美容師として稼働していたこと、そして、会計上、給与(賃金)の名目で月額報酬を支給され、雇用保険に加入していたこと、取締役又は代表取締役としての就任登記がされていないことといった事情に照らせば、原則として、Xの従業員としての地位を全く否定することは困難であって、少なからず同地位を有していたものとみるのが相当というべきである。

2 XとY社代表者との間では、費用と報酬を分け合い、二人で意見を出し合って店を切り盛りしていくといった程度の大まかな認識に基づく「共同経営」に関する合意があったところ、そのような合意に基づいて、両者の報酬がほぼ同等の額とされたほか、Xにおいても、自身が「共同経営者」であるとの認識に基づき、Y社にa社で使用していた機材を提供することに始まり、「取締役」との肩書きを付した名刺を用いて稼働し、Y社代表者に意見を述べ、また、他の美容師の指導的役割を担い、さらに、Y社の運転資金等の借入れに際して、金融機関との折衝に立ち会い、連帯保証人となったほか、店舗賃貸借契約の連帯保証人にもなり、税理士・公認会計士とY社代表者との打合せにXが参加したこともあったこと等を踏まえれば、Xは、Y社の経営に一定程度関与をする姿勢を見せており、これに事実上の影響力を及ぼし得る立場にあったものといえる。
もっとも、Y社において取締役会が開催されたことはなく、当然ながらXがこれに出席して何らかの発言等を行ったことが一切ないこと、また、これも代表取締役としての就任登記の有無の差異から当然のこととはいえ、対外的な折衝、契約をはじめとする様々なY社の業務執行行為に及んでいたのが飽くまでY社代表者のみであり、Xがこれに及んでいたものではないこと(上記各連帯保証契約を、Y社の役員という立場や肩書きを明示した上でXが締結したことを認めるに足りる証拠はない。)からすると、Xが、Y社の実質的な代表取締役であったとまでいうことは到底できない。
前記のような事情を踏まえても、Xは、実質的には、せいぜい使用人兼務役員のような立場にあったといえるにすぎないというべきであって、上記特段の事情を見出すことはできず、Xの従業員性を否定することはできない

3 Y社は、Xが、賃金減額に対して何ら異議を述べず、Y社を退職した後である平成25年10月にあっせんの申請をするまで、減額分の金員の請求をせず、これを受け入れていたものである旨を主張するところ、確かにXは、上記あっせんの申請まで何らの法的な手続に及んではいない。
しかしながら、Xの報酬のうち賃金相当額についてみると月額37万円から月額22万円への4割ほどの大幅な減額であること、Xとしては、その減額に対して少なくとも口頭で、そのような安い報酬ではやっていけない旨をY社代表者に伝えた旨を供述していること、そして、現にXはそのような処遇に納得がいかずにY社を辞めることにしたこと、また、Xは、Y社の美容院を平成25年2月末に退店した後も、同年6月ないし7月頃まで、Y社の了承の下に、Y社の美容院の片隅に間借りして別の美容院を営んでおり、そのような状況が一段落してから未払賃金の請求をしようと考え、その後間もない同年10月にあっせんの申請に及んだことからすると、Xが、Y社からの賃金減額の通告に納得していたものではないといえ、他に原告がこれについて真意に基づき同意していたことを認めるに足りる証拠はない

本件では、上記判例のポイント2のように労働者性を否定する事情がいくつか存在しますが、それでもなお、労働者性は否定されませんでした。

裁判所がこのように判断することも十分あり得るということを前提に労務管理をすることが大切です。