Category Archives: 解雇

解雇338(東京キタイチ事件)

おはようございます。

今日は、業務中負傷の症状固定約2か月後になされた解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

東京キタイチ事件(札幌高裁令和2年4月15日・労判1226号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、これに基づきY社のA工場でタラコの加工業務に従事していたXが、平成26年3月24日、業務中に右手小指を負傷して休職していたところ、症状固定後の平成29年12月25日付けで普通解雇されたため、Y社に対し、①本件解雇は無効であると主張し、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、②雇用契約に基づき、復職が可能な日である平成30年4月1日以降の賃金及び賞与請求として、同年5月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額6万8040円の賃金及び毎年7月10日限り5000円、毎年12月10日限り7000円の賞与+遅延損害金の支払を求めるとともに、③Xが右小指を負傷したことにつきY社の安全配慮義務違反があったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、後遺障害慰謝料180万円及び④Y社がXの復職要請に真摯に対応しなかったと主張し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、Xが解雇によって復職を阻止されたことについての慰謝料100万円並びに上記③及び④の慰謝料(合計280万円)に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xはこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

解雇無効

Y社はXに対し、161万1540円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで、毎月7万2324円+遅延損害金を支払え

安全配慮義務違反は否定

【判例のポイント】

1 Y社としては、復職が可能であるとの主治医の判断を得ているとの申告を受けていたのであるから、本件診断書に基づいてXが就労不能であるか否かを判断するというのであれば、本件診断書を作成したF医師に問い合わせをするなどして、本件診断書の趣旨を確認すべきであったといえるし、その確認が困難であったような事情も特にうかがわれない。そして、そのような確認がされていれば、同医師からは、Xにおいて、小指に無理をかけないよう注意を払えば、慣れた作業や労作は可能である、小指が仕事に慣れるまでの間は仕事量を減らすなどの配慮が必要である、包丁を使う作業等も慣れれば不可能であるとはいえないなどの回答が得られたものと考えられる。
そうすると、製造部における作業が、冷たいタラコを日常的に取り扱うものであることや、頻回な手洗いが必要であることなど製造部における作業内容に関する諸事情を考慮しても、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、Xが製造部へ復職することは可能であったと考えられるところであり、本件解雇の時点において、Xが、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできない。なお、本件解雇の時点において、XがY社との雇用契約の本旨に従った労務を提供することが可能であったとは認められないとしても、慣らし勤務を経ることにより債務の本旨に従った労務の提供を行うことが可能であったと考えられるし、本件事故がY社の業務に起因して発生したことを前提としてXが労災給付を受給していたことも踏まえると、かかる慣らし勤務が必要であることを理由として、Xに解雇事由があると認めることは相当でない。

2 復職に向けた協議の中で、勤務時間や賃金等の具体的な条件の提示やXとの調整はなされていない
加えて、Y社は、Xに対し、清掃係への配置転換を拒否すれば解雇もあり得る旨を一切伝えておらず、製造部での業務に従事させることができない理由や、配置転換を受け入れなければならない理由等について十分な説明をしたこともうかがわれない。そうすると、上記Y社による提案は、Y社の担当者等がどのように認識していたかはともかく、客観的には、その時点でのXの漠然とした意向が確認されたに過ぎないものとみるべきであり、Xとしても、自分が、配置転換を受け入れるか、解雇を受け入れるかを選択していなかったものと認められる。したがって、このような提案によってY社が解雇回避努力を尽くしたものとみることはできない
・・・Y社としては、Xを解雇する可能性も視野に入れていながら、Xに対し、退職勧奨を行うこともなく症状固定のわずか約1か月後に本件解雇の意思表示がされたものである。そうすると、Xからすれば、一度も解雇を回避する選択の機会を与えられないまま、解雇されるに至ったというほかないものである。

休職期間満了時において、会社がいかに対応すべきかという問題はとても難しいです。

本件裁判例は会社の対応方法について示唆に富む内容ですので参考にしてください。

解雇337(ドリームスタイラー事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、原告の退職が実質的には被告による解雇にあたるとの主張を否定し、退職が有効と判断された裁判例を見てみましょう。

ドリームスタイラー事件(東京地裁令和2年3月23日・労経速2423号27頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、平成29年4月1日に飲食店の運営等を目的とする株式会社であるY社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、本件労働契約に基づいてY社の業務に従事していたが、妊娠中の平成30年4月末日をもってY社を退職したことについて、①Y社は、時短勤務を希望していたXに対し、月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝え、退職を決断せざるを得なくさせたのであり、実質的にXを解雇したものということができ、当該解雇は男女雇用機会均等法9条4項により無効かつ違法であるなどと主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や、解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与+遅延損害金の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用相当額の損害金の合計110万円+遅延損害金の支払を求めるほか、②Y社は労基法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、労基法に従った平成29年4月から平成30年3月までの割増賃金合計157万2444円+遅延損害金や、当該割増賃金に係る労基法114条所定の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、55万2672円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金42万8227円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社がXに対して月220時間の勤務時間を守ることができないのであれば正社員としての雇用を継続することができない旨を伝えていたと認めることはできず、したがって、Xにおいて、月220時間勤務を約束することができなかったため、退職を決断せざるを得なくなったという事情があったということはできない
また、Y社は、Xの妊娠が判明した後、Xの体調を気遣い、Xの通院や体調不良による遅刻、早退及び欠勤を全て承認するとともに、c店において午前10時から午後4時又は午後5時まで勤務したいというXの希望には直ちに応じることができなかったものの、Xに対し、従前の勤務より業務量及び勤務時間の両面において相当に負担が軽減される本件提案内容のとおりの勤務を提案していたものであり、これらのY社の対応が労基法65条3項等に反し、違法であるということはできない
さらに、上記のとおりの本件提案内容を提案するに至った経緯や、本件提案内容においても、Xの体調次第では人員が足りている午後3時までは連絡すれば出勤しなくてもよいとの柔軟な対応がされていたことからすると、本件提案内容自体、今後の状況の変化に関わらず一切の変更の余地のない最終的かつ確定的なものではなく、Y社は、平成30年4月3日及び同月4日の時点においても、今後のXの勤務について、Xの体調やY社の人員体制等を踏まえた調整を続けていく意向を有していたことがうかがわれる(Xは、Y社において高い評価を受けており、XとC店長及びD部長との間のLINEメールによるやり取りからも、C店長やD部長から厚い信頼を得ていたことがうかがわれ、Y社において、Xが退職せざるを得ない方向で話が進んでいくことを望んでいたと認めることもできない。)。
なお、C店長は、同月3日、Xに対し、自分の好きな場所で好きな時間帯に働きたいというのであれば、アルバイト従業員の働き方と同じであり、Xの希望次第では契約社員やアルバイトへの雇用形態の変更を検討することも可能である旨を伝えていたものの、上記のY社の対応を踏まえれば、一つの選択肢を示したに過ぎないことは明らかであり、このことをもって、雇用形態の変更を強いたということはできない
これらの事情によれば、Xの退職が実質的にみてY社による解雇に該当すると認めることはできない

労働者の退職が実質的には被告による解雇にあたると主張されることはときどきあります。

しかし、当該退職が使用者の退職強要によるとして損害賠償請求をするのとは異なり、自主退職は実質的に解雇であるとの主張は、想像以上にハードルが高いです。

解雇336(日本電産トーソク事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、カッター振り回し行為を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電産トーソク事件(東京地裁令和2年2月19日・労判ジャーナル102号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社から懲戒解雇され、その後予備的に普通解雇されたところ、上記各解雇が懲戒権の濫用あるいは解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条、16条により無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同懲戒解雇後の賃金として、平成29年5月11日から本判決確定の日まで毎月10日限り23万3200円+遅延損害金の支払を求め、さらに、同懲戒解雇及び同普通解雇がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料として、1000万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、46万6400円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、平成29年4月のf部室内のレイアウト変更において、自席がFグループリーダーの横に配置されることに強く反発してこれを拒絶したにとどまらず、同月24日、前日の自己の退社後に席が移動されたことを知るや、G部長に対し、座席配置の変更について配慮のない行為をされ精神疾患を誘発した責任を同部長にとってもらうなどといったメールを送信し、翌25日もG部長に対し同旨の言動をして精神疾患に対する治療費を支払うよう求め、その住所を聞き出そうとしたり、同部長の前に立ちはだかったり、行く手を遮ろうとしたもので、被害妄想的な受け止め方に基づき、身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものといわざるを得ないし、その動機においても酌量すべき点はない。そして、Xは、翌26日も、病院への通院や弁護士の相談に行くための職場離脱を業務扱いにするよう求め、G部長にこれを断られるや、カッターの刃を持ち出してG部長の面前で自らの手首を切る動作をしたものであって、その動機は身勝手かつ短絡的である上、G部長や周囲の職員の対応いかんによっては自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であったといえる。また、かかるXの行為によって、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったものと推察されるし、2度も警察官が臨場する騒ぎとなったことも軽くみることのできない事情である。
このように、かかるXの一連の行為については、少なくとも、就業規則所定の懲戒事由としての「職務上の指示命令に従わず,職場の秩序を乱すとき」(80条3号)に該当することは明らかであるから、懲戒事由該当性が認められる。そして、前判示のとおりその態様も危険で悪質といえることや、この平成29年4月の部屋のレイアウト変更をめぐる一件以前にも、Xが種々の問題行動を繰り返していたことは前記認定事実のとおりであることからすれば、Xに対しては、相当に重い処分が妥当するといえないではない
しかしながら、他方で、G部長の適切な対応によるものとはいえ、この件によって傷害の結果は発生しなかったものであることや、前記認定事実のとおり、カッターの刃を持ち出したXの行為が自傷行為の目的に出たものであって、G部長や他の職員に向けられたものでなく、そのことはG部長も認識し得る状況にあったこと、前記のとおり、かかる行為が自己の要求を通すための自演であると認めるに足りる証拠はないこと、前記認定事実のとおり、Xが、gグループにおいて当初は種々雑多な業務に問題なく従事し、このうち、蛍光灯の掃除については約2000本にわたる蛍光灯をもう1名の社員と分担して行うなど、真摯な姿勢で業務に従事していた時期もあること、このレイアウト変更をめぐる件以前にも、Xに種々の問題行動があったことは前記認定事実のとおりであるものの、Xには懲戒処分歴はなかったことなど、Xにとって有利に斟酌すべき事情も認められる。このような事情をも勘案すると、1度目の懲戒処分でXを直ちに諭旨解雇とすることは、やや重きに失するというべきである。
以上のとおり、本件諭旨解雇及びそれに伴う本件懲戒解雇については、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権の濫用に当たるものであって、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Y社は、平成29年7月11日付けで予備的に本件普通解雇の意思表示をしていることから、同解雇の効力について検討する。
前記認定事実のとおり、Xは、Y社入社直後に配属されたaグループ在籍時において、顧客との対応がうまく行かなかった時などに顧客に対し声を荒げるなどのトラブルを起こし、上司や先輩社員からの注意に対しても感情を高ぶらせるなどして、顧客との接点の少ないあるいは接点のない部署に異動を命じられたものの、そのような部署であるc事業管理部やe部においても同僚職員や上司との間でもトラブルが絶えなかった。Xは、その後、f部に異動となり、約2年以上に及ぶ出向先開拓の期間を経て、f部・gグループに配属されたが、ここでも、配属後しばらく経った後から、気に入らない業務については断ったり、他の従業員とのトラブルを起こすようになり、遂に前記で判示したとおりの平成29年4月のレイアウト変更に端を発する事件を引き起こしたものである。
このように、Xが、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことからすれば、Y社としては、このように職場秩序を著しく乱した原告をもはや職場に配置しておくことはできないと考えるのはむしろ当然であるといえ、かつ、それまでにも、Y社が、トラブルを起こすXに対し、その都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配転して幾度も再起を期させてきたことは、前記認定事実に照らし明らかであって、もはや改善の余地がないと考えるのも無理からぬものということができるから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であると認められる。

諭旨解雇は相当性の要件を欠き無効と判断されている一方で普通解雇は有効とされた事案です。

同じ解雇でもこのように結論が分かれることがわかる非常に勉強になる裁判例ですね。

解雇335(N社事件)

おはようございます。

今日は、暴行を理由とする諭旨解雇無効に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁令和2年2月27日・労判ジャーナル102号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結してマンションの管理人として就労していたXが、勤務中に第三者に暴行を加えて傷害を負わせたことを理由としてY社から諭旨解雇処分を受け、また、Y社及びXと上記暴行の被害者との間でY社及びXが同被害者に対して連帯して解決金60万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立し、Y社が同解決金を支払ったところ、Xが、Y社に対し、上記諭旨解雇は無効であり、Y社がXを解雇したことが不法行為を構成する旨主張して、不法行為による損害賠償として、解雇日から定年までの賃金相当額458万円と慰謝料300万円等の支払を求め(本訴請求)、Y社が、Xに対し、連帯債務者間の求償として、Y社が支払った解決金相当額である60万円等の支払を求めた(反訴請求)事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求は棄却

反訴請求は認容

【判例のポイント】

1 XがGに対して暴行して傷害を負わせているから、準社員就業規則所定の「刑法犯に該当する行為を行った」に該当し、そして、本件傷害事件に至る経緯及びその態様についてみると、XがGから危害を加えられる危険性が高かったともいえないにもかかわらず、Xは、一方的にGに対して手拳で十数回殴打する暴行を加えたのであり、本件傷害事件におけるXの行為は悪質であるといわざるを得ず、しかも、Xは、本件傷害事件の当時、Y社の会社名及びロゴマークが入った制服を着用して本件マンションの管理人として勤務中であり、Y社の信用が毀損されるおそれの高い行為であるというべきであるから、本件諭旨解雇が社会通念上相当であると認められないということはできず、本件諭旨解雇が権利を濫用するものとして無効であるということはできない。

2 本件和解は本件傷害事件に係るXの不法行為による損害賠償債務及びY社の使用者責任による損害賠償債務についてされたものであるところ、本件傷害事件は、Xの故意による不法行為であり、XにおいてGに対する暴行をすることがやむを得ないという状況にあったとはいえず、しかも本件マンションの管理人としての業務内容を大きく逸脱するものであってY社において予見し得る行為であったといい難いことに照らせば、Y社がGに対して使用者責任による損害賠償債務を弁済した場合のXに対する弁済金相当額の求償については信義則上の制限を受けないというべきである。

妥当な結論です。

会社が使用者責任により被害者に支払をした場合には、上記判例のポイント2のような求償の問題が出てきます。その際、割合が争点となりますので注意してください。

解雇334(社会福祉法人緑友会事件)

おはようございます。

今日は、出産後1年を経過していない保育士に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人緑友会事件(東京地裁令和2年3月4日・労判1225号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社がXに対してした平成30年5月9日付解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、均等法9条4項に違反することから無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②労働契約に基づく賃金支払請求として、平成30年5月から平成31年4月まで及び令和2年6月以降、毎月25日限り、月額賃金22万1590円+遅延損害金の支払、③労働契約に基づく賞与支払請求+遅延損害金、④本件解雇が違法であり、不法行為に当たると主張して、慰謝料等220万円等+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料等33万円認容

【判例のポイント】

1 均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。同項但書きは、「前項(9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定するが、前記の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される
そうすると、本件解雇には、客観的合理的理由があると認められないことは前記のとおりであるから、Y社が、均等法9条4項但書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したとき」とはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。

2 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないと解される。
もっとも、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。このような経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛が概ね慰謝されたものとみることは相当ではない

妊娠・出産・育休中の女性従業員に対する解雇事案は、本件同様、極めてハードルが高いことを認識しましょう。

解雇333(学校法人明浄学院事件)

おはようございます。

今日は、教諭らに対する整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人明浄学院事件(大阪地裁令和2年3月26日・労判ジャーナル101号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y学校の専任教諭であった元教諭X1・2が、Y学校による整理解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成30年4月から令和元年12月まで毎月20日限り、X1については月額約33万円、X2については月額約29万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 平成30年2月頃までには、専任教諭2名が懲戒解雇され、専任教諭8名が希望退職に応じ、また、平成30年3月に定年退職予定者1名がいる状況であり、さらに、Y学校の人員削減方針の対象者には常勤講師も含まれるところ、平成30年3月には常勤講師7名が退職となっており、そのために同月頃、新たに13名を採用していることからすると、本件各解雇の予告を撤回してXらの雇用を継続することができなかった理由も見当たらないから、Xら2名を解雇する人員削減の必要性まであったのか否かについては疑問があり、人件費の削減は、解雇に至らなくても教諭らの給与額を削減することによっても達成することができたのに、Y学校はXらに対し、保健体育教員として在職したまま給与を減額する提案を行っておらず、さらに、Y学校が本件各解雇に先立ち、常勤講師の更新の可否を検討したなどの事情も見当たらないから、人員削減の対象として保健体育教員を選択する人選の合理性が認められず、また、Y学校が十分な解雇回避努力を行ったとも認められないから、本件各解雇は、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。

整理解雇をしつつ、新たに採用をするとなりますと、多くの場合、整理解雇の必要性が否定されてしまいます。

そのようなケースでは、解雇回避努力も不十分なことが多いので、いずれにせよ解雇は無効となります。

解雇332(本多通信工業事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正ダウンロード等を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

本多通信工業事件(東京地裁令和元年12月5日・労判ジャーナル100号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、譴責、減給並びに諭旨退職及び懲戒解雇の各懲戒処分の無効確認を求めるとともに、労働契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件懲戒解雇の有効について、本件メールは、Y社の代表取締役等の役員を誹謗中傷し、これらの者や賞罰委員会の構成員を威嚇又は挑発する内容のものというべきであり、また、Xは、Y社からの度重なる指示に従わず同様の行為を繰り返しており、Xが本件メールを送信した行為は、就業規則所定の「他人を中傷または誹謗し名誉・信用を傷つけ損ないもしくは秩序を乱す流言飛語を行ったとき」、「経営に著しく非協力なとき、もしくは業務上の指揮命令に不当に反抗し誠実に勤務しないとき」、「その他、再三注意するも規律、義務に違反したとき」に該当するというのが相当であり、また、Xは、私用であるヤフーメールにアクセスし、ヤフーメールを作成中の状態にした上で、ヤフーメールの添付ファイルとして、X社内パソコンの「PC纏め」という名のフォルダから、Y社の社内情報(Xの給与明細、Y社の経営方針、暗証番号等)をアップロードし、アップロードを完了した。当該アップロードは、就業規則所定の「経営に著しく非協力なとき、もしくは業務上の指揮命令に不当に反抗し誠実に勤務しないとき」、及び「その他、再三注意するも規律、義務に違反したとき」に該当するというのが相当である。

ポイントは、「度重なる指示に従わず同様の行為を繰り返しており」という点です。

解雇331(MAIN SOURCE事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

MAIN SOURCE事件(東京地裁令和元年12月20日・労判ジャーナル100号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、試用期間中に行われたY社による解雇が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求として平成30年8月以降本判決確定日まで毎月10日限り月額20万円(ただし,平成30年7月分については既払額を控除した残額である19万0480円)+遅延損害金の支払を求め、併せて、本件解雇が不法行為に該当し、また、Y社には職場環境配慮義務違反があると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として110万円(慰謝料100万円、弁護士費用10万円)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、作業日報の記載方法や記載内容について説明を受けていたにもかかわらず、作業日報の問題点欄や今後の対策欄に何の記載もしなかったり「なし」とのみ記載したり、予定作業内容欄に簡略な記載しか行わないなど、Y社が求める記載方法や記載内容とは異なる方法で作業日報を作成しており、これについてBマネージャーやCからの指示、指導がされても改善されないといったことがあったことに加え、作業日報の作成時間等を巡ってY社側と意見を対立させた挙句、平成30年6月1日にはY社代表者に対して原田メソッドがXの思想良心の自由を侵害する違法なものであるから紹介をやめるよう求め、意見を聞き入れなければ訴える等と告げているのであって、BマネージャーがXの作業日報に記載しているXに対する肯定的な評価を踏まえても、Xに協調性がないとY社が判断したことはやむを得ないものといえる。
加えて、XがY社への就職内定後、Y社から借りた本件トラックを使用中に、結果として100万円以上の損害をY社に被らせた本件物損事故を起こしたにもかかわらず、事故後速やかな警察への連絡も、Y社への連絡、報告、相談も行っておらず、その後、本件トラックの損傷状況がY社に明らかになった後も、Y社からの要請があって初めて具体的な事故状況の報告を行ったり、本件物損事故の現場の調査を行っているといった不十分な対応しかとっていないことを、その後のXの作業日報に関するやりとりと併せて考えれば、Y社において大切なこととされている「報告・連絡・相談」をXが適切に行うことができないものと評価することもやむを得ないといえる。

2 Y社における業務内容が、複数の工程を限られた従業員(平成30年9月当時の従業員数は9人にすぎない)で分担して行うものであって、また、作業内容が技術的事項にわたるものであってOJTによる習熟を前提としていることからすれば、協調性や、適切な報告・連絡・相談の実施は、Y社の従業員として求められる適性であると解されるのであって、平成30年4月16日の採用内定後に発覚した上記事情によりXが上記適性を欠くと評価できる以上、Y社が留保解約権を行使することには客観的に合理的な理由が存在し、また、上記経緯に照らせば、その行使は社会通念上も相当と認められる。

3 Y社は原田メソッドの考え方をY社の経営理念、経営方針に取り入れているにすぎず、また、作業日報は、Y社従業員の作業実態を踏まえ、各従業員の作業内容及び進捗状況の確認、作業時間、作業結果等に基づく習熟度の把握、業務の効率化等の就業意識の向上等を目的として作成を義務付けられているものであり、求められている記載内容も、Y社従業員において、日々の業務において気づく力を養い、自らの技術の精度を向上させ、より質の高い製品の製作を実現するとともに、各従業員を自立型社員へと育成するためのものであって、営利企業であるY社において上記目的をもって上記記載を求めることは必要なものと言えるから、不要、困難な記載を求めるものでも、思想良心の自由を侵害するものでもない。その他に、Y社が職場環境配慮義務に違反していることを認めるに足りる証拠はない

上記判例のポイント1のような事情についてしっかり証拠化しておくことが大切です。

解雇330(大阪府事件)

おはようございます。

今日は、適格性欠如等を理由とする分限免職処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

大阪府事件(大阪地裁令和2年2月26日・労判ジャーナル99号28頁)

【事案の概要】

本件は、大阪府知事が、大阪府知事の職員であったXに対し、平成26年3月19日付けで分限免職処分を行ったため、Xが、大阪府に対し、本件免職処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成18年4月17日から平成24年3月31日までの間及び同年4月1日から同年9月30日までの間の勤務実績は、いずれも不良というほかなく、適格性の欠如もうかがわれる状況にあったといえる。
そして、Xが、上記期間に6か所の職場で業務を担当しており、その都度、上司らから指導や注意を繰り返し受けていたが状況はさほど改善したとは評価できないこと、Xに対して個別能力向上研修や個別指導研修が実施されたものの、Xはこれらの研修に真摯に取り組むことがなく、改善が見られなかったこと、Xは、平成25年12月9日以降、適正な手続によらずに欠勤し、また、産業医との面談に応じるよう命じる職務命令に違反している状態を解消する旨を求められ、更には本件条例6条4項に基づき、分限免職処分が行われる可能性があることの警告を二度受けておきながら、かかる状態を解消する対応をしていない
以上のXの勤務状況ないし働きかけに対する対応状況等を踏まえると、Xには、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる蓋然性が高いと認められ、職員として必要な適格性を欠くと認められるから、本件では、地方公務員法28条1項1号及び同3号に該当する事由があるといえる。

2 Xは、長期間にわたって勤務実績がよくない状態が継続しており、研修の機会を通じて業務遂行能力の向上を図る意欲を示すこともなく、平成25年12月9日以降、適正な手続によらずに欠勤し、また、産業医との面談に応じるよう命じる職務命令に違反している状態を解消する姿勢もみせていない
本件免職処分について、分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいてされた事情は本件記録上窺われない。また、本件免職処分は、上述したXの勤務実績や勤務態度を理由としてなされたものであると認められること及び複数の職場での勤務実績や研修の結果を踏まえて判断されていることを踏まえると、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して処分理由の有無が判断されたとも解されない。
その他、本件免職処分が、二度にわたる警告を経た上で行われたものであることを併せ考慮すると、免職処分を選択する判断が、合理性をもつものとして許容される限度を超えたものということはできないから、分限処分における裁量権行使の逸脱又は濫用は認められず、本件免職処分は違法であるとはいえない。

上記判例のポイント1のようなプロセスを経ることが大切です。

根気強さが求められますが、これができるかどうかが勝敗を決します。

解雇329(東芝総合人材開発事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務命令違反による解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

東芝総合人材開発事件(東京高裁令和元年10月2日・労判1219号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的の業務指示に従わなかったことを理由にされた解雇は無効である等として、Y社に対し、①地位確認、②バックペイとして、平成28年2月から、毎月末日限り、31万3808円+遅延損害金、③賞与として、平成28年7月から、毎月7月及び12月の各月末日限り、48万1000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、Xの請求のうち、判決確定後の金銭支払請求については将来請求の必要性がないとして訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した。

これを不服とするXが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xが担当を命じられたマーシャリング作業については、Xの従前の担当業務と比較すると、難易度が著しく低い単純作業であると認められる。他方において、マーシャリング作業の従前の担当者(実技担当者)に多忙による業務軽減の必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、問題行動を起こした従業員が、問題行為の性質上、従前の担当業務を担当させられない場合において、業務軽減の必要のない他の従業員の担当業務の一部を担当させることを、その一事をもって懲罰目的であるとか、難易度が低く業務上必要のない過小な行為を行わせるものとしてパワーハラスメントに該当するとかいうには、無理がある

2 反省文には、「上に立つ方の力量のなさとしかいえない私にもどうしようもないやり方や結果が多々あり」など、Xの意見、不満をにじませた記載がある。この時点においては、Xについては、今後も組織規律を乱す言動を行いかねないという大きなリスクを抱えた人材であると評価せざるを得なかったもので、従前業務に復帰させなかった判断は誠にやむを得ないものである。また、一般教養科目の講師業務は、まさに外部(派遣元から派遣された訓練生)と直接接触する業務であって、Xに担当させないこともやむを得ない業務である。

問題行動の内容によって、配置転換(業務内容の変更)の際に今回の裁判例が参考になります。

いずれにしても問題行動の内容、頻度、指導教育内容等を証拠として残しておくことが肝要です。