Category Archives: 解雇

解雇327(学校法人A学園(試用期間満了)事件)

おはようございます。

今日は、コミュニケーション能力不足等を理由とした試用期間満了時の解雇が有効とされた裁判例を見ていきましょう。

学校法人A学園(試用期間満了)事件(那覇地裁令和元年11月18日・労経速2407号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、学校法人であるY社に日本語教師として採用されたところ、延長後の試用期間満了時に、主としてコミュニケーション能力の不備を理由に解雇されたが、債権者は必要なコミュニケーションをとり、また、このような指導はほとんど受けていなかったのであるから、同解雇には客観的合理性がなく、社会通念上相当ともいえないから無効であるとして、Xが、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認並びに解雇された平成30年12月から令和元年7月分の賃金及び同年8月分以降、本案判決確定の日までの賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 ・・・上記の一連のやり取りだけでも、Z1及びZ2副学長が様々な角度からXのコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにもかかわらず、Xは自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、話し手の意図を正しく受け止められなかったり、言葉尻を捉えた反論に終始して論破しようとしたり、議論の前提を踏まえた会話ができなかったり、自身の意見に固執する姿勢が見て取れる。このようなXの応答にZ1とZ1副学長は対応に苦慮していたが、Xはそのことすら認識していたか疑わしい
Y社は、本件会議の後、Xがミーティングの場で最低限の発言すらしようとせず、素っ気ない態度に終始したと主張しているが、前記のとおりのXのコミュニケーション上の問題点に加え、Xは、日本語ランチテーブルのミーティングで反対意見を述べたこと自体がZ1及びZ2副学長によって失礼と取られたと憤慨し、本件準備書面で、意見を述べたこと自体が失礼と扱われて不当であり、このため発言を控えるようにしていたと主張していることからすると(なお、Z1及びZ2副学長は、発言内容やその伝え方を問題にしているのであって、反対意見を述べること自体を咎めているわけではなく、むしろ、積極的に意見を交わすべきと伝えている。)、Y社の主張に近い状況にあったことが窺える。このような状況では、XがZ1に友好的な対応をとるとは考えにくいから、Xは、ミーティング以外でもZ1やXと非友好的な同僚とは積極的なコミュニケーションをせず、むしろ、自身が許容されると考える中で最低限度のコミュニケーションに終始したことが推認できる

2 Xのコミュニケーション及び上司や同僚との関係構築に向けた姿勢には数々の問題点があり、上記のとおり必要なコミュニケーションがとれず、むしろ試用期間の延長によって悪化したことが認められる一般的に本採用を目指して必要以上に努力し、同僚に気を遣いがちな試用期間ですら、Xは上司や同僚との間で種々の軋轢を生じさせてしまったといえる。これらの問題点は、いずれも試用期間を経て初めて発覚し得るものであるといえ、上記の経過によれば、Xが上司からの指導等によって上記の問題点を改善できる見込みは薄い。Y社が雇用を継続していれば、Xのコミュニケーション上の問題によって更に職場環境が悪化していくことが容易に想像できることからすると、本件の雇用が2年間の期間限定であることを考慮しても、債務者が試用期間終了をもって解雇を選択したこともやむを得ないといえる。

解雇を過度に制限的に考える裁判官に当たると、ほとんど非現実的な解雇回避努力を求められることがありますが、今回はそうではなかったようです。

実務においては、日頃のやりとりをいかに証拠化できるかが勝敗を大きく左右します。

解雇326(ヤマダコーポレーション事件)

おはようございます。

今日は、試用期間満了時まで指導を継続せず決定した本採用拒否が有効と判断された事案を見てみましょう。

ヤマダコーポレーション事件(東京地裁令和元年9月18日・労経速2405号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として採用されたXが、Y社から試用期間満了により解雇されたが、Y社による解雇は無効であるとして、Y社に対する雇用契約上の地位確認及び解雇時からの未払賃金の支払とともに、不当解雇等による不法行為ないし債務不履行に基づく損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xには協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動等により、Y社の車内関係者及び取引先等を困惑させ、軋轢を生じさせたことなどの問題点があり、Y社の指導を要する状態であったと認められる。
そして、試用期間中の解雇は、本採用後の解雇より広汎に許容されることに加え、試用期間が3か月間と設定され、時間的制約があることにも鑑みれば、比較的短期間に複数回の指導を繰り返すことを求めるのは、使用者にとって必ずしも現実的とは言い難いところ、現に、Xの上司であるZ12室長やZ5課長が、入社から2か月目面談の実施まで、Xの上記問題点を改めるべく、機会を捉えてXに対する相応の指導をするも、それに対するXの反応や態度等を踏まえると、上記問題点に対するXの認識が不十分であるか、Xが指導に従う姿勢に欠ける等の理由で、改善の見込みが乏しい状況であったことが認められる。
さらに、XのITの専門家としての経歴及びY社における採用条件や職務内容、Xと他部署との関係等を考慮すると、Y社において、Xについて配置転換等の措置をとるのは困難であり、かつ、前述したXの問題点は、配置転換をすることにより改善が見込まれる性質のものでもないこと、Y社が主張する解雇事由は、結局のところ、Xの勤務に臨む姿勢や態度といった根本的で重大な問題を含むものであって、係長としての管理職の資質に関するものであると解されること、Xは当時試用期間中であり、Y社への入社までにすでに3年に勤務しており、システムエンジニアとして約27年間の社会人経験を経ているのであって、上司からの指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったともいえないことなどの事情に加え、Y社の取引先との関係悪化等の上記事実関係からすると、深刻又は重大な結果が生じなかったとしても、Xの雇用を継続することにより、今後、Y社側の経営に与える影響等も懸念せざるを得ないことなどを総合的に考慮すると、Y社が、試用期間中である同年11月30日の時点において、試用期間の満了までの残り2週間の指導によっても、Xの勤務態度等について容易に改善が見込めないものであると判断し、試用期間満了時までXに対する指導を継続せず、Xには管理職としての資質がなく、従業員として不適当である(就業規則39条1項)として、Xの本採用拒否を決定したことをもって、相当性を欠くとまではいえない

裁判所がいかなる要素を重視して判断するか参考になりますね。

解雇325(日本郵便事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、金員の不正授受を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(令和2年1月31日・労判ジャーナル97号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に郵便局長として勤務していたXが、定年退職間際にY社から懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえないから、権利濫用として無効となるなどと主張して、Y社に対し、定年退職したことを前提とする退職手当約635万円等の支払を求めるとともに、定年退職後も同年4月から平成28年3月まで再雇用されていたことを前提とする賃金合計約568万円及び賞与合計約189万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→懲戒解雇有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成22年1月頃から平成27年1月頃までの間、郵便局長採用試験を経て大阪市南部地区の郵便局長に採用された者合計9名に対し、同試験の受験時又は採用通知後に、紹介料と称して金員の支払等を要求し、商品券合計210万円分を受け取ったほか、ある団体の会費として現金をX指定口座に振り込ませるなどしたことが認められるところ、本件行為は、Y社の郵便局長に採用されるためには、金品の授受が必要であるとの誤解を生じさせ、ひいては郵便局長の採用選考の公正性に強い疑問を生じさせ、その結果、郵便局という公共性の高い機関の長として、高い清廉性が求められる郵便局長の職務ないし職務上の地位に対する信用を著しく毀損するものであるといえるから、本件就業規則所定の懲戒事由に当たり、以上のような本件行為の性質及び態様その他の事情に照らせば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとはいえず、また、社会通念上も相当であると認められるから、これが権利を濫用したものとして無効になるとはいえない

2 本件行為の性質及び態様その他の事情、とりわけ、本件行為がXのY社における勤続期間11年の約半分に当たる5年間にわたり反復して継続的に行われてきたこと、これによってXが得た利益は400万円近くという多額に上ること、本件行為が発覚しなければ、郵便局長らによる指定口座への振込送金は引き続き行われていた可能性が高いといえることに照らせば、Xの本件行為は、XのY社における約11年にわたる勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為であるといえるから、Y社が本件懲戒解雇を受けたXに対して退職手当規程に従い退職手当を支給しなかったことが不相当とはいえない。

上記判例のポイント1からすれば、退職金不支給は相当であると思いますが、ときどき、「え!こんなことしていても退職金出るの?」という事案があるので、労働者側としてはチャレンジしてみたくなってしまうのです。

解雇324(中村工業事件)

おはようございます。

今日は、解雇の意思表示と解雇予告手当等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

中村工業事件(大阪地裁令和2年1月16日・労判ジャーナル97号20頁)

【事案の概要】

本件は、土木工事業等を目的とするY社の元従業員Xが、Y社に対し、労働基準法20条1項に基づき、解雇予告手当約41万円等の支払、Y社による解雇がXの権利又は法律上保護に値する利益を侵害したとして、不法行為に基づき、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇予告手当等支払請求は一部認容

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇の意思表示の有無について、Xの賃金が毎月末日締め翌月6日払いであったことに加え、Xが平成29年4月以降平成31年3月まで毎月20日前後勤務していたこと、Y社がその間のXの労働時間・出勤状況等をタイムカードや出勤簿兼賃金計算簿によって管理していたことが認められ、これらの事実からすれば、XとY社との間の労働契約は、日雇ではなく、継続的なものであったものと認められ、そして、Y社代表者がXに対し、平成31年3月30日、「もう来てもらなくてよい」旨伝えたことによれば、Y社は、Xに対し、同日、解雇の意思表示をしたものと認めるのが相当である。

2 XがY社に対し、解雇から間もない令和元年5月29日に解雇を理由とする損害賠償請求を求める労働審判手続申立てを行っている(労働契約上の権利を有する地位の確認は認めていない)ところ、XとY社との間の労働契約が継続したのが締結から約2年間にとどまること、Xが解雇直後の平成31年4月以降、Y社以外の設備会社や友人のところで働いている旨認めていることも考慮すると、Y社による解雇により、損害賠償請求を認めるほどのXの何らかの権利又は法律上保護に値する利益侵害があったとまでは認められず、また、Y社に故意又は過失があったとも認められない

解雇の効力を争う場合に、地位確認ではなくあえて不法行為に基づく損害賠償請求を選択する理由はありません。

仮に心底復職する意思がない場合でも、要件、効果のいずれの点でも前者を選択するのが得策です。

解雇323(JFS事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、懲戒解雇と就業規則の存在に関する裁判例を見てみましょう。

JFS事件(大阪地裁令和元年10月15日・労判ジャーナル95号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社と雇用契約を締結し稼働していたところ、Y社から懲戒解雇されたが、同解雇は無効であるとして、地位確認、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件契約の性質について、c専務が、Y社の規程として研修期間があるので、役員の場合は給料が45万円だがそれより5万円アップの50万円で、3か月だけは様子は見よう、それでだめなときは契約しませんよという話をXにしたこと等から、「3か月」というのは、試用期間であり、Y社代表者が、平成29年12月28日に、Y社訴訟代理人に対し、Xに対する解雇通知を出してほしいと相談し、その意を受けて、Y社訴訟代理人が、Xに対し、「誓約書(入社時)」に違反したことを理由とする懲戒解雇の意思表示として本件内容証明郵便1を送付したこと、以上の点を併せみれば、Y社代表者自身の認識及び行動に基づいてみても、XとY社との間の本件契約は、試用期間付き雇用契約であるとみるほかない

2 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するところ、Y社が、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をした当時、Y社に就業規則が存在しなかったことについては当事者間に争いがないから、Y社のXに対する平成29年12月28日付け及び平成30年2月9日付けの懲戒解雇の意思表示は、いずれも懲戒権の根拠を欠き、無効というべきであるから、Xの地位確認請求は理由がある。

前記判例のポイント2は、初歩中の初歩のレベルの話です。

しっかり、顧問弁護士・顧問社労士の指導の下で労務管理をしましょう。

解雇322(ゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス事件)

おはようございます。

今日は、中途採用のアナリストに対する本採用拒否の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

ゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス事件(東京地裁平成31年2月25日・労判1212号69頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない労働契約を締結してその労働に従事していた労働者であるXが、使用者であるY社がXを解雇したこと(主位的には試用期間の満了に伴う普通解雇であり、予備的には事業の縮小等に伴う普通解雇である。)について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たり、無効である旨を主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認並びに当該解雇の後に生ずるバックペイとしての未払賃金+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、いわゆる大学新卒者の新規採用等とは異なり、その職務経験歴等を生かした業務の遂行が期待され、Y社の求める人材の要件を満たす経験者として、いわば即戦力として採用されたものと認めるのが相当であり、かつ、Xもその採用の趣旨を理解していたものというべきである。

2 解約権の行使の効力を考えるに当たっては、上記のようなXに係る採用の趣旨を前提とした上で、当該観察等によってY社が知悉した事実に照らしてXを引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することがこの最終決定権の留保の趣旨に徴して客観的に合理的理由を欠くものかどうか、社会通念上相当であると認められないものかどうかを検討すべきである。

3 BVPがCリーダーやD代理に対して平成27年8月19日からXの業務遂行の状況やミスの発生の状況等を記録して組織的に共有するように指示をしているところ、毎営業日についてその記録が取られており、少なくとも同日以後は、毎営業日についてXが少なくない数の業務遂行上のミスをしているものである。また、同日より前の時期についても、詳細かつ具体的な記録が取られていたわけではないものの、BVPは、その陳述書及び証人尋問において、Xの業務遂行の状況等の記録を取り始めるように指示をした契機について、Xの仕事上のミスが多く、このままでは業務に支障が生ずる旨の報告をA氏から受けたことにある旨を陳述しているところ、この陳述の内容は、客観的な経緯に整合するものとして採用することができるから、同日より前の時期についても、上記に認定した同日以降の状況と同様に、Xが業務遂行上のミスを少なからずしていたものと推認するのが相当である。

上記判例のポイント3の流れは、労務管理上、大変参考になります。

訴訟に発展することを想定して準備をすることが大切です。

解雇321(ロピア事件)

おはようございます。

今日は、商品持ち帰りを理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ロピア事件(横浜地裁令和元年10月10日・労判ジャーナル94号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営するスーパーマーケットで勤務していたXが、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由になされた懲戒解雇について、これが無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、懲戒解雇後の平成30年8月分の未払賃金として約31万円、同年9月以降の未払賃金として月額約36万円、未払賞与として約40万円の支払を求めるとともに、Y社が経営する店舗において、Xの氏名を明記して上記懲戒解雇の事実を公表したことが名誉毀損の不法行為に該当すると主張し、慰謝料等330万円の支払いを求め、さらに就労期間中の未払残業代合計約186万円等、付加金約96万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇無効

損害賠償請求一部認容

未払賃金等支払請求一部認容

付加金等支払請求認容

【判例のポイント】

1 本件で懲戒事由の対象となった客観的行為は、Xが精肉商品を精算しないまま持ち帰ったことであり、Xが本件持ち帰り行為を行ったこと自体について、当事者間に争いはないが、Y社は本件持ち帰り行為が故意の窃盗行為であることを前提に、就業規則67条1項12号又は13号の懲戒事由に該当すると主張するが、本件持ち帰り行為は、Xが、精肉商品を精算未了のまま店外へ持ち出した一回の行為であり、その外形自体、精算を失念して商品を持ち出してしまったとのXの説明と矛盾するものではなく、本件持ち帰り行為そのものが、Xに窃盗の故意があったことを積極的に裏付けるとはいえず、また、Y社は本件持ち帰り行為が買い物ルールに違反するとして、予備的に就業規則67条1項5号、6号又は18号に該当すると主張するが、対象行為が上記各号に該当するかは疑問があり、少なくとも、故意による窃盗行為よりも比較的軽微な違反行為に対し、不相当に重い処分がなされたものといえるから、本件懲戒解雇及び本件予備的解雇意思表示は、いずれも、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効である。

2 Xは、本件掲示がXの社会的評価を低下させる名誉毀損に当たり、不法行為が成立すると主張するが、本件掲示は、本件持ち帰り行為についてXの実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」「本事案は刑事事件になります」などと記載し、全体として見ると、Xが故意に商品を精算せず持ち帰り、窃盗行為をしたとの事実を摘示するものであること等から、本件掲示は、Xの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであり、不法行為に該当する。

客観的に見ると、窃盗という犯罪行為のため、懲戒解雇をしたくなる気持ちは理解できます。

しかし、本件のような判断があり得ることを十分理解しなければなりません。

また、上記判例のポイント2のような掲示行為については名誉毀損と判断され、損害賠償請求をされますので注意が必要です。

解雇320(豊田中央研究所事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、能力を著しく欠くことを理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

豊田中央研究所事件(名古屋地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル94号64頁)

【事案の概要】

本件は、元研究員Xが、Y社に対し、普通解雇が無効であるとして、地位確認を求め、本件解雇後の賃金及び慰謝料等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社より、本件出勤停止処分を重く受け止め、反省し、今後は職務に専念することを求める旨、Y社が指示している業務は「中研におけるCAE・シミュレーション研究の業務報告書調査」であるから指示された業務への従事を求める旨の指導を受け、その後も、複数回、同様の指導を受け、執務室で業務を実施するよう指示を受けたが、本件解雇に至るまで、指示された業務を実施する職場環境にない、職場環境を改善する必要があるので指示された業務を実施する時間はない等との独自の見解により、指示された業務を全く行わなかったものであり、かかるXの態度は、自らの独自の見解に固執し、Y社の指示、指導を受け入れないもので、将来の改善も見込めない状態であったといえ、他の部署に異動した場合に改善が見込まれるとも考えにくく、また、他の部署に異動した場合の改善の余地もないというべきであるから、Y社が、就業規則41条1号(研究所員としての能力を著しく欠くとき)に該当するとして行った本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当であり、解雇権濫用には当たらないから、有効である。

このような一連の流れについて、訴訟になった際に、立証できるように準備しておくことが極めて重要です。

口頭だけでの注意・指導では、いざというときに立証ができません。

解雇319(尾崎織マーク事件)

おはようございます。

今日は、事業所廃止に伴う解雇の有効性と定年後再雇用契約の成否等に関する裁判例を見てみましょう。

尾崎織マーク事件(京都地裁平成30年4月13日・労判1210号66頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成28年3月15日に「同年4月16日をもって解雇する。」旨の解雇通知が解雇権の濫用(具体的には整理解雇の要件を充足していない)から無効であるとして、定年(平成28年8月3日)までの未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、②上記①記載の解雇が無効であれば、当然に定年後は再雇用されることが予定されていたとして、再雇用後の労働契約上の地位の確認と、それを前提にした未払賃金+遅延損害金の支払を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、11万0810円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、137万1447円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、401万0423円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aセンター閉鎖が決定されたことに伴うXの処遇が平成27年9月から平成28年3月にかけて重要な課題であったところ、その最中にY社東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると、経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で、Y社東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は、一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない少なくともX側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ、それをした形跡も窺われないから、解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない。

2 定年後の再雇用(雇用継続)について、再雇用を希望する者全員との間で新たに労働契約を締結する状況が事実上続いていたとしても、労働契約が締結されたと認定・評価するには、強行法規が存在していれば格別、そうでない場合には、賃金額を含めた核心的な労働条件に関する合意の存在が不可欠である。したがって、本件において、XとY社の間で嘱託社員としての再雇用契約締結に関する合意は全く存在しない以上、その契約上の地位にあることも認められない
ただし、Xが、定年後に嘱託社員としてY社に再雇用(継続雇用)されることを期待していたことは明らかであり、Y社において労働者が再雇用を希望した場合に再雇用されなかった例は記憶にないとのY社代表者の供述も勘案すると、Y社は、前記のとおり、違法無効な整理解雇通知をしたものであり、これによってXの雇用継続の期待権を侵害した不法行為責任を負うと言わなければならない。
・・・また、損害発生期間については、定年退職後の再雇用規程の第1条によると、最大で満65歳に達するまで再雇用(継続雇用)されることが期待できるものの、Xの健康状態が5年間維持されるとは必ずしも断定できないことから、控えめに見て少なくとも3年間の更新は期待できるものとして、期待権侵害による損害賠償額は3年分相当額(ただし、3年に対応する中間利息はライプニッツ方式により控除するのが相当である。)と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は十分に気を付けなければいけません。

3年分相当額の賠償額というとかなりの金額になりますので、注意しましょう。

解雇318(マルハン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、職場の風紀を著しく乱す行為に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

マルハン事件(東京地裁令和元年6月26日・労経速2406号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社により平成29年11月4日付けで懲戒解雇されたこと(Y社は、仮に本件懲戒解雇が無効であると判断された場合には、予備的に同日付けでXを普通解雇したと主張するとともに、更に仮に当該普通解雇も無効であると判断された場合には、予備的には平成31年2月25日付けでXを普通解雇したと主張する)について、本件各解雇が無効である旨等を主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件懲戒解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与及び賞与等の支払を求めるほか、不法行為に基づき、慰謝料等500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分が有効かどうかについて、Y社が主張する事実を認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はなく、Y社が主張する懲戒解雇事由をもってXを懲戒解雇することには無理があるといわざるを得ず、さらに、本件懲戒解雇に至る手続をみても、Y社の従業員らからのヒアリング結果の報告書をそのままY社の懲戒委員会に提出したという以外に、Xからの異議申立てに対する対応を含めて、Y社の懲戒委員会においてどのような審議がされ、どのような判断の下に懲戒解雇処分を行うに至ったのかも明らかではなくXによる反論の機会が実質的に保証されていたのか、また、Y社において、Xによる反論等を踏まえ、慎重な検討、判断を経て懲戒解雇処分を行うに至ったのか疑問があること等から、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるというべきであり、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となる。

2 本件懲戒解雇によりXは、相応の精神的苦痛を被ったものと認められるが、他方で、これまで店長として、従業員間の不倫関係や男女関係のトラブル等の職場内の風紀秩序を乱す行為について指導する立場にあり、現に指導を行ってきたにもかかわらず、Aと不倫関係にあったり、Bと一泊二日の温泉旅行に出かけたりするなど、懲戒解雇事由に当たるとはいえないにしても、一定程度、職場内の風紀秩序を乱す行為を行っていたことに加え、本件懲戒解雇後間もなく同業他社に再就職し、Y社における従前の待遇を上回るものとまではいえないものの、相当高額な賃金を得ており、本判決において、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、本件懲戒解雇の後に生ずるバックペイとしての月例給与として平均賃金額の6割に相当する額の請求が認められることにより、賞与の点を踏まえても本件懲戒解雇による経済的な損失はほぼ填補されることになることを考慮すると、本件懲戒解雇によるXの精神的苦痛を慰謝するための金額として、50万円を認めるのが相当である。

上記判例のポイント2のような事情があるにもかかわらず、バックペイとは別に慰謝料が認められています。

それほど懲戒解雇の根拠や手続が不十分であったということでしょうか。