Category Archives: 賃金

賃金205(レインズインターナショナル事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業手当と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

レインズインターナショナル事件(東京地裁令和元年12月12日・労判ジャーナル100号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、(1)時間外労働、休日労働及び深夜労働をし、かついわゆる固定残業代の支払が無効であるなどと主張して、時間外労働等に対する割増賃金約871万円等並びに労働基準法114条に基づく付加金約793万円等の支払を求め、(2)仮に固定残業代の支払が有効であるとしても、求人票記載の給与額の範囲内の基本給が支給されるとの期待を侵害しないよう基本給の額を定める信義則上の義務に違反した旨主張して、不法行為による損害賠償として上記割増賃金相当額の慰謝料の支払を求めるとともに、(3)Xの心身の不調を来す危険のある長時間労働に従事させたことが安全配慮義務違反であるなどと主張して、債務不履行又は不法行為による損害賠償として慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は一部認容+同額の付加金認容

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 固定残業手当の支払が割増賃金の弁済として有効か否かについて、給与規程における賃金の種類、本件固定割増手当規定の規定振り及び時間外勤務手当の算定方法に照らすと、Y社の賃金体系上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であることが明らかにされているというべきであり、そして、実際にXに支払われた固定割増手当の額は基本給を基礎賃金として計算した70時間の時間外労働と30時間の深夜労働に対する割増賃金の額と概ね一致し、加えて、時期によっては本件固定割増手当規定に係る時間外労働及び深夜労働の時間数と比較的大きな差があるものの、Y社は、割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたことを考慮すると、本件労働契約上、固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきであるから、固定割増手当の支払は割増賃金の弁済として有効であり、また、固定割増手当は労働基準法37条にいう「通常の労働時間」の賃金に当たらない。

2 安全配慮義務違反の成否及び損害の有無等について、Xは長時間労働により平成25年6月頃に脳梗塞を発症した旨主張するが、脳梗塞の発症前の長時間労働について具体的な主張すらしないから失当であるし、Xが脳梗塞を発症した事実を認めるに足りる証拠もなく、また、Xは、長時間労働をさせられたこと自体によって精神的苦痛を被った旨も主張するが、Aの指示による本件システム記録の労働時間の修正等を考慮しても、割増賃金の支払によってその精神的苦痛は慰謝されるというべきであり、損害が生じたとは認められないから、安全配慮義務違反を理由とする請求には理由がない。

固定残業制度が適切に運用されている例です。

いまだに固定残業制度の有効要件を充足していない例が散見されます。

残業代請求の消滅時効が今後ますます伸びますので、ご注意ください。

賃金204(ソルト・コンソーシアム事件)

おはようございます。

今日は、固定残業手当の合意の有無と配転命令の可否に関する裁判例を見てみましょう。

ソルト・コンソーシアム事件(東京地裁令和元年12月6日・労判ジャーナル100号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、会社在職中の平成28年1月稼働分から平成29年8月稼働分までの間の時間外・深夜・休日労働の割増賃金に未払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、割増賃金約680万円等の支払を求め、労働基準法114条に基づき、同額の付加金等の支払を求め、Xに対する違法な配転命令があったなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は認容

配転命令に関する不法行為に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件固定残業代の合意が認められるべき旨主張するところ、証人Dは、Xの採用面接時に、Xに時間外手当等の説明をした旨証言するが、Xとの2度にわたる面接のいずれにおいても各手当の具体的な金額を説明していないことを自認し、かかる合意内容を証する雇用契約書や労働条件通知書の作成もしていないところであって、その証言はたやすく措信できるものではなく、また、Y社は、本件雇用契約を作成したことによって、Xが本件固定残業代の合意を追認したとみるべきであるなどとも主張するが、本件雇用契約締結時において本件固定残業代の合意を認めることができない以上、その変更は労働者であるXの労働条件の不利益変更に該当し、その不利益性に係る変更内容の具体的説明のない本件において、これがXの自由な意思に基づいてされたものとは認め難く、かかる不利益変更を有効とみる余地もないから、いずれにしても会社の主張は採用できない。

2 Xは、X・Y社間に、職種等の限定を含む本件限定合意が成立していた旨を主張し、本件配転はこれに反するものであった旨主張するが、この点を裏付ける的確な証拠はないから、採用することができず、また、Xは、Y社において配転命令権の濫用があった旨の主張もするが、業務上の必要性がおよそなかったことやXに著しい不利益が生じたとみるべきことを根拠付けるに足らず本件配転の時期が、XがY社に残業代の請求をした後であったからといって直ちにこれが不当な動機・目的に出たものであったとも認めるに足りず、損害も認めるに足りないから、不法行為の成立をいうXの主張は採用することができない。

いまだに固定残業制度についての争いが数多く起こっています。

残業代の消滅時効が延びており、いずれ5年になった際に、今と同じように有効要件を欠く固定残業制度を使い続けている会社は、とんでもないことになります。

今のうちに制度を見直すことを強くおすすめします。

賃金203(MASATOMO事件)

おはようございます。

今日は、賃金引下げ無効未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

MASATOMO事件(東京地裁令和2年1月24日・労判ジャーナル100号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から、在職中に無効な賃金額の引下げを受け、その引下げ相当額について未払があるほか、Y社において時間外・深夜労働に従事していたところ、時間外労働等に係る割増賃金に未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、本件引下げに係る未払賃金92万円等、平成26年6月から平成28年5月までの間の稼働分に係る未払の割増賃金148万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づき、付加金162万円等の支払いを求め、併せ、不法行為に基づき、不当解雇に基づく損害賠償金として損害金500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、未払賃金179万6371円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金31万7712円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、慰謝料40万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件賃金引下げは、従前Xが受領していた基本給額を約15パーセントも減らすものであったものであり、その下げ幅は大きく、しかも、その賃金引下げ措置が解かれる具体的な目処ないし期限も設けられておらず、恒久的措置としてとられたものと評価せざるを得ず、その不利益性は強いといわざるを得ないところであって、Xが基本給減額(既に発生している賃金の放棄を含む。)に同意し、かつ、その同意が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとも認め難い
この点、Xが直ちに異議を申し述べてこなかった事実があったとしても、服属的関係にある労働者の使用者に対する地位ないし力関係にも鑑みれば、この点から直ちに原告が本件賃金引下げに同意したなどと推認することも相当とはいえない
 
2 Y社には就業規則は設けられておらず、本件労働契約において休職期間満了による退職制度が設けられていたとは認め難い
ところで、本件においてY社は、本件労働契約の終了原因につき、休職期間満了による通知(本件退職通知)が解雇であることは主張せず、その終了原因として休職期間を経過したことによる自動退職のみを主張するものであるところ、Y社には、従業員に対して一定の休職期間を一方的に定め、復職がないままその期間を満了したときに自動退職をさせることのできる労働契約上の権限があるということはできないから、本件退職措置は、権限なくされたものとして無効というほかない。もっとも、Y社は、本件において本件退職措置により本件労働契約が平成28年8月末日をもって終了する旨主張しているところ、Xも、現時点において、その契約終了の効力を争うものではないから、本件労働契約はその時点をもって終了したと認めるのが相当というべきところ、前判示したところに照らせば、これはY社の違法な本件退職措置によるものと認めるべきであり、かつ、本件労働契約上、そのような退職措置をとるべき根拠がないことはY社においても自明で、その認識を持ち得べきものといえるから、そのような行為に及んだ点につき、過失があることも明らかである。
したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づき、かかる違法な所為によりXについて生じた損害を賠償すべき責任原因があるというべきである。

上記判例のポイント1は、労働条件の不利益変更における裁判所の典型的な判断方法です。

労働事件では頻出の争点ですので、しっかり押さえておきましょう。

賃金202(岡部保全事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、賃金減額の合意と辞職の意思の有無に関する裁判例を見てみましょう。

岡部保全事件(東京地裁令和2年1月29日・労判ジャーナル99号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社代表者の娘婿であり、Y社で働いていたXが、平成29年10月支払分からXの同意なく賃金を減額され、平成29年12月22日をもって辞職した扱いとされ、平成30年1月以降、賃金を支払われなくなったとして、雇用契約に基づき、地位確認及び平成29年10月分から同年12月分までは減額された月額201万5566円の賃金及び平成30年1月以降月額309万円の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

辞職無効
→地位確認請求認容

【判例のポイント】

1 賃金の減額に対する労働者の同意は、形式的に存在するのみでは足りず、自由な意思に基づいてされたものであることを要するというべきである。本件は、Y社代表者とXとの間に親族関係がある点で、通常の労働者、使用者との関係と全く同様とはいえないが、賃金の減額に対する同意の有無を慎重に判断する必要がある点は異ならないと解すべきである。
Xは、本件減額の告知を受けた翌日の平成29年10月13日、賃金額を説明するCのメールに対し、「了解です」との返信をしたものの、その後、同月25日及び26日には、本件減額を認めていない旨のメールをC宛に送信し、同月30日には、Y社代表者の執務室へ赴いて本件減額について考え直してほしい旨を直接告げ、同年12月には、X代理人に依頼して、賃金の差額を請求する旨を通知した。「了解です」との言葉の意味は、内容を承諾した旨とも内容を理解した旨とも解釈可能であり、Xが、「了解です」とのメールを送信したのは、Y社代表者に話をするには時間を置いた方がよいと考えたためであると説明していることに加え、同メール送信後ほどなく、減額告知後の最初の給与支給日までには、Y社による本件減額に対して明示的な拒否の意思を伝えていることからすると、Xが、Y社に対して、本件減額に同意する意思を表明したということはできない

2 Y社は、Xが、Y社代表者の知らない弁護士に委任して、弁護士からの電話一本もなく、賃金請求の内容証明郵便を送付したことは、義理の親子間にあっては他人行儀を超えて冷酷非礼なひどい行為であり、退職するとの不動の覚悟と断固たる決意がなければできないことであるから、内容証明郵便の送付が辞職の黙示の意思表示である旨を主張するけれども、そもそも、退職する覚悟でなければ使用者に対して内容証明郵便を送付しないものではない上、在職を続けることを前提に、会社に対して賃金等の請求を行うことは、権利の行使として当然に許されるから、採用できない
また、Xが発出したY社とa社との業務委託契約の解約の有効性を争う旨の通知についても、XのY社に対する辞職の意思表示とは認められない。
したがって、Xは、Y社に対し、明示にも黙示にも辞職の意思表示をしていない

上記判例のポイント2の考え方は、労働事件で頻繁に出てきますので、是非、押さえておきましょう。

賃金201(オレンジキャブ事件)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、賃金控除が不法行為に該当しないとして、損害賠償請求及び不当利得返還等請求が棄却された事案を見てみましょう。

オレンジキャブ事件(大阪地裁令和2年2月12日・労経速99号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて稼働していた元従業員らが、Y社に対し、Aが、Y社に対し、Y社がAの賃金から「貸付金」「貸付利息」「共済会費」「持帰り分」「特別車」の名目で控除したことがY社の不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償等の支払、Bが、Y社に対し、Y社がBの賃金から、「特別車」「共済会費」の名目で控除したこと、「お年玉」「無事故手当」を支給しなかったこと、Y社の常務取締役から嫌がらせを受けたことがY社の不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償等の支払、Cが、Y社に対し、Y社がCの賃金からCが入居していた「α荘」の家賃として1万円を超えるきんがくを控除した部分が不当利得に当たるとして、不当利得の返還及び「α荘」の敷金として5万円を支払ったが、「α荘」の退去後返還されないとして、同敷金の返還等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社による賃金からの控除がY社による不法行為に当たるか及び損害額について、「貸付金」「貸付利息」名目での控除について、Y社が、わざわざ従業員の支給明細書に「貸付金」「貸付利息」と記載し、所長に指示して現金での精算を行わせていたと認めるに足りる的確な証拠は認められず、またその必要性も認め難いから、Y社による「貸付金」「貸付利息」の名目での控除が、Aに対して詐術を用いて交付すべき金員の支払を免れていたことに当たり、Aに対する不法行為を構成するとはいえず、さらに、Y社による「納金不足分」「持ち帰り分」の名目での控除が、Aに対して詐術を用いて交付すべき金員の支払を免れていたことに当たり、Aに対する不法行為を構成するとはいえず、そして、「共済会費」「特別車」名目の控除について、従業員に対する賃金支払の際に控除することができる旨の労使協定が締結されていること等から、Y社が、「特別車」の名目で賃金から控除した行為が、Aに対する不法行為を構成するとはいえない

2 毎月1万円を超える家賃控除が不当利得に当たるか及び敷金返還請求権の存否について、Y社は、入居者の賃金から「α荘」の家賃分を控除した上、入居者に代わって「α荘」の家主に支払っていたのであるから、Y社に利得が発生しているとは認められず、Cは、「α荘」の敷金が40万円であり、これをY社が立て替えて支払った、入居者8人で分割して5万円ずつの敷金について分割して給与から控除された旨供述するが、立替えに係る借用証書には、5万円の趣旨が「礼金」であると記載されており、Cの「敷金」との供述とは矛盾し、礼金であれば高額に過ぎる旨のCの主張を踏まえても、Y社が立て替えた5万円が「敷金」、すなわち返還の約束のあるものであるとは認め難いから、Cの敷金返還請求は理由がない。

事実認定の問題ですので、一般化しづらいですが、基本的には賃金から控除は慎重に行われるべきです。理由なく賃金から何らかの費用を控除するとトラブルになるので避けましょう。

賃金200(芝海事件)

おはようございます。

今日は、就業規則所定の退職手続不履行を退職手当不支給事由とする定めが無効とされた裁判例を見てみましょう。

芝海事件(東京地裁令和元年10月17日・労経速2411号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらがY社を退職したことに関し、Xらが、Y社に対し、労使慣行により自己都合退職の場合でも定年退職の場合と同額の退職手当が支払われるべきである、そうでないとしても自己都合退職の場合には給与規定によって定年退職の場合の6割相当額の退職手当が支払われるべきである旨主張して、労働契約に基づく退職手当及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1:323万8227円、X2:307万9210円、X3:315万8883円、X4:302万5500円、X5:233万2925円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 就業規則54条は退職しようとするときはY社の同意を得なければならない旨定めるところ、この規定にかかわらず辞職の意思表示がY社に到達すれば雇用契約終了の効果が生ずるのであるから(民法627条1項)、就業規則54条の退職手続をしなかったことを退職手当の不支給事由と定めても直接的に退職の自由が制限されるものとはいい難い。
しかしながら、Y社の給与規程上、退職手当の額は、定年退職の場合と自己都合退職の場合とで異なるものの、勤続年数に概ね比例するように定められていることに照らすと、Y社における退職手当は功労報償的な性格を有するのみならず、賃金の後払い的性格を有するものであるということができる。このような退職手当の性格に鑑みると、就業規則54条に定める退職手続によらないということのみを退職手当の不支給事由とすることは、労働条件として合理性を欠くものというほかない(労働契約法7条参照)。
したがって、給与規程12条1号ただし書のうち就業規則54条の退職手続をしなかったことを退職手当の不支給事由とする部分は無効である。

2 これに対し、Y社は、本件不支給規定部分は、就業規則54条の趣旨が従業員の退職に伴って引継ぎや人員補充の必要性が生ずることから、退職する従業員とY社とが相互に協力して円満に退職することを促進することにあることを受けて規定されたものである旨主張するが、そのような趣旨自体に合理性があるとしても、給与規程12条1号ただし書は従業員の退職によって生ずるY社の不利益等の有無や程度にかかわらず形式的に就業規則54条の退職手続によらないことのみを退職手当の不支給事由とする点において、合理性を欠くというべきである。

Y社の狙いは十分理解できますが、方法として合理性を判断されています。

目的のみならず手段の合理性・相当性についても十分検討する必要があるということです。

賃金199(大作商事事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、残業を月30時間以内とする指導の事実を考慮し、PCログ記録を根拠に労働時間が認定された事案を見てみましょう。

大作商事事件(東京地裁令和元年6月28日・労経速2409号3頁)

【事案の概要】

本訴請求事件は、Y社の従業員として稼働していたXが、在職期間中、時間外・深夜労働に従事していたとして、Y社に対し、労働契約に基づき、時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、付加金の支払を求めた事案である。

反訴請求事件は、Y社が、Xにおいて、在職中、遅刻をしていたのに給与を不正に取得していたなどとして、Xに対し、不法行為又は不当利得に基づき、損害金又は不当利得金78万9577円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Xが在職中、不正な出勤簿を作成し、不正なパソコンのログデータを作成し、挙句、不正な本訴請求に及んだことが不法行為又は債務不履行に該当するとして、Xに対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害金712万4040円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、139万8751円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金50万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、X主張を裏付ける証拠として、自身が利用していたパソコンから抽出した記録であるというログ記録を提出している。その内容は概ね別紙4記載のとおりであって、これによれば、Xが出勤簿記載の労働時間よりも長く業務に従事していた可能性があるとみることができる。
よって検討するに、X本人は、出勤簿を作成するほかログ記録を残していた理由について、要旨、残業実績が出勤簿記載の労働実績より実際には多かったため、念のため残しておいた旨の供述をしている、かかる供述内容自体に特段不自然な点は見出されず、その抽出方法も、他の証拠に照らし、自然なものとして首肯することができる
この点、Y社は、ログイン・ログアウトを人為的に行った記録を特定することは困難であるとの意見書を提出し、ログ記録について争うが、上記甲号証に照らせば、少なくとも使用していたパソコンのWindowsの起動と正常シャットダウンの日時の特定に妨げないものとはいえる。
また、Xは、Y社において本件業務に当たってきたものであるところ、その業務の性質上、パソコンを多く利用する業務であったことは前記認定のとおりである。しかも、Xの供述によればもちろん、証人Bの証言によっても、パソコンを利用するのは、基本的には当該パソコンを割り当てられた個々の従業員であったものである。この点、証人Bの証言中には、他の従業員がXのパソコンを使用することもあったという趣旨の供述部分はあるが、B自身も頻繁にはないとしている上、具体的な頻度について自発的に明確な供述をできておらず、その供述を裏付ける証拠もないから、その証言はたやすく採用できない。しかも、前記認定のとおり、Y社においては週初めの午前8時30分から朝礼が行われていたところ、ログ記録は、内容的にもこうした事実に多く沿っているとみることができるほか、グループウェアのタイムカード記録(出勤記録)との齟齬もほぼ認められず、むしろ、ごくごく断片的証拠ではあっても、Y社の業務に係る画像データや動画データの更新日時との符合も認められる。なお、Y社は、これらデータにつき、更新日時を変更することが可能で信用性がないなどとも主張しているが、そのように改変がなされたと見るべき形跡は認められない。

2 Y社は、X本人が、本人尋問において、新人研修の際にY社従業員のCから月当たりの残業時間を30時間以内としなければならない旨の指導を受けたなどと供述していることをとらえて、そのような事実はなく、その旨述べるX本人の供述は不自然であるなどと主張する。確かに、証人Cは、月30時間を超える残業時間を記載することを禁ずる指導をしたことを否定する証言をしており、他にそのような指導がなされたことを裏付ける的確な証拠もなく、かえって、Y社の従業員の中には月30時間を超える残業時間を申告していた者がいると認められることは前記認定のとおりである。
しかしながら、X申告の出勤簿の残業時間をみると、月当たり30時間未満とされている月も散見されるものの、どの月も30時間を超えることはなく、多くは寸分違わず30時間と申告されているところであって、このこと自体、Xが、実際の労働時間いかんにかかわらず、月30時間以内に残業時間をとどめようとしていたことを強く窺わせるものといえる。そして、証人Bや同Cも、業務の効率的遂行といった観点から、個々の従業員の月当たりの残業時間が30時間以内となるよう指導していたこと自体は否定をしていない。そうしてみると、Xがこうした指導故に出勤簿記載の残業時間を多くとも30時間にとどめることとしていたと推認するのが合理的というべきであって、X本人の供述は同旨を述べるものとしてむしろ首肯することができる。
したがって、Y社指摘の点は、上記説示の点においてXの供述の信用性を高めこそすれ、その信用性を損なうものということはできない

残業時間を一定限度に制限するよう指導することはよくあることですが、ただ指導するだけでは足りず、当該指導に従わない従業員に対する労務管理を行わないと、結局、指導が有名無実化してしまいます。

賃金198(コーダ・ジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コーダ・ジャパン事件(東京高裁平成31年3月14日・労判1218号49頁)

【事案の概要】

本件は、運送業を営むY社においてトラックの運転手兼配車係として勤務していたXが、Y社に対し、主位的に、Xに対する解雇は無効であると主張して、①平成24年10月分から平成26年8月分までの未払の割増賃金合計1528万3952円+確定遅延損害金253万5417円の合計1781万9369円+遅延損害金の支払、②労働基準法114条に基づく付加金1493万0319円+遅延損害金の支払、③労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに④解雇日である平成26年9月18日以降の賃金として同年11月5日から毎月5日限り月額34万5399円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、解雇が有効である場合には、⑤上記①の未払賃金1528万3952円+確定遅延損害金487万4382円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求のうち、上記⑤の請求につき386万4083円+遅延損害金の各支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社及びXが、それぞれ敗訴部分の取消しを求めて控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
1 Y社は、Xに対し、1364万9104円+遅延損害金を支払え

2 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する

3 Y社は、Xに対し、平成26年11月5日から本判決確定の日まで、1か月34万5399円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則には、歩合制についての定めも、歩合制の場合における給与額及び各種手当の支給並びに割増賃金の算定方法に関する定めもないし、XとY社との間で本件就業規則と異なる内容の上記の歩合制に係る給与条件を記載した労働契約書を取り交わしたものでもないのであり、Xについて本件入社経緯があることをもって、XとY社との間で給与についての本件歩合制合意がされたといえるか否かについて、検討する必要がある

2 本件歩合制合意は、Y社の労働者に対して労働契約に基づき就労後に適用されるべき本件就業規則に定められた労働条件について、これと異なる労働条件を内容とするものであって、実質的に本件就業規則に定められた労働条件の変更に当たるといえるから、Xの入社時における本件歩合制合意の成否については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らし、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであると解するのが相当である(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日)。

3 これを本件についてみると、大型トラックの運転手の給与条件を他のトラックの運転手とは異なる歩合制とすることについては、基本的に業務内容が大きく異なるものとはいえず、Xにおいて、大型トラックの運転手には本件就業規則で定められた月額の固定給制という給与条件を適用しないこととする合理的な根拠ないし必要性があったことをうかがわせる事情は認められない
また、本件入社経緯においては、Aは、給与条件について、本件歩合制合意によるとし、月額最低27万円を保障するとの説明をしたものの、割増賃金の支給の有無及びその計算方法については、説明はされていないのであり、他の大型トラックの運転手の運行状況を示され、「月25日くらい働けば大体40万円前後になる」との説明があったとしても、どのような勤務状況を前提としてどのような給与が支給されるのかについて、十分な情報提供や具体的な説明があったとはいえず、本件就業規則に従って賃金が支給される場合についての説明もなく、これと比較して、どのような点で有利であり、どのような点で不利であるかをXが理解したものとはいい難い

4 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要すると解されるところ(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最判平成7年3月9日)、Y社の他の大型トラックの運転手の給与条件について、個人売上げに基づく歩合制によっているものであるとしても、Y社は、残業代は支給する給与に含まれていると認識しており、Xに対し、入社以降、時間外割増賃金等の割増賃金を支払っていなかったことに照らせば、Y社のいう完全歩合制の給与体系の内容は明確なものとはいえず、このような場合に、Y社のいう完全歩合制の慣行が労使双方の規範意識によって支えられているものとみることはできない。

認容された金額を見てください。

正しい知識に基づいて労務管理を行わないと大やけどをする例です。

特に賃金系は気を付けないとえらいことになります。

賃金197(カキウチ商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間中における求人票との労働条件相違と差額賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

カキウチ商事事件(神戸地裁令和元年12月18日・労判1218号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(運送事業者)の従業員(トラック運転手)であったXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払賃金、未払割増賃金+遅延損害金並びに付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 確かにXらがY社入社前に見たY社のホームページには大型ドライバーで月給36万円いじょうとの条件が記載されていたが、Y社が1月にハローワークに申し込んだ求人票には「基本給13万円~15万円、基本給+精務給+各種手当で35万円~」と記載されており、入社前の面接の際、A及びBが、基本給のみで35万円との説明をすることはにわかには考え難いこと、Xらは、Y社入社前、Y社と同業の会社に勤務し、運送会社の賃金体系を把握しており、X1も、基本給が月額35万円ではなく、手取りで月額35万円と認識していた旨を供述し、時間外手当等を含めないと月額35万円に届かないことを認識していたことからすると、Xらが基本給月額25万円であると認識していたものと認めることはできない

2 Xらは、8月7日の個別面談の際、Y社側から本件契約書1・2に署名するよう求められたので、十分に確認しないまま署名した旨供述するが、Xら及びCらは労働条件が採用面接時の説明と相違するとしてY社に抗議して本件説明会が開催され、そこでもY社側と労働条件についてやりとりをしているのであるから、Xらが労働条件に無関心なまま本件契約書1・2に署名したとは考え難く、Xらの上記供述はいずれも採用できない。

裁判所がいかに事実認定をするのかがよくわかりますね。

求人票の記載と入社面接時の説明が異なる事案は見かけますが、事実認定はケースにより異なりますので注意が必要です。

賃金196(税経コンサルティング事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、最低賃金法に基づく未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

税経コンサルティング事件(大阪地裁令和元年12月27日・労判ジャーナル96号56頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店を営むY社において保険の営業業務等に従事していたXが、Y社に対し、主位的に(第一次的請求として)、Y社から最低賃金を下回る金額の賃金しか支払われていないとして、雇用契約に基づき、最低賃金に基づいて算出した賃金額との差額に係る未払賃金120万円等の支払を求め、仮にこれが認められない場合に予備的に(第二次的請求として)、Y社がXの賃金から根拠のない控除を行い、また、保険解約に伴い手数料としてXに義務なく金員を支払わせたとして、不当利得に基づき、上記控除に係る利得金約60万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 X及びY社は、平成27年4月1日頃、それぞれ自己の意思に基づき、本件雇用契約書にXが署名押印し、BがY社代表者として押印してこれを作成した事実が認められ、これによれば、X及びY社の間では、同日、本件雇用契約書に記載の契約が成立したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、XとY社との間では、平成27年4月1日に雇用契約が成立し、同雇用契約が継続した後、Xは平成29年5月31日にY社を退職したものと認められ、そして、雇用契約の内容(雇用条件)は、概ね本件雇用契約書に沿うものであるところ、Xの賃金に関しては、フルコミッション制(完全歩合制)であることに加え、労働時間に応じた一定額の賃金が保障されることなどが定められているにとどまり、最低賃金を下回らないことは明確にされていないものの、最低賃金に達しない賃金を定める合意部分は無効となり、同部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなす(最低賃金法4条2項)こととなるから、結局、Y社は、Xとの間の雇用契約に基づき、最低賃金と同様の賃金の支払義務を負う

2 Xの従事していた業務は、主に外回りによる保険契約の募集・勧誘であるところ、営業日報に記載された時間、訪問先・折衝先・面談所等及び業務内容の記載には、些か抽象的なものも見られるものの、多くは記載自体から営業活動の一環であることが相当程度理解できるものであること等から、Xの作成した営業日報は基本的に信用性が肯定できるものといえ、また、Xの作成した勤務表は、営業日報が提出されていない期間においても概ね正確に記載されたものと推認することができ、基本的にその信用性を認めることができるというべきであることからすれば、Xの労働時間数については、営業日報及び勤務表を基に算定するのが相当である。

フルコミッションで合意している場合であっても、雇用契約である以上、最賃法は強行法規なので、これに反することはできません。