Category Archives: 賃金

賃金197(カキウチ商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間中における求人票との労働条件相違と差額賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

カキウチ商事事件(神戸地裁令和元年12月18日・労判1218号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(運送事業者)の従業員(トラック運転手)であったXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払賃金、未払割増賃金+遅延損害金並びに付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 確かにXらがY社入社前に見たY社のホームページには大型ドライバーで月給36万円いじょうとの条件が記載されていたが、Y社が1月にハローワークに申し込んだ求人票には「基本給13万円~15万円、基本給+精務給+各種手当で35万円~」と記載されており、入社前の面接の際、A及びBが、基本給のみで35万円との説明をすることはにわかには考え難いこと、Xらは、Y社入社前、Y社と同業の会社に勤務し、運送会社の賃金体系を把握しており、X1も、基本給が月額35万円ではなく、手取りで月額35万円と認識していた旨を供述し、時間外手当等を含めないと月額35万円に届かないことを認識していたことからすると、Xらが基本給月額25万円であると認識していたものと認めることはできない

2 Xらは、8月7日の個別面談の際、Y社側から本件契約書1・2に署名するよう求められたので、十分に確認しないまま署名した旨供述するが、Xら及びCらは労働条件が採用面接時の説明と相違するとしてY社に抗議して本件説明会が開催され、そこでもY社側と労働条件についてやりとりをしているのであるから、Xらが労働条件に無関心なまま本件契約書1・2に署名したとは考え難く、Xらの上記供述はいずれも採用できない。

裁判所がいかに事実認定をするのかがよくわかりますね。

求人票の記載と入社面接時の説明が異なる事案は見かけますが、事実認定はケースにより異なりますので注意が必要です。

賃金196(税経コンサルティング事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、最低賃金法に基づく未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

税経コンサルティング事件(大阪地裁令和元年12月27日・労判ジャーナル96号56頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店を営むY社において保険の営業業務等に従事していたXが、Y社に対し、主位的に(第一次的請求として)、Y社から最低賃金を下回る金額の賃金しか支払われていないとして、雇用契約に基づき、最低賃金に基づいて算出した賃金額との差額に係る未払賃金120万円等の支払を求め、仮にこれが認められない場合に予備的に(第二次的請求として)、Y社がXの賃金から根拠のない控除を行い、また、保険解約に伴い手数料としてXに義務なく金員を支払わせたとして、不当利得に基づき、上記控除に係る利得金約60万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 X及びY社は、平成27年4月1日頃、それぞれ自己の意思に基づき、本件雇用契約書にXが署名押印し、BがY社代表者として押印してこれを作成した事実が認められ、これによれば、X及びY社の間では、同日、本件雇用契約書に記載の契約が成立したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、XとY社との間では、平成27年4月1日に雇用契約が成立し、同雇用契約が継続した後、Xは平成29年5月31日にY社を退職したものと認められ、そして、雇用契約の内容(雇用条件)は、概ね本件雇用契約書に沿うものであるところ、Xの賃金に関しては、フルコミッション制(完全歩合制)であることに加え、労働時間に応じた一定額の賃金が保障されることなどが定められているにとどまり、最低賃金を下回らないことは明確にされていないものの、最低賃金に達しない賃金を定める合意部分は無効となり、同部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなす(最低賃金法4条2項)こととなるから、結局、Y社は、Xとの間の雇用契約に基づき、最低賃金と同様の賃金の支払義務を負う

2 Xの従事していた業務は、主に外回りによる保険契約の募集・勧誘であるところ、営業日報に記載された時間、訪問先・折衝先・面談所等及び業務内容の記載には、些か抽象的なものも見られるものの、多くは記載自体から営業活動の一環であることが相当程度理解できるものであること等から、Xの作成した営業日報は基本的に信用性が肯定できるものといえ、また、Xの作成した勤務表は、営業日報が提出されていない期間においても概ね正確に記載されたものと推認することができ、基本的にその信用性を認めることができるというべきであることからすれば、Xの労働時間数については、営業日報及び勤務表を基に算定するのが相当である。

フルコミッションで合意している場合であっても、雇用契約である以上、最賃法は強行法規なので、これに反することはできません。

賃金195(インタアクト事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、背信行為等を理由とする退職金不支給の成否に関する裁判例を見てみましょう。

インタアクト事件(東京地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル95号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、平成28年度冬季の賞与が未払であるとして、労働契約に基づく賞与支払い請求として約49万円等の支払を求めるとともに、Y社を退職したにもかかわらず退職金が支払われないとして、退職金規程に基づき退職金約70万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賞与等支払請求は棄却

退職金等支払請求は認容

【判例のポイント】

1 XがY社を退職したのが平成28年12月9日であると認められるのに対し、平成28年度冬季賞与支給日が同月13日と設定されていることから、Xは「支給日に在籍している社員」には該当せず、また、Y社における冬季賞与支給日は、必ずしも12月9日以前とされていたわけではなく、その他に、Y社がXを支給日在籍社員として取り扱わないことが権利濫用に該当することを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、Xは、平成28年度冬季賞与を請求できる権利を有しない

2 Y社が本件背信行為として主張するものの多くは、そもそも懲戒解雇事由に該当しないものである上、仮に懲戒解雇事由に該当しうるものが存在するとしてもその内容はXが担当していた業務遂行に関する問題であってY社の組織維持に直接影響するものであるとか刑事処罰の対象になるといった性質のものではなく、これについてY社が具体的な改善指導や処分を行ったことがないばかりか、Y社においても業務フローやマニュアルの作成といった従業員の執務体制や執務環境に関する適切な対応を行っていなかったのであり、また、Y社の退職金規程の内容からすれば、Y社における退職金の基本的な性質が賃金であると解されること等から、Xについて、Y社における勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったとは評価できず、Y社は、Xに対して、退職金規程に従って退職金を支払う義務を負う。

判例のポイント1は、非常にベーシックな論点ですが、支給日それ自体に争いがあると、今回のケースのようになってしまいます。

賃金194(ダイナス製靴事件)

おはようございます。

今日は、通勤手当の不当認定等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ダイナス製靴事件(大阪地裁令和元年12月16日・労判ジャーナル96号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて婦人靴売り場の販売員として勤務していたXが、Y社に対して、①不当な通勤経路及び通勤手当の認定により退職を余儀なくされたとして、不法行為ないし債務不履行に基づき、逸失利益37万円及び慰謝料の支払を求めるとともに、②同売り場での勤務中、会社の従業員の過失行為により眼鏡が破損したとして、使用者責任(民法715条)に基づき、眼鏡レンズ購入代金相当額約8万円及び慰謝料(上記①に係るものと合わせて約20万円)の支払を求めた。

原判決は、Xの請求を全て棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、最寄りのバス停EからF駅までの距離及び徒歩での所要時間は、本件規定の定めるバス利用条件を満たしているのに、Y社がこれを認めず本件認定をしたことは不当である旨主張するが、給与規程における交通費(通勤手当)に関する定めは、「住居地または勤務箇所から最寄り駅までのルートの定期乗車券または、バス乗車代(往復)×1ヵ月の出勤日数の合計の低い方を支給する」と定めているのであり、Xの自宅の最寄りのバス停からの距離及び徒歩による所要時間を基準としているものではなく、そして、Xの自宅からF駅までの最短距離は2kmを超えず、徒歩による最短の所要時間は25分を超えないものと認めるのが相当であること等から、Y社による本件認定は不当な点はなく、これが不法行為ないし債務不履行に当たるものとは認められず、これを根拠とするXの逸失利益の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

2 Xは、本件店舗での勤務中に本件従業員の右肘がXの左こめかみに当たり、Xの眼鏡が破損した旨を主張するが、仮に、Xが主張及び陳述するように、本件従業員の右肘が当たったことにより、眼鏡の弦をつなぐためネジを留めているレンズ部分にひびが入り、時間の問題でレンズが割れ、弦がとれてしまうような明らかな破損状態になったのであれば、生活に不自由が生じ、同眼鏡が高額であるのであればなおのこと、速やかに本件従業員や会社の上司等に報告し、事後対応について話し合うなどしていて然るべきであるところ、実際には1か月余り後に眼鏡レンズを発注ないし購入するのと同時期に、本件従業員に対して金銭的な負担を求めるようになったというのは、不自然な経過であるといわざるを得ず、また、本件記録を精査しても、Xの主張及び陳述する眼鏡の破損に係る具体的状況及び経過を裏付ける的確な証拠も見いだせないこと等から、本件従業員が過失によりXの眼鏡を破損したという不法行為が成立するとは認められず、XのY社に対する眼鏡レンズ購入代金相当額の損害賠償及び慰謝料の請求には理由がない。

上記判例のポイント2のような事実認定は、裁判所がよく行う手法です。

人間なんていつも例外なく合理的に行動するわけではありませんが、裁判所の認定は、人間は常に例外なく合理的に行動することを前提にしていますので(笑)、客観的に見て不合理な事情があると上記のように事実認定をして主張を否定します。

賃金193(社会福祉法人千草会事件)

おはようございます。

今日は、割増賃金、退職金、パワーハラスメントを理由とした慰謝料など約2800万円の支払いを認めた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人千草会事件(福岡地裁令和元年9月10日・労経速2402号12頁)

【事案の概要】

本訴請求は、X1~X5が、Y社と労働契約を締結していたところ、①Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金+遅延損害金の支払、②Y社の代表者であるAに対し、Aが労働時間を把握して労働基準法37条1項を遵守すべき義務を負うにもかかわらず、Bによるタイムカードの廃止によってXらの労働時間を正確に把握できない状況を放置した違反があると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、上記①の未払割増賃金相当額の損害金+遅延損害金の支払、③Y社に対し、労基法114条所定の付加金+遅延損害金の支払、④Y社に対し、基本給の減額が違法無効であると主張して、労働契約に基づき、減額された未払賃金+遅延損害金、⑤Y社に対し、労働契約に基づき、退職金+遅延損害金、⑥B及びY社に対し、XらがBからそれぞれパワーハラスメントを受けたと主張して、Bについては不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社については使用者責任に基づき、それぞれ連帯して各200万円たす遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

反訴請求は、Y社らが、Xらに対し、Xの本訴の提起が不当訴訟であると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1:340万8905円、X2:371万5927円、X3:120万8421円、X4:271万2304円、X5:325万7237円+遅延損害金を支払え

2 Y社は、X1:166万8935円、X2:249万2624円、X3:23万9911円、X4:161万8196円、X5:151万6285円+遅延損害金を支払え

3 Y社は、X1:13万9200円、X2:10万円、X3:7万6728円、X4:32万9142円、X5:32万9142円+遅延損害金を支払え

4 Y社は、X1:168万5670円、X2:28万7260円、X3:35万6647円、X4:139万8840円、X5:67万2956円+遅延損害金を支払え

5 B及びY社は、連帯して、X1:15万円、X2:15万円、X3:15万円、X4:15万円、X5:30万円+遅延損害金を支払え

6 Y社らの反訴請求はいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 時間外勤務指示書による時間外労働の指示がされたものはいずれも所定の終業時刻後の時間外労働であって、所定の始業時刻前の業務について時間外勤務指示書が提出されていたと認めるに足りる証拠はない上、時間外勤務時指示書記載の理由はいずれも会議ないし全体会議を理由としたものであり、かつ時間外労働の開始時刻はいずれも所定の終業時刻から時間的間隔があるが、これについて時間外労働として処理した証拠はないことを併せ考えると、時間外勤務指示書による時間外労働は、会議等が所定労働時間外に設定されるなど時間外労働の指示が明示されたものについて主に使用されていたと認めるのが相当であり、同指示書の提出がないからといって、それ以外の始業時刻前及ぶ終業時刻後の時間外労働の存在を否定するものとはいえないというべきである。

2 Aは、Y社の業務執行の任に当たる理事であったところ、CやDの職員の労働管理については、Bが施設長としてその責任を有していたこと、Bは、職員の労働時間管理に用いられていたタイムカードを廃止し、職員に時間外勤務指示書を提出させることによって時間外労働を把握しようとしていたことが認められる。そうすると、AがBの施設長として管理業務にどの程度の関与をしていたかは証拠上も明らかではないものの、Y社では時間外勤務指示書の提出による時間外労働の把握に努めていたと考えられるのであって、その適不適の問題は措くとしても、Bにおいて、Xらの割増賃金請求を妨害した、あるいは、Xらに割増賃金が具体的に発生していることを認識しながらあえてこれを支払わなかったとまでいうことはできず、Xらに対する割増賃金の未払について、Bに不法行為上の故意又は過失があったとまでは認められない。

3 X1がBへの報告を懈怠したことが就業規則18条の懲戒事由に該当するとして、訓告の懲戒処分として反省文を提出させたのであれば、それをもって懲戒処分としては終了したとみられる上、さらに減給というより重い懲戒処分をしなければならない必要性・相当性を認めるに足りる証拠はなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない

みなさん、2800万円、払えます?

日頃から弁護士・社労士の指示の下で適切に労務管理をしたほうが絶対に費用対効果がいいです。

まあ、多くの人は、病気にならないと健康のありがたさはわからないのです。

賃金192(日本郵便事件)

おはようございます。

今日は、横領行為に基づき不支給とされた未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(大阪地裁令和元年10月29日・労判ジャーナル95号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して勤務していたXが、横領行為を理由に懲戒解雇され、退職手当についても不支給とされたが、Xによる横領行為は全ての功労を抹消するほどの背信行為ではなく、少なくとも300万円の範囲では退職手当を受領する権利があるとして退職手当300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件横領行為は、正にXが当時従事していたY社の中心業務の1つの根幹に関わる最もあってはならない不正かつ犯罪行為であり、出来心の範疇を明らかに超えたY社に対する直接かつ強度の背信行為であって、極めて強い非難に値し、被害額も多額に上り、その後の隠ぺいの態様も悪質性が高く、動機に酌むべき点も見当たらないから、XとY社との間の労働契約における退職手当は賃金の後払い的な性質をも併せ持つこと、被害については隠ぺい工作の一環によるもの及び金銭の支払いによるものにより回復されていること、Xは、旧郵政省時代から通算して約24年8か月余りの間、大過なく職務を務めており、本件横領行為を行ったc郵便局在勤中お歳暮の販売額に関するランキングで5位以上であったこと、Xが、Y社による事情聴取に応じ、最終的には非を認めて始末書や手記を提出し、本件横領行為の態様、隠ぺい工作、動機等についても明らかにしていることを十分に考慮しても、Xによる本件横領行為は、Xの従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為といわざるを得ないから、Xは、退職手当規程の本件退職手当不支給条項の適用を受け、Y社に対し、退職手当の支給を求めることができない。

完全に比較衡量の問題ですので、結論としてどちらに流れるかは、担当する裁判官によって異なり得るところです。

もっとも、過去の裁判例を参考におおよその検討はつきますので、それらを参考にしながら退職金の支払いの是非、程度を判断しましょう。

賃金191(清和プラメタル事件)

おはようございます。

今日は、早出時間と固定残業代の成否に関する裁判例を見てみましょう。

清和プラメタル事件(大阪地裁令和元年8月22日・労判ジャーナル93号22頁)

【事案の概要】

本件は、プラスチック製品の製造、加工及び販売等を目的とするY社の元従業員XがY社に対し、労働契約に基づき、未払の時間外割増賃金等計約148万円等の支払、また、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金のうち約84万円と同額の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 割増賃金等(固定残業代)支払の有無について、Y社は、Xに対し、平成27年4月頃、所定の始業時間(午前8時)より早く出勤する早出時間について、固定残業手当として月額5万円の「その他手当」を支給し、午後5時以降の時間を別途残業時間として算定することを説明し、その了解を得た旨主張するが、「その他手当」の名目からはその性質がわからない上、それが固定残業代であることを示す契約書や就業規則等の定めは存しないし、また、Xが平成27年5月頃に残業手当がないことについて質問していることからすると、その時点でXが「その他手当」を残業代であると認識していなかったことが窺われ、さらに、Xの労働実態に差がないにもかかわらず、平成27年3月以前の残業手当の額より同年4月以降の残業手当と「その他手当」の合計額が相当程度高くなっていることからしても、「その他手当」に従前の残業手当以外のものが含まれることが窺われること等から、Y社による割増賃金等(固定残業代)支払の主張は理由がない。

また固定残業制度の運用ミスです。

もう裁判所の判断が固まってきていますので、奇を衒わず、有効要件を意識すれば、それほど難しい問題ではありません。

弁護士・社労士に相談して、正しく運用するくせをつけましょう。

賃金190(富国生命保険事件)

おはようございます。

今日は、総合職加算及び勤務手当が法内残業の対価であると認められた裁判例を見てみましょう。

富国生命保険事件(仙台地裁平成31年3月28日・労経速2395号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、総合職として勤務したXが、退職後にY社に対し、在職中に時間外労働をしたと主張して、賃金請求権に基づく割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記割増賃金の不払について労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、17万0063円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 内務職員給与規定において、総合職加算についても、勤務手当についても、その支給対象者は法内残業時間に対する時間外勤務手当の支給対象外とされていることに照らすと、総合職加算も勤務手当も、法内残業時間に対する時間外勤務手当としての性質を有していると解するのが相当である。
この点、Xは、Xのように法内残業が恒常化している者の場合には、総合職加算の額も勤務手当の額も法所定の残業代に満たないから、これらを法内残業手当とみることはできないと主張する。
しかしながら、所定労働時間を超えていても、法定労働時間を超えていない法内残業に対する手当については、労働基準法37条の規制は及ばない。また、所定労働時間内の労働に対する対価と所定労働時間外の労働に対する対価を常に同一にしなければならない理由はないから、清算の便宜等のために残業時間にかかわらず法内残業手当の額を固定した結果、法内残業をした日の多寡によっては、法内残業に対する時間当たりの対価が、所定労働時間内の労働に対する時間当たりの対価を下回る結果となったとしても、それだけで直ちに違法ということはできない

各種手当に関するルールをしっかり理解して運用すれば、裁判所はしっかり認めてくれます。

賃金189(飯島企画事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた裁判例を見てみましょう。

飯島企画事件(東京地裁平成31年4月26日・労経速2395号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金、③月例賃金の減額に同意していないとして、減額前後の月例賃金の差額分合計26万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における時間外手当は、本件雇用契約締結当初から設けられたものであり、その名称からして、時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に、実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを認めることができる
これらの事実によれば、時間外手当は、時間外労働に対する対価として支払われるものということができ、また、時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから、時間外手当について、有効な固定残業代の定めがあったということができる。

2 これに対し、Xは、固定残業手当について、時間当たりの単価や、予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため、通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。
しかし、有効な固定残業代の定めであるためには、必ずしもXが指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので、Xの上記主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が主張する実際の時間外労働に係る時間数と、上記の時間数が著しく異なるため、時間外手当は、時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして、確かに、Y社が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数と、上記時間数は相当程度異なるが、上記の各事実が認められることのほか、Y社の給与計算においてコース組みに要した時間が含まれていないこと、Y社の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上、平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたことを考慮すると、上記判断は左右されない。

最近は、上記判例のポイント2のような判断が主流ですね。

賃金188(狩野ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、長時間労働に従事させたことに対し、疾患未発症でも損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

狩野ジャパン事件(長野地裁大村支部令和元年9月26日・ジュリ1539号4頁)

【事案の概要】

Xは、Y社と、平成24年5月ないし6月に無期労働契約を締結し、Y社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた。

Xは、平成27年6月から平成29年6月までの間、平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上(平成28年1月と平成29年1月も月90時間以上、長いときには月160時間以上)の時間外等労働を行っていた。

Xは、Y社に対し、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、2年余にわたり、長時間の時間外等労働を行った。Y社は36協定を締結することなく、または、法定の要件を満たさない無効な36協定を締結して、Xを時間外労働に従事させていた上、タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかったことによれば、Y社には、安全配慮義務違反があったといえる。

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はないが、Xが結果的に具体的な疾患を発症するには至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、Xを心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたものであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえる。Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

金額は大きくありませんが、担当裁判官によってはこのような事案でも未払賃金の他に慰謝料も認めます。