Monthly Archives: 7月 2020

本の紹介1055 ぜんぶ、すてれば(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、余計なことやモノに固執・執着しない生き方を薦めています。

何事も執着・依存すればするほど、自由がなくなり生きにくくなります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

なぜ家を買うのか。『ここにいつでも戻って暮らすことができる』という安心感を得られるからでしょうか。でも、それは逆に言えば『ここにいつまでも縛られる』ということ。・・・ものを所有することは安定を生まない。むしろ不安が増えるだけ。『いつでも移れる。どこでもすぐに新しい生活を始められる』。人生の選択肢を広げてくれる、そんな軽やかさを持ちたいと僕は思います。」(46~47頁)

まさに「所有は安定を生まない」のです。

むしろ不安になるし、不安定になります。

典型例がマイホームですが、極力、モノを所有しないことが、身軽に、かつ、臨機応変に生きていく方法です。

変化の激しい今のような時代には、高度経済成長期とは異なる価値観・人生観を持つほうが生きやすいです。

労働災害103 安全配慮義務違反と消滅時効(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タイヤ製造業作業員の石綿ばく露の有無と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件(神戸地裁平成30年2月14日・労判1219号34頁)

【事案の概要】

本件は、(1)甲事件原告らの被相続人らが,いずれも被告ないし被告と合併したa株式会社の従業員として,被告の神戸工場又は泉大津工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,悪性胸膜中皮腫ないし肺がんにより死亡したとして,甲事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,それぞれの相続分に応じた損害賠償金+遅延損害金の支払を求め(甲事件),(2)乙事件原告亡X22及び原告X25が被告従業員として,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,石綿肺及び肺がんに罹患したとして,乙事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金+遅延損害金の支払を求める(乙事件)事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は10年であり(民法167条1項),この10年の時効期間は損害賠償請求権を行使できるときから進行するところ,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時に,その権利を行使することが法律上可能になるというべきであって,権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の障害は,時効の進行を妨げることにはならないというべきである。
そうすると,亡M及び亡Oの債務不履行に基づく損害賠償請求権は,亡M及び亡Oにそれぞれ客観的な損害が発生した時から進行し,遅くとも,各人が死亡した日から消滅時効期間が進行しているというべきであり,安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成12年4月25日,亡Oにつき平成12年1月26日で,甲事件の訴えが提起された時点でいずれも10年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

2 民法724条は「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する」と規定し,「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味し,単に損害を知るにとどまらず,加害行為が不法行為を構成することをも知ったときを意味するものと解される。
本件においては,原告X6及び亡X10が,それぞれ上記アの各労災請求に至った経緯までは判然としないものの,いずれも被告での職務従事における石綿ばく露を前提に上記各請求をしていることから,遅くとも,それぞれ上記アの各労災請求をした時点では,被告における石綿ばく露を原因に疾病を発症し死亡したことを認識しているといえ,「被害者が…損害及び加害者を知った」ものと認められる。
そうすると,上記アの各労災請求をした日から消滅時効期間が進行するというべきであるから,亡M及び亡Oの不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成21年9月15日,亡Oにつき平成18年3月20日であり,甲事件の訴えが提起された時点で,いずれも3年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

3 一般に,消滅時効制度の機能ないし目的については,①長期間継続した事実状態を維持して尊重することが法律関係の安定のため必要であること,②権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者は法の保護に値しないこと,③あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過によって義務の不存在の主張を許す必要があることなどであると説明されているが,時効によって利益を受けることを欲しない場合にも,時効の効果を絶対的に生じさせることは適当でないともいえるから,民法は,永続した事実状態の保護と時効の利益を受ける者の意思の調和を図るべく,時効の援用を要するとしている(民法145条)。もっとも,時効を援用して時効の利益を受けることについては,援用する意思表示を要件とするのみで,援用する理由や動機,債権の発生原因や性格等を要件として規定してはいない。このような債権行使の保障と消滅時効の機能や援用の要件等に照らせば,時効の利益を受ける債務者は,債権者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して債権者において権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することができるというべきである。
本件においては,本件被用者らの被災状況が判然としないことから,被告に対し,原因を明らかにするように求め,また団体交渉を申し入れるに至った経過や,この種事案における遺族による訴訟追行及び損害賠償請求自体に困難が伴うことに照らすと,原告X6及び亡X10が,上記各労災請求をした時点では,被告に対する損害賠償請求権を行使することには,法的なあるいは事実上の問題点が多く,損害賠償請求権の行使が容易ではなかったというべきであり,加えて,上記アのとおり,被告に対する損害賠償請求権を行使するための準備行為を行っていたことからすれば,権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者ともいえない
さらに本件組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ,このことは,被告が,本件組合からの団体交渉の申入れを拒否した結果,訴訟にまで発展し,訴訟において被告が団体交渉に応じる義務があると判断されていることなどからすると,被告側の不当な団体交渉拒否の態度に起因するものといわざるを得ない。そうすると,原告らが,被告に対する損害賠償請求権を行使することに関し,法的なあるいは事実上の問題点を解消するために長期間を要したことについては,被告に看過できない帰責事由が認められるというべきである。
以上を総合すると,被告が,積極的に,原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの,上記のとおり,被告の看過できない帰責事由により,原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる
したがって,被告が,亡M及び亡Oの損害賠償請求権に関して消滅時効を援用することは,権利の濫用として許されないものというべきである。

少々長いですが、上記判例のポイント3は、消滅時効に関する議論としては大変参考になります。

是非、押さえておきましょう。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

本の紹介1054 1兆ドルコーチ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」です。

人材管理とチームコーチングに関する本です。

管理職の方は一度読んでみると参考になると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

大多数の人にとっては、報酬イコール金額だ。だがそれがすべてではない。報酬は経済的価値だけでなく、感情的価値の問題でもある。報酬は会社が承認、敬意、地位を示すための手段であり人々を会社の目標に強く結びつける効果がある。」(108頁)

プロ野球選手等が契約更改の際、かなり高額の年俸にもかかわらず納得がいかない表情を浮かべることがありますが、まさにこれです。

一般の人からすれば、「いやいや2億でしょ。それで納得いかないってどんだけお金欲しいんだよ」という解釈をしがちですが、そうではないのです。

お金の問題であっても、お金の問題ではないのです。

適正に評価されないことに納得がいかないのです。

このことがわからないとどこまでいってもお金の問題と捉えてしまうのです。

解雇328 問題行動を起こした従業員に対する配置転換(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務命令違反による解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

東芝総合人材開発事件(東京高裁令和元年10月2日・労判1219号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的の業務指示に従わなかったことを理由にされた解雇は無効である等として、Y社に対し、①地位確認、②バックペイとして、平成28年2月から、毎月末日限り、31万3808円+遅延損害金、③賞与として、平成28年7月から、毎月7月及び12月の各月末日限り、48万1000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、Xの請求のうち、判決確定後の金銭支払請求については将来請求の必要性がないとして訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した。

これを不服とするXが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xが担当を命じられたマーシャリング作業については、Xの従前の担当業務と比較すると、難易度が著しく低い単純作業であると認められる。他方において、マーシャリング作業の従前の担当者(実技担当者)に多忙による業務軽減の必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、問題行動を起こした従業員が、問題行為の性質上、従前の担当業務を担当させられない場合において、業務軽減の必要のない他の従業員の担当業務の一部を担当させることを、その一事をもって懲罰目的であるとか、難易度が低く業務上必要のない過小な行為を行わせるものとしてパワーハラスメントに該当するとかいうには、無理がある

2 反省文には、「上に立つ方の力量のなさとしかいえない私にもどうしようもないやり方や結果が多々あり」など、Xの意見、不満をにじませた記載がある。この時点においては、Xについては、今後も組織規律を乱す言動を行いかねないという大きなリスクを抱えた人材であると評価せざるを得なかったもので、従前業務に復帰させなかった判断は誠にやむを得ないものである。また、一般教養科目の講師業務は、まさに外部(派遣元から派遣された訓練生)と直接接触する業務であって、Xに担当させないこともやむを得ない業務である。

問題行動の内容によって、配置転換(業務内容の変更)の際に今回の裁判例が参考になります。

いずれにしても問題行動の内容、頻度、指導教育内容等を証拠として残しておくことが肝要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1053 サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、サイゼリヤの創業者の方です。

10年程前に書かれた内容ですが、今読んでも非常に参考になります。

飲食業界に限らず、あらゆるビジネスにおいて示唆に富む内容です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

つまり、異常事態のときには、平時にはできないことができて、平時には考えつかないことをひらめくかもしれないということだ。物事を真剣に考えるということはとても大変で疲れる作業だ。だからこそ、平時にはなかなかできない。その意味で、異常事態は新しい力やアイデアを生むきっかけになる。」(93頁)

業界によってはまさに今が異常事態です。

運命に翻弄されてただ立ち尽くすだけではなく、いかにこの異常事態を切り抜け、さらなるステップアップにつなげるか。

どうしよう、どうしようと嘆いていても状況は一向に好転しません。

そんな暇があるのなら、大量の情報収集を続けるのです。

あとはトライアンドエラーです。

座して死を待つなんて死んでもしません。

労働者性31 幼稚園園長の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幼稚園園長の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人信愛学園事件(横浜地裁令和2年2月27日・労判ジャーナル98号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する幼稚園において、1年間の有期契約を複数回更新しつつ勤務してきた元園長Xが、Y社から契約の更新拒絶をされたことについて、Y社に対し、XとY社との契約は労働契約であり、更新拒絶には客観的合理性がなく無効である上、Xは期間の定めのない労働契約への転換の申込みをしたと主張して、労働契約に基づき、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに本判決確定までの賃金及び賞与等の支払を求め、Y社から違法な更新拒絶をされた上、Xの更新拒絶についての議論が行われた学校法人の理事会において、出席理事からXの人格権を侵害する発言があり、その後の団体交渉が不当に打ち切られたなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料30万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

労働者性肯定

雇止めは無効

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件幼稚園の予算や職員の人事について、常に理事長又は理事会の承認を得る必要があり、その職務の内容及び遂行方法からすれば、学校法人の指揮監督下において、本件幼稚園の園長として勤務していたものというべきであり、また、Xは、固定残業手当及び賞与名目の金銭の支給を受けており、報酬の支払形態等について他の従業員の賃金と大きく異なるところがあったとも認められないから、Xが支払を受けた報酬は、Y社の指揮監督の下に労務を提供したことの対価であったというべきであり、このことは、Xについても源泉徴収及び社会保険料の控除がされていることによっても裏付けられ、そして、XとY社との間で1年ごとに取り交わされた契約書等の書式には、勤務場所や勤務条件の記載があり、これらが実態と異なっていたことをうかがわせる事実も認められないから、Xの勤務場所は、本件幼稚園と指定されていて場所的な拘束性が認められる上、Xも他の職員と同様の勤務時間の拘束を受けていたことなどが認められることからすれば、XとY社との間の契約の性質は、労働契約であったと認めるのが相当である。

上記判例のポイント記載の契約内容であれば労働者性が肯定されることは容易に想像できますね。

もっとも、一般的に労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介1052 あなたの年収アップ力と人間力を引き出す99の話(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

10年程前の本ですが、読み返してみました。

著者は、トルコ出身で外資系転職のコンサルをされている方です。

グローバルに働く上で必要なことが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私も以前は、一生懸命やればすべての道は開くと思っていました。日本でまだ就職したばかりのとき、二人の先輩エグゼクティブと食事をしたことがあります。二人とも世界で知名度の高い大手外資系企業で働いていました。そのとき聞いたことに驚きました。ある年齢やポジションを超えると仕事はほとんど『ショービジネス』になるというのです。もちろん、実行力、管理力等のスキルがなければ、ショービジネスも長続きしないでしょうが。」(22頁)

いかに自分の力をアピールするかという視点は、自分の価値を高めるのと同じくらい大切なことです。

奥ゆかしさを美徳とする考え方を否定するつもりはありませんが、見つけてもらうまでに時間がかかります。

よりスピーディーに階段を上っていきたいのであれば、奥ゆかしさよりも大胆さが求められます。

賃金190 完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コーダ・ジャパン事件(東京高裁平成31年3月14日・労判1218号49頁)

【事案の概要】

本件は、運送業を営むY社においてトラックの運転手兼配車係として勤務していたXが、Y社に対し、主位的に、Xに対する解雇は無効であると主張して、①平成24年10月分から平成26年8月分までの未払の割増賃金合計1528万3952円+確定遅延損害金253万5417円の合計1781万9369円+遅延損害金の支払、②労働基準法114条に基づく付加金1493万0319円+遅延損害金の支払、③労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに④解雇日である平成26年9月18日以降の賃金として同年11月5日から毎月5日限り月額34万5399円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、解雇が有効である場合には、⑤上記①の未払賃金1528万3952円+確定遅延損害金487万4382円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求のうち、上記⑤の請求につき386万4083円+遅延損害金の各支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社及びXが、それぞれ敗訴部分の取消しを求めて控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
1 Y社は、Xに対し、1364万9104円+遅延損害金を支払え

2 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する

3 Y社は、Xに対し、平成26年11月5日から本判決確定の日まで、1か月34万5399円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則には、歩合制についての定めも、歩合制の場合における給与額及び各種手当の支給並びに割増賃金の算定方法に関する定めもないし、XとY社との間で本件就業規則と異なる内容の上記の歩合制に係る給与条件を記載した労働契約書を取り交わしたものでもないのであり、Xについて本件入社経緯があることをもって、XとY社との間で給与についての本件歩合制合意がされたといえるか否かについて、検討する必要がある

2 本件歩合制合意は、Y社の労働者に対して労働契約に基づき就労後に適用されるべき本件就業規則に定められた労働条件について、これと異なる労働条件を内容とするものであって、実質的に本件就業規則に定められた労働条件の変更に当たるといえるから、Xの入社時における本件歩合制合意の成否については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らし、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであると解するのが相当である(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日)。

3 これを本件についてみると、大型トラックの運転手の給与条件を他のトラックの運転手とは異なる歩合制とすることについては、基本的に業務内容が大きく異なるものとはいえず、Xにおいて、大型トラックの運転手には本件就業規則で定められた月額の固定給制という給与条件を適用しないこととする合理的な根拠ないし必要性があったことをうかがわせる事情は認められない
また、本件入社経緯においては、Aは、給与条件について、本件歩合制合意によるとし、月額最低27万円を保障するとの説明をしたものの、割増賃金の支給の有無及びその計算方法については、説明はされていないのであり、他の大型トラックの運転手の運行状況を示され、「月25日くらい働けば大体40万円前後になる」との説明があったとしても、どのような勤務状況を前提としてどのような給与が支給されるのかについて、十分な情報提供や具体的な説明があったとはいえず、本件就業規則に従って賃金が支給される場合についての説明もなく、これと比較して、どのような点で有利であり、どのような点で不利であるかをXが理解したものとはいい難い

4 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要すると解されるところ(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最判平成7年3月9日)、Y社の他の大型トラックの運転手の給与条件について、個人売上げに基づく歩合制によっているものであるとしても、Y社は、残業代は支給する給与に含まれていると認識しており、Xに対し、入社以降、時間外割増賃金等の割増賃金を支払っていなかったことに照らせば、Y社のいう完全歩合制の給与体系の内容は明確なものとはいえず、このような場合に、Y社のいう完全歩合制の慣行が労使双方の規範意識によって支えられているものとみることはできない。

認容された金額を見てください。

正しい知識に基づいて労務管理を行わないと大やけどをする例です。

特に賃金系は気を付けないとえらいことになります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1051 競争の科学(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

一番最初のページには「喧嘩に勝つのは、身体の大きな犬ではなく、闘争心の大きな犬である-ドワイト・D・アイゼンハワー」と書かれています。

喧嘩も仕事も同じです。

「なにくそ!」という闘争心がないとダメですわ。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

必要なのは、意欲に溢れる人だ。情熱のない人は、候補者として支援できない。求めているのは、朝起きて、”今日は、レンガの壁に頭から突っ込むのに最適な日だ。”と言い、翌朝も同じことを言える人間だ。」(128頁)

まあ、レンガの壁に頭から突っ込む必要はありませんが、闘争心とか意欲・情熱がある人を応援したくなるのはよくわかります。

情熱を注げないようなことに時間を浪費することはできるだけしたくありません。

不合理なこと、理不尽なことにストレスを感じながら、ただ時が過ぎるのをひたすら我慢するような生活は死んでもしたくありません。

自分の人生は自分で選択していいのですよ。

四六時中、自分が情熱を注げることだけに時間を使いましょう。

不当労働行為245 懲戒処分をする際にとるべき適正手続とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員2名を出勤停止の懲戒処分としたこと、懲戒解雇予告通知をしたことが不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

プリモパッソ事件(大阪府労委令和元年7月19日・労判1218号90頁)

【事案の概要】

本件は、組合員2名を出勤停止の懲戒処分としたこと、懲戒解雇予告通知をしたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件懲戒処分の理由として会社が挙げる根拠事実は、実質的に、両組合員の正当な組合活動であり、本件懲戒処分は正当な組合活動を理由とするものであったというほかない
会社は、両組合員に対し、非違行為及び懲戒の理由を実質的に通知していないものといえ、したがって、本件懲戒処分は、就業規則の規定に従わずに行われたものと言わざるを得ない
また、就業規則第77条に、懲戒処分に先立って必要な指導及びロ頭注意を行う旨規定されていることが認められるところ、会社が、本件懲戒処分の通知に先立って、両組合員に対し、何らかの指導を行ったと認めるに足る事実の疎明もない。これらのことからすると、本件懲戒処分は、正当な手続を欠いたものといわねばならない

2 会社は、両組合員に対して解雇の予告を通知しているのであるから、本件懲戒解雇予告通知は、本件懲戒解雇を本件懲戒処分と一連の処分として通知したものとみることができる。
そうすると、本件懲戒処分が正当な組合活動をしたことを理由としたものであるから、本件懲戒解雇予告通知もまた、正当な組合活動をしたことを理由としてなされたものとみるのが相当である。
会社が、本件懲戒解雇予告通知に先立って、両組合員に対して非違行為及び懲戒の事由を通知したとは評価できず、また、本件懲戒解雇予告通知に先立って、両組合員に対して弁明の機会を付与したとも認めるに足る事実の疎明はない。したがって、本件懲戒解雇に係る手続は、正当性を欠いたものであったと言わさるを得ない。

懲戒処分をする際に適正な手続を踏むことは非常に初歩的な話です。

みなさん、気を付けましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。