セクハラ・パワハラ82 妊娠した歯科医師に対するハラスメントが不法行為に該当するとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠した歯科医師に対するハラスメントが不法行為に該当するとされた事案を見ていきましょう。

医療法人社団A事件(東京高裁令和5年10月25日・労経速2537号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y法人と労働契約を締結しているXが、①Aから、「不法行為一覧表」記載の不法行為を受けたと主張して、不法行為に基づく損害賠償並びに医療法46条の6の4が準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、Y社らに対し連帯して、336万4362円+遅延損害金の支払を、②令和2年1月支給分の給料について、有給休暇取得分(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、5万3345円+遅延損害金の支払を、③令和2年10月支給分の給料について、有給休暇取得(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、6万4849円+遅延損害金の支払を、④安全配慮義務が果たされていないため、労務の提供ができないと主張して、未払賃金として、48万4877円+遅延損害金の支払を、令和4年7月から本判決確定の日まで、毎月15日限り88万4389円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y法人らは、Xに対し、連帯して、22万円+遅延損害金を支払え

Y法人は、Xに対し、別紙未払賃金一覧表の認容額欄記載の各金額+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xが依拠する証拠は、Aが院内でXの悪口を言っているのではないかとの疑いを持ったXが、その証拠を得ようとして、院内のオープンスペースである控室に秘密裏にボイスレコーダーを設置しておいたところ、偶然Aの会話内容が録音できたことから、その録音内容を反訳して書証として提出した書面であることが認められる。従業員の誰もが利用できる控室に秘密裏に録音機器を設置して他者の会話内容を録音する行為は、他の従業員のプライバシーを含め、第三者の権利・利益を侵害する可能性が大きく、職場内の秩序維持の観点からも相当な証拠収集方法であるとはいえないが、著しく反社会的な手段であるとまではいえないことから、違法収集証拠であることを理由に同証拠の排除を求めるY法人らの申立て自体は理由があるとはいえない。

2 Aは、本件歯科医院の控室において歯科衛生士2名と休憩中に同人らと雑談を交わす中で、Xのする診療内容や職場における同人の態度について言及するにとどまらず、歯科衛生士2名と一緒になって、Xの態度が懲戒に値するとか、子供を産んでも実家や義理の両親の協力は得られないのではないかとか、暇だからパソコンに向かって何かを調べているのは、マタハラを理由に訴訟を提起しようとしているからではないかとか、果ては、Xの育ちが悪い、家にお金がないなどと、Xを揶揄する会話に及んでいることが認められる。
これらの会話は、元々Xが耳にすることを前提としたものではないが、院長(理事長)としてのAの地位・立場を考慮すると、他の従業員と一緒になって前記のようなXを揶揄する会話に興じることは、客観的にみて、それ自体がXの就業環境を害する行為に当たることは否定し難い
したがって、この点について不法行為の成立を認めるのが相当である。

上記判例のポイント1を見ますと、民事訴訟においては、違法収集証拠排除法則がほぼ機能しないことがわかります。

また、上記判例のポイント2では、当該労働者に対して直接告げたわけではないにもかかわらず、当該発言・会話が違法と判断されています。職場では余計な噂話や愚痴は言わないことです。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。