Monthly Archives: 3月 2025

有期労働契約129 定年後再雇用者への労働契約法19条2号による更新期待がないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、定年後再雇用者への労働契約法19条2号による更新期待がないとされた事案を見ていきましょう。

東光高岳事件(東京地裁令和6年4月25日・労経速2554号3頁)

【事案の概要】

本件は、A社との間で期間1年の有期労働契約(本件契約1)を締結していたXが、Aを吸収合併したY社に対し、本件契約1の期間満了時、Xには更新の合理的期待があり、本件契約1と同一の労働条件によるXの更新申込みをY社が拒絶したことは客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないため、本件契約1の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約2)が成立した、また、同様の理由で、本件契約2の期間満了時、本件契約2の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約3)が成立した、本件契約3の期間満了時、本件契約3の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約4)が成立したと主張して、Y社に対し、以下の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。
なぜならば、労契法19条2号は、期間満了により終了するのが原則である有期労働契約において、雇止めに客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約を成立させるという法的効果を生じさせるものであるから(同条柱書)、その要件としての「更新」の合理的期待は、法的効果に見合う内容であることを要すると解されるからである。
また、労契法19条2号は、最高裁判所昭和61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁(以下「日立メディコ最高裁判決」という。)の判例法理を実定法としたものであるところ、同判決は、雇用関係の継続が期待されていた場合には、雇止めに解雇権濫用法理が類推され、解雇無効となるような事実関係の下に雇止めがされたときは、「期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる。」としており、これが条文化されたものであるから、ここでいう「更新」は、従前の契約の労働条件と同一の契約を締結することをいうと解しているものと理解できる
さらに、更新は、民法の概念としては、契約当事者間において従前の契約と同一の条件で新たな契約を締結することをいうと解されるところ(雇用契約につき民法629条1項、賃貸借契約につき同法603条、604条、619条1項、ただし、期間については従前の契約と同一ではないと解されている。)、労働契約(労契法6条)と雇用契約(民法623条)とは同義のものと解されるから、労働契約において民法の概念と異なる解釈をとる理由はない
日立メディコ最高裁判決が、更新の期待の合理的な理由を肯定するに当たり、有期労働契約が従前の契約に至るまで継続して締結されてきたことを考慮要素とする一方、これが同一の労働条件によるものであったかは重視していないこと、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないことから、過去の契約関係において賃金などの労働条件に若干の変動がある場合であっても従前(直近)の労働契約と同一の労働条件で更新されると期待することに合理的な理由があるといえる場合があると考えられる。そして、ここで検討している労契法19条2号の「更新」とは何かという問題は、期待の合理的理由の考慮要素としての過去の労働条件変動を伴う契約締結が「更新」に当たるかという問題ではなく、雇止めに解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めに客観的合理的な理由がなく社会通念上相当性がない場合には従前と同一の労働条件で契約の成立を認めるという法的効果を生じさせるための要件として、どのような労働条件の契約締結について合理的期待を要求するかという問題である。したがって、日立メディコ最高裁判決が、「更新」の期待の合理的な理由を肯定するに当たり過去の有期労働契約が同一の労働条件によるものであったことを重視しておらず、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないからといって、労働者が解雇権濫用法理を類推適用されるための要件としての期待の合理性の対象となる「更新」について、従前の(直近の)労働契約と同一の労働条件ではなくてよいという帰結に直ちになるものではない。
そして、仮に、労契法19条2号の「更新」を同一の当事者間の労働契約の締結と解し、労働条件を問わず同一の当事者間において労働契約が締結されると期待することについて合理的理由があれば解雇権濫用法理の類推適用がされるとした場合、使用者が、従前(直近)と同一の労働条件による労働契約の締結を拒否し、従前の労働契約より不利な労働条件での労働契約を提案し、労働者がこれを承知しなかった場合には、使用者の労働条件変更の提案に合理性があったとしても、雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性があるといえない限り、従前(直近)の労働契約と同じ労働条件による労働契約が成立する結果となり、有期労働契約の期間満了の都度、就業の実態に応じて均衡を考慮して労働条件について交渉すること(労契法3条1項、2項)は困難となるから、労働契約における契約自由の原則(労契法1条、3条1項、2項)に反する帰結となる。そして、このような場合において、原告主張のように、労契法19条柱書の雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性の審査において、使用者の労働条件の変更提案の合理性が斟酌され、使用者の労働条件の変更提案の合理性が肯定されるときには雇止めに客観的合理的な理由、社会通念上相当性があることが肯定され、雇止めが有効となるといった解釈をとる場合、雇止めについての解雇権濫用法理の類推適用を法制化した労契法19条柱書の適用において、その由来及び文言とは異なって、使用者による労働条件の変更提案の合理性といった考慮要素を新たに取り入れる結果となるが、そうすべき根拠は必ずしも明らかではない。無期労働契約においては、使用者が労働者に対し労働条件の変更提案を行い労働者がこれを拒否した場合に解雇するという変更解約告知について、解雇権濫用法理(労契法16条)の下、使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば解雇を有効とするという解釈は未だ定着しておらず、使用者による労働条件の変更提案の合理性審査基準が確立していない今日において、有期労働契約において使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば雇止めを有効とするという解釈を採用することは、有期労働契約における当事者の予測可能性を著しく害する結果となる。
以上から、労契法19条2号にいう「更新」は、従前の労働契約と同一の労働条件で有期労働契約が締結されることをいうと解するのが相当である。

この裁判例によれば、労契法19条2号の「更新」を直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することを解釈になりますが、はたして本当にそうでしょうか・・・?

労働条件を変更した有期雇用契約の再締結が更新に当たらないとなると、5年ルールはいとも簡単に潜脱できてしまう気がしますが。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

本の紹介2155 営業の魔法#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

営業の心構えがまとめられている本です。

とはいえ、書かれている内容は、決して営業職に限ったものではなく、すべての対人サービス業に従事している人にとって意味のある本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生は、早いもの、強いもの、に分があるわけじゃありません。目標から目をそらさずコツコツ積み重ねるのです。そしてひとつひとつの目標をクリアし目的を達成するのです」(134頁)

「継続は力なり」

ただそれだけです。

継続することさえできれば、ほとんどのことは達成することができます。

まあ、そんなことはみんなわかっているのです。

でも、できないのですよ。

人生は、いつだって弱い弱い自分との闘いですから。

賃金287 教習指導員資格取得後、3年以内に退職した従業員への立替費用の返還請求が労働基準法16条に違反しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、教習指導員資格取得後、3年以内に退職した従業員への立替費用の返還請求が労働基準法16条に違反しないとされた事案を見ていきましょう。

勝英自動車学校事件(東京地裁令和5年10月26日・労経速2554号31頁)

【事案の概要】

本件は、自動車教習事業を営む株式会社であるY社が、従業員であったXに対し、在職中に教習指導員資格を取得するための費用に関する準消費貸借契約に基づき、貸金62万4700円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xは、Y社に対し、47万9700円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 教習指導員資格は国家資格であること、法令上、教習指導員資格があれば指定自動車教習所において教習指導員業務及び検定業務に従事することができること、教習指導員資格を得るためにはA研修所において研修を受講する方法と公安委員会の審査を受ける方法があること、Y社において教習指導員資格を有する教習指導員として勤務すれば毎月3万円の教習検定手当が得られること、Y社はA研修所において研修を受講している期間もXから賃金の支払を受けていたことが認められる。
教習指導員資格は、それを取得することによって指定自動車教習所において教習指導員業務及び検定業務に従事することができる国家資格でありX個人に帰属するものであるから、本来であれば資格取得者であるX本人が費用を負担すべきものといえる。
当該国家資格を取得すれば、Y社において教習指導員として勤務できることに加え、自動車教習所といった限られた業界内ではあるものの転職活動等で有利になるのは当然であり、Xは、当該資格の取得によって利益を得たといえる。
また、本件準消費貸借契約における契約内容をみても、貸金額は47万9700円であり、教習指導員資格を得てY社において教習指導員として稼働すれば毎月3万円の手当が得られるから、投下した資本について比較的早期に回収することができるといえる。A研修所における研修は、Xが約1か月で修了していることに鑑みれば短期集中型の研修といえ、公安委員会の審査を受ける方法(被告の主張によれば半年から1年程度の期間を要するのが一般的とのことである。)よりも、短期間でより確実に教習指導員資格を取得できる方法であるといえ、Xの早期の収入増加につながるといったXに有利な面もある。
さらに、Xは、A研修所において研修を受講している期間もY社から賃金の支払を受けており、Y社における就労を免除され賃金を得ながら一定の汎用性を有する国家資格を得ることができたといえる。
これらの事実によれば、本件準消費貸借契約の内容は、合理的な内容であるといえるから、Xが本件準消費貸借契約の締結を強制されたということもできない
上記に加え、返還免除に要する3年間という期間についても特段長期にわたるということはできないことを考慮すれば、本件準消費貸借契約は、退職の自由を不当に制限するとはいえない。したがって、本件準消費貸借契約は、労働基準法16条に反するということはできず有効である。

考慮要素は、概ね以上のとおりですので、裁判所の考え方をしっかり押さえておきましょう。

ていうか、弁護士費用考えたら会社は赤字です。もう資格のための貸付なんてやめてしまったらどうでしょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。