Monthly Archives: 5月 2025

本の紹介2173 自分のままで突き抜ける 無意識の法則(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

結局、世の中は解釈でできている、ということを再確認できる本です。

同じものを見ても感じ方は人それぞれです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

うまくいっている人たちは、徹底した自分原因型なので、『自分が遭遇した病気や事故。これすらも、何らかの目的で自分がつくり出したものだ』と捉えます。」(168頁)

仕事において、ミスや失敗はつきものです。

しかし、だからといって、何度も同じミスや失敗をしていては進歩がありません。

反省するというよりは、ミスや失敗の傾向や根本的な原因を分析し、いかに同じようなミスや失敗を起こさない「仕組み」を作るか、ということがとっても重要です。

それでも同じようなミスは起こります(笑)

人間はせいぜいその程度の不完全な生き物だということです。

だからこそ、それを叱責しても仕方がなく、また、始末書を書かせても意味がないのです。

何度も起こる同じようなミスや失敗を「できる限り」防ぐ仕組みが必要なのです。

みんな、人間に多くを期待しすぎなのです。

労働時間112 割増賃金請求と変形労働時間制(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と変形労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人幹福祉会事件(東京高裁令和5年10月19日・労判1318号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において非常勤スタッフとして障害者居宅支援サービス等の業務に従事しているXが、Y社に対し、〈1〉平成30年6月支払分から令和2年4月支払分の深夜割増賃金のうち57万2922円と、〈2〉平成30年6月支払分から令和3年1月支払分までの深夜割増賃金を除く未払時間外割増賃金のうち47万2704円がいずれも未払であると主張して、〈1〉及び〈2〉の合計104万5626円+遅延損害金の支払を求めるともに、労基法114条に基づく付加金82万1365円(平成30年12月支払分以降の未払に係るもの)+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審がXの請求をいずれも全部認容したため、Y社が控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨は、変形労働時間制が労基法の定める原則的な労働時間制の時間配分の例外であって労働者の生活への負担が懸念されるため、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活設計に与える不利益を最小限に抑えることにあることに照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予側が可能な程度の定めをする必要がある。
ところが、Y社の就業規則では月間スケジュールにより各就業日の勤務時間帯が定められるとするものであり、ケアスタッフにとっては前月25日までに月間スケジュールが交付されるまで労働時間が明らかではないから、労働者の生活設計の予側が可能とはいえず、その不利益は、月間スケジュールの作成後に個別に勤務時間を変更することによって解消されるというものではない介助サービスの利用者の都合によって就業時間が変化する実情があるとしても、それは、時間外勤務として扱われるべきであって、就業規則に就業時間の特定がおよそないものに変形労働時間制の適用を認めることはできない

2 Y社は、Xの時間外手当の請求が権利濫用である旨主張するが、Xの現実の労働時間が短いものであったとしても、変形労働時間制が適用されないとした場合に未払の時間外賃金が存在すれば、これを請求するのは労働者の権利であり、Y社の就業規則に不備があることは上記のとおりであるから、Xが変形労働時間制の適用を否定して時間外手当を請求することが権利の濫用であるということはできない。

3 Y社は、日中手当は日中の業務内容と介助者の負担の大きさに着目して付与することとしたものであるから、「通常の労働時間の賃金」には該当しない旨主張するが、割増賃金の算定基礎となる通常の賃金とは、当該深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金と解されるところ、日中手当は、深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に一律に支払われるものであり、通常の労働時間の賃金に含まれるというべきことは、引用する原判決のとおりである。
日中の時間帯における人手が不足したため、日中手当を導入した経緯があったとしても、そのために日中手当を通常の賃金から除外することは、深夜労働に関し一定の規制を定めた労基法37条4項の趣旨に整合せず、許されない。

変形労働時間制の有効要件を正確に理解し、かつ、運用している企業がどれほどあるでしょうか。

管理監督者性とともに変形労働時間制は、ある種、時限爆弾です。未払残業代請求訴訟で爆発する可能性が高いので、安易な導入は避けるべきです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2172 CAN’T HURT ME(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは「削られない心、前進する精神」です。

著者は、退役海軍特殊部隊員(ネイビーシール)の方です。

まさに、強いです。

今の時代に最も求められる力の一つです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの人が、聞こえのいいことしか言わない取り巻きに囲まれている。失敗から立ち直ってまたチャレンジできるよう手を貸してくれる人じゃなく、甘い言葉で慰め、二度と挫折しないように守ってくれようとする人と一緒にいる。でも君に必要なのは、甘い言葉じゃなく、厳しいことを言ってくれる人、それでいて『不可能じゃない』と思わせてくれる人だ。」(407頁)

何か言えばすぐにパワハラだと言われ、モームリだと退職代行を使って光の速さで退職するこの時代に、こんな人はもうほとんどいません。

特に会社組織においては。

みんな、本当の意味での指導・教育なんてずっと前にあきらめているように思います。

若手社員の機嫌を損ねないように、辞められないように、やさしく、丁寧に、腫れ物に触るかのように接しているのが現状ではないでしょうか。

というわけで、仮に厳しいことを言ってくれる人、それでいて「不可能じゃない」と思わせてくれるメンターを求めるのであれば、雇用関係にない、会社の外に求めるしかないのかな、と思います。

職場の上司、先輩にそれを求めるのは、酷というものです。

賃金291 割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案を見ていきましょう。

足利セラミックラボラトリー事件(仙台高裁令和5年11月30日・労判1318号71頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、合意された基本給の支払がされていない、残業代の未払がある、違法な配転命令等のパワーハラスメントを受けたと主張して、各種金員の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、133万3545円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、15万6569円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、110万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、1年間の変形労働時間制が採用されている旨主張する。しかしながら、平成29年の変形労働時間制に関する労使協定について、Xが過半数代表者の選出手続が存在しない旨主張したのに対し、Y社は、Cが、従前から労使協定の度に自ら過半数代表者となる旨立候補し、他の多くの従業員から人望があることに鑑み、過半数代表者となっていたとしか主張せず、労働基準法施行規則6条の2第1項2号に則って適式に選出された者であることの主張立証をしないことからすると、Cが労働基準法32条の4第1項にいう「過半数を代表する者」に当たるものと認めることはできない。また、平成30年については、労使協定の存在自体確認することができない
したがって、平成29年も平成30年も同条の要件を満たさず、Y社主張の変形労働時間制は無効である(原審判断)。

2 Y社は、令和2年6月30日に本件訴えが提起されていることから、平成29年4月支払分から平成30年5月支払分までのXの賃金債権は、遅くとも令和2年5月31日の経過により時効により消滅していると主張して消滅時効を援用する。
しかし、Y社は、求人票に「基本給与」が17万円であると記載しておきながら、求人票に記載されたY社の勤務条件や会社情報等を信頼し、採用試験を受け歯科技工士専門学校を卒業して就職したXに対し、就職後に給与を支払う段になって、給与明細書に、基本給13万3000円、超過勤務手当3万7000円と記載して給与を支払い、求人票に記載した「基本給与」17万円の中には、固定残業代3万7000円が含まれ、基本給月額13万3000円、固定残業代月額3万7000円という内容の労働契約が成立したなどと主張したのであり、このようなY社の求人、採用と給与支払の方法やこれに基づく労働契約の内容についての欺瞞的な主張は、Xのような社会的に未熟な求職者を騙して労働者を安い給料で働かせようとしたものと評価するほかはない
Y社は、基本給が17万円という労働契約を締結したはずではないかと求人票を信頼した主張をするXに対し、顧問の社会保険労務士を使って会社の主張を暗黙のうちに承認させようと説得を試みたり、Y社代表者において、Y社の主張に沿った雇用契約書に署名しないと勤務できなくなると脅したりして会社の主張を追認させようとするなど、Xの権利の行使を妨げてきた
求人票に記載した「基本給与」に固定残業代が含まれるなどという欺瞞的な方法により、求人票を信頼した労働者に対し、求人票の記載と明らかに異なる低額の基本給による労働契約の成立を主張し、その差額の基本給の支払を求め続けてきた労働者の権利行使を様々な手段を通じて妨害してきたY社が、入社直後から権利主張を続け、入社3年後には本件訴えを提起したXに対し、令和2年法律第13号による改正前の労働基準法115条に基づいて、2年の期間の経過による消滅時効を援用して権利の消滅を主張することは、労働契約上の信義に反し、権利の濫用にあたるから許されない

すごい言われ様です。

残業代の支払金額よりも、レピュテーションダメージのほうがはるかに影響が大きいのではないでしょうか。

和解で終わることはできなかったのでしょうか・・・。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2171 弱者の兵法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは「折られてしまいそうな君たちへの遺言」です。

弱者のゲームチェンジのしかたが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・最近になってこのフィクションは綻び始めています。いや、一部の人々が、あることに気づき始めているといった方が正しいかもしれません。その『あること』とは何なのでしょうか?それは、最適な選択肢が、日本フィクションの外にある、だと私は思います。これまで教わってきたことをしなくても、もっといい選択肢があるし、それを選んでもいいんだよ、ということです。」(81頁)

よく出される例としては、お寿司屋さんでの修行でしょうか。

賛否両論ありますが、「もっといい選択肢」、すなわち、何年も下積みをしないで、YouTubeを見て、どんどん握ってみるみたいな。

昔から受け継がれている「べき論」の多くは、実はたいした理由がないものも多く存在します。

学校の意味不明な校則などもその一例です。

社会や組織のメインストリームからは外れることになるかもしれませんが、一度、外れてしまえば、はるかにそちらのほうが生きやすいことがすぐにわかることでしょう。

そう。みんな、メインストリームから外れるのが怖いのです。

労働時間111 ビル設備管理業務と変形労働時間制等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、ビル設備管理業務と変形労働時間制等に関する裁判例を見ていきましょう。

大成事件(東京高判令和6年4月24日・労判1318号45頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であったX1~X3が、Y社に対し、それぞれ労基法37条に基づく割増賃金、同法114条に基づく付加金及び遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

変形労働時間制の適用は無効

【判例のポイント】(原審判決内容)

1 労基法32条の2の定める1箇月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される。
また、具体的勤務割である勤務シフトによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたというためには、作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要があると解される(前記最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決参照)。

2 本件において、Y社就業規則には、変形労働時間制における具体的な所定労働時間につき、日直勤務が午前9時から翌朝9時までの勤務で休憩は仮眠を含み8時間(労働時間は休憩を除き16時間)であること、日勤勤務が午前8時から午後5時までの勤務で休憩は1時間であることが規定され、他には、「その他」として、「本条の勤務時間の範囲で、始業・終業・休憩時間を決める。」との規定があるのみ(23条)であり、本件タワーでの勤務表における日勤勤務の始業時刻(午前9時)及び終業時刻(午後6時)並びに日直勤務の労働時間(休憩・仮眠を除き17時間。)は、そもそも就業規則の規定と一致していない。Bセンター現業所では、時期によって変わる、多数のシフトパターンの組み合わせにより勤務表が作成されており、就業規則とは全く一致していない
また、Y社就業規則において、本件タワー及びBセンター現業所のいずれについても、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定は見当たらず、勤務表の作成によって、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価することもできない。

3 Y社は、当初から就業規則上に完全な勤務シフトを記載することはおよそ困難であり、シフトパターンを変更することになった場合に、その都度就業規則を変更する手続を経ることは、現実的でないなどと主張する。
しかし、具体的な勤務シフトを当初から就業規則に記載することは確かに困難であるとはいえるものの、少なくとも本件タワーにおいては、勤務表上のシフトパターンが、日勤勤務及び宿直勤務(宿直明番)並びに一回の勤務でその双方を行う宿直明日勤の勤務シフトがあるのみで比較的単純であり、当該シフトパターンのほか、勤務表の具体的な作成時期や作成手続等も含めて就業規則に規定することは困難とはいい難いにもかかわらず、Y社はそれすら行っていない

変形労働時間制が有効要件を満たさず無効と判断される例は枚挙に暇がありません。

上記判例のポイント3のような会社側の主張は採用してくれませんので、愚直に有効要件を満たす準備をするほかありません。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2170 仕事ができる人の当たり前(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

本のそでに「仕事ができる人になる唯一の秘訣は誰でも『当たり前』にできる仕事の基本を徹底的にやり切ることです。」と書かれています。

ある人にとっての「当たり前」は他の人の「当たり前」ではありません。

そもそも人によって「当たり前」の中身が全く異なるからです。

実際のところ、やり切る人とそうでない人は、ごく一部の例外を除き、早いうちに決まっており、途中で両者が入れ替わるということはまずありません。

人は若い頃に培った習慣に支配されながら人生を生きていくため、良くも悪くも、そう簡単には変わりません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事を軽視し、プライベートを重視しすぎると、短期的には楽しくても、いつまでたっても自分の人生をコントロールすることができません。その結果、長期的に見るとプライベートにかける時間もお金も脅かされることになるのです。死を意識することで生を実感できるように、実は仕事ができる人になることが、プライベートを充実させる一番の解決策になります。」(272頁)

仕事も勉強もスポーツも、最初が肝心です。

初期の段階で、いかなる習慣を身につけたかが、その後の長きにわたる人生に強く影響を与え続けます。

短期的な快楽を求める人と、長期的な計画の下、こつこつ積み重ねている人で、10年後、20年後、同じ人生であるはずがありません。

最初からワークライフバランスなんてことを言っている成功者を、私は見たことがありません。

解雇419 PIP(業務改善計画)の実施には合理的な理由があるとした一方、原告の能力不足を理由とした普通解雇は無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、PIP(業務改善計画)の実施には合理的な理由があるとした一方、原告の能力不足を理由とした普通解雇は無効とした事案について見ていきましょう。

華為技術日本事件(東京地裁令和6年3月18日・労経速2563号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による2020年3月13日付け普通解雇が無効であると主張し、Y社に対して、各請求をする事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 項目2については、自らの責任で作成すべきAMS広告の計画案として代理店作成の資料をそのまま提出した行為であり、Xの責任感の欠如を窺わせる事情と言わざるを得ない。この点については、直前の提出期限変更や夏季休暇直前という点で酌むべき事情がないとはいえないものの、同様の責任感の欠如は項目9においても露呈している。項目9については、チームで業務遂行する上で必要な協調性の欠如を窺わせる事情でもある。そして、項目12は、担当業務につき数字による結果報告にとどまらないXなりの分析や考察を加える能力の欠如を示す出来事であって、Senior Digital Marketing Managerとしてデジタルマーケティングにおける専門的能力の発揮が求められる従業員の適格性を疑わせる事情というべきである。
こうしてみると、Y社がXの就労状況を踏まえ、本件PIPを実施したことは相当であったというべきである。しかしながら、本件PIP期間を終えて退職勧奨に踏み切る前に、Y社において求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す余地はあったと考えられる。一例を挙げれば、H本部長は繰り返し数字の報告にとどまらない「分析」を求めたが、XはY社において求められる「分析」がいかなるものか理解できないまま、従前どおりY社には「分析」とは評価し得ない程度のコメントを付することを繰り返していたことが窺われる
本件PIPについても、その目標設定はXの就労状況に照らして適切なものと考えられるが、実施の過程でXと上長との面談等がどの程度行われ、Y社がXに求める業務改善の具体的内容についてXとの間で共有されていたのか、本件PIP実施中のXの取り組みにつきどのようなフィードバックがされていたのか等の詳細については、本件証拠上明らかでない

2 Xはデジタルマーケティングの経験者として中途採用されたとはいえ、管理職ではないデジタルマーケティングの1担当者にすぎず、給与水準もそれなりに高いとはいえ、Y社内部における相対的位置付けは明らかでないこと、Y社への入社からはそれほど長い期間を経過していたわけではないことにも鑑みれば、上記のような指導、教育が十分に行われた事実が認められないにもかかわらず、能力不足を理由に行われた本件解雇については、客観的合理的理由があり社会通念上相当であるとはいえず、無効であるというべきである。

能力不足を理由とする解雇の難しさ、大変さがよくわかります。

求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す必要があるとのことです。

「学校じゃないんだから・・・」という嘆きが聞こえてきそうですが、日本における雇用契約では通用しないようです。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

本の紹介2169 世界の一流は「休日」に何をしているのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

「一流」が休日にすること、絶対にしないことがまとめられています。

特に驚く内容が書かれているわけではなく、やるべきことをやり続けることの大切さを再確認できるものです。

三日坊主ではなにをやっても結果は出ません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『エネルギー管理』という発想は、日本のビジネスパーソンには馴染みが薄いと思いますが、世界の一流ビジネスパーソンは、『集中力』と『モチベーション』と『生産性』を高めるために、『限られた時間』と『限られた自分のエネルギー』を最適配置するという考え方をしています。
トニー・シュワルツの主張も、簡略化すれば、『いかに重要なところにエネルギーを費やすか?』に重点が置かれています。」(196頁)

エネルギー管理なんていうかっこいい言葉を使わなくても、限られた時間とお金を何に投資してきたかが、ビジネスにおけるその人の商品価値に決定的な影響を与えていることは明白です。

やるべきことをやり続け、やるべきでないことに時間とお金を使わない。

本当にシンプルなプリンシプルです。

人生は、すべて習慣によって支配されているということです。

賃金290 社宅制度の適用について均等法の趣旨に照らし間接差別を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、社宅制度の適用について均等法の趣旨に照らし間接差別を認めた事案について見ていきましょう。

AGCグリーンテック事件(東京地裁令和6年5月13日・労経速2565号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の一般職の女性労働者であるXが、Y社が総合職のみに社宅制度(Y社の社宅管理規程に基づき、Y社が従業員の居住する賃貸住宅の借主となって賃料等の全額支払い、その一部を当該従業員の賃金から控除し、その余をY社が負担する制度)の利用を認めていることが、男女雇用機会均等法の趣旨に照らし差別にあたり違法である等と主張した事案である。

【裁判所の判断】

均等法の間接差別に当たるとして、損害賠償請求を一部認容。

【判例のポイント】

1 社宅制度適用対象の大半を占める営業職が、女性からの応募の少ない職種であることが原因であると認めることができ、社宅制度に伴う上記の待遇の格差が、性別に由来するものと認めることはできない。

2 社宅制度の利用を、住居の転移を伴う配置転換に応じることができる従業員、すなわち総合職に限って認め、一般職に対して認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められない。
Y社が上記のような社宅制度の運用を続けていることは、雇用分野における男女の均等な待遇を確保するという均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当する。

どのようなケースが間接差別に該当し得るのかについてはある程度勉強しておかないと、無意識に間接差別をしてしまうことがありますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。