解雇418 盗撮行為による懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、盗撮行為による懲戒解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本郵便(懲戒解雇)事件(名古屋地裁令和6年8月8日・労経速2569号3頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であるXが、令和5年9月21日付けの懲戒解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約の賃金請求権に基づき、令和5年10月から本判決確定の日までの賃金及び賞与の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【裁判所の判断】

1 本件行為の内容自体は、Xが電車内で女性の乗客のスカート内を撮影しようとしたものであるところ、被告は、職務外非行による信用失墜行為の根絶に向け、ミーティングにより従業員に対して周知するなどの取組を行っていたことが認められる。
そうすると、本件行為について報道がされず、被告の社会的評価を低下させることはなかったとの原告の主張を考慮しても、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、Y社の社会的評価の毀損につながるおそれがあると客観的に認められるから、懲戒の対象となり得るということができる。そして、Xは、被害者を撮影したことを認めているから、本件行為は、愛知県迷惑行為防止条例に違反する行為であるといえ、法令に違反したとして就業規則81条1項1号に該当する。また、従業員による盗撮行為は、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為といえるから、就業規則81条1項15号にも該当するというべきである。

2 本件行為については、前記のとおり、行為時においては条例違反にとどまり、その法定刑に照らせば、他の法令違反行為と比較して重い法令違反行為であるとまではいえない。Xは被害者と示談をし、令和5年11月16日には不起訴処分がされており、刑事手続において有罪判決を受けたものではない
また、懲戒標準においては、職務外の非違行為において刑事事件により有罪とされた者は、基本として「懲戒解雇~減給」とされているのに対し、それ以外の非違行為については、基本として「減給~注意」、重大なものとして「懲戒解雇~停職」とされているところ、本件行為は、それ以外の非違行為に分類されるものであり、刑事事件において有罪判決を受けた場合と比して、類型的に、会社の業務に与える影響や被告の社会的評価に及ぼす影響は低いということができる。
さらに、本件行為が行われて以降、本件行為ないし本件行為に係る刑事手続について報道がされておらず、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったことが認められ、X自身も本件行為日の翌日には釈放されており、通常の勤務に復帰できる状態になったことが認められる。
そうすると、本件懲戒解雇時点において、本件行為及びXの逮捕によって、Y社の業務等に悪影響を及ぼしたと評価することができる具体的な事実関係があるとはいえない。
これらの事情に加え、Xが過去に懲戒処分歴を有していないこと等も考慮すると、本件行為を懲戒事由として、懲戒解雇を選択したことは、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したものとして無効であるといわざるを得ない。 

懲戒事由には該当するが、処分が重すぎるという理由で無効とされています。

特に私生活上の非違行為に基づき懲戒処分を行う場合には、相当性要件については慎重に検討する必要があります。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。