おはようございます。
今日は、PIP(業務改善計画)の実施には合理的な理由があるとした一方、原告の能力不足を理由とした普通解雇は無効とした事案について見ていきましょう。
華為技術日本事件(東京地裁令和6年3月18日・労経速2563号20頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社による2020年3月13日付け普通解雇が無効であると主張し、Y社に対して、各請求をする事案である。
【裁判所の判断】
解雇無効
【判例のポイント】
1 項目2については、自らの責任で作成すべきAMS広告の計画案として代理店作成の資料をそのまま提出した行為であり、Xの責任感の欠如を窺わせる事情と言わざるを得ない。この点については、直前の提出期限変更や夏季休暇直前という点で酌むべき事情がないとはいえないものの、同様の責任感の欠如は項目9においても露呈している。項目9については、チームで業務遂行する上で必要な協調性の欠如を窺わせる事情でもある。そして、項目12は、担当業務につき数字による結果報告にとどまらないXなりの分析や考察を加える能力の欠如を示す出来事であって、Senior Digital Marketing Managerとしてデジタルマーケティングにおける専門的能力の発揮が求められる従業員の適格性を疑わせる事情というべきである。
こうしてみると、Y社がXの就労状況を踏まえ、本件PIPを実施したことは相当であったというべきである。しかしながら、本件PIP期間を終えて退職勧奨に踏み切る前に、Y社において求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す余地はあったと考えられる。一例を挙げれば、H本部長は繰り返し数字の報告にとどまらない「分析」を求めたが、XはY社において求められる「分析」がいかなるものか理解できないまま、従前どおりY社には「分析」とは評価し得ない程度のコメントを付することを繰り返していたことが窺われる。
本件PIPについても、その目標設定はXの就労状況に照らして適切なものと考えられるが、実施の過程でXと上長との面談等がどの程度行われ、Y社がXに求める業務改善の具体的内容についてXとの間で共有されていたのか、本件PIP実施中のXの取り組みにつきどのようなフィードバックがされていたのか等の詳細については、本件証拠上明らかでない。
2 Xはデジタルマーケティングの経験者として中途採用されたとはいえ、管理職ではないデジタルマーケティングの1担当者にすぎず、給与水準もそれなりに高いとはいえ、Y社内部における相対的位置付けは明らかでないこと、Y社への入社からはそれほど長い期間を経過していたわけではないことにも鑑みれば、上記のような指導、教育が十分に行われた事実が認められないにもかかわらず、能力不足を理由に行われた本件解雇については、客観的合理的理由があり社会通念上相当であるとはいえず、無効であるというべきである。
能力不足を理由とする解雇の難しさ、大変さがよくわかります。
求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す必要があるとのことです。
「学校じゃないんだから・・・」という嘆きが聞こえてきそうですが、日本における雇用契約では通用しないようです。
解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。