Daily Archives: 2025年5月19日

労働時間111 ビル設備管理業務と変形労働時間制等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、ビル設備管理業務と変形労働時間制等に関する裁判例を見ていきましょう。

大成事件(東京高判令和6年4月24日・労判1318号45頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であったX1~X3が、Y社に対し、それぞれ労基法37条に基づく割増賃金、同法114条に基づく付加金及び遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

変形労働時間制の適用は無効

【判例のポイント】(原審判決内容)

1 労基法32条の2の定める1箇月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される。
また、具体的勤務割である勤務シフトによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたというためには、作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要があると解される(前記最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決参照)。

2 本件において、Y社就業規則には、変形労働時間制における具体的な所定労働時間につき、日直勤務が午前9時から翌朝9時までの勤務で休憩は仮眠を含み8時間(労働時間は休憩を除き16時間)であること、日勤勤務が午前8時から午後5時までの勤務で休憩は1時間であることが規定され、他には、「その他」として、「本条の勤務時間の範囲で、始業・終業・休憩時間を決める。」との規定があるのみ(23条)であり、本件タワーでの勤務表における日勤勤務の始業時刻(午前9時)及び終業時刻(午後6時)並びに日直勤務の労働時間(休憩・仮眠を除き17時間。)は、そもそも就業規則の規定と一致していない。Bセンター現業所では、時期によって変わる、多数のシフトパターンの組み合わせにより勤務表が作成されており、就業規則とは全く一致していない
また、Y社就業規則において、本件タワー及びBセンター現業所のいずれについても、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定は見当たらず、勤務表の作成によって、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価することもできない。

3 Y社は、当初から就業規則上に完全な勤務シフトを記載することはおよそ困難であり、シフトパターンを変更することになった場合に、その都度就業規則を変更する手続を経ることは、現実的でないなどと主張する。
しかし、具体的な勤務シフトを当初から就業規則に記載することは確かに困難であるとはいえるものの、少なくとも本件タワーにおいては、勤務表上のシフトパターンが、日勤勤務及び宿直勤務(宿直明番)並びに一回の勤務でその双方を行う宿直明日勤の勤務シフトがあるのみで比較的単純であり、当該シフトパターンのほか、勤務表の具体的な作成時期や作成手続等も含めて就業規則に規定することは困難とはいい難いにもかかわらず、Y社はそれすら行っていない

変形労働時間制が有効要件を満たさず無効と判断される例は枚挙に暇がありません。

上記判例のポイント3のような会社側の主張は採用してくれませんので、愚直に有効要件を満たす準備をするほかありません。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。