Daily Archives: 2025年5月23日

賃金291 割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案を見ていきましょう。

足利セラミックラボラトリー事件(仙台高裁令和5年11月30日・労判1318号71頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、合意された基本給の支払がされていない、残業代の未払がある、違法な配転命令等のパワーハラスメントを受けたと主張して、各種金員の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、133万3545円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、15万6569円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、110万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、1年間の変形労働時間制が採用されている旨主張する。しかしながら、平成29年の変形労働時間制に関する労使協定について、Xが過半数代表者の選出手続が存在しない旨主張したのに対し、Y社は、Cが、従前から労使協定の度に自ら過半数代表者となる旨立候補し、他の多くの従業員から人望があることに鑑み、過半数代表者となっていたとしか主張せず、労働基準法施行規則6条の2第1項2号に則って適式に選出された者であることの主張立証をしないことからすると、Cが労働基準法32条の4第1項にいう「過半数を代表する者」に当たるものと認めることはできない。また、平成30年については、労使協定の存在自体確認することができない
したがって、平成29年も平成30年も同条の要件を満たさず、Y社主張の変形労働時間制は無効である(原審判断)。

2 Y社は、令和2年6月30日に本件訴えが提起されていることから、平成29年4月支払分から平成30年5月支払分までのXの賃金債権は、遅くとも令和2年5月31日の経過により時効により消滅していると主張して消滅時効を援用する。
しかし、Y社は、求人票に「基本給与」が17万円であると記載しておきながら、求人票に記載されたY社の勤務条件や会社情報等を信頼し、採用試験を受け歯科技工士専門学校を卒業して就職したXに対し、就職後に給与を支払う段になって、給与明細書に、基本給13万3000円、超過勤務手当3万7000円と記載して給与を支払い、求人票に記載した「基本給与」17万円の中には、固定残業代3万7000円が含まれ、基本給月額13万3000円、固定残業代月額3万7000円という内容の労働契約が成立したなどと主張したのであり、このようなY社の求人、採用と給与支払の方法やこれに基づく労働契約の内容についての欺瞞的な主張は、Xのような社会的に未熟な求職者を騙して労働者を安い給料で働かせようとしたものと評価するほかはない
Y社は、基本給が17万円という労働契約を締結したはずではないかと求人票を信頼した主張をするXに対し、顧問の社会保険労務士を使って会社の主張を暗黙のうちに承認させようと説得を試みたり、Y社代表者において、Y社の主張に沿った雇用契約書に署名しないと勤務できなくなると脅したりして会社の主張を追認させようとするなど、Xの権利の行使を妨げてきた
求人票に記載した「基本給与」に固定残業代が含まれるなどという欺瞞的な方法により、求人票を信頼した労働者に対し、求人票の記載と明らかに異なる低額の基本給による労働契約の成立を主張し、その差額の基本給の支払を求め続けてきた労働者の権利行使を様々な手段を通じて妨害してきたY社が、入社直後から権利主張を続け、入社3年後には本件訴えを提起したXに対し、令和2年法律第13号による改正前の労働基準法115条に基づいて、2年の期間の経過による消滅時効を援用して権利の消滅を主張することは、労働契約上の信義に反し、権利の濫用にあたるから許されない

すごい言われ様です。

残業代の支払金額よりも、レピュテーションダメージのほうがはるかに影響が大きいのではないでしょうか。

和解で終わることはできなかったのでしょうか・・・。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。