おはようございます。
今日は、割増賃金請求と変形労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。
社会福祉法人幹福祉会事件(東京高裁令和5年10月19日・労判1318号97頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において非常勤スタッフとして障害者居宅支援サービス等の業務に従事しているXが、Y社に対し、〈1〉平成30年6月支払分から令和2年4月支払分の深夜割増賃金のうち57万2922円と、〈2〉平成30年6月支払分から令和3年1月支払分までの深夜割増賃金を除く未払時間外割増賃金のうち47万2704円がいずれも未払であると主張して、〈1〉及び〈2〉の合計104万5626円+遅延損害金の支払を求めるともに、労基法114条に基づく付加金82万1365円(平成30年12月支払分以降の未払に係るもの)+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審がXの請求をいずれも全部認容したため、Y社が控訴した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨は、変形労働時間制が労基法の定める原則的な労働時間制の時間配分の例外であって労働者の生活への負担が懸念されるため、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活設計に与える不利益を最小限に抑えることにあることに照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予側が可能な程度の定めをする必要がある。
ところが、Y社の就業規則では月間スケジュールにより各就業日の勤務時間帯が定められるとするものであり、ケアスタッフにとっては前月25日までに月間スケジュールが交付されるまで労働時間が明らかではないから、労働者の生活設計の予側が可能とはいえず、その不利益は、月間スケジュールの作成後に個別に勤務時間を変更することによって解消されるというものではない。介助サービスの利用者の都合によって就業時間が変化する実情があるとしても、それは、時間外勤務として扱われるべきであって、就業規則に就業時間の特定がおよそないものに変形労働時間制の適用を認めることはできない。
2 Y社は、Xの時間外手当の請求が権利濫用である旨主張するが、Xの現実の労働時間が短いものであったとしても、変形労働時間制が適用されないとした場合に未払の時間外賃金が存在すれば、これを請求するのは労働者の権利であり、Y社の就業規則に不備があることは上記のとおりであるから、Xが変形労働時間制の適用を否定して時間外手当を請求することが権利の濫用であるということはできない。
3 Y社は、日中手当は日中の業務内容と介助者の負担の大きさに着目して付与することとしたものであるから、「通常の労働時間の賃金」には該当しない旨主張するが、割増賃金の算定基礎となる通常の賃金とは、当該深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金と解されるところ、日中手当は、深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に一律に支払われるものであり、通常の労働時間の賃金に含まれるというべきことは、引用する原判決のとおりである。
日中の時間帯における人手が不足したため、日中手当を導入した経緯があったとしても、そのために日中手当を通常の賃金から除外することは、深夜労働に関し一定の規制を定めた労基法37条4項の趣旨に整合せず、許されない。
変形労働時間制の有効要件を正確に理解し、かつ、運用している企業がどれほどあるでしょうか。
管理監督者性とともに変形労働時間制は、ある種、時限爆弾です。未払残業代請求訴訟で爆発する可能性が高いので、安易な導入は避けるべきです。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。